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【編集長インタビュー】ティーケーピー 代表取締役社長 河野貴輝

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

逆張りの発想で機を見て攻める

TKPの貸会議室を知らずとも、オフィス街の所々でTKPの看板を見かけたことがある人は多いだろう。貸会議室事業を軸に据え、逆張りでビジネスを展開してきた河野に、国内事業をはじめ、インバウンド・アウトバウンドを共に見据えたビジネスの展望を語ってもらった。
(聞き手は本誌編集長 徳永健一)

困ったところにチャンスあり

問 2017年3月、東証マザーズ上場時の時価総額が700億円。1年余りでその額が倍になっていますが、どう捉えていますか。

河野 想定内です。時間を買うべく資金調達のために上場したわけですから、評価していただいていることで、私が資本市場に望んでいたことを達成するための第一歩になっていると思います。

問 貸会議室のビジネスモデルを立ち上げた理由を教えてください。

河野 会議室を作りたくて作ったというよりも、空いているスペースがあったので、それを会議室にしたのが始まりです。そして、レンタルオフィスなど他の業態も含めた試行錯誤を繰り返しながら、最終的に貸会議室事業に行き着きました。

問 これで勝負しようと思っていたわけではなかったのですね。

河野 お金が無かったので、勝負しようとは考えていませんでした。ただ、困っているところには必ずチャンスが転がっているものですから、空きビルや、取り壊しの決まっているビルを上手く活用すれば、ビジネスになるのではないかという単純な発想ですね。

 周囲からは「ビジネスの成功には3本柱を立てなければいけない」とのアドバイスを受けていたので、貸会議室以外のビジネスも展開できないかと開業当初は模索していましたが、結局は貸会議室しか上手くいかない。だから、「きっとこれが天職なのだろう」と割り切って、他の2つの事業はきっぱり止め、貸会議室をトコトン伸ばしていくことにしました。

 TKPは、成熟し切った斜陽産業に出て行き、その中で潜在顧客を掘り起こすビジネスモデルを得意としています。レッドオーシャンをブルーオーシャンに変える、逆張りの発想です。

問 逆張りの強さに気付いたきっかけは何でしょうか。

河野 最初の就職先では順張り(正攻法)でのビジネスが多くありましたが、利益があまりでない反面、失敗すると一度で損をしてしまいます。しかし、逆張りは皆が価値を気付いていない部分を取りに行けるので、勝率が高いと思っていました。ただ、普通の会社では期間収益を気にしなければなりませんから、なかなか逆張りでは持ちこたえられないのも事実です。

問 リスクについてはどう捉えていますか。

河野 リスクは最小限に抑えねばなりません。しかし、リスクを取らなければリターンはありませんので、リスクテイクする。私はリスク愛好家ですから(笑)。その際に大事なのは、致命傷を負わない、倒産しないということです。経常利益の範囲内でリスクを取っていれば、例え失敗してもそれはある意味でリスクではない。だから、利益が小さい段階ではリスクは少ししか取れませんが、利益が大きくなるとリスクも大きく取れるのです。

ビジョンの前に夢がある

問 エイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長が過去に社外取締役をされていますね。

河野 12年から15年までの約3年間です。懇願して就任していただきました。澤田会長は夢追い人で、描いた事業には全てストーリーが出来上がっており、成功することになっています(笑)。いつも「ハワイに行きたい人だけがハワイに行ける」とおっしゃっていますが、その通りです。ビジョンの前に夢があり、パッションが大事。私も同じで、自分でも心配になるくらい、ついリスクを取ってしまう。大塚家具にも出資しています。

問 なぜ出資されたのですか。

河野 初めて買った家具が大塚家具の商品だったからです。ブランドがありますよね。

 私たちはこれまで、大手の学習塾や予備校をTKPの貸会議室に変えてきました。次はどこを取りに行くかと考えた時、アマゾンエフェクトも取り沙汰されているように、家電量販店や百貨店に目を付けた。実際に広島の百貨店をTKPにしたところ、上手くいっており手応えがありました。

 大塚家具は新宿の三越百貨店があった場所に出店していますが、大きなショールームを減らしていきたいという意向がありましたので、そのスペースをTKPのイベントホールに変え、土日は催事場に転換。同じスペースながら、時間によって用途を変えるという発想がこの時に生まれました。

 また、新築のビルは大体複合用途に使えるように建築されており、オフィスにも店舗にも飲食店にも出来ます。しかし、日本の古いビルは用途が分かれていて、これを変更するのは至難の業。取り壊して新築を建てた方がよほど良いのですが、私はそのタブーに挑戦し、商業ビルをオフィスにも使えないかと模索しています。アメリカやヨーロッパには、ビルを取り壊して建て直すなどという発想はまずありません。日本は地震大国ですが、耐震がしっかりしていて潰れるビルなど無いわけですから、良いビルは上手く残して、再生していくことに社会的意義があると思っています。

東京五輪後も人は来る

問 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでは景気が良いものの、その後は盛り下がると言われています。

河野 それでも、人が来るためのインフラが構築されるというのは大きなことです。数年前に中国から大量に人が来て以来、街は随分と変わりましたよね。今は東海道新幹線のこだま号に乗っても外国人だらけです。

問 フランスのように、年間7000万人が訪れる観光立国となるのでしょうか。

河野 そう思います。ポイントは空港です。日本には基本的に飛行機でなければ来られませんから、飛行機の数で需給が見えます。一度態勢さえ整えば、観光客数は安定するのではないですか。ヨーロッパ諸国は車で越境してくるのであまり参考になりませんが、日本はいかに滑走路を多く作って、24時間運営の空港にするかで受け入れられる訪問客のキャパシティが決まります。

 世界中のフライトレーダーをオンタイムで見ていると、一目瞭然。アメリカ大陸には飛行機がずっと数珠繋ぎで飛んでいる。日本とアメリカを同じ縮尺で見た時、人口は3倍しか違わないのに、飛行機の数が何十倍も違うのです。人口だけ見れば、アジアだってアメリカ大陸やヨーロッパのようになってもおかしくありません。ビザなどの規制が撤廃され、アジアの経済が更に興隆すれば、日本は要となるはずです。いずれ、東京や香港、シンガポールがアメリカのニューヨークやロサンゼルスのような位置付けとなるのであれば、当然飛行機の便数は増えるでしょう。

 そうなると、東京オリンピック・パラリンピックが終わったからと言って景気が落ち込むとは考えにくい。むしろ労働力が足りなくなって、外国人労働者をどうするかという問題を、今以上に真剣に考えなければならなくなるでしょう。現在は、時代が変わっていく過渡期だと思います。

情報はいかに感じるか

問 情報の仕入れはどうされていますか。

河野 情報は「どう感じるか」だと思います。私は、人からもらう情報には限界があると思っていて、正しいこともあれば、間違っていること、嵌められることすらある。人から聞いた情報を元に動くと、失敗することが多いので、あまり情報には振り回されないように心掛けています。

 M&Aの情報などは専門部署がしっかり取ってきてくれますが、基本的には情報が自然と集まってくるようにならないと意味がありませんから、むしろ自分からわざわざ取りには行きません。それより海外でも国内でも、あまり同じ所には留まらないようにするというのが私のポリシーです。そうしていると、情報に敏感であれば勝手に感じるのです。いかに感じるかが私の情報と言えます。

 不要なしがらみに捉われないよう起業した面もあるので、人付き合いも、とにかく一歩引くようにしています。あまりに親しい友人同士になってしまうと、断れなくなりますからね。

問 著書でも「広く浅く」と書かれていましたね。

河野 必要な時に深く行けるようにキーマンを押さえておく。必要な時に必要な情報をいただければ良いのです。ただし、その時は私も差し上げる情報が無いとギブアンドテイクになりませんから、もちろん自己研鑽に努めて情報を出せる人間にならないと、情報は入ってきません。

問 勝負師的な性格は子どもの頃からですか。

河野 昔から動くものが好きで、だからこそ株の売買なども好きなんですよね。決して勝負師というわけではなく、身体中に血液がみなぎってワクワクするのです。

不動産価格の下がる成熟国が狙い目

問 TKPはインバウンドを取り込んでいかれるのでしょうか。

河野 リゾートチームやインバウンドチームはありますが、まだ道半ばです。大きな流れとしては、TKPはB2Bという切り口がありますので、日本から海外に打って出る企業や、海外から日本に入ってくる企業に対してどのようにサポートできるかというのがポイントになると思います。

 コワーキングスペースには海外企業も沢山入ってきていますし、会議室も含めてワールドワイドで運営していくようになるでしょう。だからこそ、TKPのアジアやニューヨークにおける会議室が成功していくと、ネットワークが自ずと広がり、様々な企業の方々が私たちの会議室を使えるようになります。

問 海外の方も日本の会議室が使えるようになると、現在の顧客の海外取引先からの受注も受けられるようになるということですね。

河野 アメリカでは、ニュージャージー州でクラウンプラザホテルの宴会場、ニューヨークでタイムズスクエのど真ん中にあるカンファレンスセンターを手掛けており、黒字化が見えてきましたので、東京よりも大きなマーケットでも通用すると実証できました。

 アジアは香港、シンガポール、マレーシア、ミャンマー、台湾で展開していますが、シンガポールは500万人、香港は600万人しか人口がいません。これは日本の地方都市と同じくらい。だから、アジアは日本の地方都市だと思えば良いとの考えに至りました。ただし、飛行機でしか来られませんから、宿泊施設が無ければ話にならない。東京は会議室単体で良いですが、札幌では宿泊研修用にアパホテルと会議室をセットにして売上高を上げているのと同様です。アジアは日本の経済圏ですので、宿泊とセットにして手掛けて行こうと思います。

問 今後の海外での展開はどう考えていますか。

河野 将来的に国内とアジアが同じくらいの規模になれば、ネットワーク効果を出せます。ホテルでもヒルトンなどの外資系ホテルは外国人比率が上がります。宿泊客としては安心感が違いますからね。ヒルトンから申し込めば、レイトチェックアウトやアップデートなどの特典もあります。

 日本では従来型のホテルとビジネスホテルが価格面で比較されるようになっていますが、外国人を相手にすればアメリカの水準に価格を引き上げることができる。ネットワークを作ってブランド力を作ると、また違う価値が生まれてきますから、第1にアジアを一つのネットワークに取り込むことを考えています。そして第2にコワーキングスペースやレンタルオフィスで先行している会社と同じビルなどに相乗りすることで、彼らのネットワークも使えるようにしたいですね。

問 特に進出したい国はありますか。

河野 ヨーロッパ諸国です。アメリカは百貨店がどんどん小さくなって、ショールーム化しています。世界的にその動きは出てきているはずですから、特に商業施設に関しては狙い目があるのではないかと思っています。

 アジアについては、香港は本国からの圧力で、そろそろ不動産価格に影響が及ぶかもしれません。政治的リスクが少し恐いですが、香港やシンガポールは狙い目でしょう。マレーシアやバンコク、ジャカルタに資本を入れると面白いですが、まだマーケットが弱いので、投資回収には時間がかかり、すぐに収益には貢献しないでしょう。

 上海では一度事業を展開しようとしましたが、失敗して撤退しました。バブルで不動産価格がどんどん上がり、賃貸料金もうなぎ上りに。こういう場所では、不動産は所有していないといけない。バブルが起きている所は、本来「持たざる経営」をやってはいけない地域なのです。

 逆張りのビジネスモデルは、沢山空きビルが出来つつある成熟国で、活用されていないスペースを安く借りるのがポイントです。しかし、世界中を探してもそのビジネスモデルができる国はほとんどない。不動産価格が下がる段階こそ私の出番なので、チャンスを逃さないためにも、いつでも機動的に動けるよう準備しておくというのが今の戦略です。

p r o f i l e

河野貴輝(かわの・たかてる)

1972年、大分県生まれ。96年慶應義塾大学商学部卒業後、 伊藤忠商事株式会社為替証券部を経て、日本オンライン証券株式会社(現カブドットコム証券株式会社)設立に参画、イーバンク銀行株式会社(現楽天銀行株式会社)執行役員営業本部長等を歴任。2005年8月ティーケーピー設立、代表取締役就任、現在に至る。

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