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【トップの発信力vol.13】佐藤綾子のパフォーマンス心理学

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

部下の「別に……」の心は「2秒」で読める

(企業家倶楽部2012年12月号掲載)
 

スルーしたい気持ちは顔に出る

 小中学校でいじめの事件が相次いで、教員や教育委員はインタビュー取材で「特にいじめはなかった」と口を揃えて答えるのですが、実際にはいじめのことを大体把握していたことが、その表情からよくわかります。とても狡猾なやり方です。

 その表情の特徴は、「いじめが起きていたとは、到底考えられない」と断定的なことばを口から吐いているのに、まばたき回数が一気に増え、インタビュアーの目を見ずに黒目が左右に泳ぐ「泳ぎ目」をすることです。これが、多くの人の「ウソをついている」時の特徴です。

「1秒」の重み

 アメリカの心理学者T・ウィルソンの実験データを紹介しましょう。

 私たちは両目から、たった1秒の間に、視覚だけで1万4000ほどの情報をキャッチし、そのうち4000要素を脳で処理しているという実験データを、彼は発表しました。「1秒」というのは、それだけ意味のある時間です。

 昔なら、「1秒を争う」というのは緊急手術の時くらいで、日常生活やビジネスシーン、人間関係づくりの中での会話の場面などでは、一般的にこの表現は適用されませんでした。

 一方、現代では実際に、証券取引もホテルの予約も、新幹線の事故を防ぐのも、仕事をいち早く取るための交渉の場合でも、メールだと1秒でも先に送った人のものが、相手の目に入ることになります。すべて「1秒」を争っています。つまり、ゆったりとしたアナログ時代よりも、ビジネス情報も俊足になってきたわけです。

 それだというのに、この忙しい現代でも人間が人間を見る時には、なぜかボヤッとのんびりと相手の表情を見ている人が多いのは本当に驚きです。

 例えば、パッと目の前を通り過ぎた人について、「今の人は眼鏡をかけていた?」と聞けば、ほとんどの人が「さあ?」と答えます。要するに、私たちは「瞬時」には相手をちゃんと見ていないのです。

 通りがかりの人ならばそれでいいとしても、自分の部下であれば、瞬時に相手の表情を把握していることが、良い関係をつくるために欠かせません。この度、『ビジネスは最初の2秒が勝負!』(ぱる出版)という本を出しましたので、そこから具体例を紹介しましょう。

部下の「別に……」は「2秒」

 次の文章を、普通のスピードで読んでください。「私の名前は、山田太郎です」

 これが「2秒」です。次の会話もどうぞ。「何かあったの?」「別に……」

 これも合わせて「2秒」です。 この「2秒」に関して、すでに私は2千人以上の実験データを取っています。

 7人の大学院生の自己紹介VTRを2秒間、音声無しで顔の表情だけ被験者に見せると、不思議なことに多くの人が、きちんと集中すれば「2秒」で相手の性格(例えば「優しい」とか「頼りない」というように)を正しく読み取っています。

 見せるVTRを5秒、10秒と延長しても、結果は変わりません。集中さえすれば、「2秒」でも正確に相手を読めるのです。

「別に」の陰にある3つの心理は透視できる

 では、先の「何かあったの?」「別に……」の場面で相手を正しく読み取るためには、まず3タイプを念頭に置くことが重要です。

 1.「内向型」

 2.「狡猾型」

 3.「攻撃型」

 第1の「内向型」の人は、どちらかというと引っ込み思案で、立ち姿勢も猫背気味。あまり大きな声ではしゃべりません。決められたことについてはきちんとやるのですが、外部の勉強会などで新しい情報を得てきて、「これをやってみましょう」と提案することはしません。エネルギーがすべて自分の内側に向かっているタイプです。

 悪い人ではありません。このタイプの人が「何かあったの?」「別に……」という時は、本当に別に何もないのです。彼らは、いつも同じことをやっているだけなのですから。

 ところが、問題は残りの2つのタイプです。

 第2の「狡猾型」は相手を「スルー」します。「他人にバレたらまずい情報だから、もし知られたら自分が不利になる」「今はこれに時間を割きたくないので、なかったことにする」「自分の地位が落ちるかもしれない」

 そんな気持ちが、彼らの心の中で一瞬のうちに動きます。そこで「別に……」と言うのですが、思わず視線が左右に泳ぎます。まばたき回数も一気に増えます。

 大津の中学校をはじめ、いじめが発生する度に校長や教育委員のインタビューでは、このまばたきや左右の泳ぎ目がたくさん出ています。狡猾なので問題をスルーしたいがために、声は大き過ぎず小さ過ぎず、程よいボリュームです。

 第3の「攻撃型」はどうでしょうか? 彼らは日頃、上司であるあなたを良く思っていません。「ちょっとしたことに随分と長々文句を言っている」「聞いてはおくけど、絶対やらないぞ」と思っていたり、機会があれば、外で悪口やマイナス情報を口に出したりすることもあります。

 でも、上司と部下という関係上、面と向かって「何言ってるんですか?」とは言えません。そこで「何かあったの?」「別に……」となるわけです。

 このタイプの場合は、声のボリュームはやや大きめで、目を見開いて相手の顔をちゃんと見たまま、「別に」と言います。むしろ凝視しているように見えますが、視線を動かさないのは「ポーカーフェイス」で相手をごまかすための行動です。いろいろな情報が目から漏れ出ていかないために、自分で視線を操作して止めているわけです。パフォーマンス心理学では、「視線統制」「顔面統制」と呼ばれています。

 したがって、彼らが「別に……」と言ったら、まず集中して相手の顔を見ましょう。その中から、単にシャイなのか、それとも狡猾にスルーしようとしているのか、実は攻撃したいのかを見抜いていくのです。

 単にシャイである人であれば、「大丈夫だよ。自分が見ているからね」と言うと、きちんと仕事をこなしてくれます。

 狡猾型は「それには気づいているよ」。さりげなく警告する攻撃型は「自分が評価されていない」という不満をそれぞれ常に持っていますから、「素晴らしい仕事をやってくれてありがたい」ということを、折に触れて相手に伝えていきましょう。これも、相手の攻撃欲求を消していくためです。


心理パターン別「別に……」の陰の心理的傾向

1.内向型

特長 ●エネルギーは自分の内側へ

   ●猫背・声が小さい

対応 ■「大丈夫だよ」「責任は僕が引き受けるから話してごらん」

2.狡猾型

特長 ●「別に……」で黒目が泳ぐ

   ●話のスピードがやや速い

対応 ■「この点についてはわかっている」という警告を

3.攻撃型

特長 ●まっすぐ目を見て答える

   ●陰で悪口を言う

   ●明瞭な発声

対応 ■褒める

   ■マイナス行動を続けた場合の「デメリット」を明示する

*参考:「ビジネスは最初の2秒が勝負 ― 相手が読めればすべてがうまく回り出す」(ぱる出版)

Profile 佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『プレジデント』はじめ連載9誌、著書170 冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。19年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで

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