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【新興市場の星たち】ALBERT 代表取締役社長 上村崇

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

世界中の人に最適な情報を

(企業家倶楽部2015年6月号掲載)

今や広告は不特定多数に発信するものではない。様々なデータを取得できる時代になり、マーケティングのあり方は変わってきている。こうした時代の先駆者として膨大なデータを駆使したコンサルティングを行うALBERTは2015年2月19日、東証マザーズに上場を果たした。同社社長の上村崇に今後の戦略を聞く。( 文中敬称略)

膨大な情報を駆使する

 ALBERTは分析力を武器にマーケティングを支援している会社だ。2010年頃から「ビッグデータ」が世間で取り沙汰されるようになったが、そうした言葉が広がる前から研究開発を行ってきた。

 最近、フェイスブックやツイッターなどに登録した情報や投稿内容に連動して広告が変化していることにお気付きだろうか。インターネットのバナー広告も、以前に検索した内容と関連したものが表示されることが多い。この仕組みをウェブサイトやダイレクトメール(DM)も含む新旧幅広い媒体で行い、マーケティングに利用しようというのがALBERTだ。

 デジタル化が進んだ現在、企業には顧客の年齢・性別から自社サイトのページビュー数、クリック率まで大量のデータが蓄積されているが、これを効率的に活用できている会社は少ない。そこでALBERTでは、まずクライアント企業がビッグデータを駆使してどのようなことがしたいのか、コンサルティングを行う。ただデータから顧客分布を見たいだけなのか、顧客に応じてマーケティングまで必要なのかといった具合だ。

 その後、収集した膨大なデータを分析し、各企業のニーズに沿った形でアウトプットする。例えば賃貸物件情報サイトを運営するCHINTAIは、価値観の多様化に悩まされていたが、ALBERTの分析サービスを導入したことでユーザーの趣向に合わせた物件を紹介可能になったという。

現在の広告に更なる付加価値を

 ALBERTの強みは高度な分析力と様々なチャネルへの展開だ。

 スーパーコンピューターを駆使して情報を解析処理しているイメージの強いビッグデータ領域だが、顧客に応じた分析を行えるよう最初にシステムを構築するのは人間である。日本には統計を学ぶ学部学科が無いため専門家が少ないが、ALBERTでは統計数理研究所や大手企業の研究機関にいた職員が多く在籍し、これを担っている。通常の企業にはこうした役割の人員を抱える余裕が無いため、その肩代わりを買って出ているのだ。

 また、同社は1つのチャネルにとどまらず、メールからDMに至るまで幅広いメディアを通じて広告を展開するため、ネットとリアルのかけ橋となりやすい。過去の反応やアンケート結果によって顧客に最適化したキャンペーン方法を提案するのだ。化粧品通販などを手掛けるドクターシーラボのように、ALBERTのサービスを導入し、ホームページに表示される画像自体を個人の特性に基づいて変更している企業もある。

 クライアントにとってターゲットとなる客は同一にも関わらず、これまではそこに至る発信方法が非効率だった。ALBERTのサービスを導入することで、各チャネル間で横軸の情報共有が可能になり、マーケティングの質を高めることができるのだ。

最適なタイミングで最適な人に

 顧客向けの情報はただ多ければ良いわけではない。内容はもちろん、宣伝媒体の種類や曜日、時間帯といったタイミングにも最適性が求められる。目的やターゲット層、事業内容によってどのような情報が適するかは異なる。今や広告は、一人一人に合わせる時代なのだ。

 例えば、日常的な買い物に使われるスーパーや衣料品店は来店頻度や顧客単価を上げることに重点を置く。そこで、ショッピングサイトを訪れた30代前半の女性には、3月になって居住地域の平均気温が上がることを予測すると同時に、春物のコートを提案するようにプログラムを組むといった具合だ。過去の履歴から、よく購入するブランドを察知するのは言うまでも無い。性別や年齢層だけではなく、その人の好みに合わせた商品が薦められるため、埋もれていた需要が表に出てくる。大きく取り上げていない商品の売上げを伸ばせる可能性も期待できる。

 一方、不動産や車など、購入の意思決定に時間がかかる買い物の場合、消費者はまずウェブサイトやテレビCMで商品を知り、次にメールやDMなどで補足情報を得て、最終的に店舗まで足を運ぶ。こうしたケースでは、ALBERTは顧客の家族構成や趣味に合わせて補足情報を提供できるようにシステムを作る。消費者の関心がどの段階かを認識し、この一連の流れを追いかけることが必要だ。高価な買い物に対して慎重なお客に向け、粘り強く情報を提供することで、クライアントの商品が選択されるように誘導する。

3000億円市場を掴む

 「2005年の創業時から現在の構想を考えていた」と語る上村。しかし、当時はデータ量が少なく、それを溜めておくインフラも高価だったため実現には至らなかった。そこでまずはデータ分析をしつつ、レコメンド検索の開発を行って話題になった。その後、技術が発達してクラウドコンピューティングが誕生したことで、データ量やその活用方法は加速度的に増加。ついに時代がALBERTの構想に追いついた。

 創業から9年を経た2015年2月19日、ALBERTは東証マザーズに上場を果たした。上村は「会社は公器」と語り、より一層社会的な価値の高いサービスを提供する覚悟を表した。

 矢野経済研究所によると2014年時点でビッグデータ解析の市場規模は1440億円を超え、5年後には3400億円に拡大するとされている。ALBERTはこの市場のシェア獲得を目指す。「一時の流行に左右されない、10年20年単位の普遍的な価値、サービスを意識する」

 スマートフォンの普及によって外出先でインターネットに接続する人は増加した。そして以前では想像もできなかったサービスが提供されている。

 今ではクーポンと言えばネットでダウンロードしたり、スマホの画面を提示したりするものが当たり前。現在取り入れられている最先端の広告は音声認識を利用したものだ。

 例えばラジオでスキーリフトの割引クーポンを配布するとき、人間には分からない程度に歪ませた電波をスマホが認識する。一方、スキー場でも微弱な電波を流しておき、この2つの電波を双方認識することによって始めて実際にクーポンが配信される仕組みだ。また、店舗内に電波を流し、一定の時間受信した客に対してクーポンを配信するといった事例もある。

 今後期待されるのは位置情報を利用し、「場所」を意識したマーケティングだ。2015年3月、ALBERTは250メートル四方で平均可処分所得や昼間人口、駅の乗降客数などのデータを地図上に表わす技術を持つマップソリューションに出資した。位置情報を利用する上で地域の特性情報は大きな武器になる。

 例えば金曜日の夜に必ず外食する人がいれば、その人が今いる場所から近いレストランを選んで薦める広告が、金曜日の夕食前に届くようなサービスも考えている。生活習慣、過去の来店データ、位置情報といった様々なデータを駆使したものだ。

 インターネットは世界に繋がっている。ヨーロッパを旅行しているときに現地のおすすめ情報が届く。そんな未来も近いかもしれない。

Profile 上村 崇(うえむら・たかし)

早稲田大学商学部卒業。在学中、インターネットリサーチを手掛ける株式会社インタースコープにて調査分析事業に携わる。その後、2003年4月アクセンチュア株式会入社。2004 年株式会社インタースコープに転じた後、2005年7月株式会社ALBERT を設立、代表取締役社長に就任。

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