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アフターコロナの日本経済

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

(企業家倶楽部2020年8月号掲載)

経営者はコストについて考える時間となった

 新型コロナウイルスにより、経済活動がスリムになったことで、世界中の経営者はコストについて考える時間をもらいました。強制的なリモートワーク移行によって、移動コストやオフィスの存在意義や通信環境を整える重要性を痛烈に認識し、様々なことを考え直す機会となったでしょう。経営者の層がこの様な時間を得た事は非常に大きく、コロナにより世界的なパラダイムシフトが起きる可能性があります。

 一方、実態経済と株式市場の乖離を不気味に感じている人は多いでしょう。背景には各国が行っている、巨額の金融緩和による、マネーが行き場を探しているという見方ができます。虚構と言われやすい「金融」ですが、金融により経済を持ち上げることで、アフターコロナで生き抜く未来を、必死で各国の中央銀行が描いているのです。

中国らしい最先端テクノロジー技術を目の当たりに

 新型コロナウイルスの封じ込めにおいて、中国らしい最先端テクノロジー技術を世界は目の当たりにさせられました。徹底した監視に基づいて人々の感染リスクの判断や管理をアプリを通じて行うことで、封じ込めに成功。あらためて、デジタルプラットフォーマーの力を見せつけられました。焦りを持って見ていた世界は、今後、業務の無人化・省力化への進化を一層強めそうです。これらは、従来から言われていた「ミライ」であり、コロナをきっかけにグッと近くなったにすぎないでしょう。

コロナショックの中で、ウォーレン・バフェット氏の投資行動は?

 経済の今後を占う上で、米資産家で著名投資家ウォーレン・バフェット氏の投資行動を参考にしている経営者も多いです。2008年リーマンショック当時、彼は米国株の爆買いを行っています。では、今回のコロナショックの時に彼がどのような行動を取ったのでしょうか。5月、ウォーレン・バフェット氏は、自身の率いる投資・保険会社バークシャー・ハサウェイで、保有していたデルタ航空とサウスウエスト航空、アメリカン航空グループ、ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングスの株式を全て手放したことを明らかにしました。バフェット氏は新型コロナウイルスのパンデミックの経済的影響により、航空事業が根本的に変容したと指摘しています。

バフェット氏がコロナショックでも保有する業界は?

 コロナ禍の中でもバフェット氏はアップル、Amazonの大株主です。世界的なテレワークの普及が一足飛びに進み、需要が高まったのが、クラウド需要です。マイクロソフトの1〜3月期の決算ではクラウド「アジュール」の売上高が前年同期比+59%増、Amazonのクラウド部門も+33%と業績が堅調です。

 そして、コロナショックの中で、GAFA+Microsoftの時価総額が、東証一部約2170社の合計を上回り、560兆円に達したという衝撃的な報道がありますが、この数字が全てを物語っています。

クラウド需要により、堅調な半導体市場

 クラウド需要が急増すれば、データセンター向けの設備投資が拡大します。5G、AI、フィンテックのシステム投資需要は拡大傾向であるため、半導体や電子部品業界は堅調なシナリオを描きやすいです。国内でも東京エレクトロン、アドバンテスト、マスクブランクス検査装置トップのレーザーテックなどの半導体関連銘柄が堅調です。

 また、日本を代表する電子部品業界の日本電産が増益見通しを出し、今期純利益は前期比66%増の1000億円を見込むと強気の発表をしています。

DXを軸に、システムインテグレータの需要は「本命」

 DX(デジタルトランスフォーメーション)は企業がITを活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革することが必要との考えで、老朽化した基幹システムの刷新やクラウドサービスの活用を、国を挙げて進めてます。

 5Gの普及、リモートワークの追い風を受けてwithコロナ、アフターコロナの大本命がDXに関連する業界です。DXと共に需要が高まっているのが、システムインテグレータです。伊藤忠テクノソリューションズ、NECネッツエスアイ、オービックなどの業績がすこぶる良い。この需要は引き続き拡大傾向だと言えます。

中国人がアフターコロナで旅行したい国NO.1、日本

 経済活動が少しずつ戻るなかで、内需消費もある程度戻ると予測できます。最後の立ち上がりになるのがインバウンド需要でしょう。インバウンド需要に関しては、中国に支えられてきた背景があります。その中国人の気持ちに今、変化が起きています。中国人に最も人気の旅行先、不動の1位であったタイを抑え、日本が1位になっています。4月10日、中国メディアである東方網が、新型コロナウイルスの世界的な感染が収束後に中国人が最も行きたいと思う国が「日本」であるとの調査結果を報じています。

 なぜ日本?新型コロナウイルス感染初期の頃、各国が中国批判を強めるなかで、日本は多くの支援物資を送るなどし、中国人のなかで日本への感謝の気持ちが強まっているのです。2月上旬に、在日中国大使館は日本政府や地方自治体、企業などから計約272万枚のマスクや、約38万着の手袋などが寄付されたとの集計をホームページで公表しています。そして、あらためていま、「安心」「信頼」という観点からも、日本人気が高まっているのです。コロナショックでインバウンド業界は特にダメージが大きく、旅行の需要は戻りにくいと言われています。が、インバウンド最大級のマーケットである中国人が、日本に旅行したいと思っている事実は日本経済にとって朗報でしょう。

 ただし、入国制限をいつ解除するのか、感染拡大防止と経済の入り口を開けるタイミングとのバランスをとるのが非常に難しいのが現状です。中国人の日本旅行のマインドが冷めないうちに、インバウンド需要を取り込むべく、国による出口戦略に期待が寄せられます。

アフターコロナの世界はスケールメリットだけではダメ

 スケールメリットや人口の増加で「経済の体力」を測る時代はそろそろ終焉を迎えるでしょう。世界の人口はもはや飽和状態であり、今後は、技術革新のスピードを強め、独自の付加価値を持つ国が国力を高めることになります。日本人としての自信を失っている人があまりにも多く、自己肯定が苦手な国民性ですが、「失われた20年」の過去を嘆いたり、後ろ向きな議論は、非生産的な行為なのは誰もが分かっていることです。現状を把握した上で、ミライに向けて「どういったアクション」をしていくかを皆で考えることが重要だと考えます。日本の潜在能力をいかに伸ばしていくかを共に考える必要があります。

ミライに繋がるお金の使い方

 世界の人口は調整局面に入っており、消費を行う生産人口は減少傾向にあります。このトレンドはグローバルに展開している企業にとっては不利になるでしょう。一方、これからシェアを取りにいく、伸びしろのあるスタートアップ企業にとっては有利な可能性があります。ここから先は、技術をアップデートし、世の中を刷新できる企業の存在感が増します。まだ世の中にない人々の願望を実現できる企業が成長する国こそが、国力を高めていく事になります。

 それができるのはアメリカや中国なのではないか?いえ、日本も可能性は十分にあり、本気で向き合っていないだけです。そのために必要なのは、新しい技術開発を行っているスタートアップへの投資や、国の予算のポートフォリオを研究開発費用などのミライに繋がるお金の使い方に少しで良いので、振り分けることでミライは大きく変わります。国を支えている企業の経営者の皆様にあらためて、スタートアップ企業への投資の意義を考えていただきたいです。

 日本は「失われた20年」と 言われていますが 日本はこの20年間、GDPは横ばい、一方、中国は13倍。この間、生産性を伸ばすことができなかったことはGDPを見れば一目瞭然です。その世界ランキングを見ると18年では、アメリカが20兆5800億ドル、中国は13兆3680億ドル、そして第3位の日本は4兆9717億ドルとなっている。

 アメリカと中国が巨大なGDPを稼ぎ出しているものの、日本も長い間3位を堅持しています。ほんの10年前までは、中国より上の世界第2位でした。10年前の2000年のGDPはアメリカは約10兆2500億ドルと、この20年で約2倍、中国は約1兆2100億ドルと13倍、日本は4兆8800億ドルと横ばいです。世界的に一気に生産性が高まった、ここ約15年間に、日本だけが大きく伸ばせなかった理由は生産性を伸ばすことができなかったからです。言い換えれば、日本にはまだ伸びしろがあるのです。

情報通信産業(ICT)だけはGDPにプラスに寄与

 特にこの15年間の変革のスピードが異常でした。インターネットやAIが、一気に花開いた時期に、アメリカや中国は産業のアップデートを進めてきました。日本においては、実は、情報通信産業(ICT)だけがGDPにプラスに寄与しています。総務省「ICTの経済分析に関する調査」(平成30年)のデータによると、実質GDP成長率への情報通信産業の寄与度を2000年から4年刻みでみると、情報通信産業の寄与度はいずれもプラスとなっているのです。

 日本はICTしかGDPがまともに伸びていないのです。他の分野は何もできていなかった…。むしろ、まっしろと言っても過言ではありません。これを、しっかりと他の産業でも着手できれば、十分に成長余力があると言えます。むしろ、この程度の“本気度”でGDP3位を維持していることの粘り強さの方が驚きなのです。

日本は独自の椅子を作っていけば良い

 日本は若い世代への投資、ミライの成長力に使うお金が削られ続けています。日本の伸びしろを高め、イノベーションを加速させるには、ミライに繋がるお金の使い方が必要です。今の日本のリソースの張り方はあまりにも過去に向いているのです。できれば10兆円、たとえあと5兆円でもミライに向けて振り向けることができたら、どれほど大きな事ができるでしょうか。世界における椅子の奪い合いではなく、日本は独自の椅子を作っていけばいいのです。日本の潜在能力を伸ばしていくために、日本を代表する経営者の皆様の力が欠かせないと思います。

Profile 馬渕磨理子(まぶち・まりこ) 
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで株式アナリストとして活動しながら、現在は日本クラウドキャピタルでマーケティング・未上場株のアナリストも務めるパラレルキャリア。プレジデント、SPA!での執筆を行う。大学時代はミス同志社を受賞。

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