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【注目企業】タイムワールド 代表取締役 加藤 孝文

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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お茶や水と同様に良質な睡眠を購入する時代がやってくる

お茶や水と同様に良質な睡眠を購入する時代がやってくる

(企業家倶楽部2017年6月号掲載)

(文中敬称略)

信頼性の高い日本製の酸素カプセル
 「酸素カプセル」と言えば、スポーツ選手をイメージする人も多いのではないだろうか。2002年にサッカーの元イングランド代表選手、デヴィット・ベッカムが骨折の治療に利用したことで、日本でも広く知られるようになった。

 タイムワールドは、その酸素カプセルを扱う企業の中でも、確かな品質と安全性に定評がある。4年前に自社工場を完成させ、部品の製造から組立まで一貫して行っている。それによりコストダウンが実現し、酸素カプセルのレンタルを開始。購入すると4~500万円かかるが、レンタルだと月額3~4万円から気軽に利用できるとユーザーからも好評だ。

 もともとはケガの治療やリハビリのための医療機器だった酸素カプセルは、今や企業の福利厚生やフィットネスクラブなどでも利用でき、自身の体調管理のために活用する一般ユーザーも増えている。最近では横になって入るカプセル型だけではなく、複数人が収容可能で、中で身体を動かすこともできるボックス型も人気を博している。

 同業他社も存在するが、タイムワールドの強みの一つとして、業界で唯一「ISO」を取得していることが挙げられる。タイムワールドが取得した「ISO13485」は、医療機器の国際規格である。酸素カプセルは、日本では「健康器具」の扱いになるため、必ずしも取得は義務付けられていない。しかし、「医療機器の規格で、きちんとした品質の製品をユーザーに提供したい」という物づくりの信条のもと、取得に踏み切った。業界の第三者機関から品質や安全性が認められていることも、タイムワールドの製品が多くのスポーツ選手や経営者から信頼を得ているゆえんである。

疲労回復、免疫力向上…「高気圧」は体にいいことだらけ

 地上より気圧が低い国際宇宙ステーションや飛行機の機内では、宇宙飛行士や乗客が疲れないように、気圧を調整している。酸素カプセルはこの原理を利用してできている。簡単に説明すると、密閉された空間に酸素を送り込み、1.3気圧の状態に保つ。そうすると、カプセル内の酸素の密度が上昇し、「高気圧」の状態になる。その圧力により体内の血液・リンパの循環が促され、細胞の新陳代謝が高まる結果、疲労回復や美容の効果が期待できるのだ。酸素の欠乏が様々な病気の原因になっているという医学博士も存在する。

 「『酸素カプセル』という名前ですが、正確には『高気圧酸素カプセル』と呼んだ方が原理に則っています」と代表の加藤は言う。天気が悪い日に、頭痛や肩凝りがひどくなったり、古傷が痛んだりするなど、地上で起こるわずかな気圧変動でも体調は左右される。それだけ「気圧」は人体に影響を及ぼしているのだ。酸素カプセルに2時間入れば、5~6時間の睡眠と同等の効果を得られるともいう。

国内における酸素カプセルの先駆け

 加藤も最初はユーザーの一人だった。19年前、忙しく働いていた加藤に、友人が勧めてくれたことがきっかけだ。それまで、日本国内のどこにも酸素カプセルはなかった。

 実際に使ってみると、すぐに効果を実感できた。そのことを色々な友人に話しているうち、「体験したい」という声が殺到。あまりの人気ぶりだったので、銀座の8坪ほどの敷地でサロンの営業を始めた。60分5000円という価格設定だったが、ちょうど同じ時期に「ベッカムカプセル」が話題になり、連日多くの利用客で賑わった。「当時は固いカプセル型ではなく、ソフトな寝袋型が主流でした。たくさんの方に使っていただくうち、チャックが壊れたりなど、装置に不具合が出るようになりました」と、加藤は当時を振り返る。製造元からは「修理には2?3カ月かかる」と言われ、アメリカの製品を使って営業を続けるのは難しいと痛感した。ならば自分で造れないかと一念発起し、メーカーとしてのタイムワールドが誕生した。

酸素カプセルはドーピング!?

 当初は病院への販売も考えていたが、医療業界からの風当たりは強かった。海外では、酸素カプセルの効能について様々な論文が発表されていたが、当時の日本ではほとんど研究が進んでいなかった。1.3気圧の酸素カプセルは「医療効果が見込めない」「そんなのはオモチャだ」と、ことごとく突っぱねられたのだ。

 そして2008年、北京オリンピックで協会から「酸素カプセルはドーピングにあたる」と発表された。さらに雲行きが怪しくなったかと思われたが、この発表が追い風となった。「ドーピングにあたるほど効果があるのか!」と、一部の医師が興味を持ったのだ。

 こうして国内でも酸素カプセルの研究が始まり、ごくわずかな病院で導入が決まった。その後、2012年のロンドンオリンピックで協会から「ドーピングにはあたらない」と正式に発表もされ、徐々に「酸素カプセルは健康に良い」と認知されていった。現在では化粧品会社や大学とも提携し、アンチエイジングやダイエットへの効果など、様々な研究を進めている。

酸素をお金で買う時代がやってくる

 最後に、将来の展望について聞くと、「日本以上に、海外のマーケットには可能性が秘められていると思います」と、加藤は目を輝かせた。海外展開することで、出荷量は現在の100倍は見込まれる。「品質の高い日本製品を、全世界に発信していきます」と自信を見せた。

 つい30年前までは、「水道をひねれば水が出てくるのに、わざわざお金を払って水を買うなんて馬鹿らしい」と言われていた。それが今では、500mlのペットボトルのミネラルウォーターを当たり前のように買っている。加藤は、「水と同じ計算だと、酸素をお金で買う時代になるまでにはあと10年はかかるでしょう」と予測する。老若男女、病気の人や健康な人、すべての人が利用できる酸素カプセル。今後、「高気圧は健康に良い」ことがより多くの人に浸透していけば、加藤の描く「各家庭に高気圧ボックスがあって、そこで体をメンテナンスする」未来は目前かもしれない。

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