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【元気な会社の人づくり】ユニクロ

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

日本のコンテンツを世界に発信したい

日本のコンテンツを世界に発信したい

感想を語る人事担当の小山紀昭氏

(企業家倶楽部2016年6月号掲載)

ユニクロを展開するファーストリテイリング(以下FR)は、2016年2月、学生を対象に「グローバルスタディプログラム」(海外 5 都市におけるインターンシップ)を実施した。2400人の応募の中から73名を選抜、一週間、海外のユニクロに派遣した。そこには柳井正社長が掲げる2020年売上高5兆円、グローバルワンに向けて、待ったなしのヒトづくりに挑む、ユニクロの本気度が見えた。

 それは濃密でワクワクする2時間だった。

 2016年月17日午後2時、東京・六本木のミッドタウン・タワー4 階の会議室には約70人の大学生が集まってた。どの顔も何かを成し遂げたかのように自信に満ち、輝いていた。

 2時30分、「これよりファーストリテイリンググローバルスタディプログラムの最終発表会を開催します」。司会のことばに会場は静まりかえる。

 2016年2月に、世界5都市(上海、台北、シンガポール、メルボルン、ロンドン)で開催した、インターンシップの成果・提言の最終プレゼンテーションが始まるのだ。この日は研修に参加した70人が集まっていた。

 会場には人事担当のグループ上席執行役員小山紀昭氏ほか、蒼蒼たる執行役員、担当者が同席したことからも、このプロジェクトに多大なる力が入っていることが伺われる。

 この海外インターンは、その渡航費用と宿泊費用は会社持ちだ。しかしあくまでインターンシップ、これに参加したからといってFRに入社の義務はない。2015年12月に募集を開始したところ、名だたる有名大学はじめ、多くの大学から2400人の応募があったという。この中から選抜に勝ち抜いて73人が選ばれた。

プレゼンする学生たち

10年後の成長戦略を提言

 彼らに与えられた課題は「ファーストリテイリングの成長戦略を実体験をもとに立案する」というもの。実際には各国の10年後の理想の姿をイメージし、それに対するFRの現状の課題を講じるというものだ。この課題に従い、体験、研修した内容をプレゼンシートにまとめ、発表するのだ。

 まず最初に登壇したのは台湾チームである。

 台湾の人々の幸せのために「チームユニクロ」をつくり、ユニクロ社員と顧客が強いパートナーとして一体となって、台湾をよりよくしていくという提案が出された。そして家族の繋がりが強く、赤ちゃんを大切にする文化から、病院と提携し赤ちゃんにユニクロの服を提供、家族をユニクロ会員に導くという。台湾の2300万人に届くブランドとなり、台湾のFRが世界のロールモデルになるべきと力強く結んだ。

 プレゼンが終了すると、同席していた役員から鋭い質問が飛ぶ。これを考えた根拠はどこにあるのか。もっと具体的に示して欲しい・・・。それに学生側も真摯に答える。

 次は上海チームである。中国の大気汚染や公害の深刻化を背景に、国民の健康意識が高まっていることから、ウェアラブルスーツの開発が提案された。しかもそれはただのスーツではない。IoTを活用、健康管理ができ、しかも着るだけで周りの空気を清浄化するという夢のようなスーツである。

 そしてシンガポールチーム。一年中が夏というシンガポールでは、オシャレはしたいが暑くてできないという現実がある。その現実を逆手に取り、夏のトレンドをシンガポールから発信するという提案が出された。エアリズムを着た方が涼しいという生活習慣を植え付けること。そして10年後は「冬のトレンドはパリから、夏のトレンドはアセアンから」というファッション業界の常識を創りたいという提案がなされた。

 この提案には担当役員から「ユニクロは世界のブランド、これをやりたかった」との感想が語られた。

 オーストラリアチームからは、2014年に進出しまだ3店舗しかないことを背景に、顧客接点を増やすために、大手スーパーでユニクロの商品を販売してはどうかという提案が出された。ユニクロの商品自体を広告と考え、広く知ってもらうための策という。

 これには担当役員からは「ブランドが崩れてしまうという懸念もあり、大変悩ましい」との感想がでた。

 最後はロンドンチームである。2001年に進出したロンドンは海外進出15年にも関わらず、あまり浸透していないという気づきが率直に語られた。そしてライフウェアとしての価値も伝わっていないと。そこで提案されたのが、店舗とECを合体したワクワクする場所としての「ユニビル」の建設である。ここではUNISCHEというアプリを導入、決済だけでなくさまざまな情報を提供、ファンづくりをするという提案である。

 役員からは「いいアイデア、どう顧客を獲得するのか具体的に考えて欲しい」との要望が出された。

 学生たちはそれぞれの国、街がかかえる問題を鑑み、今後のユニクロがどうあるべきか。具体的に提案。そのどれもが、彼らが一週間、現地で真剣に向き合い、体験、考えて、議論しまとめ上げた貴重な内容だ。そこには今のユニクロが抱える課題も浮き彫りにされていた。

世界で戦える若者を育成

 今回の海外インターンについては「内定したわけでもない学生を、73人も海外派遣するとはなんと大盤振る舞いなことか」と当初は思った。しかしこの日の学生たちの発表に立ち合い、その考えが間違いであることに気が付いた。

 FRに入らなくても良い。フリーの立場から考えて、提案して欲しい。フリーの立場だからこそ、それぞれの都市のユニクロが抱える課題を、素直にあぶりだし、発言することができるのだ。これが社員ならそうはいくまい。ユニクロのお客の対象である若者たちの率直な視点、素直な感想を得るには、社員でない方が良いのではないか。

 ある役員からは「すぐに使えるものはないが、参考になるアイデアがあった」とのコメントが語られた。すぐ使えるものがなくて当たり前だ。10年後を問うているのだから。日々、戦いの実践の場にいる担当者の目からみれば、もの足りない内容もあったろう。

 しかしそれでいいのである。この73人の内、どれだけの学生がFRに入社してくれるのかは未知数だ。しかしユニクロと関わり、濃密な一週間を体験した記憶は残る。ユニクロのエースたちが、海外でいかにして課題と向き合いながら、戦い、頑張っているか、その姿を間近に見ただけで、彼らには得るものが大きかったはずだ。そしてこの若者たちの真剣な眼差しが、現地で働く社員たちにも大いに刺激になったことだろう。

 実に濃密でワクワクする2時間であった。この貴重な場に柳井社長が同席しなかったことが残念であった。今回の海外インターンの費用は、数千万円はかかったであろう、しかし、その価値は計り知れない。

 ある学生は大学のゼミでこう報告したという。

「これまでの3年間の授業よりもこの一週間の体験が大変勉強になった」と。

 これこそがまさに生きた学習だ。たとえ入社しなくとも、この体験は彼らの人生の大きな力となったはずだ。世界と真剣勝負するユニクロの現場を直に経験したことは、何にも代えがたい貴重な財産となったに違いない。そんな機会を与えたFRの今回の試みは大変意義深い。

 柳井社長は、以前、今の日本の若者が小さくまとまってしまっていることを懸念していた。このままでは世界に負けてしまう。それを自ら自覚、世界に飛び出してチャレンジして欲しいと。

 FRにとって、H&MやZARAを率いるインディテックスを抜いて、世界一のアパレル企業を目指していくには、グローバルに活躍する人材育成が不可欠だ。実際、2015年11月には、ユニクロの海外店舗数が国内を上回り、今後海外での出店が加速されることになる。そのためにもなんとしても、グローバルリーダーの育成が急務となる。その本気度を示す意味でも、採用担当の中西一統氏が提案した今回の海外インターンは待ったなしの企画であったろう。

「FRが日本発の真のグローバル企業であるという我々の姿勢を、感じ取ってもらえたのではないか。来年もぜひ実施したい」と力を込める小山氏。世界に伍して戦える日本の若者を育成するためにも、ぜひ毎年続けて欲しいものだ。

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