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【新興市場の星たち】ユーザベース 代表取締役(共同経営者)新野良介 梅田優祐 取締役COO 稲垣裕介

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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経済情報分野のフロントランナー

経済情報分野のフロントランナー

(企業家倶楽部2017年1・2月合併号掲載)

(文中敬称略)

経済情報で、世界をかえる

 時と場所を選ばず、スマホで自分のビジネスに必要なニュースを効率よく受け取る。それが当たり前になったのは、つい近年の話だ。2013年にサービスを開始した「NewsPicks(ニューズピックス)」は日本生まれの経済ニュースプラットフォーム。ウォールストリートジャーナルやフォーブスなど、インターネット上に散らばっているニュースをワンストップで閲覧できるプラットフォームだ。

 運営するのは、東京・恵比寿に本社を置くユーザベースグループのニューズピックス。ユーザベースは08年に創業、16年10月には東証マザーズへ上場を果たした。同社の連結業績における売上げは2015年12月期で19億1500万円を達成。2016年12月期には連結で30億4500万円を見込む。

 ニューズピックスはモバイルに特化しており98%がモバイルユーザーというから驚きだ。経営者や著名人などピッカーと呼ばれるユーザーが、気になったニュースにコメントをつけたり、記事をシェアしたりすることができる。コメントは記事に対してのみ投稿できるが、ピッカー同士でお互いをフォローしあうことによりコミュニティを形成している。

 経済情報に特化し、さらにソーシャル機能が組み合わさっているという独自性が武器となって、会員は約175万人に迫る(2016年9月末時点)。その多くは無料会員だが、オリジナルコンテンツを読むことができ、記事だけではなくコメントまで検索可能となる有料会員(月額1500円)も順調に数を伸ばしている。

 IT技術の進化に伴い、プライベートでは海外にいる友人の行動を、SNSを通じて自然に知ることも容易くなった。「ビジネスでも同じように、関心のあるニュースや必要な情報が労せずして手に入る環境を作れるはず」。現在ユーザベースの共同代表を務める新野がそう確信したのは、投資銀行に勤めていた折、夜を徹して経済情報を集め、分析・加工していた経験からだ。その後、研修先で席が隣り合った梅田と意気投合すると、梅田の同級生であった稲垣も仲間に加え、三人でユーザベースを創業した。掲げたミッションは、「経済情報で、世界をかえる」。最初の1年はマンションの一室でひたすらシステムを作り、提携先と交渉してデータを入れ込む作業に追われた。

経済情報をワンストップで提供

 創業の翌年にはB2Bの経済情報プラットフォームである「SPEEDA(スピーダ)」を銀行や証券会社といったプロフェッショナル向けにリリース。直感的に使える分かりやすさがユーザーに受け入れられた。リリース当初は日本の上場企業4000社ほどの情報量だったが、現在は世界200カ国以上、380万以上の上場・未上場企業のデータ、550以上の業界レポートなどを格納している。

 提携企業からデータ提供を受けつつ、独自のオリジナルコンテンツも制作。ユーザベースの社内にリサーチャーやアナリストがおり、スピーダを導入すれば、企業情報から市場規模、国内の店舗数など、ローカルできめ細かな情報もワンストップで手に入る。

 銀行や証券会社などプロフェッショナル向けのサービスから開始したスピーダだが、事業会社が導入するケースも増えており、全体の4割に上る。導入企業が多様化したことで、顧客のニーズも幅広くなってきた。スピーダのデータと自社のデータを擦り合わせ、必要な部分だけ抽出するといった、初期分析の領域もスピーダが代替。人間は判断の領域に集中できる。もはや、現場の人間が必死に経済情報を集め、分析するために徹夜をする必要はない。一般的な事業会社であっても、スピーダを導入すれば、ビジネス情報の収集・分析の環境はプロフェッショナルと遜色が無くなるのだ。

グローバルにきめ細かく勝ち上がる

 日本事業の堅調な成長を背景に、ユーザベースは13年、ニューズピックスと同時にスピーダの海外進出を行った。現在ユーザベースの事業拠点は東京、シンガポール、香港、上海、スリランカの5カ所。世界を変えることがユーザベースのミッションである以上、事業展開の順番が重要だ。

 まずは圧倒的な使いやすさを武器に日本市場で独自のポジションを立し、アジアに展開。日本での実績を生かし、各国のニーズに対応することで、アジア市場での安定的なシェア拡大が視野に入ってきた。当初は日系企業から導入が進んだが、現在は市場での知名度が上がり、ウェブサイトを見てスピーダに興味を抱いた非日系企業の導入も加速している。

 海外に拠点を置くメリットは二つ。代理店を置かずに直接販売できることと、現地でなければ不可能なリサーチを独自に行えることだ。顧客に代わり、グローバルでのリサーチ体制を整えている。「今後は欧米、特に問い合わせ件数が多く関心の高いアメリカでの展開を準備している」と新野は語る。

世の中の解決されていないものはなにか

 B2B事業の確固たる収益体制を土台とし、そこにB2C事業の持つ潜在的な爆発力を掛け合わせることで、安定した経営基盤を実現。戦略的かつ着実に行われているユーザベースの事業展開だが、新野は「結果的にこうなっただけ」と笑う。戦略ありきではなく、「今世の中で解決されていないことは何か」「どうしたら解決できるのか」という視点を決して失わない。協業できる既存のサービスがあれば組み合わせ、それが無ければ自前で作る。「掲げているミッションを愚直に遂行しているだけ」というわけだ。

 一般的にマネタイズが難しいと言われているニュースサイトだが、「広告主体のビジネスモデルは難しい」と新野は見ている。ニューズピックスの有料会員は月額1500円だが、その金額に見合う価値をユーザーに提供することに務めている。「今後は、スタンダードとなりつつあるB2BのスピーダとB2Cのニューズピックスを連環させ、新しいシナジーを創出していく」と説く新野。ニューズピックスとスピーダのアカウントを連携させ、法人向けのニューズピックスのリリースも2017年に開始する。

 マンションの一室から始まったユーザベースも今や社員数178名。オフィスビルのワンフロアにガラス張りのオープンな雰囲気のオフィスを構える。服装自由、勤務形態自由という社風が注目されているが、「自由でなければ創造性は発揮されない」という考え方からだ。

 ただ自由なだけではなく、7つのルール「1.自由主義で行こう 2.創造性がなければ意味がない 3.ユーザーの理想から始める 4.スピードで驚かす 5.迷ったら挑戦する道を選ぶ 6.渦中の友を助ける 7.異能は才能」を企業理念として掲げ、採用の際もこの価値観を共有できるかどうかに重きを置く。今は、上場したからこそ可能となったチャレンジを仕込んでいる最中だ。

 5年後、10年後のビジネスマンは、現在とは違う形でビジネス情報を収集しているかもしれない。ビジネス情報を扱う分野でフロントランナーであり続けること。新しい価値を創造し続けていること。「経済情報で、世界をかえる」というミッションに忠実であり続けること。ユーザベースの進む道にブレはない。

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