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【世界に挑むイノベーターたち】エニグモ最高経営責任者 須田将啓

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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世界を変える一石を投じたい

世界を変える一石を投じたい

(企業家倶楽部201年4月号掲載)

2015年、エニグモはソーシャル・ショッピング・サイト「BUYMA(バイマ)」の認知度を一気に上げるため、総額10 億円をかけた大規模な広告キャンペーンに打って出た。ドローンやタレントを起用したCMが話題となり、2016年1月30日現在、会員数は300万人を突破した。2016年1月期の売上高は26 億6500万円、経常利益は2億3500万円と増収減益を見込み、株価は一時的に下落しているが、須田代表は「判断は間違っていなかった」と全く意に介さない。そんな彼に今後の戦略を聞いた。


世界中で話題になった広告キャンペーン

問 昨年2015年に作家やタレントを起用した広告、CMが大変話題となりましたね。反響はいかがでしたか。

須田 インパクトを実感しています。CMは12月13日に終わりましたが、1カ月以上経っても会員獲得のペースが上がっていますので、十分な効果がありました。バイマの認知度はCM放送前の25%から、放映後の8月には34.2%に上昇しました。

問 限定でドローンを利用したCMもありましたが、どんな着想ですか。

須田 話題になることで認知がより強化されますから。国内だけでなく、海外でも約30カ国のメディアで取り上げられ、動画サイトでも100万回以上再生されました。

問 CMによって購買層は変わりましたか。

須田 メンズの会員が増え50万人を超えました。レディースはこれまでの20~30代に加えて、10代、40代、50代が増え、ユーザー層の裾野が広がりました。

問 現在の会員はどのくらいですか。

須田 2016年1月30日に300万人を突破しました。

問 すごい勢いですね。

須田 非常に高い評価を頂いています。ただ、利益面など数字だけでは説明し切れていないため、個人投資家をはじめ市場関係者の方からは厳しい反応を頂く結果となっています。

 上場後初の本決算で出した3カ年計画で、かなりアグレッシブに2017年1月期の営業利益30億円としていました。そこから逆算して売上高や、目標の会員数をとるための広告費を割り出しましたが、バイマのようなネット通販が存在しないため、予算を出すのは難しいことでした。

 検討していくうちに、大幅な値引きのような分かり易い訴求のCMで会員を獲得するよりも、バイマが他とは全く違なる新しいサービスであることや、高級感などをきちんと表現したいという判断になりました。まずはサービスを知って頂くためのブランディングだろうと。制作費も高くなりますし、その分、放映数も2割ほど減らさざるを得ず、結果的には会員獲得数が想定の半分になりました。

 当初の業績予想が高すぎて届かなかったため、先日は下方修正を発表し、テレビCMは失敗したと受け止められています。しかし、アベノミクス以降成長率が落ちていましたが、明らかにトレンドが変わりましたし、成長率はベースアップしているので、効果は大きいものでした。目標設定額以外の判断は間違っていなかったと思います。業績としても、良い数字を出していけるでしょう。

「世界が変わる流れをつくる。」

問 「世界が変わる流れをつくる。」に経営理念を変えたのはなぜですか。

須田 「世界が変わる」ということを具体的に考えていくと、新しい流れを作ることこそが世界を変えることに繋がっていくのではと思い、もう一歩踏み込んだ表現に変えました。それがベンチャーの世界の変え方だと思います。

 自分の過去を振り返ってみると、エニグモはC2Cの走りでしたし、会社の2人代表制、大企業からスピンアウトして全く違うビジネスで起業など、当時は珍しかったのですが、それが新しい流れに変わっていきました。

 いきなり変えるのは難しいと思いますが、「ものすごく遠くの目標ではなく、日々のことで世界を変えられる」という一石を投じられる会社でありたいと思っています。

ファッションメディア「STYLE HAUS」が健闘

問 現在、注力していることは何ですか。

須田 昨年認知を広げたので、バイマを知っていながらまだ会員登録していない、サイトに来ていないという人に会員になっていただくことが重要だと思っています。

問 何か具体的な施策はありますか。

須田 サイトに来ても会員登録をしていない人には、他のサイトでバイマの広告が出るようにしています。

問 一人当たりの売上高を上げるための施策はありますか。

須田 バイマの流行情報を「STYLE HAUS(スタイルハウス)」というファッションメディアで発信していますが、このサイト経由での会員獲得数が右肩上がりで伸びています。

 バイマはラグジュアリーブランドを売っているというイメージが強いのですが、手軽に買える雑貨も売っていますし、それを情報として出すことで売れていくのです。

問 これまでとユーザーの行動に変化は見られますか。

須田 これまでは検索している人への広告が一番効率が良かったのですが、スタイルハウス経由の売上げや会員の獲得が増えていて、最も効率よく会員がとれています。

問 御社のファンだということですね。

須田 ファッション情報メディアとして認知されてきて、バイマを知らなくても見ています。

 バイマは検索に大変強く、「プラダ サイフ」等と検索ワードを入れるとバイマがすぐヒットします。具体的に探している人には非常に刺さるサイトですが、バイマのことを知らない人や、特に探していない人は逃していました。ところがスタイルハウスが広まることで、ファッション情報を見ていて、気に入った物をクリックしたらバイマに来ると言う人を作り出せるわけです。

 また、このニュース自体が他のキュレーションサイトに転載されて、広がっていくこともあります。

個人が束になってプロを凌駕する

問 バイマの最大の強みはどこですか。

須田 品揃えです。数が単純に多いだけではなく、トレンドをきちんと押さえているところです。

問 124カ国のパーソナルショッパー(個人バイヤー)からの現地の声が入ってくるところが大きいのですか。

須田 それに加えて、日本のトレンドのものを出品してもらえるよう、日本のスタッフとの連携が出来ていることです。

問 トレンドはどうやって発生するのですか。

須田 一般の人が海外のおしゃれなSNSにアップされた商品をすぐに探します。そういうものが徐々に広がっていき、後から雑誌やテレビがついてきます。スピードも速まっていますし、作り手と消費者の距離感も短くなっています。

問 商社バイヤーが厳選したものから変わってきたのですね。

須田 個人に変わってきました。一人のパーソナルショッパーだけならプロには太刀打ち出来ないかもしれませんが、世界中の人が出すことで良いものが集まり、それがトレンドになってく。個人が束になって、プロを凌駕してしまっているのが強みです。

問 パリでテロが起きたり、国内向けインバウンドの増加、中国人観光客の爆買いなど海外の影響はありますか。

須田 フランスでのテロの影響でパリの動きが鈍くなっていますが、逆にパリに行けないので注文する人もいます。

 暖冬で景気が悪かったのですが、当社は割と好調でした。嗜好性の高い物は天候の影響を受けにくいのと、海外も暖冬でセール品が多く出まわり、それが良く売れたということもあります。

 中国人の爆買いは直接的にはあまりありません。ただ、世界のブランドの50%は彼らが買っているので、値段が上がったり、品薄になったりとマイナスの側面もあればプラスに出ていることもあって一概には言えません。様々な要因が重なっていて面白いです。

問 他の要因はありますか。

須田 為替ですね。また、世界的にEコマースが普及したことで送料が上がっています。越境ECが増えたことで小物の比率が異常に増え、小物だけ値上げしている会社もあります。日本郵便も6月に値上げしますが、世界的に送料が上がっています。

世界中の商品をグローバルバイマで

問 2015年、海外からもバイマのサービスを利用できるグローバルバイマをオープンしましたね。そちらはどうなっていますか。

須田 現在はまだ、日本語版にある商品を移し変えて運営している状態です。これから商品数を増やしていく必要があります。

 パーソナルショッパーの方もいますが、今のシステムだとグローバルバイマで出品するためには一度日本版バイマを経由しなければいけません。そのため、日本のブランドの商品やファッション以外の家電などを出すには抵抗がある。

 3月からは直接出品できるようになりますから、日本製の家電やブランド品が続々と出品され、日本から海外という流れが1つの大きな柱になっていくと考えています。4月までには出品数を5万点から10万点に増やして、市場を絞った本格的なプロモーションを始める予定です。

問 今後、大きな市場となりそうなのはどこの地域ですか。

須田 現段階ではアメリカとアジアの方が多いですが、それぞれ傾向が違います。アメリカでは新興のデザイナーブランドが売れていて、香港、台湾、シンガポールなどではヨーロッパの高級ブランドが人気です。共通項は単価が高いことで、登録したその日に50万円分の買い物をする人がザラにいます。

問 日本から海外に売れる商品は何ですか。

須田 海外との価格差もあって、日本のスニーカーなどは人気商品となっていますね。

問 外国語の出来る日本在住のパーソナルショッパーの人が買って、それを海外に売るのですか。

須田 元々狙っているのはそこですが、当社は自動翻訳モデルを確立し、韓国では既に運用しています。日本語のバイマサイトが韓国語に自動翻訳され、注文が入ると韓国の現地スタッフが翻訳して日本語のバイマでバイヤーに発注します。この仕組みは出来ていますから、次は英語や中国語で運用していきたいですね。

問 最終的には世界中どの国からでも、どんな言語でもバイマのサイトでC2Cで完結することを目指すのですね。

 グローバルバイマの一番の障壁は何でしょうか。

須田 国ごとのローカライズは大変だと思います。マーケティングや商習慣が全然違います。

問 専任スタッフで対応するのですか。

須田 全ては結局一緒です。問題を見つけて改善し、いかに速く回していけるか。それに特に長けたチームです。全部東京で運営すると決めたことで、色々課題はありますがクリアできると思っています。

問 どの国が飛躍的に伸びていく可能性がありますか。

須田 今、マーケティングの最中です。従来の傾向から見て一気に伸びることはありませんが、かなり積みあがっていくのは間違いないでしょう。それが色んな国で起こってくればどこかで大きな成長があるかもしれません。

 2月1日から新しい期が始まりましたが、今年は成果を出す年だと思っています。

問 最終的な目標は何ですか。

須田 グローバルバイマの規模が国内版を超えることです。

問 日本発の世界企業であるソニーような会社を目指すと言っていましたが、今は何合目ですか。

須田 まだまだ1%です。しかし、必ず達成します。時期は分からないですが、必ず頂上まで登りきります。

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