MAGAZINE マガジン

【スタートアップベンチャー】Moff代表取締役 髙萩昭範 

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

 ウェアラブル端末「Moff Band」

スマートおもちゃで世界を席巻

スマートおもちゃで世界を席巻

(企業家倶楽部2016年6月号掲載)

 今、子ども向けのおもちゃとして存在感を増しているウェアラブル端末がある。日本発のベンチャー企業、Moff(モフ)が企画・製造・販売を行う「Moff Band(モフバンド)」。スマートフォンやタブレットの専用アプリを起動した状態で、同商品を腕時計のように手首に付けて動かすと、内蔵するセンサーがこれを感知し、アプリ側で認識。家の中にいながら、まるで自身がギターを弾いたり、テニスをプレイしたり、チャンバラごっこをしているかのような感覚を楽しめる。

 モフバンドは世界最大のECサイト「アマゾン」で簡単に購入可能。価格も5616円(送料込み)と、スマートデバイスにしては手ごろだ。現在は、日本とアメリカを軸に年間数万台が販売されている。

 モフは、2015年11月にはアメリカの子ども向け教育メディア「PBSキッズ」と共同開発した知育アプリ「PBSキッズパーティー」を発表。アメリカではディズニーと並ぶブランドとして圧倒的な知名度を誇る同メディアとの協業は、業界を驚かせた。

■米国トップブランドが白羽の矢を立てる

 同社を率いる代表取締役の髙萩昭範は京都大学を卒業後、外資系のコンサルティング会社に就職。しかし、モノづくりに携わりたいとの思いからメルセデス・ベンツ日本に転職し、商品企画部で開発、量産、アフターサービスまでを統括した。

「モノを作った方が、現実世界に対して働きかけやすい」と説く髙萩。かねてより、スマホの画面にかじりついてゲームなどに勤しむ世界観に疑問を抱いていた彼は、もっと体を動かし、顔と顔を突き合わせたコミュニケーションを促進するようなモノを開発したいと考えるようになった。様々な試作を重ね、辿り着いた答えがモフバンドだ。保育園などでテストを試みると大きな反響があったため、13年10月に創業へと至った。

「最初にあったのは、良いモノを作って世の中に広めたいという強い気持ち。その実現のために、ベンチャーを興す道が最善と考えました」

 創業当時は、ウェアラブル端末が注目され始めた時期。しかし、髙萩はあくまで「モフバンドという形になったのは偶然」と語る。人の動作を認識するにあたって、動くことの多い手首の情報を取るのが最も効率的という結論に至った。

 アメリカのクラウドファンディングサイト「キックスターター」で資金を募ったところ、なんと48時間以内に目標金額を達成。結果、アメリカでの認知度が高まり、14年10月には子ども向けの玩具やアプリケーションに特化したカンファレンスで講演者として登壇する運びとなった。この際、「PBSキッズ」を運営するディレクターの目に留まり、「よりアクティブに学ぶ体験を可能とする端末」としてモフバンドに白羽の矢が立ったことで、前述の提携に繋がったという次第である。

「日本から来た名も無いベンチャーに、業界トップブランドの企業が目を付けるのだから、アメリカとはすごい国だと実感しました」

■ソフトウェアに勝機あり
 さて、髙萩の意図は別として、ウェアラブル端末と言えば、今や多くの競合他社がしのぎを削る領域との印象が強い。だが髙萩は「モフバンドは高い技術力とコンテンツの多さが武器。市場に多く出回っているウェアラブル端末とは差別化できている」と意に介さない。

 家電量販店などで販売されているウェアラブル端末だが、その多くは主に健康管理を促進するもの。これは万歩計に心拍数を測るセンサーが搭載されている製品が大半で、確立された技術の上に成り立っているため、すでに多くの企業が参入している。

 一方モフバンドは、手首の情報だけで全身の動きを把握できるのが強み。上から下、右から左といった動作はもちろん、回転などの複雑な動きでも認識する。また、動いた瞬間にほぼリアルタイムで感知する「早期認識」という技術も、今後アプリを展開していく上では大きなアドバンテージとなるだろう。

 ここで同社が特徴的なのは、端末に組み込まれたセンサー自体は安価で汎用性のあるものを使用している点だ。誰もが取れるセンサーデータを認識、解析するソフトウェア側にこそ注力する髙萩。「ハードウェアは分解すればすぐに真似できるが、弊社の独自アルゴリズムはそう簡単にはいかない」と自信を見せる。

 結果として顕著なのは、商品の使われ方だ。ウェアラブル端末の多くがジョギングやウォーキングに特化するのに対し、モフバンドはダンス、ヨガ、ストレッチ、リハビリテーションといった様々な領域に進出可能となる。

 認識技術の難しさが参入障壁となっているのに加え、モフバンドほどアプリケーションの揃っているウェアラブル端末も珍しい。「PBSキッズパーティー」は好例だが、バンダイナムコエンターテインメントとも協業して新感覚のゲームを配信予定。今後も「技術×コンテンツ」という合わせ技で市場を開拓する。

■モフバンドを捨て去ることもありうる

 現状ではモフバンド自体の販売を収益源としているモフだが、今後は様々なアプリ開発を行うことで、法人向けのサービスを売上げに加えていく方針だ。企業単位でモフバンドを導入してもらう以外にも、企業が何らかのサービスで必要とあらば、裏側の技術のみを提供することも考えられる。また、モフバンドの利用によって取れるデータの分析もビジネスに繋がる可能性は高い。

「PBSキッズとの案件は最終的に子どもたちがモフバンドを付けて動きますので、B2B2Cと言えますが、今後はもっとB2B色の強い、裏方を担うようなビジネスにも進出したいですね」

 モノづくりを志向してモフバンドの開発に漕ぎ着けた髙萩だが、ハードウェアに固執しないところもまた、常に変化を恐れない企業家精神の持ち主らしい。彼の考えは、「ウェアラブル端末はニーズとシーンに応じて着ければいい」というもの。例えば腕時計は、置き時計がある家に帰れば外すのが一般的だろう。これと同じように、モフバンドも遊びたい時など必要に応じて着ければ良いというわけだ。

「ハードウェア自体で差別化を図るのは難しいでしょうから、そこにこだわるつもりはありません。あくまでコンテンツが主軸で、そこに真の魅力があれば、必要に迫られてどんな端末でも着けるでしょう」

 当初より「アプリケーションが作りやすい」という前提で製品化した結果、モフバンドに落ち着いたという経緯のためか、髙萩にとってウェアラブル端末を作っているという意識は薄い。「仮に他のハードウェアが主流になり、そちらの方が使用する上でも便利と分かれば、モフバンドを捨てて別の端末を作る可能性もありうる」と割り切る。

 そんな髙萩が秘めるのは、「世界に売れるモノでなければ作りたくない」という熱い想い。現在はアメリカが主力市場となっているが、他の国にも製品やサービスを広めていきたい考えだ。すでに水面下では、提携の話が持ち上げっている企業も少なくないという。日本発のベンチャー企業が世界を舞台に飛躍する、その雄姿を見られる日は、そう遠くないかもしれない。


【企業概要】
社 名 ● 株式会社Moff
本 社 ● 東京都千代田区神保町3-17
     ヨシダFGビル 4階
設 立 ● 2013年10月

一覧を見る