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【デジタルシフトの教科書】第2回 デジタルシフトウェーブ 社長 鈴木康弘

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

デジタルシフトの成否は経営者の決意で決まる

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

 

デジタルにより変わる生活者

 デジタルシフトにより我々の何が変わるのでしょうか。まずデジタルシフトにより、人々の生活は大きく変わってきています。特にスマホの登場により人々の生活は大きく変わりました。移動中もネットにアクセスし、情報を検索したり、動画を見たり、地図で行先を探したり、お財布替わりにもなってきました。皆さんも毎日、通勤電車で、自分も含めた周りの人々を見回して、スマホを見ていない人を探す方が難しいことを実感していることかと思います。この変化は益々スピードを増し、生活者は更なる利便性を求め変わり続けていくでしょう。

生活者が変われば企業・組織・人も変わる

 人々の生活が変わっていくと、その変化に対応するため企業は変革を求められます。この変化に対応したのがネット企業です。なぜネット企業は素早く変化に対応し、顧客に提案し続けることができるのでしょうか。大きな理由に組織があります。今、急成長を遂げているネット企業の多くは組織が従来のピラミッド組織ではなくフラットな組織です。従来の企業の多くはピラミッド型であり、経営層から年初に数個の方針を受け、機能的にその実現を目指していく形が多かったと思います。対してネット企業の組織は、共通ビジョンのもと自発的にプロジェクトが生まれる組織であり、社内には数百ものプロジェクトが存在し、その一つひとつが施策です。現場から沢山のプロジェクトが生まれる組織だから顧客の支持を得る確度が高くなるのです。要はフラット型組織を取るネット企業では、ビット数(賭ける数)が多いからスピードも確度も高くなっているのです。そして、最後に変革を迫られるのはそこで働く従業員です。現場からプロジェクトが生まれる組織では、アイディアを出し、自らが行動していける人が求められます。ピラミッド型組織では、トップダウンの命令を確実にこなし、調整するマネージメント力が必要とされましたが、フラット型組織では、白紙に絵を描き、多くの人々を導き実行できるリーダーが必要とされてくるでしょう。

デジタルシフトの成功は経営者にかかっている

 デジタル社会への顧客の変化は益々加速していくでしょう。この変化は、百年に一度かもしれない大きなものであり、企業はこの変化に対応していくために、第二の創業と位置付けるくらいの覚悟が必要です。このときの経営者の役割はとても大きくなります。部下を呼んで「〇〇くん、デジタル対応よろしく」で済む話ではありません。経営者自身が自らリーダーとして先頭を走り、組織そして社員を変革していく必要があります。「今まで経験したことがないから」「デジタルとかわからないから」などと経営者の口からでてきたならば、絶対にデジタルシフトは成功しないでしょう。それは、デジタルシフトは、全社的な改革であり、小手先の改善ではないからです。もし、今までそこまで考えていなかった経営者の方がいらしたならば、今、この時点で意識を改めていただければと思います。デジタルシフトを実現するためには、経営者の果たす役割は大きいのです。経営者は、方針決定権、投資決定権、人事決定権という大きな決定権を持っています。デジタルシフトはその全ての権限を行使しなくては、実現することができません。今、時代はデジタル社会に向かって猛スピードで変化を続けています。このことを強く認識し、自ら学び、リーダーとして率先垂範で行動し、最後まで粘り強くやりきる決意をすることです。
 

時代の変化と自社の状況を強く認識

連載第1回「迫りくるデジタルシフトの波」で、これから起こる変化についてお話しさせていただきました。この変化に対し、経営者をはじめとする社員の意識はどうでしょうか。既に積極的に取り組んでいる企業は、全社員常にデジタルシフトに対する危機感を感じ、社員の意識改革、新しいタイプの社員の採用などに取り組んでいるかもしれません。しかし、殆どの社員は、デジタルシフトと聞くとなんとなくネット業界の話、ベンチャーの話、海外の話であり自分たちには関係ないと思っている、もしくは気が付いていても行動に移せていない企業が多いと思います。しかし、焦る必要はありません。今からでも経営者は、時代の変化と自社の状況のギャップを強く認識し、強い危機感として変革の原動力としてゆけば良いのです。

新しいものを恐れず学ぶ

 デジタルシフトを実現するためには、新しいものを学ぶ必要があります。まずは、ある程度のシステム知識ですが、経営者がプログラミングをするわけではないので、基本的な用語と、ある程度のシステムの歴史的変遷を学べば十分です。一番重要なのは、顧客の視点で見ることができること、具体的には、自らデジタルに触れることです。既にスマホをお持ちの方が多いと思いますが、実際に様々なアプリをダウンロードし、音楽を聴き、動画を見て、地図を使い、株価を見て、SNSに参加し、ECでものを買い、普段の買物でも電子決済を使うなど自分の生活に取り入れてみることが大切です。年齢を重ねるとそういったことが億劫になってしまいがちですが、1、2カ月も続ければ、自然と自らの生活に溶け込んでいると思います。こうすることで、顧客を理解することができますし、その率先垂範の態度が社員にも伝わり、自然と会社が動き出していきます。

人任せにせずに率先垂範で行動

 現在、20社程のクライアント様のデジタルシフト推進のお手伝いをさせていただいております。私たちのクライアント様は、時代の変化を認識し自社の改革を決意し、経営者自ら学ぶ姿勢をお持ちの方が多いのですが、企業によって歩みの速いところ遅いところがあります。その違いは、トップが自ら率先して行動しているかです。どんな会社もトップは重責で、様々な案件に対応し、忙しいものですが、その中で時間を取り、決定が必要な会議、交渉の場などに積極的に参加しているトップがいる会社は、どんどん進んでいきます。トップが率先垂範で動くことは、決定スピードが早くなるだけではなく、組織に緊張感も生まれ全体的なスピードアップに繋がるからです。

成功するまでやりきる決意

「デジタルシフトにより新しいビジネスを生み出す」と決めたならば、後はそれを粘り強く成功するまでやり続けることが大切です。今まで経験したことが無いからこそ、過程においては失敗することもあるでしょう。その度に右往左往していては駄目です。世界中の企業が今デジタルシフトを推進していますが、デジタル技術が発展し続ける中、成功に至った企業は一社としてありません。それは未開のジャングルに迷い込んだようなものです。その場にとどまっていれば体力も温存でき生きながらえることはできるでしょうが、いつかは死が訪れます。前に進むしかありません。道を間違えたならば後戻りをしてまた新しい道を進み、それを繰り返し、ゴールにたどりつくしかありません。その時に一番大切なことは、「生きる」という強い決意なのだと思います。同じようにデジタルシフトを推進する場合でも、「いつかは成功させる」というトップの決意のもと進めることが何より大切なのです。(つづく)


デジタルシフト・エフェクト

 デジタルシフト・エフェクトとは、文字通りデジタルシフトにより起きるマーケット・企業への影響のことを意味します。昨年、「アマゾンエフェクト! 究極の顧客戦略に日本企業はどう立ち向かうか(プレジデント社)」という本を出版させていただきました。米国では一昨年前からアマゾンエフェクトという言葉が生まれ、アマゾンの動き次第で米国小売業が影響を受けるようになりました。今、米国小売業は生き残りを賭けて自社の変革を迫られています。変革できずにトイザらスやメーシーズのように破産に追い込まれてしまったり、逆にウォルマートの様に社内を大変革し、アマゾンと真っ向対決で新たな成長を始める企業となったり米国小業界は大きく変わってきています。この流れは海の向こうの話ではなく、世界共通の流れであり、日本にも影響がでてきています。日本でも小売業は少なからずアマゾンの影響を受け始め、他業界でも金融業界ではフィンテック・エフェクトにより、名だたるメガバンクも大きな変革を余儀なくされています。最近では、自動車業界においてもコネクテッドカー・エフェクトとトヨタがソフトバンクと組むような動きがでてきたりとやはり大きく変革し始めています。他にも様々な分野で既存マーケット・企業に影響を及ぼしてきています。この流れはこれからも加速していくことでしょう。

デジタルシフトは小手先の改革では成功しない

 デジタルシフトの波は、日本企業にも間違いなく押し寄せてきます。米国でもトイザらスやシアーズも決してデジタルシフトに取り組んでいなかったわけではありません。しかし、結果として、本格的な対応はできていなかったのではないかと思います。逆に成功している事例としてウォルマートを見てみると、18年の米国Eコマースの予測(米eMarketer社発表)は、アマゾン、イーベイに続き第3位に浮上し、昨年第3位のアップル社を抜く勢いです。ウォルマートの変化は16年8月にネット通販ジェットコムを約3300億円の巨額投資で買収したことに始まりました。その後も幾つものIT企業を買収するとともに、そこで得た人材を企業の中核に据えました。ダグ・マクミランCEOは買収したジェットコムの創業者マーク・ローリー氏をEコマースのCEOに据えました。大企業とスタートアップ企業の壁を乗り越え改革を進めています。社内では大変な抵抗もあったと思いますが、ここまでの改革を進めたからこそ、今の成功につながっているのではないかと思います。小手先でEコマースを始めたり外部のコンサル・システム会社に丸投げするようでは、デジタルシフトは成功しなかったでしょう。デジタルシフトへの成功の道に近道はありません。「デジタルシフト成功への道」は、①一経営者の決意、②改革推進体制の構築、③業務改革プロセスの構築、④IT業務推進プロセスの構築、⑤トライ&エラーの実行で進めることが成功への王道だと考えています。次回以降、一つひとつ詳しく解説してまいりたいと思います。(つづく)

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