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【海外リポート】TMR台北科技 特約記者 大槻智洋

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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新時代のビジネスモデルを構築せよ

新時代のビジネスモデルを構築せよ

オフィスエントランス

(企業家倶楽部2018年12月号掲載)

小米(シャオミ)は日本でスマートフォンメーカーとみなされている。しかしその商品ラインアップ、そして投資先ははるかに広範だ。無印良品やアップルと同様な商品デザインを駆使しつつ、家電の枠を超えて生活雑貨でもヒットを生みはじめた。拡張を続ける小米の実態に、インキュベーション事業統括者のインタビューを通じて迫る。

 小米(シャオミ)集団はあっという間に巨大企業となった。営業キャッシュフローが2017年にマイナスだったとはいえ、同年の年商は2兆円に迫り、18年10月の時価総額は実に3.7兆円に達した(1人民元=17円、1香港ドル=15円で換算、表1)。同社が今後大きな伸びを見込んでいるのは、多種多様な家電や生活雑貨分野である。

 直販実体店「小米之家」の中心には、アップルストアのようにスマートフォン(以下、スマホ)が大きなテーブルを使って陳列され、その周囲を白物家電や生活雑貨がぐるりと取り囲んでいる。しかも周囲の商品がよく売れている。家電や生活雑貨の売上高は、全体の2割を超えた。女性客も増えて、もはや小米がギーク(コンピュータマニア)ブランドだった面影はない。

 それにもかかわらず小米の創業経営者の雷軍は18年4月、伝統的な家電メーカーではありえない経営方針を宣言した。スマホや家電といった「ハードウエア事業全体の税引き後利益率は永遠に5%を超えない。超えた分はユーザーに合理的な方法で返す。取締役会で決議した」。

 では小米はハードウエア売上高の増加以外にどうやって利益を増やしていくのか。一般的に言われているのは、インターネットサービスである。具体的には自社商品のユーザーを対象にした広告や映像、ゲームの配信だ。小米のスマホでは既に設定画面やファイルマネージャー(ウィンドウズのエクスプローラーに相当)に広告が表示されている。17年インターネットサービスは全社の粗利の39%を占めた。その売上高粗利率は60%だった。

 実は、香港上場会社の小米集団の収益に直接現れにくい、もう一つの利益の源泉がある。ベンチャー企業(以下、スタートアップ)への投資事業だ。小米および創業メンバーは、連結対象ではない投資事業組合も通じて17年に50件以上の投資ラウンド(シリーズD以上を除く)に参加した。さらに16年にインキュベーター、北京青禾穀倉科技(グゥツアン)を設立。創業支援事業を強化した。

 重要なことは、小米における家電や生活雑貨の商品ライナップ拡充が、スタートアップへの投資を通じて進んでいることである。つまり小米は、スタートアップに資本を入れてその商品を販売して稼ぎ、スタートアップが成長すればその株式を売って稼ぐ、という「1粒で2度美味しい」事業モデルを確立しつつある。

 このモデルは商品がつまらなければたちまち破綻する。しかし、選び抜いたスタートアップに小米式業務を教えれば、そんなことにはならないと同社はいう。創業支援事業の中核メンバーである穀倉学院 CEOの洪華(アラン・ホン)氏と同COO 楊小林(シャオリン・ヤン)氏に話を聞いた。

創業支援事業の中核メンバーの2人

―― なぜ小米は成功したのか?

「時代の流れですね、運が良かった。しかし同時に、運をものにする努力をしてきました。中でも供給者ではなくユーザーの視点に立って、インダストリアルデザイン(外観デザインやユーザー体験などの商品設計)にこだわったことが大きかった。小米の販売品は実際、グッドデザインなどの内外のデザイン賞を116個も得ました。

 ユーザー視点の代表例は「MIUI」です。M I U I とは小米のスマホが内蔵するAndroidベースのOSです。どのスマホメーカーもOSをアップデートしますが、頻度が低い。MIUIの開発者版は毎週です。MIUIの公式掲示板には、900万人以上の月間アクティブユーザー数がいます。小米はここで判明した課題をどんどん潰し、より魅力的な機能を追加していく。

 日本には「お客様は神様です」という慣用句がありますが、小米は違います。ユーザーを同じ目線を持った友人や家族とみなしています。お客にひれ伏すのではなく、同じ目線を保ちながら課題を解決することが必要なのではないでしょうか。雷軍は毎年末、小米ファンに手料理を振る舞ってユーザーと交流していますよ。

―― 小米は近年スマートフォンのみならず、多様な電気製品や生活雑貨の販売で業績を伸ばしている。しかも非スマホの多くは、小米が開発したものではない。

 小米は2013年末からスタートアップとエコシステム「生態鏈」を作り始めました。株式と引き換えに資金を与えるだけでは決してありません。小米が持つ経営資源を、各スタートアップの要望に応じて提供することで成長を加速します。
 提供するのはインダストリアルデザイン、ユーザー研究、商品企画、サプライチェーン、ブランディング、販売チャネルなどです。時には在庫が生まれたそばから小米が買い取って、スタートアップの資金繰りを容易にしたりします。投資先企業同士は兄弟あるいは先輩後輩のように助け合えます。例えば雷軍も参加する場でCEO同士が交流したり、品質コンテストの中で製造管理ノウハウを学び合ったりしています。

――「1More」ブランドのイヤホンは累計3300万台売れたと聞いた。

 ヒット商品はたくさんあります。モバイルバッテリーは累計8000万個、心拍計や万歩計を備えたリストバンドは4250万台、USB充電器を内蔵した延長コードは1000万台、空気清浄機は530万台売れました。エコシステムに属する投資先は99社、それらが55商品を発売しました。年間売上高が10億人民元(約170億円)を超えた企業は7社、1~10億人民元の企業は24社あります。

―― 小米が獲得する持株比率はいかほどか。

 25%以下を目処にしています。これでは小米が思うがままに投資先を制御できません。だから良いのです。創業者が同志を募ってアグレッシブに商品づくりに邁進すること。これこそが成功の必要なのですから。

―― スタートアップは商品に自社ブランドを付けられるか。

 成長段階によります。最初は小米の家電ブランド「米家(MIJIA)」ブランドを付けた方が販売が伸びます。信頼感がありますからね。次は米家とスタートアップのデュアルブランド、そしてスタートアップの商品が定評を得た後は米家ブランドは不要ですし、小米以外にも商品をどんどん出荷していけば良い。

―― スタートアップ投資は失敗が避けられないのに、小米は経営資源を提供する。それで儲かるのか。

 投資収益率は心配していません。投資先の中国フゥアミ(華米)社が18年2月にニューヨーク証券取引所に上場しましたから。フゥアミは「AMAZFIT」ブランドのスマートウォッチやリストバンドを開発しており、時価総額は6.5億米ドルほどです。投資額の10倍以上のキャピタルゲインを得られそうな案件は既に複数あります。

―― いちユーザーとして小米の良さは日々実感しているが、同時に外観デザインやデザイン言語(商品哲学やアイデア)は「無印良品」やアップルを模倣しているように見える。

 0から1を生み出すことは、中国のスタートアップにとって確かにまだ難しい。しかし思考、ポジショニング、設計、製造を見直すこと で、1をN倍することにも大きな意義があります。小米は創業当初、大学生などにとっては高嶺の花だったスマホを一気に安価にして熱狂的に歓迎されました。

 もう一つ強調したいのは、私達の投資先はニッチ市場で既に0から1を生み出したということです。例えば、電動髭剃りの開発会社は、潜在的なサブ機需要に着目しました。携帯しやすいよう本体を薄くし、電源コンセントがない場所で充電しやすいようUSBポートを備えた。刃は日本製にして剃り味も訴求した。この販売金額は30億円近くになりました。

―― 中国市場にはユーザーが買った後に落胆する安易な模倣品が依然として多い。それでも経営者は儲かるからだ。

 私達は初心を忘れない人物を見つけ出して、支援します。投資した歯ブラシの開発企業の経営者は、中国人の歯の問題を解決したいという初心から、歯ブラシのケースはどうあるべきかアイデアを練り続けました。私達はそうした人物を、新商品開発プロジェクトに関する2泊3日の集中教育などで発見します。

 私達の集中教育はオープンです。1万2800人民元(約22万円)払ってもらえば、小米の競合企業に勤めていようと参加できます。無料でもやったことがあるのですが駄目ですね、参加者の本気度がぜんぜん違う。参加者が創業した際に、穀倉側は持株比率10%の優先投資権を持つことにしています。

―― 中国人以外が経営する企業にも投資するか。集中教育で有望さを確認したが、外国人が外国で会社を経営したがっている場合だ。

 これまでの投資対象はすべて中国でした。次のステップは国際化と考えています。

―― 具体的にはインドか。小米がスマホ販売台数でトップシェアを獲るようになったので販路は確保されつつある。

 インド人やインド市場に対して投資する側が十分理解していることが条件になります。5年後なのか10年後なのかはともかく、将来の海外投資は否定しません。投資先のスタートアップが日本企業と、部材供給やインダストリアルデザインなどで協力することも増えていくでしょう。日本には中国にない優れた電子部材や化粧品、生活雑貨などがたくさんありますから。
 

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