MAGAZINE マガジン

【トップインタビュー】トゥエンティーワンコミュニティ 代表 守川 敏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

弘兼憲史が惚れ込む六本木の騎士

(企業家倶楽部2021年9月号掲載)

 

 栄枯盛衰が激しい東京・六本木で、30数年も脈々と成長を続けてきた外食産業の雄、トゥエンティーワンコミュニティ。率いる代表の守川 敏氏は、驚くほど穏やかで誠実な紳士である。生き馬の目を抜く夜の街で、どうやって生き延びてきたのか。その生きざまに惚れ込み、漫画家の弘兼憲史氏が守川代表を主人公に、漫画「六本木騎士ストーリー」を書き下ろしたほどだ。守川 敏とはどんな人物なのか。成功の秘訣はどこにあるのか、本音を伺った。(聞き手 本誌副編集長 三浦千佳子)

 六本木の生き証人

 問 六本木で成功を収めた方というと、凄い強面を想像していたのですが、物腰やわらかくスマートな紳士なので驚きました。まずは御社の仕事についてお聞かせください。

 守川 トゥエンティーワンコミュニティは、ワインの輸入・販売や飲食店の経営、コンサルティングを行っています。

 問 もともと飲食業がお好きだったのですか。 

 守川 16歳の頃から飲食業でアルバイトをし、大学生になってからナイトクラブで働きだし、その流れで六本木に来ました。お金を稼ぎたいという思いもありましたが、学業より面白くて。

 問 1996年に会社を創業、ずっと六本木に君臨されています。六本木というと華やかな夜の街をイメージします。守川代表にとって六本木の魅力とは。

 守川 若い頃から渋谷や六本木は遊び場でした。最初から六本木だったわけではなく、最初は新宿のナイトクラブでアルバイトをしていました。そこから六本木に移って。夜の街としての六本木は芸能人や企業の社長ら、時代の寵児たちが集まる華やかな遊び場でした。

 問 一流の人たちが集まる場所と。

 守川 時代の寵児と言われた方々の栄枯盛衰をたくさん見てきました。

 問 夜の街の六本木も今はずい分変化しているのではないですか。

 守川 以前は夜の街として君臨していましたが、六本木ヒルズやミッドタウンができ、ずい分変わりました。今はビジネスの場であり、ショッピング、生活の場へと変貌を遂げています。私もここで暮らし、仕事をしていますので六本木の生き証人のようなものです。

 脅しに屈しない胆力

 問 六本木で夜の商売をずっとやってきてここまでくるには、ご苦労も多かったと思います。危険な目に会われたこともあったのでは。

 守川 華やかな反面、反社会的勢力の方々も出入りします。ずい分いろんな目に会いました。

 問 今は暴対法も施行され、変わったと思いますが、当時は大変だったと推察します。そういう人たちにどう対処されたのですか。

 守川 どんな要求にも怯まず、淡々と対応することでしょうか。言うのは簡単ですが実際には大変なことでした。

 問 どれだけの苦労を超えてきたのかと推察するだけで胸が痛くなります。反社会的勢力の人たちにも屈せず・・・というので、格闘家のような方を想像してきたのですが、大変スマートな紳士なので驚きました。

 守川 出る杭は打たれるのですが、出すぎると打たれなくなる。

 問 相手も守川さんはどんな手を打っても屈しないと諦めたということですね。

 守川 腕力ではなく胆力でしょうね。

 問 まさに胆力ですね。危機に立ち向かうリーダーに一番大切な要素ですね。

 弘兼憲史が漫画を書きおろす

 問 漫画家の弘兼憲史氏と親しいとのことですね。

 守川 2人とも山口県の岩国市出身ですが、なんと中学・高校とも同じ学校でした。私にとっては大先輩です。

 問 そのお二人の出会いはいつ頃ですか。

 守川 24年前、中学校の時の校長先生が、君の先輩を連れて行くよと言って来店されました。その時紹介されたのが弘兼先生で驚きました。それ以来、同郷、同卒ということで可愛がって頂いています。

 問 この漫画「六本木騎士ストーリー」を執筆されることになったいきさつは。

 守川 前から私の生きざまを一冊にまとめては・・・とのお話はありましたが、あまり乗り気ではなくお断りしていました。逆に弘兼先生が執筆して下さるならと、逆指名させていただきました。そしたら快くオーケーして下さったのです。

 問 ご縁とはいえ良かったですね。 六本木で成功を収めた主人公守川さんの生きざまを、ドラマティックに描いておられ、ワクワクします。ビジネス書としても役たちます。守川さんの特徴をよく掴んでおられ、よく似ています。

 守川 弘兼先生には本当に感謝しております。

 問 2人とも歳は離れていますが親しくされているのですね。弘兼先生の魅力については。

 守川 私にとっては憧れの尊敬する大先輩です。ああ見えて弘兼先生は駄洒落を飛ばすなど、とてもチャーミングな方なんですよ。

 問 お二人の親しさがわかりますね。弘兼先生も守川さんの人柄や経営手腕、生きざまに惚れ込んでいるのが、漫画本から伝わってきます。

 守川 本当にありがたいことです。

 第2ステージとしてワイン事業に進出

 問 飲食店だけでなくワイン事業でも成功されているようですね。

 守川 もともとワインが好きということもあり、ワイン事業に参入しました。当初は大変でしたが、今では収益の大きな柱となっています。当時、著名なワイナリーはすでに大手酒造や商社と契約しており、後発の我々が入り込む余地はありませんでした。そこで小さなワイン生産者に目をつけました。大手が扱うには生産量が少なく、ブランドがないなど、取り扱わなかった。しかしいいワインをつくっている生産者がたくさんあります。そうしたワインを中心に輸入しようと考えました。

 問 日本には知られていない小さな生産者のワインを発掘したということですか。

 守川 ケガの功名です。大手が取り扱うことのない小さなワイナリーをコツコツ回り、一つひとつ広げていきました。

 問 小さなワイナリーにとって御社は有難い存在ですね。それを売るのが大変なのでは。

 守川 皆、誇りをもっているワイナリーなので、大変喜んでくれました。当社はワインの輸入・問屋業務だけでなく、直販会社としてB2Cのビジネスモデルをつくっています。

 問 直接販売もやっておられるのですか。

 守川 ネットでのEコマースに特化しています。2009年に楽天でECサイト「ワインショップソムリエ」を立ち上げました。当初は名も知らぬワインの在庫の山で苦労しました。しかし絶対やりきるという覚悟で頑張りました。売れなければせっかく発掘したワイナリーを幸せにすることができません。我々の武器は生産者から直接仕入れ、消費者に直接届けるというビジネスモデルです。おかげさまで楽天のワイン販売で、2018年にはショップオブザ・イヤーを受賞しました。

 問 それは素晴らしい。名も知られていないワインをきちんと認知させるのは大変です。直接販売ルートを構築しておられるのは強いですね。ワインの輸入はヨーロッパが多いのですか。

 守川 ヨーロッパだけでなくチリやオーストラリアなど世界中から、いいワインを発掘することに力を入れています。

 問 そうした努力が評価され、フランスの「サンテミリオン騎士団」「ボルドー ボンタン騎士団」「ブルゴーニュ利き酒騎士団」などの称号を頂いたとか。

 守川 仕事柄現地に関わることが多いので、好きなことで評価いただけるのはありがたいことです。弘兼先生に『島耕作 ラベルワイン』も作って頂きました。課長・島耕作から会長・島耕作まで役職が上がるほど良いワインになっていくという企画で、出世ワインとして、プレゼントなどに喜ばれています。

 問 輸入から販売まで一貫して手掛けておられるので、お客様に安く提供できますね。

 守川 はい。中間マージンがありませんし、販売はEC に特化しているので、コロナ禍でも巣ごもり消費が増え、絶好調です。

 問 巣ごもり消費にマッチしたということですね。世界の小さなワインナリーの希少なワインを、お安く買えるのはお客にとっても嬉しい限りでしょう。コロナ禍のおうちワインとして楽しみの一つですね。

 守川 コロナ禍でナイトクラブやレストランは苦戦しておりますので、ワイン事業が好調なのは有難いことです。

 問 夜の飲食業が中心の六本木はコロナ禍の規制で大変な痛手を被ったと思います。人の流れは如何ですか。

 守川 一時は大変静かでしたが、最近は少し戻りつつあります。それにしてもこんなに長くコロナ禍が続くとは予測していませんでした。

 お客の幸せが一番

 問 1996年の創業以来、飲食業の経営を続けてこられて、経営者として大切にしていることはどんなことですか。

 守川 お客様の幸せを1番に考え、行動することです。本当に美味しい「ワイン」と「食」を 良心的な価格で提供、お客様に喜んでいただくことです。2番目は生産者やお取引様の幸せです。そして3番目が従業員の幸せです。お客様・生産者・取引先が幸せになることで、最終的には売り上げや利益に繋がり、自分たちも幸せになるということです。

 この順番を間違えではいけません。過去には目先の利益に囚われたことがありましたが、今は「①お客様」「②生産者・取引先」「③従業員」の3つの幸せを、経営理念に掲げ大切にしています。

 自走する社員を育成

 問 今後の夢・抱負をお聞かせください。

 守川 野望はありませんので・・・。大それた夢はありません。ただ粛々と今の仕事を続けていけたらと思っています。

 問 野望はないと。その堅実な姿勢こそが六本木という華やかな場所で成功する秘訣かもしれませんね。

 守川 時代の寵児ともてはやされた方の栄枯盛衰をいくつも見てきましたので、それを反面教師として、生きてきました。今後は社員の育成に力を入れたいと考えています。

 問 どのように育成していきたいとお考えですか。

 守川 社員としては60名ほどですが、自分たちで考え行動できる自走する集団を作り上げたい。それとワインの輸入業者としてナンバーワンになりたいですね。

 問 六本木という街で飲食業を成功させる秘訣、お客様にリピートしていただく秘訣を教えてください。

 守川 秘訣というほどではありませんが、ブランドと信用が大切だと思っています。あの会社、あの店ならと言っていただけるブランドをつくることです。きちんとしたお客様が安心して遊べる店であることが大切です。いいお客様はいいお客様を連れてきてくれます。

 問 堅実に信用を積み上げてきたからこそ今があるということですね。今後のご活躍を期待しております。

 P r o f i l e 守川 敏
 1968年山口県生まれ。学生時代からナイトクラブでアルバイト、接客業を体験。1996年、トゥエンティーワンコミュニティを創業、ワインの輸入・販売や飲食店の経営を手掛ける。六本木の高級クラブ「チックグループ」のオーナーとしても知られる。現在は六本木駅近くの21六本木ビルを所有、ワインショップ、ベーカリー、レストランなど複合飲食施設を経営。弘兼憲史の漫画「六本木騎士ストーリー」のモデルとして知られる。

 

一覧を見る