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【トップの発信力】vol.4 佐藤綾子のパフォーマンス心理学 

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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“トップの決断力”の伝え方

“トップの決断力”の伝え方

(企業家倶楽部2011年6月号掲載)

 3月11日、東北・関東エリアで大震災が起こり、国や地方自治体のトップは速やかな決断を迫られました。大惨事を前にして、「多数決で決めよう」とか、全員のコンセンサスを得るなどは無駄なことです。

 バラク・オバマ大統領について、あの名高い名相コリン・パウエル氏が言ったように、トップは常に素早く決断し、それを伝えるには、「『Style &Substance』=適切に表現する“形”と“内容”がある」ことが条件です。

 大震災の場合、どんな被害が起きているのか、どんな手が打てるのかという具体的な事柄が、この「内容(Substance)」に当たります。ここでは、日頃の情報収集力が試されます。自分に正確な情報が早く集まってくるよう常にネットワークをつくっておくことが大事です。

 そして「形(Style)」は、とにかく「決断力があるぞ!」という表現を国民や町民、村民に届けなければ、誰一人安心することはできないでしょう。

 まず、相手がトップの話を聞いたときに、パッと見て顔の表情にしっかりとパワーがあること。このとき、もっとも大切な顔の部位は「目」です。強くて長いアイコンタクトが保たれ、まばたきが少ないことが条件になります。日本人の対話中のアイコンタクトの平均的秒数は、私の実験室データで1分間あたり32秒です。

 例えばマーガレット・サッチャー元首相が、フォークランド紛争に軍隊を派遣することを決断したときのテレビ放映を観ると、見つめっぱなしで100%に近いアイコンタクトで国民に呼びかけていました。

 このような強いアイコンタクトは、具体的には見つめている「長さ」「方向性」、目の上の筋肉(上眼瞼挙筋)の「張り」を示します。これが強くないと「本気でやっている」「自信がある」というメッセージが、相手に伝わらないのです。

 さらに、声も大切です。ボソボソと「この度は、ある一定の範囲で安全です」などと言われても、それを聞いた国民はさっぱり理解できません。具体的な「固有名詞」と「数字」を正確に入れて、言葉と言葉の間のポーズ(間)をあけ過ぎないようにしましょう。

 私たち日本人の平均的な話す速度は、1分間あたり266文字です。これは、適度に漢字が混じった文字数です。これがふつうに話しているときのスピードです。ゆっくり話しすぎたり、ひとつの文章を言ったあとに長いポーズをあけると、「実は話す内容について、不確かなのではないか?」と聞いている人は思ってしまいます。

 また、尻切れトンボのように、文末が消え入ったまま終わる声の出し方も駄目です。はっきりと「フォーリング・イントネーション(下降調)」の声の出し方で区切りを示しましょう。文章の中間では声を盛り上げ、大切なところで大きな声を出し、最後はきちんと音のレベルを下げて言い終わる。もちろん、言い終わったときには口をしっかりと閉じ、両目でハッシと皆を見つめる。このような目と声の工夫によってはじめて、“トップの決断力”が相手に伝わっていきます。

 見つめる。まばたきをしない。声にメリハリをつけ、最後はきちんと音を落として締める。無駄なポーズをあけない。“トップの決断力”の伝え方には、コツがあるのです。

Profile

佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。連載月刊誌8誌、著書161冊。18年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰(体験随時)。

連絡先:information@spis.co.jp

詳細:http://spis.co.jp/seminar/

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