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【デジタルシフトの教科書】 第1回  デジタルシフトウェーブ 社長 鈴木康弘

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

迫りくるデジタルシフトの波

(企業家倶楽部2019年1・2月合併号掲載)

 

 GAFA(Google、Amazon、FaceBook、Appleの4社のこと)のこの10数年の成長を知らない人はいないでしょう。「米国のネット企業のことで自分にはあまり関係ない」と思っている人も多いかもしれません。しかし、このGAFAの躍進は、地球上のすべての企業に影響を与えるデジタル情報革命の最中に我々はおり、デジタルシフト(デジタルトランスファー)が急速に進んでいることを示しています。我々に今迫り来ているデジタルシフトの波とは、何なのか、そして我々はこの変化に如何に対処していくべきかを「デジタルシフトの教科書」として、書き進めていきたいと思います。日本の企業の将来のために。

 少し自己紹介。私は(2018年12月)現在53歳、2017年に起業した株式会社デジタルシフトウェーブの代表取締役です。経歴は少し変わっているのですが、大学卒業後、富士通に入社。システムエンジニアとして10年従事後、1996年にソフトバンクに転職し、営業・新規事業企画、そしてネット書店イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を起業し、売上200億円、累損を解消した時点で、「リアルとネットの融合」を目指し会社ごと資本移動でセブン&アイHLDGS.に移り、グループネット事業を推進し、06年にCIOとしてオムニチャネル戦略を推進してきました。その後、自らの経験をベースに日本企業のデジタルシフトを進歩させたいという思いから、今の会社を17年に立ち上げました。意図したわけでは無いのですが、10年ごとに大きく仕事が変わり、様々なことを経験してきました。この経験をいかして今は、「日本企業のデジタルシフトの促進」を目指しています。

今、我々は情報革命の時代を生きている

 デジタルシフトの波とはなんでしょうか。それを理解するには、大局的に歴史を振り返ってみると理解がしやすくなります。人類は、今まで2つの革命を経験してきました。1つ目の革命は紀元前に起こった「農業革命」であり、この革命により人類は安定的に「食」を得ることが可能になりました。そして2つ目の革命は18世紀に起こった「産業革命」であり、この革命により人類は「動」を得て、大量生産の実現を可能にしました。そして、現在、人類は3つ目の革命の「情報革命」の最中にいます。「情報革命」により人類は、世界中の個人間で繋がり「知」を得ることができるようになります。世界中の企業が、等しくこの革命の中にあり、訪れるであろう「情報社会」の勝者となるべく、「デジタルシフト(デジタルトランスファー)」に取り組んでいます。農業革命のときにこの流れに乗れなかった部族は衰退し、産業革命のときに流れに乗れなかった国家・企業は衰退したように、情報革命の最中の現在、この波に乗りデジタルシフトしない企業は衰退していくでしょう。

デジタルシフトの正体

 私は、日々、様々な経営者の方々にお会いしていますが、そのときには「デジタルシフトって何?」「デジタルシフトの本質を教えて」という質問を多くいただきます。そのときには、「デジタルシフトとは、アナログ時代の時間・距離・量・方向の制約を解放することです」とお答えしています。例えば「ショッピング」で考えてみると、まず「時間」ですが、昔はお店が開店しているときにしか買い物ができませんでしたが、今では24時間365日いつでもパソコン・スマホがあれば買い物をすることが可能です。次に「距離」ですが、昔はその場所に行かなければ買い物ができませんでしたが、今では、地球の裏側の商品でも買うことができます。3つ目に「量」ですが、昔はお店の大きさで買える商品量は決まっていましたが、今ではバーチャルに商品を品揃えすることが可能で、アマゾンでは日本でも2億を超える商品を買うことができます。最後に、「方向性」ですが、昔はチラシを打ったり、TVCMをしたりと売り手が一方的に不特定多数に伝えていましたが、今では常時ネットを通して繋がっている顧客にダイレクトに伝えるだけでなく、顧客の方からも気軽に問い合わせができるという双方向にコミュニケーションがとれるようになりました。このように少し昔を振り返ってみると、アナログ時代には時間・距離・量・方向の制約がありました。それがデジタル時代になるとこの制約から解放されるのです。


デジタルシフト・エフェクト

 デジタルシフト・エフェクトとは、文字通りデジタルシフトにより起きるマーケット・企業への影響のことを意味します。昨年、「アマゾンエフェクト! 究極の顧客戦略に日本企業はどう立ち向かうか(プレジデント社)」という本を出版させていただきました。米国では一昨年前からアマゾンエフェクトという言葉が生まれ、アマゾンの動き次第で米国小売業が影響を受けるようになりました。今、米国小売業は生き残りを賭けて自社の変革を迫られています。変革できずにトイザらスやメーシーズのように破産に追い込まれてしまったり、逆にウォルマートの様に社内を大変革し、アマゾンと真っ向対決で新たな成長を始める企業となったり米国小業界は大きく変わってきています。この流れは海の向こうの話ではなく、世界共通の流れであり、日本にも影響がでてきています。日本でも小売業は少なからずアマゾンの影響を受け始め、他業界でも金融業界ではフィンテック・エフェクトにより、名だたるメガバンクも大きな変革を余儀なくされています。最近では、自動車業界においてもコネクテッドカー・エフェクトとトヨタがソフトバンクと組むような動きがでてきたりとやはり大きく変革し始めています。他にも様々な分野で既存マーケット・企業に影響を及ぼしてきています。この流れはこれからも加速していくことでしょう。

デジタルシフトは小手先の改革では成功しない

 デジタルシフトの波は、日本企業にも間違いなく押し寄せてきます。米国でもトイザらスやシアーズも決してデジタルシフトに取り組んでいなかったわけではありません。しかし、結果として、本格的な対応はできていなかったのではないかと思います。逆に成功している事例としてウォルマートを見てみると、18年の米国Eコマースの予測(米eMarketer社発表)は、アマゾン、イーベイに続き第3位に浮上し、昨年第3位のアップル社を抜く勢いです。ウォルマートの変化は16年8月にネット通販ジェットコムを約3300億円の巨額投資で買収したことに始まりました。その後も幾つものIT企業を買収するとともに、そこで得た人材を企業の中核に据えました。ダグ・マクミランCEOは買収したジェットコムの創業者マーク・ローリー氏をEコマースのCEOに据えました。大企業とスタートアップ企業の壁を乗り越え改革を進めています。社内では大変な抵抗もあったと思いますが、ここまでの改革を進めたからこそ、今の成功につながっているのではないかと思います。小手先でEコマースを始めたり外部のコンサル・システム会社に丸投げするようでは、デジタルシフトは成功しなかったでしょう。デジタルシフトへの成功の道に近道はありません。「デジタルシフト成功への道」は、①一経営者の決意、②改革推進体制の構築、③業務改革プロセスの構築、④IT業務推進プロセスの構築、⑤トライ&エラーの実行で進めることが成功への王道だと考えています。次回以降、一つひとつ詳しく解説してまいりたいと思います。(つづく)

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