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【WBC放送 熱血企業家!】武者リサーチ社長 武者陵司 氏✕テラ社長 矢﨑雄一郎 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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日本経済の先行きは明るい

武者リサーチ社長 武者陵司 氏 ✕ テラ社長 矢﨑雄一郎 氏

(企業家倶楽部2016年6月号掲載)

世界経済の拡大と株価上昇は続く

矢﨑 武者リサーチの事業内容を教えていただけますか。

武者 私たちは、経済・金融市場について分析・予測したデータを、企業経営者や投資家、政治家に提供しています。彼らが判断を下す上での役に立たいという想いからです。

 具体的には、毎週レポートを書いてホームページに掲載するほか、インターネットを通じて情報を配信しています。その上で、レポートの内容について個別にお会いして説明したり、セミナーで講演を行ったりします。こうした活動を通じて、皆さんと共通の認識を深めてきました。

矢﨑 現在の世界経済をどのように見ていますか。

武者 リーマン・ショックの後、中国の株価はピークから6割ほど暴落しました。ただ、最も悪かった2009年3月から株価は上昇傾向が続いています。現在では、最悪期と比べて2〜3倍の額にまで回復しました。私は今後も、世界的な経済拡大と株価上昇は続くと予想しています。というのも、経済を牽引してきた3つの大きな力が持続しているからです。

 一つ目は技術革新です。インターネット以外にも、生物や生命科学の分野などで劇的な発展が続いています。二つ目は人々の生活の向上です。誰もが、100〜200年前の先祖と比べれば立派な生活をしていると思います。技術の発展によって豊かな生活を享受できるという流れは変わりません。三つ目はグローバリゼーションです。今や世界が一つの経済となり、全ての人がグローバル分業の中で役割を果たす時代になりました。我々のビジネスの基盤は完全に世界で、この状況は続くでしょう。

 人類を発展させてきたこれらの推進力が健在であるからには、世界経済の先行きも基本的には明るいと思っています。

戦後の繁栄はアメリカのおかげ

武者 一方日本では、バブル崩壊後の20年間GDPが成長しませんでした。従って、人々の名目で見た所得水準は20年間で若干下がっています。そのため、世界の中で日本人だけは経済が良くなっている実感を持てていません。むしろ、経済発展は終わったという短絡的な結論を出す人も少なくないでしょう。

矢﨑 このいわゆる「失われた20年」の時期にGDPが成長しなかったのはなぜでしょうか。

武者 私は、1950〜1990年までの40年間に失敗の種がまかれていたと思います。この時期に象徴される戦後の繁栄は、端的に言えばアメリカのおかげです。日本企業は、アメリカから安く導入できたハイテク技術・機械を用いてビジネスを始めました。賃金が安かったこともあり、絶大な価格競争力で作った商品をアメリカにたくさん売って儲けたのです。つまり、戦後40年の繁栄は技術も市場もアメリカが与えてくれたものでした。冷戦下における資本主義の砦として、アメリカには強い日本経済が必要だったからです。しかし冷戦の終結によって、この好環境は終わってしまった。ここが、失われた20年の一番大きな原因です。

 蘇った日本企業

矢﨑 現代は、日本独自のイノベーションや技術を考えていかないと、過去のビジネスモデルは通用しない時代になっているのですね。

武者 その通りです。ただ、私が一番訴えたいのは、恐らく誰が考えるよりも日本の将来は明るいということです。事実、この10年間で日本企業は大きく儲けました。現在、日本の企業利益は史上最高額です。

 なぜ長きに渡る低迷から復活できたのか。相手が造れないもの・品質に特化して、完全に価格競争から抜け出したためです。相手が造れなければ、価格競争になりようがありません。

 例えばスマートフォン市場には、アップルやサムスンのようなブランドがたくさんある。日本企業は、その世界ではほとんど負けてしまいました。でも、日本のプレゼンスは無くなっていません。実は、スマートフォンを作るための部品や材料などは日本製が圧倒的シェアを誇っているのです。つまり日本製の部品などが無いと、中国でも韓国でもスマートフォンを作れません。地政学的な環境が苦しい中でも、日本企業は創造性を発揮して新たな価値・仕組みを確立したのです。

リサーチの評価を覆したい一心で独立

矢﨑 武者社長の創業の経緯をお聞かせください。

武者 私は大学卒業後、大和証券、大和総研などでリサーチや投資戦略を考える仕事をしました。今日までずっと、ペンを持ってリサーチする仕事だけを続けてきたのです。私は、リサーチは金融において決定的に重要な仕事だという自負を持っています。

 しかし一般的には、リサーチ部門よりも、お金を稼ぐ営業・商品を作る開発部門の方がはるかに尊重されていた。私は、これほど大事なリサーチが十分に認められていないのが残念でなりませんでした。だからこそ、「いつか独立してリサーチの価値を世間に知ってもらいたい」と若い頃からずっと思っていたのです。

 そんな私の背中を強く押してくれたのが、インターネットの出現でした。全ての人に一瞬でレポートを届けることが出来るようになり、あらゆるデータを無料で集めることが可能になったからです。こうした時代になると、大きな組織の一員である必要はない。そう思った私は、今から7年ほど前に独立しました。まさしく時代が可能にしてくれた挑戦だったのです。

自ら足を運ぶことでやりがいが明確になる

武者 私自身は、対価に結びつかなくても、私のリサーチが役に立てば本望です。

矢﨑 私も元々医者でしたが、より多くのがん患者さんを助けたいと思い、医者を辞めてバイオベンチャーを立ち上げました。ただ始めは、ヒトもお金も不十分で非常に苦労しました。武者社長は、立ち上げ時の苦労はありましたか。

武者 はい。かつて海外のお客さんを訪ねる際は、飛行機での往復はビジネスクラスでしたし、専用車に乗ればお客さんのところまでドライバーが導いてくれました。しかし組織を離れてからは、ロンドンの地下鉄に乗ってお客さんを訪ねます。楽ではないですが、自分の足で動くことによって、かつて見えなかった風景が見えるようになりました。大会社の社員でなく一人のベンチャーの人間がレポートを読んでもらうには、そのレポートに本当に価値が無ければ相手は会ってくれません。逆に、そのレポートを売りたいという情熱が相手を動かすのです。実際、自らリスクを背負ってマーケティングを行い、お客様のところに向かう姿を高く評価してくれる方もいます。

矢﨑 私も医者を辞めてからは自分で営業を行いましたが、良い経験になりました。そのおかげで今があると思っています。医者だった時は、ビジネスに携わることは全くありませんでしたからね。

武者 企業の一員だと、個人の貢献した価値は分かりにくい場合があります。一方で、独立すると何が役に立っているのか明確に分かります。そうすると、やりがいも全然違う。私は独立して、全ての人を対象としたビジネスを始めて本当に良かったと思います。

中国は衰退しアメリカでイノベーションが起こる

矢﨑 最後になりますが、今後の世界経済の動向についてお聞かせ下さい。5年後、10年後をどのように予想されますか。

武者 中国は著しく衰弱して、現在のプレゼンスを維持できないと思います。他方で、アメリカ経済は大きく変わるでしょう。人工知能などの普及が予想される将来においては、既存の労働を機械が担う割合が大きく増してくる。その強烈なイノベーションは、新しい産業とライフスタイルを生み出します。その流れが最初に起こるのは、世界一の技術大国アメリカです。アメリカの労働者は現在、情報産業や製造業から、医療、サービス業、教育、娯楽という新しい分野にどんどん吸収されています。これらの分野で革新的な変化が起きるはずです。

 将来の世界経済の中心はアメリカであって、中国ではありません。ですから、中国が多少混乱しても世界経済そのものはびくともしないと考えることが重要だと思います。

矢﨑 非常に参考になりました。本日はありがとうございました。

P r o f i l e

武者陵司(むしゃ・りょうじ)写真右

1949年長野県生まれ。73年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券株式会社入社。大和総研企業調査第二部長を経て、ドイツ証券で調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2002年・2003年の米国Institutional In vestor ランキング日本株ストラテジスト部門1位。2007年より埼玉大学大学院客員教授。2009年に(株)武者リサーチ設立。

矢﨑雄一郎(やざき・ゆういちろう)写真左
1972年長野県生まれ。1996年 東海大学付属病院勤務。2000年ヒュービットジェノミクスに入社。2003年 東京大学医科学研究所 細胞プロセッシング寄付研究部門に研究員として所属。2004年テラを設立し、代表取締役に就任(現任)

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