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【先端人】A L i N Kインターネット社長 池田洋人

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

気象情報を社会のインフラに

(企業家倶楽部2021年9月号掲載)

記録的大雨、線状降水帯、大雨特別警報など、最近の日本はこうした異常な天気が恒常化、毎年のように被害が繰り返される。気象情報をもっと身近に活用して欲しいと、天気予報専門サイトtenki.jp を企画・運営するALiNKインターネット。社長で気象予報士の池田洋人は「気象情報で未来が変わる」と、サイトの強化に余念がない。2019年にはマザーズに上場、天気のテック企業として注目を浴びた。気象情報を社会のインフラにと奮闘する池田社長に、熱い想いを伺った。

天気をもっと身近に

 「わが社を天気の会社と思っている方が多いのですが、ITメディアの会社です」。開口一番そう強調するのは、天気専門サイトtenki.jpを企画・運営するALiNKインターネット(以下ALiNK)社長で気象予報士の池田洋人である。tenki.jp は日本気象協会との共同運営だ。「ひまわり」や「アメダス」などの気象衛星のデータを購入、ALiNKはそれをわかりやすく配信している。

 毎日の天気がどうかは日々の生活の重要な要素だ。多くの人は朝起きたら空を見上げ、その日の天気を確認する。「今日はいい天気だ」「なんだ雨か・・・」など、お天気は日常生活の基本となっている。

 その天気について、皆さんはどうやって情報を得ているだろうか。テレビの天気予報ニュースの人もいれば、スマホのアプリでという人も多いであろう。筆者が原稿を執筆している8月14日は、広島と福岡、佐賀、長崎県に「大雨特別警報」が出され、緊迫した状態が続いていた。テレビの映像には濁流が勢いを増す河川、土砂崩れの現場などが映し出され、見ているだけで恐怖を覚える。「警戒レベル5の段階です。直ちに命を守る行動をとって下さい」、キャスターの声からも緊張感が伝わってくる。「どうか一刻も早く避難して」と祈るような気持ちで、映し出された天気図を見ると、九州、西日本一帯を雨雲が覆い、赤色に混じって、所どころ紫色の危険個所が示されている。

 「線状降水帯」という聞きなれない言葉が出てきたのは2019年ごろだろうか。同じ場所で雨が降り続け、西日本に大きな被害をもたらした。今年も同じような状況だ。この雲が東日本に移動してきたらどうしよう。そう思いながら天気図に見入る。

tenki.jp

 天気予報を何で確認しているか。今はテレビより、スマホの天気専門サイトtenki.jp を利用している方も多いことだろう。アプリに最初に自分の位置情報を入れれば、その場所の気象情報が2週間先まで表示される。スマホでいつでもどこでも確認でき、無料というのだから使わない手はない。

 気象情報のサイトとしてはウェザーニュースと、 Yahoo! 天気のサイトがある。ウェザーニュースは有料の会員制だし、Yahoo!天気は無料だが、あくまでニュースの一環だ。天気に特化し、個人に最適化してくれるのは、tenki.jp なのである。

ALiNKインターネットという会社

 ALiNKという会社をご存じない向きに少し説明しよう。ALiNKは2013年、気象予報士の池田が立ち上げた。誕生のいきさつは1997年に遡る。お天気好きだった池田氏は民間気象会社に入社した。1993年の気象業務の自由化により民営化され、それに伴い気象予報士試験がスタート。池田氏も入社してから資格を取得した。合格率5%という狭き門だ。

 ハレックスを退職、ヤフーに転職した池田氏はYahoo!天気のプロデューサーとしてサイトを立ち上げ、活躍した。その後退職、父親の会社である「ありんく」に籍を置き、日本気象協会と共同でtenki.jp を運営することとなる。

 そして2013年独立、ALiNKインターネットを創業した。全国で気象予報士の資格を持つ人は1万人に上る。しかしお天気キャスターなど、資格を生かして仕事に付いている人は2割~3割程度という。この人たちの活躍の場をつくりたい。予報士のネットワークができれば面白いと思ったと池田社長。気象情報をマネタイズすることに成功、2019年にはマザーズに上場、社員9人のテック企業として注目を浴びた。


 2021年2月期の売上高はコロナ禍で前年より減少したとはいえ、6億1,000万円、経常利益は2億1,500万円と、その利益率の高さに驚く。

 社員20名というのだからまさに少数精鋭のテック企業といえよう。

自前の技術が強み

 BtoCのITメディアtenki.jpを運営するALiNK だが、収入のほとんどは広告収入である。一番のクライアントはGoogleという。そして一番の強みは最先端の技術を自前で投入できることだ。運用型広告のトレーディングデスクを自社で持っている会社は珍しい。「外注する会社が多いが、当社は自前」と池田社長。それだけではない。オークション形式を取り入れているが、これも自社開発という。

 晴れの日には、外干しに最適な洗剤の広告を。花粉がたくさん飛ぶ地域には花粉対策のマスク。気温35度を超える地域には熱中症対策グッズの広告という具合に、天気マッチング広告を実現している。「これができるのは、エンジニアを自前で雇っているから」と胸を張る。まさにテック企業なのである。

サイトは生き物

 tenki.jp の利用者は幅広い。老若男女いろんな人が活用している。その日の天気、湿度などにより仕入れ数を決めたりと、食品需要予測に気象情報は欠かせない。大手コンビニなどは会社として契約、情報を入手しているが、小さなスーパーや個人店はtenki.jp が頼りだ。パン屋にとってはパン生地の仕込み、発酵温度や時間など、天気で左右される。

 年間48億ページビューを誇るtenki.jp だが、いかにわかりやすく伝えるか、クリック率を高めるか、その工夫には余念がない。社員全員がtenki.jp が好きで社会貢献意識の高い面々だ。やりがいを感じてその力を発揮している。

 2021年NHKの朝ドラ「おかえりモネ」の主人公は、気象予報士の資格を取得、気象関係の会社で活躍するというストーリーだ。この朝ドラのおかげでクリック率が増加し、天気に対する関心が高まっているのも事実。ツイッターはフォロワー数が280万にのぼり、法人アカウントとしてはベスト5に入るという。

 「サイトは生き物」と池田社長、どの色ならクリックしやすいか、どんな文言に反応するかなど、ブラッシュアップに終わりがない。

 クリック率は雨の日が晴れの日の2倍。台風が近づくと10倍、地震となると1000倍に跳ね上がる。東日本大震災の時は福島原発の心配もあり、アクセスが集中、サイトがダウンした。気象情報が社会のインフラとして活用されつつある今、「本当に必要な時に安定的に運営することはメディアとしての使命」と、気を引き締める。

社員20 人

 すべてに光を 社員の内、気象予報士は自分一人だけと語る池田社長、上場会社の社長として敏腕を振るう。池田が気遣っているのは20人全員に光が当たるようにすることだ。一人でも陰になる人が出てはいけないと。

 コロナ禍ということもあり、リモートワークを基本としているが、それだけにコミュニケーションを密にとることに工夫。リモートイベントを実施している。7月28日の土用丑の日には、社員各々の自宅にうなぎ弁当を届け、皆で暑気払いを実施した。それだけではない。春にはリモート花見会を実施、桜と団子を送り、桜の季節を楽しんだ。12月にはリモートクリスマス会を楽しむなど、キメ細やかに季節のイベントを実施している。

「気象を扱う会社として、春夏秋冬、季節を身近に感じてもらいたい。こんなことができるのも社員が20人程度だからしょうね」

 IT企業としては社員の平均年齢が40代と高めだが、大人組織として互いを尊重、ブラッシュアップし合えるのも強みの一つであろう。

天気ならALiNK
 今後は気象情報だけでなく、レジャー関係を強化したいと池田社長。キャンプやゴルフ、スキーなどアウトドアスポーツに気象情報は重要だ。天候によってスキーリフト券の割引券を入れるなど、ダイナミックプライシングの導入も一つだ。

 「未来の予定を晴れにする」というミッションを掲げる池田社長、気象情報をキャッチすれば、未来の行動を変えることができると語る。

 今後は気象情報を社会のインフラとしてもっと個人に最適化していきたいという。そしてtenki.jp 以外の事業として、天気に関わるメディアを創りたいと意気込む。

 その一つは「気象× 健康」だ。昔から季節の変わり目は古傷が痛むなどと言われているが、これは低気圧が関係している。最近は気象病として捉えられているが、天気を理解していれば余計な心配をしなくて済む。もう一つは「気象× 写真」である。最高の写真を撮るには、最適な気象条件、位置情報が必要となる。こうしたニーズに応えるのも気象情報のテック企業ならではだ。

 「5年後には天気ならALiNK」と言ってもらえる会社にしたい」と語る池田社長。そこには気象情報が人々に寄り添い、社会のインフラとなることを切望する真摯な姿があった。


Profile 池田洋人( いけだ・ひろと) 1974年埼玉県生まれ。東京国際大卒後、97年ハレックス入社。99年気象予報士取得。2003年ヤフー入社、Yahoo! 天気情報プロデューサーとして活躍。2005年、父親が経営する会社「ありんく」でWeb事業部を立ち上げる。13年ALiNKインターネットを設立、社長に就任。19年12月東証マザーズに上場。

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