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【核心インタビュー】 人を幸せにするロボットのゼネコンに/hapi-robo st社長富田直美 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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人を幸せにするロボットのゼネコンに

人を幸せにするロボットのゼネコンに

(写真左:澤田秀雄氏 写真右:富田直美氏
(企業家倶楽部2017年12月号掲載)

エネルギー、植物工場、変なホテルと次々と新分野を打ち出す、エイチ・アイ・エスそしてハウステンボス社長の澤田秀雄氏。2017 年1月にはhapi-robo st (以下ハピロボ)をスタート、ロボティクスの分野に本格進出を果たした。その立役者が、エイチ・アイ・エス取締役CIO兼ハウステンボス取締役CTOで、ハピロボ社長に就任した富田直美氏である。チャレンジ精神旺盛な澤田社長の夢を紡ぐ富田氏とはどんな人物なのか、ハピロボは何を目指すのか、その真意を伺った。( 聞き手 本誌副編集長 三浦貴保)

問 澤田秀雄社長との出会いはいつごろですか。その時の印象は。

富田 初めて会ったのはピクチャーテルジャパンの社長時代で、30年ほど前です。野田一夫先生から、弟子3人として紹介されたのが、ソフトバンクの孫正義社長、パソナの南部靖之社長、そしてエイチ・アイ・エスの澤田秀雄社長でした。私は長くITの世界にいましたので、孫さんはよく知っていましたが、澤田さんは初めてでした。当時格安航空券を販売しているとのことでしたが、その時はそれほど強い印象はありませんでした。

問 その澤田社長と一緒に仕事をすることになったきっかけは。

富田 3年ほど前になります。私はIT系の企業11社の社長を経験しましたが、65歳になって、もう現場はいいかなと思い、野田先生のところに挨拶に伺いました。野田先生は日本総合研究所の理事をされていて、それなら自分の仕事を手伝えと言われました。そこで私は日本総研の理事として手伝うこととなりました。その最初の仕事がハウステンボス再建の支援でした。まずは現場を見ようということで、好きなドローンを持って出かけました。

問 富田社長はドローンの大家ということで有名ですね。

富田 私はドローンオタクですから、仕事よりハウスンボスでドローンを飛ばしたいという思いが強かった。たまたま澤田さんがおられるということで挨拶に行くと、いきなり「富田さん、私と一緒に来てください。島を買いに行きますので」と言われました。

問 島を買いに行ったということですか。

富田 澤田さんはドローンに大変興味を持ち、宣伝用のビデオ等に使いたいので、もっと手伝って欲しいとのことでした。野田先生に仁義を切り、3カ月間の予定で手伝いました。2014年7月のことです。ハイテクドローンでの花火撮影など、これまでにない映像に澤田さんは大変感動。もっと手伝って欲しいと仰います。そこで日本総研の理事はそのままで、ハウステンボスの経営顧問に就任しました。

「変なホテル」発進

問 ハウステンボスは変なホテルなどロボットホテルで有名になりましたね。

富田 私が経営顧問になってすぐのことです。ロボットホテルプロジェクトがスタートしていました。30の業者が集まってミーティングがあるのでぜひ出席して欲しいということで、出席しました。各社がそれぞれの立場でプレゼンをしたのですが、私は専門の立場から全部に突っ込んで質問をしてしまいました。そしたら澤田さんから、技術顧問になって欲しいと頼まれたのです。

問 15年7月にオープンして話題を呼んだ「変なホテル」成功の陰には、富田さんがおられたということですね。

富田 その後、ハウステンボスの経営顧問とCTOという前代未聞の肩書をもらい、昨年の11月まで、「変なホテル」のプロジェクトをやっていました。人間に代わってロボットができることはロボットを活用するというホテルですが、予想以上に反響がありました。

問 澤田さんも反響の大きさに驚いたようで、その後いろいろ実験を重ねながら、17年には千葉県の舞浜や愛知県のラグーナテンボスにも「変なホテル」を開業しています。富田 人間がやっていることをロボットに置き換えることで、人員を削減。30人必要なところを8人で運営するなど、澤田さんは世界一生産性の高いホテルにすると意気込んでいます。

ハピロボ設立

問 そうした成功事例もあってか、澤田さんはロボット事業に意欲満々。サービスロボットの開発に力を入れると言っておられましたが、どういう経緯でハピロボが設立されたのですか。

富田 澤田さんがロボットの会社を立ち上げたいというので、16年7月、澤田さんと私の2人で登記、ハピロボをつくりました。澤田さんが会長に、私が社長に就任しました。富田がロボット会社を始めるということで、シャープのロボホンチームのメンバーが入社。また私と接点のあった社長経験者ら、エキスパート12名が集まってくれて、ハピロボがスタートしました。

問 澤田さんはエネルギーや、ロボット事業を強化すると言っていましたが、これまでのエイチ・アイ・エスやハウステンボスとは全く違う異色のメンバーが集まったということですね。

富田 澤田さんはこれまで制度の盲点を突いたビジネスなどで、成功してきました。今はエネルギー、植物工場、ロボットなど先端技術の分野への想いが強い。

問 1月30日のハピロボ結成発表の記者会見で披露したロボットの楽団には驚きました。富田 世界一のロボット会社をつくりたいと思っていますが、1月30日の発表まで、いろいろ議論。シャープのロボホンチームのメンバーもいるので、「ハピロボ楽団21」をつくろうと提案しました。12月から始まって短時間で完成させ、披露にこぎつけました。誰もやっていないことをやろうというのが私の考えです。

ロボットのゼネコンに

問 世界一のロボット会社ということですが、どんなイメージですか。

富田 世界一になるということは、世界一のイメージがあってできるものです。しかし産業用ロボットと違い、サービスロボットは、まだ世界一のイメージがありません。鉄腕アトムにインスパイアされる人もいるが、あのアトムは一家に一台必要ありません。

問 確かにロボットといわれると鉄腕アトムのイメージが強いですね。ただ、御社ですと変なホテルのイメージもあります。

富田 変なホテルは生産性より、ロボットがいること自体に話題性があるし、面白い。その付加価値でいいのです。私も開業一年以上前から関わってスタートしました。しかし世界一のロボットはまだ読めない。私がドローンを3カ月でつくったという実績と、ハピロボにはスゴイ人が集まっていることから、ロボットがすぐできると思うでしょうが、なかなかそうはいかない。しばらくはロボットをつくらない。ロボットのゼネコンになろうと考えています。

問 ロボットのゼネコンとは。

富田 我々はゼネラル・ロボティクス・プロバイダー(以下GRP)。そしてオーケストレーターとなるということで、「ロボットのゼネコン」という概念であることを発表しました。

問 澤田さんはいつロボットが出来上がるのかと期待しておられるのではないですか。

富田 孫さんが注力しているペッパーだって、まだビジネスになっていないし、思った通りに動かない。AIで将棋や囲碁に勝つことはできても、残念ながら人間のように気の利いた動きはできません。ということはサービスロボットの世界はまだまだということなのです。そういう状態ではロボットはつくれない。

 今、成功しているのは掃除ロボットのアイロボットと、中国の深?にあるドローンのDJIという会社だけです。両方とも皆がイメージしているような人間の恰好はしていない。片方は掃除機だし片方はドローンです。最先端技術の組み合わせを考えるのがGRPの仕事ですから、まずはどんなロボットが欲しいのか、何をしたいのか話を聞いてコンサルしようというわけです。

問 どんな仕事をしていくのですか。

富田 おかげさまでスタートしてまだ10カ月ですが、パートナーが100社集まってくれました。それぞれのエキスパートが集まったのでいろんなことができる。

 センサーや半導体が一番大切ですが、ゼネコンとしてそこの最先端技術を使えなくてはならない。パートナー会社にインテルやクアルコムも入っていますが、今後出て来る最先端の技術を紹介できるのがハピロボ。お客様がロボットをやろうとするとき、どう勝ち進んでいけるかをコンサルするのが我々の仕事です。

 いろんなところで講演しているので、お客様がとりあえずハピロボに相談しようということで、忙しくなってきています。ハピロボは澤田さんと私の会社ですから、エイチ・アイ・エスグループの外にある新規事業という位置づけです。

300台のドローンショーを実現

問 だからこそ自由にいろいろ発想できるのですね。この夏のハウステンボスのドローンショーはすごかったと聞きました。あれは富田さんが仕掛け人だったのですか。

富田 100%私が引っ張ってきました。

問 300台のドローンが一気に動くというのはそれだけで画期的なことです。

富田 本当にすごかった。僕にとっては夢でもあります。あれはドイツの会社が開発したものをインテルが買収したのですが、もっと日本に合うものを開発したいと考えています。他でもドローンショーをやりたいという要望がきていますので、その要望に応えていきたい。もっとすごいものをお見せしますよ。

問 澤田さんからは何か言われていますか。 

富田 会うたびに、「富田さん、いつロボットが出てくるのですか」と言われています。ただ、今はつくるのではなく、いいものを世界中から見つけてきて、日本で使えるようにする方が重要です。

 私は次世代のITインフラの一番先端にあるのが、ロボットの位置づけと考えています。スマホが既に次世代ネットワークの最先端としての機能を持っているので、スマホでいろいろなことができようになりました。鉄人28号などから想定すると、イメージが出てこない。白物家電にしても電子レンジとお話するということもできる。私も経験があります。元旦の朝、パソコンの電源を入れたら、「直美さん、あけましておめでとう」と言ってくれたんですよ。泣きましたね。形ではなく、その人の欲しいもの、欠けているもの、声や音楽かもしれない、匂いかもしれない。その人が欲しいと思うことをTPOに合わせて手伝ってくれる。こういうロボットです。

人を幸せにするロボット会社

問 ハピロボはその名の通り、人を幸せにするロボットの会社ということですね。ロボットが全部やってくれたら人間はダメになりますね。

富田 そこで僕は「富田考力塾」という塾を開いています。今の人は考えることをしなくなってしまった。なんでもコピペしてしまうからね。

問 塾もやっておられるとは多才ですね。

富田 ハピロボでは人を楽にするロボットはつくらない。その人の潜在的な力を導きだすのがハピロボの仕事。自動操縦なんて興味が沸きません。自動でやってしまったら運転する能力が退化してしまう。つまらない仕事はロボットにやってもらい、人間はもっとクリエイティブなことに集中して力を発揮する。コピペしないで自分で考えて行動する。これが大切です。

問 ハピロボのロボットは人間を楽にするのではなく、その人の能力を引き出すことにあるということですね。ハピロボの強みは。

富田 ロボットをつくらないと宣言したことで、ロボットの会社がコンペティターにならないことです。そしてわずか10カ月でパートナー100社が集まってくれた。この100社の技術を集めたら、スゴイことができます。足りないものは世の中から探してくるし、なかったら自分たちでつくれば良い。

 これは天井という限界のないブルーオーシャン。究極のアーキテクチャー、それを設計し組み立てることができる。世界一の能力を集められる可能性がある会社です。我々はプロデューサーとして皆さんが持っているボーダーを取っ払うことができる。ノーサイドという発想です。ゼネコンという立場ですから、上から見たら壁はない。系列会社のものを使う義務はないので、お客様にとって最良のものを組み合わせることができます。

問 いつぐらいに面白いものが出てきそうですか。

富田 あと1年の間にいろんなことができる。スタートして2年で次の領域に間違いなく入ると思います。お客様と一緒に考えて、ロードマップを書いていくが、その通り行かないのが先端技術です。いきなり出来てしまうこともある。ここが面白いところです。スマホと一緒。1980年や90年代にこんなスマホ時代がくるとは誰も思っていなかった。スマホはそれまでのものと全く次元が違う。ここ数年でスゴイものができるかもしれません。

問 澤田さんは富田さんのような方を捕まえて良かったですね。これからのことを考えるとワクワクします。

P R O F I L E 富田直美(とみた・なおみ)

1948年生まれ。静岡県出身、国際商科大学卒。外資系IT企業の日本法人社長など11社の経営に携わる。(財)日本総合研究所理事、社会開発研究センター理事、アジア太平洋地域ラジコンカー協会初代会長等を歴任。“富田考力塾”を全国展開。多摩大学の客員教授。2016年h a p i -robo st を立ち上げ、エイチ・アイ・エス取締役CIO、ハウステンボス取締役CTOとしてエイチ・アイ・エスグループのテクノロジー全般を統括。ラジコンはプロレベル。ドローンによる空撮もプロとして活躍。

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