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【核心インタビュー】テラドローン社長徳重 徹

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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世界の空から産業革命を

世界の空から産業革命を

(企業家倶楽部2020年4月号掲載)

「今こそ日本全体がもう一度立ち上がる時」。海外を主力として電動2輪、3輪に力を入れるテラモーターズに加え、産業向けドローンサービスを提供するテラドローンを設立。グローバル市場で戦うことを前提に創業し、新しい市場を生み出しリード出来る存在を目指すテラグループ。グループの代表である徳重徹社長にこれからのドローン事業とグローバル戦略について聞いた。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)


世界2位のプロバイダー

問 まずはテラモーターズの近況についてお聞かせください。

徳重 かなり苦労して2010年に会社を始めました。今は元々シャープやホンダにいた社員が主となり、私は代表取締役会長として上場準備を進めています。今のメイン事業はインドでの電動(EV)2輪と3輪です。売上は20億円になり、利益も出ているのでようやく上場準備に入っています。インドできちんと事業をやれてきたことが特徴です。ただ、製造業だけではやっていけません。

 GMSという会社が提供する、モビリティを制御するIoTデバイスとそれを管理するプラットフォームがあります。自動車にICチップをつけ、支払いが滞ったらその車を止めるというシステムです。これにより、従来ならばローンを組んで車を買うことが出来ない人も買えるようになります。与信力を高めファイナンスの機会を創出出来るのです。このような技術を活用して、EVの製造業だけではなく、データを集めていく仕組みづくりを行っていきます。

問 ドローン事業も始めたと聞きました。

徳重 4年前にテラドローンを設立し、ドローン事業を始めました。背景としては、ドローンビジネスがインターネット黎明期と似ているところにあります。インターネットは新しい産業からインフラになりました。ドローンも同様に様々な産業に利用することが出来るので、同じようなビジネスチャンスがあると考えました。

 またドローンはパソコンと似ていて、ハードから始まり、ソフトサービス、システムと続きます。このハード領域において、ここ10年で急激な成長を遂げたのが世界最大級ドローンメーカーDjiという会社です。20人ほどだった会社が今や1万人を超えています。売上げも2500億、時価総額は2兆円にもなる会社ですが、あくまでハード分野の会社です。ソフトサービス、システムの分野ではまだ圧倒的な会社はなく、我々はそこを目指しています。

問 世界的に見るとテラドローンはどのような立ち位置になるのでしょうか。

徳重 DRONEIIというドイツのマーケティング会社が発表したドローンプロバイダーランキングにおいて日本で唯一ランクインしています。2年前は世界9位、去年は2位になりました。今はユニコーン企業を目指しています。ドローンは4期が終わったところですが、売上げの3分の1が日本、残りは海外です。我々は「新しい市場を生み出しリード出来る存在である」というビジョンでやっています。まだこの産業自体が黎明期ではありますが、世界的に有名となり、非常にいいポジションをとっています。

問 2位と1位の差というのはどこにあるのでしょうか。

徳重 ドローンの市場調査は彼ら独自のアルゴリズムでランキングを出しています。売上げの数字というよりは、技術や顧客、実績、PRなどを総合的に考慮してランキングを作ります。1位はジップライン社ですが、どちらかというとPRの効果が大きいようです。約1300億円の時価総額が付いていますが、売上げは10億円ほどです。ただ、ここにランキングされているのは私たちが見ても世界でも良い会社ばかりです。

問 テラドローンにとってのKPI(重要業績評価指標)はどこにあるのでしょうか。

徳重 売上げです。日本の売上げは約10億円、ヨーロッパが約8億円でアメリカがまだ約3億円なので各ブロック20億円になるようにしたいです。倍々くらいで伸びているのでこのまま実現したいと思っています。

問 御社の現在のポジショニングと課題はなんですか。

徳重 我々はソリューションプロバイダだと思っています。お客さんによってそれぞれ特別なハード、ソフト、レポーティングシステムが必要です。更に現地のサービスやトレーニングまで含めて一貫したソリューションを提供していきます。それには我々にもテクノロジーが必要です。日本には50人の技術者がいますが、日本だけでは出来ないこともあるのでグローバルで協力してやっています。

問 国内外のスタッフは何名程になっているのでしょうか。

徳重 日本が約100人、そのうち50人がエンジニアです。海外はグループ会社が26社、約350人のトータル450人でやっています。

 海外のグループ会社は、主にドローンのテクノロジーの会社とサービスプロバイダの会社に分かれます。テクノロジーの会社には出資してテラグループで独占して開発しています。サービスブロバイダの会社には半分ほど出資をして、一緒に大きくしていくビジネスモデルで動いています。ドローンをいきなり導入しようとしても、お客様が非常にローカルで伝統的なのでなかなか受け入れてもらえません。現地でお客様に寄り添える起業家軍団を作るため、現地で勢いがあるサービスプロバイダの会社に出資しているのです。ここまで2年ほどかけてきました。

 これには孫さんの郡戦略に近いところもありますが、それよりはもう少し一緒にやってグループにしていきます。100%買収するやり方もあると思いますが、全て買収してしまうと起業家もやる気がなくなってしまうので、これから伸びるところを選んで出資をしています。


導入先の業界をよく知る

問 出資先とはどのような関わりがあるのでしょうか。

徳重 例えばオイルガス作業において本来は足場を組んでタンクの点検をしなければなりませんが、危険で手間もかかります。そこで特別なドローンとソフト、レポーティングシステムを作るにあたり、半分出資をしたオランダの会社があります。彼らは元々オイルガス会社で働いていた人たちです。その点検のノウハウやお客さんのニーズを良くわかっているので、そこにドローンを活用して、非破壊検査が出来るようなシステムを開発しています。

 この会社自体はまだ小さいですが、売上は1.5億円、利益も4000万円ほど出しています。しかしこの会社はオランダでしか事業をしておらず、彼らの力だけでは世界に広げることが出来ません。そこで我々テラグループを活用して、ノウハウを持っていきます。オランダで造ったものを世界に横展開していくのです。

問 グループ会社を増やしていく上での苦労はありますか。

徳重 ドローンが難しいのは、導入先の業界のことをわかってないといけないことです。スタートアップ的な要素を持ちながら業界のことを理解していなければなりません。我々は元々スタートアップの要素を持っています。そこにタンク、送電線、物流など各方面のプロフェッショナルな会社に出資して一緒にソリューションを出しています。それをグローバルの横展開するモデルです。今年もソウル、シンガポール、ドバイと飛び回っています。こういう取引は4、5回の飲み会を通さないと決まりません。全部やっていたら大変なので数人で分かれて行きます。

問 海外で信頼関係を作るためには、人間力はもちろん、「飲みニケーション」も効果がありますか。

徳重 海外も基本同じですね。日本で海外とのビジネスをしたことない人からすると、取引の相手はイーロン・マスクとかマーク・ザッカーバーグみたいなイメージをされますが、そんなことはありません。海外と言っても我々と同じビジネスマンであることをわかっていることが重要です。それぐらい、日本でトップの人たちが世界でやりきれば勝てる要素は大きいです。ただ、ほとんどの人が実践していないことが問題だと思っています。

問 これまで資金調達はどのようにしているのでしょうか。

徳重 私が個人で6億円、別途で6億円の計12億円でやっています。出資先にはまだ15億円ほど払わなければなりませんが、まずは頭金を払い、資金調達してから残金を払う形でやっています。

問 今後テラモーターズとテラドローンとの関係はどうしていくのですか。

徳重 元々合併させようとしていましたが、あまりにも業態が違うのと、テラドローンのみの新規顧客になることが多く、株主からすると両社を合併させると良く思わない方もいるので分けたままにすることにしました。先にテラモーターズから上場させます。


独自のシステムでコストが5分の1に

問 テラドローンの事業内容について詳しくお聞かせください。

徳重 特徴的なビジネスドメインでいうと、建設、送電線や携帯基地局、オイル&ガスタンクなどがあり、それぞれに特別なソリューションを持てるように事業を進めています。プラットフォーマーの部分では、ドローン運行管理システム(UTM)事業をやっています。飛行機が管理されているように、ドローンも管理されなければなりません。

問 日本国内ではどのような事業をされているのでしょうか。

徳重 日本でやっている事業は土木測量です。東京ドームの面積が約5ヘクタールですが、日本での土木は大きいものだと40ヘクタールあります。従来は人力で2週間かけて測っていましたが、ドローンを使うことにより半日で終わらせることができます。ドローンを使用することで、所要時間は10分の1、コストは5分の1になります。更にドローンで取得したデータは解析して納品しています。

問 これはコストがものすごく下がりとても興味深いですね。どういう技術が必要になるのでしょうか。

徳重 普通の写真でも良いのですが、我々はドローン搭載型レーザシステム「Terra Lidar」という特別な技術を開発しました。例えばこの技術を用いることで、植生伐採前の斜面を撮影することができるのです。こうすることで、建設時に最初から裸の状態を見ることができ、非常に効率的になります。

問 点検にも使われているイメージがあります。

徳重 送電線などの点検では、データを採ってくるだけではなく、採ったデータに基づいて修理箇所を判定しなければなりません。今までは全て人の手によりカメラで撮影していましたが、ドローンで撮ってきたデータにAI処理をかけます。例えば「クラッチが5センチ以上」とか「鳥の巣があるもの」などの条件を指定して探させます。点検者はふるいにかけられたデータだけを見れば良いので効率的になります。こういう画像認識の技術は我々が出資している会社が持つものです。

問 飛行距離はどのくらい飛べるものなのでしょうか。

徳重 マルチコプターと固定翼がありますが、マルチコプターだと約20キロです。固定翼だと1時間で100キロ飛べます。

日本ベンチャーの先頭へ

問 ドローン事業においてこれからの課題はどこにあるのでしょうか。

徳重 壁としてはテクノロジーの進化、規制、お客様からの理解があると考えています。中でも一番の課題はお客様の古い考え方を変えていくことです。そこのPo C(概念実証)を超えて、リアルビジネスにしていくまでが大変です。

 産業的に違いますが、土木測量はもうスタンダードにできています。送電線はやり始めたばかり、オイル&ガスはこれからですね。

問 将来ドローンはどのように活用されていくとお考えですか。

徳重 最終的にはドローンはデリバリー、物流が出来ると言われています。大きなポイントは目視外飛行です。今はドローンが見えている状態で飛行しますが、将来はここから見えないところまでドローンが飛んでいくようになります。

 日本だと規制の問題でできていませんが、我々の中国のグループ会社では一部実現しております。デリバリーでは、注文が入ると店舗から小さな車でドローンのステーションに運びます。料理を受け取ったドローンが注文先付近のステーションまで運び、注文先まではまた同じ様に車で運びます。ドローンの通路は河川の上空です。

 また、リアルタイムでデータ抽出することもできるようになります。例えば上海にあるドローンを広東省からコントロールできます。更に上空から採った送電線のデータがLTEで上海から広東に送られます。データの採取が終わるとドローンは終了地点にあるボックスの中に入り、充電されて次のオーダーに備えます。

 このように目視外飛行ができると、パイプラインや送電線の点検など山を越えなければならないようなことが簡単にできるようになるのです。

 また、今はドローンをW i-Fiで動かしていますが、将来は携帯の基地局でLTEや5Gを使って動かします。ドローンはUTMで管理されていますが、空飛ぶ車のような話が出てくると、これも同じように管理しなければなりません。ここにこの制御システムが使われてくると非常に面白くなると思います。ちょっとこれは先の話ですけどね。

問 これからの抱負をお聞かせください。

徳重 様々な業界にドローンが使えると言われますがまだまだ始まったばかり、インターネットの黎明期のような感じです。この黎明期に世界中でこれだけ根を張って情報を取れている会社はありません。市場の伸びと共にそのポジションを取りに行きます。


P R O F I L E
徳重 徹 (とくしげ・とおる)
1970 年生まれ山口県出身、九州大学工学部卒。住友海上火災保険株式会社(当時)にて商品企画・経営企画に従事。退社後、米Thunderbird 経営大学院にてMBAを取得し、シリコンバレーにてコア技術ベンチャーの投資・ハンズオン支援を行う。世界最大の企業家コンテスト「TiE50 2013」でWinner に。著書『「メイド・バイ・ジャパン」逆襲の戦略』(PHP 研究所)。千葉大学大学院融合科学研究科非常勤講師。

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