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【トップの発信力 佐藤綾子のパフォーマンス心理学】vol.1

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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ここが大違い! オバマ大統領と菅総理 巻き込み話法のwe

ここが大違い! オバマ大統領と菅総理 巻き込み話法のwe

(企業家倶楽部2010年12月号掲載)

 トップがなにかをやろうとするときに、「私はこうする。君たちもついてきなさい」という言い方も、社長のアジェンダ伝達のスタイルとしては、ひとまずアリでしょう。この場合の文章の主語は、「私(I)」です。

 でも、これとまったく違う話法を使う演説の名手が、彗星のようにアメリカ政界に登場しました。2004年、民主党党大会の基調講演のバラク・オバマ氏です。私たちの希望、変化を謳った「Yes,we can.」は、世界中の合言葉になりました。そのときに使った「私たちは○○をしていこう」という言い方、つまり、主語を「we」にもってくる表現スタイルを、私は「巻き込み話法のwe」と名づけています。

「みんなでやろう。その“みんな”のうちの一人が自分であり国民だ」という主語の使い方。この表現方法は聴いている人に「自分が主人公」だと感じさせます。心理学的には、各人が皆持っている「主人公欲求」を満たして、「自分が行為の主体者だ!」というやる気と責任感を生むのです。

 08年、あの厳しい批評眼をもった元米国務長官コリン・パウエル氏が、「私は確信した。彼はとてつもなく素晴らしい大統領になる」とテレビで明言し、「He has both style and substance」と、テレビのインタビューで答えたことが象徴的です。オバマ氏は、substance(内容)の素晴らしさと同時に、sty le(表現の方法)がわかっているのです。

 次の表を見てください。これは09年1月20日、19分22秒の大統領就任演説における「巻き込み話法のwe」の使用の例です。右はその3ヶ月前に、日本の首相に就任した麻生氏の例。私の0.1秒単位の「ASコーディングシート」による分析です。 

これで違いは一目瞭然。片方は「私たちが」と非常に民主的であり、片や「俺が、俺が」の亭主関白スタイルです。

 では、菅直人首相はどうか。これがとんでもないことです。「私は○○します」ではじまり、最後に「皆さん」と取ってつけるのですが、この「皆さん」という言葉はそれが主語になっているのではなく、あくまでも「自分が○○する。おまえら聞いておけ」と、そこで声のトーンを上げて、最後につけ足しただけの「皆さん」なのです。

 さらに困ったことに菅氏は、この「皆さん」の発声と同時に、マイクを持っていないほうの手をガンッと上から振り下ろします。「ナタギリ」です。聴いている人は皆、鉈で切られたように、押しつけがましさと圧迫感や命令感を感じます。これはたいへん損な話法です。

 一方、ワタミの渡邊美樹会長の「世界中で一番たくさんの『ありがとう』を集める企業になろう」などは、主語はやはり「私たち」なのです。すばらしいことです。経営者の皆さんも、部下に話すときは、「巻き込み話法のwe」をじょうずに使ってみませんか?

 失礼いたしました。こんなことを申す私が何者かを書き忘れておりました。

 1979年、世界で初めてニューヨーク大学大学院にパフォーマンス研究学科が開設。その第一期卒業生で、日本のパフォーマンス学の創設者が私です。
 
 さあ、皆さまとすてきな連載をはじめましょう。


Profile 佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院)卒。連載月刊誌8 誌、著書159冊。18年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座R」主宰(体験随時)。

連絡先:information@spis.co.jp

詳細:http://spis.co.jp/seminar/

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