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【第21回企業家賞】ニチイ学館会長 寺田明彦

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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受賞者の喜びの声 人生100年時代 これからが第二の創業である

受賞者の喜びの声 人生100年時代 これからが第二の創業である

(企業家倶楽部2019年10月号掲載)

    

医療現場を苦しめていた明細書作成

 このたびは企業家特別賞という栄えある賞を受賞できましたことを大変嬉しく思います。

私たちは医療・介護・保育を軸としたサービスを提供しています。せっかくの機会ですので、ここでは私たちの創業の話をしたいと思います。私たちニチイ学館が創業するきっかけとなったのは、1961年に始まった医療保険制度です。この制度によって、保険証を持っていれば日本中どこでも、安心して診断・治療を受けることが可能となりました。

制度が認知され、医療機関を受診する患者さんが急増していた当時、私はお付き合いがあった病院を訪問しました。すると入り口に「本日と明日は休診します」と書かれた貼り紙がしてありました。そこで裏の勝手口から入り、様子をうかがうと、院内で医師、看護師、事務員の3人が、何やらせっせと書類を作成していたのです。よく見てみると「診療報酬請求明細書」を作っていました。

診療報酬請求明細書とは簡単に言いますと、医療機関が健康保険組合に医療費を請求するため、患者さんに対して行った処置や使用した薬剤等を記載した明細書のことです。

医療保険制度において、患者は全治療費の数割を負担して病院に支払います。医療機関が残りの医療費を請求するためには診療報酬請求明細書が必要で、一人ひとりの明細書を毎月作成しなければなりませんでした。当時の病院には平均で月に約400人ほどの患者さんがいたので、作成する明細書の量も膨大です。

明細書の作成には一定の専門知識を要するため、熟練の方でも1日5~6枚が限度でした。さらに明細書には提出期限があり、これに遅れるとお金が振り込まれるのが1カ月延びてしまいます。

しかし、病院では医療用品の補充や医療機器の利用など、毎月かなりの費用がかかるため、期限に遅れることは許されません。

したがって、日々の診療業務を行いながらでは診療報酬請求明細書の作成に集中することができない以上、病院は月に2~3日休診してまでも、この明細書を作成せざるを得ない状況にあったのです。
   
ニチイ学館は診療報酬請求から始まった

 こうした経緯で、私は診療報酬請求業務のお手伝いをすることになりました。手伝い始めて3カ月ほどで明細書作成の要領を把握すると、院長から診療報酬請求業務を一任されましたが、こうなると流石に一人では仕事をさばけませんので、私は友人や知人を連れてきて業務を行うことにしました。

ある時、病院の先生から「同窓生に寺田君の話をしたら、ぜひうちの分も作成してほしいと言われた。行ってきてくれないか」と頼まれ、別の病院の診療報酬請求業務も引き受けました。それがまた近所で評判を呼び、合計で5店くらいの業務を担当。最終的にはそれにとどまらず、東北から九州まで全国から仕事の依頼が舞い込むようになったのです。

診療報酬請求業務には全国的なニーズがあると気付いた私は会社を辞め、計画的に人材を育成して全国の仕事を引き受けることにしました。このようにして医療関連サービスからニチイ学館が誕生したのです。

日本全国からの業務依頼に対応し、事業を拡大していくには、各地域ごとに事業拠点を作らなくてはなりません。そのため創業から10年かけて全国に企業組織網を形成しました。これが今のニチイ学館の強みになっており、今後も大きな優位性を生んでいくことは間違いないでしょう。
   
企業組織網が介護事業も強くした

 このように医療事業からスタートした私たちですが、今回企業家特別賞で評価いただいた介護事業を始めたのは1997年でした。

2000年に介護保険制度が始まることが決まったため、確実に大勢の介護人材が必要になるだろうと予測し、制度施行の3年前から介護人材の育成を始めたわけです。東京を皮切りに、そこから順次47都道府県で研修会を開催して、制度開始前に10万人以上の介護人材を育成しました。

そして2000年4月1日の介護保障制度開始と同時に、47都道府県で一斉に介護サービスを展開。介護事業を全国規模に広げるのは非常に難しいのですが、すでに私たちが持っていた企業組織網が介護の全国展開、人材育成を可能にしたのです。
   
社会の転換期はチャンスだ

 現在、日本は本格的な人口減少の時代に入っています。現役世代がどんどん減っていく一方、高齢者は増えるばかりで、2040年には1.5人で一人の高齢者を支えなくてはなりません。介護業界においては人材不足が著しく、2025年には55万人が不足すると言われています。

そして、東京への一極集中が起きています。この傾向は若者だけではなく、高齢者にも当てはまります。ずっと地方に住んでいたものの、周りに人がいなくなり、身の心配から東京にいる息子を頼って上京する。このような高齢者が実際に多くいるのです。こうした流れは今後ますます加速するでしょう。

ただ私は、このような社会の転換期は、ビジネスにとって絶好の機会であると思っています。こうした状況だからこそ、私たちの強みである医療・介護・保育を軸に全国の企業組織網を強化・拡充し、各地域で雇用を創出して、未来を明るいものにしたい。人生100年時代、これからが第二の創業と捉え、より一層頑張っていきたいと思います。

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