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【モチベーションカンパニーへの道】38

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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発明が生まれ続けるカルチャーを創る/ドリコム社長 内藤裕紀

発明が生まれ続けるカルチャーを創る/ドリコム社長 内藤裕紀

(企業家倶楽部2019年10月号掲載)

 学生ベンチャーとして2001年に創業、06年には東証マザーズに上場し、若くして脚光を浴びたドリコム社長の内藤裕紀。、紆余曲折を経て、今はスマホゲーム事業を中心に成長を続けている。

 ドリコムが特に注力するのは、他社が持つIP(Intellectual Property 、知的財産)を預ってのゲーム化。また、17年にはバンダイナムコと共に会社を作り、ゲームのプラットフォームにも参入している。

開発費10億円

 ゲームに限らずエンターテインメントの世界はユーザーにウケるかどうかに左右される。最近のスマホは「プレイステーション3」と同等の性能を持っているので、ゲーム1本当たり開発費だけで10億円はかかる。プロモーションや運用、イベントを入れると、1タイトル30~50人が必要。ユーザーの目が肥えているため、それくらいの規模で作った作品でなければヒットさせるのは難しい。

 「そうした浮き沈みを平準化させるためにポートフォリオを重視しています。どういうタイトルを何本持ち、毎年どれくらいのペースで新しいゲームをリリースしていくのかを考える。その上で長くユーザーに愛され、遊んでいただけるタイトルを作らなければなりません」

 創業当初はブログからスタートしたドリコムがゲーム事業に参入したのは10年頃だ。当時はミクシィやグリー、DeNAによって、ソーシャルネットワークの上にゲームを乗せるというプラットフォームが開放された時期である。ソーシャルネットワークとゲームという組み合わせに、必ずやゲーム人口が増えていくと考え、参入した。

 ゲーム市場は毎年2桁%成長し続け、今や1兆円市場になっている。ただ、去年あたりからは市場が成熟してきて、ゲームそのものが難しくなり、一般の人が離れてきているのが現状だ。開発費が掛かりすぎて日本国内では新規の参入が難しい。その一方、アップルやグーグルなど海外勢の参入は増えている。

他社の持つIPタイトルに振り切った

 そうした中で、なぜドリコムは生き残ってこられたのか。内藤は3年ほど前から、マーケットが成熟すると想定。ユーザーは初めてのものより、「ドラゴンクエスト」といった見たことがあるタイトルに流れやすくなると予測し、自社で一から開発するのではなく、他社のIPを借りるという方向に振り切った。それによって、今やドリコムは多くの会社からIPを預けてもらっている。ゼロから作るのは人も手間もカネもかかることを考えると、この戦略は大正解であった。 例えばスマホ向けゴルフゲーム『みんゴル』ならば、プレイしたことのある人たちがまず来てくれる。『ダービースタリオンマスターズ』も、昔やっていた人に入ってもらう。そこにプロモーションをかけ、新しいユーザーも呼び込める。このように、いち早くIPタイトルに振り切ったことが強みとなっている。

 「他社のものを預かる以上、ライセンスの部分は大変慎重に扱っている」と内藤。版権の扱いに慣れていない会社もある中、ドリコムではルールを把握し、慎重に扱うため、安心して預けてもらえる。一タイトルを2年で作り、数年間共に仕事をするが、版権によっては10年、20年とマンガやアニメが続いている作品もある。その重みを理解することが大切なのだ。

 「ゲーム制作については、こちらから営業に行くより、ご相談いただくことの方が多い。受けるかどうかは、社内でそのIPに対して愛を持っている人、よく知っている人がいるかどうか社内調査をかけ、いなければお断りすることも少なくない」

 ゲーム化の鍵を握る一番のポイントは、ビジネスとして成り立つかどうか。認知度の高さより、「このタイトルなら時間やお金を使いたい」と思う濃いファンがいることが大切だ。そして毎日遊んでもらえるか、その熱量が重要という。

試練を超えて

 01年、京都大学在学中にドリコムを創業した内藤。06年、「面白そう」というノリで東証マザーズに上場した。30~40人くらいの会社で売上げ数億円にもかかわらず、なんと時価総額が1000億円を超えた。まさにユニコーン企業である。しかし、会社として未熟なまま大海に出てしまったというのが実体だった。その結果、上場した後に大変な苦労を背負うことになる。

 上場しなければ期待値もなく、無謀な計画や無理なM&Aを実施することもなかった。早くに上場するデメリットはそこにあった。

 それだけではない。06年ライブドア事件が起こり、「インターネットは悪だ」という反動の中で、株式市場と向き合うのはつらい経験だった。さらに08年にはリーマンショックが発生。経済がガタガタになった。

「株主にGMOインターネットやサイバーエージェントがいましたが、熊谷さんも藤田さんもリーマンショックで皆大変だった。今は荒波を乗り越えた同志として語り合える」
 
 その内藤が今、大切にしているのは社員の育成だ。リンクアンドモチベーションとは2~3年前、モチベーションクラウドを活用して以来の付き合いである。

「会社としてミッション、ビジョン、カルチャーをもっときちんと作り、どう再構築していくかというタイミングでご一緒させていただいた」

 人が急速に増えていくタイミングで、組織を定量化し、実体を把握することと、他社の成功事例を参考にできることがメリットにつながった。部長クラスの意識が高まり、横のつながりも良くなった。半年前からはワンオーワンという形で、上司が部下と半期の目標に対してコミュニケーションをとることをルール化、一つひとつ実行している。

真摯であること

 以前は自分のキャリアアップや待遇重視だったが、この数年はどういうカルチャーの会社であるか、自分のありたい姿と会社のカルチャーが合っているかといった部分を重要視する人が増えている。 今、ドリコムの社員数は350人ほどだが、実際働いている人は業務委託を含めると650人。採用はある意味奪い合いだ。

 採用に当たっては「スキルよりカルチャー、価値観が合っているかどうかを重視している」と内藤。大事にしているカルチャーは真摯であることだ。版権を預かっての仕事を任せる以上、誠実さは重要な要素となる。

ゲーム以外の新規サービスを

 今後の課題は、収益のポートフォリオとして、自社開発ゲーム以外の収益をどう作っていくか。そのために、ゲームのプラットフォーム事業にも参入した。これからは、ゲーム以外のサービスの立ち上げがテーマとなる。

 今は実験的にいくつか小さくサービスを立ち上げながら試行錯誤中だ。ゲームと比較すると規模は小さいが、コツコツ伸ばし、ゆくゆくは売上げの半分をゲーム以外にしていく構えである。「ゲームの比率を半分に落とすのではなく、他のサービスをゲームと同等の規模になるよう育てていきたい」と内藤は語る。
 会社のミッションとして「人々の期待を超え続ける」と掲げる内藤。それをどう実現するか。新しいサービスを生み続けるカルチャーをどう創っていくか。ドリコムの未来はこれからだ。

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