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【ベンチャー・リポート】

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「ジャパニーズドリームを、群馬から」地方からベンチャーを発掘

「ジャパニーズドリームを、群馬から」地方からベンチャーを発掘

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

情報と人材の集積地である大都市だけがベンチャー誕生の地ではない地方発の「起業家発掘プロジェクト」が熱気を帯びてきた。2018年12月1日、ヤダグリーンドーム前橋(群馬県)で「群馬イノベーションアワード(GIA)2018」が開催れた。応募数402件の中から審査を勝ち抜いたファイナリスト15 組が事業プランを発表し、賞者には米国シリコンバレーへの海外研修ツアーが特典として与えられる。記念講演でニトホールディングス会長似鳥昭雄は、「過去を否定し、何事も一番を目指せ!」とエールをった。(文章敬称略)

「群を抜け。」に込めた思い

「群馬の地から次代を担う起業家精神を持った人材を発掘し、県内国内のイノベーション機運を高めよう」という目的で2013年からスタートし、今回で6回目の開催となる群馬イノベーションアワード。審査員には慶応義塾大学教授国領二郎の他、ジンズ社長の田中仁、コシダカホールディングス社長腰髙博など群馬出身の東証一部上場企業の現役経営者が顔を揃える。

「GIAがキッカケとなり起業という選択肢が地域に少しずつ根づきつつあるのを実感しています。この流れをさらに加速させるためにも多くの高校生や大学生の参加を期待しています」と発起人の田中は地方発の試みに手応えを感じている。

 この日のメインイベントである最終審査では、これから起業を目指す「ビジネスプラン部門」、創業から5年未満の「スタートアップ部門」、そして創業から5年以上の「イノベーション部門」の3部門に分かれ、合計15組が独創的なプレゼンテーションを行った。ビジネスプラン部門は、高校生の部、大学生・専門学校の部、一般の部と分かれており、会場には県内に通学する学生の姿も多くみられ、幅広い世代に浸透しているのが分かる。

質の高いプレゼンテーション

 事業プランの発表を行うステージの中央は10メートルほど観客側に迫り出し、まるでファッションショーで見られるランウェイのような演出がされている。栄えあるトップバッターは、まだ十代の高校三年生2人組が務めた。

 事業領域は「定年世代の就農支援事業」と地に足の着いた内容で、学校周辺の耕作放棄地に着目した。定年退職後の高齢者が多いことに着目し、土地保有者でなくとも農業に気軽に挑戦できるシステムを考案。さらに収穫した農作物は、商業高校の学生が販路を確保するというもので、耕作放棄地の有効利用だけでなく、世代の垣根を超えた住民同士の触れ合いを促進し、地域活性化も期待できる一石二鳥のアイデアで目の付け所が斬新であった。

 社会の課題に対して、柔軟なアイデアで解決法を提案しており、かつビジネスプランのポイントを押さえた発表からは、何度もリハーサルをしてこの日のために準備をしてきたことが伺われる。当イベントの質の高さが伝わってくる優れたプレゼンテーションであった。

「ビジネスプラン部門・高校生の部」で入賞したのは、「MR(複合現実)を用いた職場体験ビジネス」を発表した高校二年生の2人組。企業の採用という巨大なマーケットに切り込んだ。実際の就業体験は時間や労力がかかり訪問企業数が限られてしまうという問題を提起し、IT活用を取り入れ、ゴーグルに職場での職務内容や職場風景を映し出すシステムを発表した。手軽なため多くの候補先から就職活動が可能になり、入社後のミスマッチによる早期離職も減らせ、企業側と就職希望者の双方にとってメリットがある。採用市場の大きさから可能性の広がりを評価されての受賞となった。

社会的課題を柔軟な発想で解決

「一般の部」では、生産ラインの経年劣化による故障を未然に防ぐIoTシステムを発表した三晃メンテクス社長の須永光が入賞。工場では生産が止まると大きな損害になり、故障を事前に予知する仕組みが必要であった。そこで工場内の設備に振動や温度などを測定する小型のチップを設置し、異常があると通知するシステムを考案した。チップは一枚100円程度を想定し、中小企業でも導入できるコストに抑える計画だ。

「スタートアップ部門」で入賞したのは、病気や事故などで身体の一部を失った人に着脱可能な人工ボディパーツ(エピテーゼ)を制作しているエピテみやび代表の田村雅美。乳がんで胸を失った友人と同じように悩む女性たちを救いたいと、その人に合わせてほくろや血管といった細部まで再現するのが特徴となっている。

日本にイノベーションを起こしたい

 栄えある大賞に選ばれたのは、テクノロジーを活用し、保育園や幼稚園の園児の安全を見守るシステムを提案したアリガトウカンパニー社長の福島直。国内園児は420万人、それに対して園児の面倒を見る先生は76万人と少ないのが現状だ。「保育現場にかかる命のプレッシャーから解放したい」と考えたのが今回のビジネスプランを作った動機である。

「去年は皆さんと同じ場所にいて、大会を見ていました。来年は自分が大賞を取ると決めて一年間考えてきました。それが実現でき嬉しい。このような発表をする機会を与えてくれたことに感謝します。そして、この案を実現し、保育の労働環境にイノベーションを起こしたい。働き甲斐に満ちた職場を作ると約束します」と大賞受賞のスピーチを行った。
 

売上げと利益よりも「客数」を重視

ニトリホールディングス会長兼CEO 似鳥昭雄 Akio Nitori

 ニトリは1967年に私が23歳で創業して、昨年50周年を迎えました。31期連続の増収増益を続けています。30年前の店舗は16店、今は523店ですから33倍になりました。当時の売上げは103億円で現在は5700億円なので55倍です。最も変わったのが利益です。約5億円から948億円と177倍になりました。なぜ店数よりも利益の方が増加したのか分析すると、チェーンストア理論に基づいて展開してきたからです。

 私は社会貢献とは、「売上げ」と「利益」ではなく、「店数」と「客数」であると考えます。全国の隅々まで47都道府県、5万人以上の都市に出店するのが目標です。現在、523店舗になり、小さい店も合わせると1000店までは出店できると思います。

 注目している数字は、既存店の客数が前年に比べて増えているかどうか。売上げや利益ではなく、客数が重要です。何故かというと、客数が減るというのは、店の魅力が薄れてきたことを意味するからです。他に魅力的な店があればお客はそちらに行きます。既存店の客数が2年、3年と続けて減少したらその店の存在理由はありません。客数を増やすことを社員一同で共有しなければいけません。

今までのやり方を否定する

 はじめの頃は店舗数を増やすのは厳しく、なかなか波に乗りません。100店舗までに36年もかかりました。私が23 歳から始めて59歳までです。100店舗から200店舗までは6年かかりました。次に200店舗から300店舗までは3年。400店舗になるのにも同じく3年かかりました。そして2017年10月に節目の500店舗目を出店し、400店舗から500店舗目までは2年で達成出来ました。

 ニトリのビジネスモデルは日本にはありません。世界でもおそらくないと思います。この世にないものを作っていくのがイノベーションです。我が社ではイノベーションを繰り返してきました。今までのやり方を否定し、新しいやり方を作ってきました。

 誰よりも先んじる。先制する。人の二番手三番手は常に誰かの後を追わなければならない。他社の5年先を行くということです。食わず嫌いはしない。食べたことのないものを選ぶ。失敗の繰り返しですが、中には美味しいものを発見することがある。毎回好奇心を持って違うことをしなければなりません。

自分を成長させるために働く

 私のモットーは、即断即決することです。失敗してもいいからとにかく決めて実行する。考えすぎて行動しないのは一番悪い。そして、特に重要なのは捨てることです。今のやり方を改善して5%変えても高が知れている。それよりも絶対これは捨ててはならないというものだけ残して、あとは全部捨てる。そして新しいやり方に乗り換える。

 とにかく一番以外は意味ないと思います。今までにないことをやる。その意思がなければあなたは存在意義がない。常にそう言っています。去年と今年で変えなければならない。

 自分がスカウトされるような人間にならなければならない。だから「うちの給料の1.5倍とか2倍の企業にスカウトされるようになりなさいよ」と言う。でも実際にそのくらいの企業からスカウトが来ましたって報告があったら、「行くな」と言います(笑)。

 新しいことにどんどん挑戦する。そして失敗をする。学生はお金を払って授業を受けている。会社は給料をもらっていながら、教えてもらって学ばせてもらえる。こんないいことはありません。

 しかし、会社のために働かない。自分のために働くことです。自分がどう成長できるか考えて仕事をしてください。

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