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【モチベーションカンパニーへの道】フェイバリット 代表取締役社長 澤田 仁

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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圧倒的な差別化戦略で物流業界に変革を起こす

圧倒的な差別化戦略で物流業界に変革を起こす

(企業家倶楽部2021年11月号掲載)

ニッチで輝く高付加価値サービス

 一口に物流と言っても扱うものは様々である。「付加価値の高いサービスを提供して差別化を図っています」と語るのは、武蔵通商とフェイバリットの代表を務める澤田仁である。
 現在、6社がフェイバリットグループとしてそれぞれが特徴あるサービスを提供している。戦略的ニッチを攻めることによって、「この会社が必要不可欠」と思われる存在感の高いグループになっている。その為、下請けの仕事ではなく、元請けの仕事が取れることが大きな強みとなっている。
 武蔵通商は、澤田の父親が昭和44年に創業した会社である。元々、医療器や精密機器などの梱包から搬送、据付を行っていた。5年ほど前、培った技術を応用して新たに広げた領域が美術品や楽器、高級家具などの分野である。「私をはじめ、スタッフ全員でのチャレンジでした」と振り返る。同社の強みは、ワンストップで行えることである。様々な資格を持ったスタッフがおり、梱包から搬出、設置まで行えることで競争優位性を保っている。
 フェイバリットは、医療機器用や産業機器用のサービスパーツを扱う物流センターとして、2007年に立ち上げた会社である。大きさも重さも多種多様なサービスパーツを物流のプロとして、また、大手や他社では難しい臨機応変な対応をすることでメーカーからの信頼を勝ち取り、アウトソーシーとしてのポジションを築いていった。
 それだけでも、優位性があったが、「更に付加価値の高い物流をやることで差別化を図りたい」と考えて参入したのが、医薬品や医療機器など薬事に特化した物流の分野だ。しかし、扱う物が物だけに非常に参入障壁が高い分野でもある。行政の許認可をはじめ、メーカーから求められるハードルも非常に厳しい。社内の教育体制を整えて質の高い運営体制を構築しなければならない。その分野に敢えてチャレンジしたのは、中小企業として埋没するのではなく、競争力のあるキラリと輝く魅力的な企業となるためであった。
 スタッフと共に新たな領域にチャレンジし、切り拓いてきた澤田。競争力を高め、企業価値を向上させることにこだわってきた。それは、一般的には「裏方」と思われがちである物流業界のイメージを変えたいという強い想いがあったからである。

事業家への目覚め
 大学卒業後、銀行員として会社勤めをしていた澤田。当初は会社を継ぐつもりは全くなかったという。銀行員として多くの企業経営者と会い仕事をしていく中で、「事業家というのはともて魅力的だ」と勤め始めてから10年ほど経った時に思うようになっていた。同じタイミングで普段あまり連絡を取り合うことのなかった父親から「事業を継がないか」との連絡が2度も入ったことから、意を決して会社を引き継ぐことにした。
 実際に会社に入り、スタッフそれぞれの持っている技術の高さに自分の会社ながら驚いた。梱包から配送、設置まで、まさに「職人技」である。しかし、職人気質のスタッフだけに、新しいスタッフへの教育や新しい仕事を取りに行くという姿勢には欠けていた。「このままでは技術が途絶えてしまい、成長もしないのではないか」と感じ、「ひざ詰め」で職人気質のスタッフと教育の重要性から新たな領域へのチャレンジなど、時間をかけて話し合ってきた。地道な対話を繰り返していく中で徐々に会社の雰囲気も変わってきた。
 先述の通り、美術品や、楽器、高級家具などの分野へのチャレンジもこのような対話の中から生まれ一つの形になったものである。利用者からは手際の良さやスタッフの雰囲気など、様々な感謝の手紙が会社に届くという。「会社に感謝の手紙が届く運送会社はあまり多くないと思います」と胸を張る。高い技術を用い、より神経を使う仕事も多いことから、給与面にも反映させている。
 このような取り組みもあり、スタッフは高いモチベーションで仕事に取り組むようになり、会社として好循環が生まれてきているのだ。


物流業界に光を
 「物流ってどうしても裏方のイメージがありますよね」なくてはならないものではあるが、そのようなイメージは否めない。少子高齢化が進む中で、物流業界は慢性的な人手不足である。「他の業界と比較しても魅力的なグループにしていかなければいけいない」と澤田は強調する。様々な取り組みの一つとして、一般財団法人日本次世代企業普及機構が認定する「ホワイト企業」に認定された。物流会社として全国で2番目、東京都の物流会社としては初の認定である。ビジネスモデル/生産性、ダイバーシティ&インクルージョン、ワーク・ライフバランスをはじめ、7つの指標で評価される。「ブラック企業ではない」といった単純なものではない。真剣に取り組んだ結果なのである。
 今後のグループが目指す方向も「クオリティの高い物流を提供し、競争力をさらに高める」と明確だ。それによって、グループ全体で社員の採用を積極的に行い、1000人、1500人と雇用を増やしていきたいと語る。IT化やロボット技術が進んでいっても、同社の付加価値は「人の手」が生み出している。人の採用と技術の伝承をはじめとした教育はとても重要だ。幸いにも教育制度の構築も進み順調に技術は次代に引き継がれている。
 グループ各社がニッチを攻め、特徴のある付加価値の高いサービスを提供している。今後は、そのシナジーをより一層高めていくことでグループ全体の魅力度を上げていきたいと言う。世の中に「物流は魅力的でおもしろい仕事」だということを伝え、物流業界のイメージを一新したいと強い気持ちで前に進む。澤田が率いるフェイバリットグループが物流業界に風穴を開ける日が待ち遠しい。

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