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【出でよ!ガレージベンチャー】プラスメディ代表取締役社長兼CEO 永田幹広

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

メディカルプラットフォーマーとして医療業界に革新を起こす

メディカルプラットフォーマーとして医療業界に革新を起こす

(企業家倶楽部2018年12月号掲載)

通院の拘束時間を軽減させる夢のアプリ

 病院の待ち時間は長い。午前中に予約を取って来院するも、なかなか順番が来ない。あとどれくらいで呼ばれるかも分からず、しぶしぶ読書でもしながら時間をつぶす。ようやく順番が来たのは2時間後。診察は10分ほどで終わるが、会計や薬を受け取るまでまた1時間以上も待たされる。すべて終わる頃には日が暮れ、体調が悪くて病院に行ったはずが、すっかり体力を消耗して帰宅する。

 この問題を解決するのが、今冬に東京都済生会中央病院(所在地:東京都港区)でテスト導入が始まる、プラスメディが開発したスマートフォン用アプリ「My Hosp ital」。このアプリで解消できることは三つある。

 まず、診察に呼ばれるまで、診察室の前でじっと待つ必要がなくなる。来院して受付を済ませたら、アプリを通して現在の呼び出し番号が通知されるので、順番が来るまで病院近くの喫茶店でゆったりとコーヒーを飲むなど、時間を有効活用することができる。医師によって患者一人にかける診察時間が異なるため、「あと○分」といった厳密な時間まで表示することはできないが、ある程度の目安が分かるので、終わりの見えないストレスからは解放される。

 次に、診察後、会計するまでの待ち時間がなくなる。事前にクレジットカード情報を登録しておけば、診察後は会計を待つことなく、すぐに帰宅することが可能になる。その際、システム利用料としておよそペットボトル1本分かかるが、その金額で数十分~1時間近い時間を有効に使えるようになると考えれば、安いものではないだろうか。

 三点目は、薬を受け取るまでの待ち時間がなくなる。診察が終わるとアプリ上で電子処方箋が発行される。この電子処方箋は、画面上のボタン一つで登録してある薬局にFAX送信される。会社近くや自宅近くの薬局を選択すれば、病院から移動している間に薬が用意されるので、効率よく薬を受け取れる。現在登録されている薬局は5万4000軒以上(2018年10月現在)。現在地から検索もできるし、過去に利用した薬局を選択することもできる。

 ちなみに、薬事法では紙の処方箋と薬の引き換えが絶対なので、病院でもらう紙の処方箋は必ず持っていく必要がある。また、一度送信した電子処方箋は使用済みとして処理されるため、不正利用もできない仕組みになっている。

 アプリの登録は簡単で、スマートフォンのアプリ「My Hosp ital」を公式ストアからダウンロード。待ち時間に名前、住所、診察券番号、保険証番号と、オンライン決済を希望する場合はクレジットカード番号を入力しておけば、登録したその日から利用ができる。

「アプリ内の文字は大きくし、あえてデザインをシンプルにすることで年配の方でも直感的に操作できるようにしました」とプラスメディ社長の永田幹広は語る。

用紙などのコスト削減にもつながる

 どの業界でも、これまでと違うやり方を導入するにあたっては、初めはなかなか賛同を得られないもの。永田も、病院側からの理解を得ることに苦労した。しかし「My Hosp ital」を導入することは、患者だけではなく、病院側にとってもメリットが非常に多い。

 規模の大きい病院では患者満足度調査が行われるが、やはりクレームの上位は待ち時間の長さ。アプリを使って待ち時間を解消できれば、患者満足度が向上するうえ、医師もクレーム対応に精神を削られることなく診察に集中できる。

 そしてもう一つの大きなメリットとして「ペーパーレス化」が挙げられる。近年、病院では紙の無駄をなくす動きがある。例えば、受付の際に発行される番号札や、患者が書く問診票は、すぐに捨てられてしまう紙の代表格だ。アプリで事前に身長、体重といった基本情報から熱などの病状も登録すれば、用紙はいらないし、病院のスタッフがパソコンに打ち込まなくて済む。さらには診察券もデジタル化されるので、複数の診察券カードを持ち歩く手間も無くなり紛失などのトラブルも解消される。

異業種出身だからこそ一石を投じられた

 これまでソフトバンクやNHN Japan(現LINE株式会社)で新規事業企画開発などをしていた永田が、医療業界に飛び込んだのは、自身の通院の経験からだった。

 冒頭の記述のように、通院の拘束時間が長過ぎると感じた永田。それだけではなく、診察の際、医師の言うことをただ「分かりました」と聞いていることに気がついた。自分の身体がどういう状態か分からず、処方されるがまま薬を飲み、一方的にあれはダメ、これもダメと制限される。「例えば、定期検診のデータや風邪を引いた時のデータを自分で管理できれば、自分の体調が普段から分かるようになります」と永田は言う。

 病気になって初めて自分の身体を考えるのではなく、普段から健康状態を知る。そうなれば、医師の説明に疑問を持った時も「普段の数値が〇〇でこういう状態だから、今回の結果も別の角度から考えられませんか」などと、医師とコミュニケーションをとれるようになるのだ。また、「My Hosp ital」では患者自身が病歴や電子カルテを管理できるので、セカンドオピニオンも気軽に受けられる。

メディカルプラットフォーマーを目指す

 自分の身体を知ることは、「予防医学」にもつながる。永田はさらに先の未来を見据えている。

「My Hosp ital」内で管理している薬歴や病歴などのデータを収集する。例えば、血液検査の結果や病歴を結びつけ、「この数値が高い人はこのような食事をとるべき」や「ある病気にかかる因子を持っているから、この保険に入った方がよい」など、よりマッチング精度の高い提案型サービスとして、B2Cのビジネスへの展開を見込んでいる。

「予防医学」というと、もしかしたら医療業界からは疎まれるかもしれない。しかし、患者が求めるサービスを提供し続けることで、やがてそれが当たり前になり、その当たり前を作ったものこそがプラットフォーマーになる。プラスメディが目指すのはここである。

 永田は「日本電気株式会社(本社:東京都港区)をはじめとする電子カルテメーカーなどの企業と連携し、基盤が固まりました。今後は異業種の人にも知っていただき、様々なサービスをユーザーに提供し、『医療』をより身近な存在にしたいと考えています」と、展望を語ってくれた。

 近い将来、医療分野のプラットフォームから想像もつかない企業同士の連携や新しいサービスが生まれるかもしれない。

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