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【トップに聞く】リブセンス代表取締役社長 村上太一 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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圧倒的に影響力を持つNo1の求人情報メディアへ

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(企業家倶楽部2013年1・2月合併号掲載)

創業7年目ながら、東証一部へ上場したリブセンス。掲載費無料、採用時に初めて費用が発生する成功報酬型モデルが人気を集め、アルバイト求人情報サイト「ジョブセンス」を軸に成長を続ける。村上太一社長がリブセンスを創業したのは19 歳の時。その軌跡や会社にかける思い、今後の戦略を聞いた。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)

最大の強みはゼロから生み出す力

問 25歳、史上最年少での東証一部上場、おめでとうございます。率直な感想として、いかがでしょうか。

村上 「これからだ」という思いです。達成感や嬉しさはなく、新たな道のスタートだと考えています。会社を経営するからには、世の中に影響力を持つ価値ある会社となりたい。そのためには、必然的にもっと大きくしなければなりません。

問 御社の事業内容と特長についてお聞かせください。

村上 アルバイト求人サイト「ジョブセンス」を軸に、転職求人サイト「ジョブセンスリンク」、派遣求人サイト「ジョブセンス派遣」、賃貸情報サイト「DOOR賃貸」などを運営しています。「ジョブセンス」は約5万件の掲載数と、月間300万人のユーザー数を誇ります。我々は採用企業とユーザー双方にメリットのあるサービスを意識しており、掲載費無料、採用時に初めて費用が発生する成功報酬型モデルです。さらに、採用された求職者には祝い金を贈呈しています。

問 2012年12月期の業績予想が売上高23億2300万円、経常利益11億1300万円と利益率も素晴らしいですね。

村上 現在リブセンスは正社員56名、アルバイト28名であり、その4割をエンジニアやデザイナーが占めています。通常の求人媒体が営業マンを大量に抱えるのに対し、我々はお客様に来て頂ける様な仕組み作りに注力します。営業マンを抱えないことで利益幅が上がり、同時に様々なメリットをお客様へ提供できています。

問 村上社長が経営において、重要視している指標は何でしょうか。

村上 一番わかりやすいのは売上利益だと思います。売上利益を上げればいいというわけではない、という認識の元での売上利益です。ただ「圧倒的に使えるものを作る」という時に、わかりやすい数値として上がってくるものが売上利益だと考えています。

問 リブセンスの強みは、どこにあるとお考えですか。

村上 一つはシステム開発が強い点です。システムを自社で内製化して、高いレベルで保持しています。もう一つは、ユーザーを集める仕組み作りに注力しており、製作したサイトにSEOを効かしている部分です。 
 しかし、それらは手段として捉えています。リブセンスは創業7年目であるため、一番の強みは何もない所から生み出していく力だと考えています。やりたい事業を実現するべく、必要なものを集め、無い場合は自分たちで作っていく。私たちは学生時代に起業したため、ノウハウもない、人脈もない、スキルも無い、という全く何もない所から事業を立ち上げてきました。そういう強い思いのもと、形にできている組織は中々ありません。

問 村上社長は、どういう人材と一緒に働きたいと考えていますか。

村上 仲間集めの時に「圧倒的に使える、世の中になくなったら困る様なサービスをつくろうよ」と声をかけたとします。その時、人によって二通りの反応があります。「ああ、がんばってください」。「一緒にやろう、つくりたいね」。やはり後者のような人と、根の部分で共有できるかが一番重要ですね。

問 日々の生活でも、何かこだわりを持たれているのでしょうか。

村上 プライベートでは特にありません。私は仕事以外、一切やらないタイプです。気分転換も特にすることないので、こだわるのは睡眠くらいですね。6時間ほど寝れば、全て大丈夫です。ただそれでも、仕事人間として有名な日本電産の永守社長ほどではないと思います。ある書籍で、永守社長が「365日仕事をして、休暇は正月の午前中だけ」というエピソードを読みました。私はそこまでではありませんので、まだまだ仕事の虫になれていないと思っています。

問 直接お会いされましたか。

村上 まだありません。企業家倶楽部100号の表紙に登場されている他の3名、ソフトバンク孫社長、ファーストリテイリング柳井会長、エイチ・アイ・エス澤田会長らも同様です。というのも、私は「まだ会うタイミングではない」と考えています。今お会いしても、「頑張ってね」で終わってしまうからです。私は腹を割って対等に話し合えるステージがあると思っていて、まだそこへ行けていない認識でいます。 
 最初に出会うタイミングは非常に大事です。そこを間違うと、完全な弟子と師匠の関係になってしまいます。もちろん、偶然出会う事はいいのですが、「会いたいと思っていました」と会いに行くタイミングではありません。
 
幸せから生まれる幸せ

問  なぜ、起業されたのですか。

村上 私が高校時代、「アルバイトを探す際に感じた不便さを解消したい」という思いから始まりました。街中には「アルバイト募集」の張り紙が大量に張られ、求人募集している店舗も非常に多かった。しかし、ネットでアルバイト情報を検索しても全然ヒットしない。そのため、私はアルバイトを探す為に、隣駅まで張り紙を探しに行っていました。疑問に思い、なぜこういう構造になっているのか調べてみると、求人情報をサイトに掲載するための費用が高かったのです。これらの不便さを解消したいと思いました。

問 早稲田大学1年生だった19歳の時に、起業されたそうですね。経営者という道を早くから意識されていたのでしょうか。

村上 両祖父の影響があります。自分の周りに経営者がいなければ、サラリーマンという選択肢が基本だと思います。ただ、私の場合は両祖父が経営者だったので、その選択肢が生まれやすかったのです。

問 リブセンスという社名には「生きる意味」という意味が込められているそうですね。

村上 「なんで会社をやりたいんですか」と聞かれた際に、当初は「やりたいからです」と答えていた。ただ、苦しい時に「なんでやりたいんだろうな」と考えていたら、昔から思いの中にあった感覚が徐々に言語化していき、経営理念が固まりました。「幸せから生まれる幸せ」という経営理念として言葉に出してからは、より強くなっています。人を幸せに感じさせることで、結果として提供者も幸せになれるのです。私自身、今までにないサービスをつくり、それが圧倒的に浸透していくことに幸せを感じます。

問 創業期では、どのようなことが思い出深かったでしょうか。

村上 苦しさしかありません。先が見えず、苦しみ続けていました。そんな中、会社四季報を見ながらひたすら電話して、営業して、お客様を集め続けました。開発に関わるメンバーが多かったため、営業の人を採用するために、授業で後ろの席の人に声を掛けたりしました。課題に対して、思っていても変わらない。とにかく行動で変えていく。その精神のもと、改善に改善を重ねていく。「言うことって大事だ」と改めて感じたエピソードとしては、創業期に当社の株を持っていた個人の方は、私の友人の先輩の母親の元々勤めていた会社の同僚の今働いている会社の社長だったのです(笑)。

問 事業領域を拡大、転換させることは考えられなかったのでしょうか。

村上 それだけのリソースも、器用さもありませんでした。さらに言えば、上手くいかない局面はありましたが、このまま上手くいかない理由がわからなかった。ユーザーと企業の双方にメリットがあったからです。「大手企業が本腰を入れていないのには理由がある」、「学生だけでは難しいよね」と色々批判され、へこんだ時もありました。しかし、自分が納得するだけの批判材料がなかったのです。

問 軌道に乗り始めたのは、いつ頃でしょうか。

村上 我々は当初、応募毎の課金というビジネスモデルでスタートしました。ユーザーが「この店舗で働きたい」と応募する毎にお金を頂いていた。それを採用毎に切り替えたのです。そこから、徐々に光が見え始めた。応募型から採用型へはピボット(方向転換)でした。一方、最近のスタートアップ界隈はピボットの使い方を間違えていると思っています。そもそも違う事業に転換するのはピボットではない。課題に当たった時、「こっちからいくのは違うんだな」と、中心の軸は変えずに切り替えていくのがピボットです。 
 我々はサービスモデル自体を色々と変えてきましたが、目指している世界はいつも「アルバイト探しをユーザー視点でより便利にできる方法は何だろう」という視点から入っています。特に、応募型から採用型への転換は、本当の意味でのピボットをした認識でいます。大事なのはシンプルであること、そして「これでもか」とメリットを提供できるかです。採用型では、相手が断る理由を一切取り除きました。

「掲載料は無料、原稿作成も最初は僕らがやります」と言えば、断る理由がありません。
 
圧倒的に影響を与える会社をつくりたい

問 今後の戦略については、どのように考えていますか。

村上 我々は、圧倒的に使われるナンバーワンのものをつくりたい。一位となるために、ユーザー数、企業数、採用数を集めていきます。世の中で最も採用を喚起する、影響を与えるアルバイト媒体になろうと考えています。 
 また、戦略とは他と違う戦い方をすることです。他社は掲載毎のビジネスを続けていますが、我々は採用毎という切り口で突き進んでいきます。採用課金というサービスモデル自体が戦略となっているのです。

問 その戦略を他の領域や海外へ展開していくお考えでしょうか。

村上 成功報酬型で相性がいい領域には広げていきます。現状の売上構成では、アルバイトが5割、正社員が2割、不動産が2割、その他の領域が1割を占めています。各事業の責任者が100%の力で注力し、私自身は各領域へ均等の力配分で関わっています。海外は、アルバイト領域だけでもそれなりにエネルギーが必要になると思っています。簡単に海外展開できる領域ではないので、まずは日本で圧倒的一位になります。

問 読書がお好きとのことですが、「私の一冊」をあげるとすれば何ですか。

村上 ヤマト運輸元社長・小倉正男氏の「経営学」です。宅急便の立ち上げストーリーが描かれていて、小さく始める視点が印象深かったです。例えば、クール宅急便を始める際、保冷剤を敷き詰めたパックで仮説検証をして、その後に冷蔵庫付きの宅急便車をつくっています。 
 また、仮説を立てるにしても、「将来営業拠点をどの位つくらなければいけないか」という問いに対し、世の中の警察署の数から逆算しています。そういった数値から分析していく発想と、「世の中に必要とされるものをつくろうよ」という企業家精神に触れてドキドキしたのを覚えています。

問 最後に、村上社長の夢についてお聞かせください。

村上 そこがまだはっきりしていません。今はただ、圧倒的に影響を与える様な会社にしたい、圧倒的に使われるサービスをつくりたい、圧倒的に影響力のある会社を経営している人でいたい、そう強く思っています。

P r o f i l e

村上太一(むらかみ・たいち)

リブセンス代表取締役社長1986年生まれ。2006年早稲田大学在学中にリブセンス設立、代表取締役社長に就任。2011年12月、東証マザーズへ株式上場。2 012 年10月、東証一部へ市場変更。

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