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【孫泰蔵のシリコンバレーエクスプレス】 MOVIDA JAPAN 代表取締役兼CEO孫 泰蔵 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

情報革命の第二幕が今はじまる

(企業家倶楽部2011年12月号掲載)

 ■アジアにシリコンバレーを作る

 MOVIDA JAPANではシリコンバレーにおいてベンチャー企業を支え続けている生態系を、2030年までにアジアに作ることをミッションとしています。具体的には次のような構想を立てています。まず市場にインパクトを与えるスタートアップ企業を1000社育成することで10万人の雇用を創出します。一社につき100万人のユーザーを抱えると仮定すると、10億人のユーザーになります。つまり10億人の生活を変えることができる。これらを実現して、欧米とアジアを繋ぎながら世界を良い方向へ一歩進めることが理想です。

 この理想実現のため、現在MOVIDA JAPANでは3つのプログラムを進めています。1つ目が「シードアクセラレーションプログラム」です。これは日本のスタートアップの方を対象にしたプログラムで、我々が500万円の資金を投資して3?6ヶ月間徹底的に指導し、駆け出しの企業家のビジネスプランをブラッシュアップするというものです。デモデーを設け、そこに投資家やベンチャーキャピタルを集めることで、次の資金調達を成功さるところまでお手伝いします。2つ目が「アジアエントリープログラム」。これは欧米の急成長中の企業が、日本やアジアに参入するのをお手伝いするプログラムです。3つ目が「グローバルエクスパンションプログラム」。このプログラムは、今、日本でぐんぐん伸びている企業向けのもので、上場する前の企業や上場したばかりの企業のうち、積極的に海外進出を図ろうとしている方を支援します。これらのプログラムを通して、世界を変えるお手伝いをすることがMOVIDA JAPANの使命です。

 ■ザッカーバーグがロールモデル

 就職難が騒がれている一方で、ここ最近若者の起業意識は盛り上がって来ています。ハーバード大学在学中にフェイスブックを立ち上げた、マーク・ザッカーバーグの存在が、学生で起業することを身近に感じさせ、また同世代の若者に夢を与えています。ザッカーバーグの名前を出すと、学生は皆目を輝かせて「彼のようになりたい」と語るんです。そして現在、若者の間でスマートフォンが普及していることもあり、アプリを作る学生も出てきています。自分たちにも何か出来るんじゃないかという思いが、学生の間に広がっていることは嬉しいですね。
 ただ、日本の若い世代の立ち上げたベンチャー企業の中で、急成長している会社というのは今はまだありません。ザッカーバーグのような大型学生ベンチャーを出すには、やはりロールモデルが重要です。お手本となるロールモデルを明確に提示することで、学生ベンチャーはもっと加速していくでしょう。そんな思いから、今我々は学生のための起業プログラム「グローバルスタートアップイニシアチブ」を開催しています。新卒の採用支援を行なっているスローガンと共同で始めたプロジェクト型ジョブプログラムで、「海外の有望なスタートアップを日本・アジアで成功させること」を目的としています。実際のビジネスを経験しながらスキルを積むことができる起業体験を学生に提供することで、素晴らしいアイディアとパッションを持った若者たちの背中を押すことができればと思います。

 ■新しいタイプのベンチャーが登場

 リーンスタートアップという言葉が大分定着してきています。「lean」は「無駄のない」という意味で、無駄なコストをかけずに事業を始めることを意味します。このリーンスタートアップを成功させたアメリカのIT企業の中で、今私が特に注目している企業を2つご紹介したいと思います。

 1つ目が「Launch rock」。この会社は、サイトを立ち上げる前に必要な「Comingsoon… .」と表示される準備中のサイトをたった数分で作るというサービスを提供している会社です。利用者がフォーマットに従ってメールアドレスや画像を入力するだけで、わずか数分で完成してしまう。このサービスの凄いところは、ページ製作だけではなくて裏側の管理機能まで全て込みで作ってくれるところです。ただページができるだけではなくて、フェイスブックの「いいね!」ボタンと連動したり、ツイッターのアカウントから自動的にツイートが出るシステムになっています。そういったPR効果が始めから組み込まれている。起業のためのインフラが整っています。 
 2つ目が「99designs」という会社です。ロゴやウェブサイト、パッケージデザインなどの依頼がサイト上に掲載され、何万人もの登録デザイナーが自分が関心のある依頼を選び、デザインを考える。報酬は依頼者側が設定するため、デザイナーは報酬の額と依頼内容を見て、どれを受注するか決めます。一つの依頼に対して、100個近くのデザインが集まることもあります。しかも99designsは安い価格設定でデザインを提供しています。ウェブデザインというと大体500ドルくらいが相場なのですが、ここで依頼すれば200?300ドル程度で作ってもらえます。お友達価格より低い値段設定です(笑)これではウェブ製作会社は商売上がったりでしょうね。これだけ低価格にも関わらず、ロゴのデザインもとてもかっこいい。私も99designsでロゴを作ってもらっています。

 このような会社が続々と出来て、今は起業を目指す人にとって本当にやりやすい状況になっています。全部オンラインで一人でオファーが出せるので、時間を節約でき、事業内容そのものをしっかり詰めることに力を注げるのです。

 ■ソーシャルレボリューションの幕開け

 現代は「情報革命」の時代だと言われています。情報革命というのは要するに「パワーシフト」のことを指します。このパワーシフトは3つに分けられます。1つ目が「情報バリアフリー革命」。誰でも時間やコストをかけずに簡単に情報を入手できるようになるという意味の「バリアフリー」です。2つ目が「草の根メディア革命」。昔は情報を発信できるのはメディアだけでしたが、今は誰でも発信できる時代になりました。3つ目が「ナレッジ共有革命」。あらゆる情報がネットを通して共有されるようになり、単なる知識から知恵を共有するという風になってきています。これが情報革命の内実です。

 今、これに続く情報革命の第二幕が始まろうとしています。それが「ソーシャルレボリューション」で、キーワードは「誰でもできるようになる」です。昔は資本を持っている人、大企業、権力を持っている人だけが情報を持っていて、利益を独占していました。でも今は違う。ユーチューブやユーストリームを用いて誰でも自由に情報を発信し、また受け取ることができる。情報の大衆化・カジュアル化・民主化が起こっているのです。

 情報革命が起きたということは即ち、誰でも起業できる、ベンチャーに挑戦できるということ。マーク・ザッカーバーグみたいな普通の学生が、世界を席巻してしまう。パワーを持ってしまう。チャンスは誰にでも開かれているということを、彼が証明してくれました。運が良く、素晴らしいアイディアと情熱を持っていれば、一個人、数人から始まった小さなベンチャー企業が世界を変えてしまうかもしれない。今、本当にそういうことが起きつつある。昔は「夢」だったことが、今はもう現実のものとして私たちのすぐ傍にあるのです。

Profile 

孫 泰蔵(そん・たいぞう)

1972 年、福岡県西新生まれ。佐賀県鳥栖育ち。96 年、東京大学在学中に、日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」のコンテンツ開発のリーダーとしてプロジェクトを総括。その後、数々のインターネットベンチャーを立ち上げ、日本のネット業界の活性化に貢献。2009年、MOVIDA JAPAN 株式会社を設立。これまでの成功体験と失敗経験を活かしてベンチャー企業の創業・育成支援を手がける。現在、次世代のモバイルコンテンツやサービスのプラットホームを創るのに燃えている。

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