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【新社長に聞く】 セコム社長 伊藤 博

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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セコムの強みを強化世の中の困り事を解決したい

セコムの強みを強化世の中の困り事を解決したい

(企業家倶楽部2014年12月号掲載)

セキュリティ、防災など社会不安の解決サービスを拡充、躍進し続けるセコム、平成26年 3月期の連結売上高8222億円、経常利益1267億円を達成、成長路線をひた走る。2014年6月、セコムグループの新しいリーダーに就任した伊藤博社長は、セコムの強みをさらに強化し、ALL SECOMで社会システム産業を加速すると宣言する。2020年東京オリンピックを見据え、わが国最大級のデータセンターを核に、さらなる飛躍を目指すセコムの未来戦略を聞いた。 (聞き手は企業家ネットワーク会長 徳永卓三)

問 この度は社長就任おめでとうございます。 前田会長との役割分担はどのようになっているのですか。

伊藤  前田はグループ全体の方針を考えて、私はセコムの強みをさらに強化し、足元をしっかり固めると。24時間365日のセコムの対応力、事業のインフラをしっかりやっていくというのが役割です。

問  新社長としてどこに力を入れますか。

伊藤 セコムの強み、社会で必要なサービス、世の中の困りごとを解決していくことに力を入れていきます。困りごとですからスピーディにサービスを開始。困ったらセコムと言っていただけるように、安全・安心、快適、便利なサービスを提供して、困りごとをどんどん解決していく。そして知らないうちにセコムのサービスを利用していたという状況を増やしていきたい。

セコムの時代がやってきた

問  異常気象による災害など、今、さまざまな危険がありますから、セコムの時代がやってきたという感じがします。

伊藤  災害についてはリアルタイム災害情報サービスを昨年スタートしました。災害が発生した時に、各自治体が避難勧告や避難指示を出していますが、ツイッターや自社の現場の情報も収集・解析し、企業や自治体の災害対策の参考情報として使っていただければと思っています。

問 それは最近のビッグデータの活用でしょうか。ビッグデータを活用される事例には他にはどんなものがありますか。

伊藤 セキュリティ事業を含め、様々な事業部門が収集した情報を解析、その結果に基づいてオペレーションをしていく。これをセキュリティ、災害・BCP、超高齢社会対応といったところで活用しています。災害の分野ではビッグデータを使ってリアルタイム災害情報サービスを提供しています。

 セキュリティでは、機械警備を中心に常駐警備や現金護送を実施しています。機械警備は建物の中にセンサーを付けて、通信回線を通じてコントロールセンターで24時間監視し、異常時は緊急対処員が駆けつけるというシステムです。コンビニなど24時間開店している店舗では非常通報後、画像センターで遠隔で確認し、音声で警告したり駆けつけます。また、画像認識技術を利用した新しい非常通報システムでは、部屋に金庫が置いてあって2人しか入らないと設定すれば、3人入ったら異常とみなす。多くの人が往来する場所で画像認識技術を利用すると、例えばたくさんの人が一定の速度で歩いる中で、ふらふらしている場合は、怪しい人でなくても、悪いことをする可能性があると判断できます。

問 現場から上がってくるデータを駆使すると、いろいろ活用方法があるのでしょうね。

伊藤 プライバシーの問題がありますから十分配慮し、基本的にはお客様の了解を得た中で、情報を使っていく。いろんな情報が業務を通じて入ってきていますから、そこからいろんな傾向を分析できないかということに取り組んでいます。

超高齢社会に対応

問  今後は高齢者向けのサービスも重要になってきますね。

伊藤  ホームセキュリティをやっていくと、安全・安心だけでなく、健康というテーマにぶつかります。年齢が高くなるといざという時に駆けつけてくれるということが大事なので、セコムとしてはセキュリティと合わせ医療に力を入れています。今、国内にある提携病院が19、ベット数は6000くらいあります。住宅医療サービスでは、訪問看護・介護を受けていただけます。例えば軽い脳梗塞の場合は、早めに退院して自宅での療養を訪問看護でサポートしたり、マイドクタープラスというサービスをご利用頂けます。マイドクタープラスは小さい携帯電話のような端末を持って頂いて、何かあれば紐を引っ張って頂くとセコムに緊急通報が出来るという仕組みです。

問 外出中でもいいのですか。

伊藤 大丈夫です。外出中でも位置情報が特定できますから。例えば駅で倒れても紐を引いて頂ければ、救急車を呼んだり、かかりつけの病院に連絡したり、救急車が来た時にその人の医療情報を提供するサービスがマイドクタープラスです。またセコムのホームセキュリティでは、ご家庭の困りごとを解決していこうということで、例えばエアコンのお掃除など生活支援サービスもお受けします。

問 高齢になると高いところの電球を取り替えたりするのも大変です。

伊藤 エアコンのお掃除を行ったお客様からセコムでここまでやってくれるなら、老人ホームに入ろうかと思っていたが、先送りにしようといっていただいて。これらのトータルなサービスがセコムがやっていく社会システム産業のサービスだと。できる限り生活の不安が解消出来るよう支援するサービスに取り組んでいます。

問 最近、テラという会社があり、ガンのワクチン療法をやっているのですが、セコムの医療保険だとこの先端医療もカバーしていると聞きました。

伊藤 自由診療が可能なガン保険、メディコムをやっています。これも好調で、徐々に認知されて増えていますね。ご加入の方には安心してガン治療に専念していただけます。

セコムと繋がっていれば安心

問 最近は徘徊老人の増加が社会問題となっています。

伊藤 増えていますね。徘徊する高齢者に携帯端末を持って頂き、GPSで位置を特定できるものにココセコムがあります。2001年にサービスを開始してから、6000件以上、高齢者を中心に、位置情報で発見したり、盗難車両を発見するなど多くの貢献事例が出ています。

問 いまホームセキュリティの件数が百万件を超えたと聞いています。

伊藤 今日本にある世帯数の2%弱になります。まだあと98%ありますが。

問 飯田亮代表は1000万件あってもいいはずだと言っておられました。

伊藤 そうすれば20%ですね。まだまだこれからです。ホームセキュリティに加入しておられるお客様が救急通報ボタンを押して、息が苦しいと言われたら、セコムの方から救急車を手配して事情を説明します。こういったことを皆さんに認識していただくと、セコムと繋がっている事に安心して頂けると思います。

問 困った時はセコムに相談してみようとなりますね。 法人営業はどうですか。

伊藤 件数は100万件ちょっと欠けるくらいの数ですね。いまはセキュリティも セコムLXというサービスがありまして、ICカードを社員証と同じもので作れば、出勤時・退勤時の操作だけでなく、それを勤怠管理に使えるし、給料計算もセコムでやりましょうと。給料明細はスマートフォンで見られるようにするというサービスも実施しています。年末調整もイントラネットで申請できるようになります。設備関係では例えばATMでは、開店30分前に空調をセットするとか、病院などでは待合室だけ開けて空調をつけるとか、時間で電源をオン、オフに出来ます。そういった付加のついたサービスを展開しています。

問 セコムに頼めば、どんどん便利になりますね。ところで年間の法人営業件数の伸びはどうでしょうか。

伊藤 6月末で91万6000件ですが、伸びは5%弱くらいでしょうか。

技術開発でセキュリティが進化

問 小型飛行監視ロボットというものがあるそうですね。

伊藤 警備の部分で言いますと、建物があって敷地が広いところは、カメラの台数を増やさないと全部カバーしきれない。そこで小型飛行監視ロボットを飛ばして撮影し、画像データをコントロールセンターに送れば、侵入者の特徴や車のナンバーがわかる。その侵入者との距離を3mとか5mに保つように設定しておけば、その距離を保って監視できます。敷地の外に出たら、どっちの方向に逃げたかということも撮影します。

問 最近、アメリカでもそういう小型飛行ロボットが注目されていますね。

伊藤 アマゾンが荷物配達用に開発しているようです。発表は我々の方が早く行いましたし、来年春からスタートしようと今、技術者が取り組んでいます。映画の世界が実現していくようですが、大事なのは何が必要なのかです。すでに屋外を巡回する警備ロボットは実現していますし、次は飛行監視ロボットです。

問  セコムは画像処理技術が非常に優れていると聞いています。

伊藤  これまで何台ものカメラが必要だったのが、精度が上がって1台で撮れるようになり、データを解析しいろいろなことが可能になりました。ここは大きな進化です。セコムとして画像処理に関する特許を400くらい持っていますので、これを活かし、サービスに置き換えていく計画です。画像技術の進化はこれからです。

問  最近は犯罪の時にもいろんな場面で画像が活用されていますね。画像アーカイブというサービスもあると聞きました。

伊藤 これまでは撮影した近くに画像を記録する装置を置かなければなりませんでしたが、燃やされたり壊されたりすると画像は残らない。画像をセコムのデータセンターでとっておけば、何があってもデータとして残しておけます。これを元にサービスを進化させていきます。

問  東日本大震災から3年半位経ちますが、セコムはかなり対応されているそうですが、これからもさまざまな災害が起きる可能性がありますね。

伊藤 リアルタイム災害情報サービスという形で、地震情報や大雨情報など災害時の情報を収集・解析し専用サイトで提供する。また安否確認サービスということで、地震が発生した時に、社員や家族の安否を確認するサービスをやっています。これは会社として5000社、440万人に登録していただいています。企業であれば事業継続に役立つ情報サービスも実施しています。

問 安否確認サービスは大変ありがたいですが、お値段は?

伊藤 基本契約料金が3万円で1人20円。1000人の事業所で月5万円です。ご家族の安否確認をする「あんぴくん」は1人10円で、1000人いると1万円。また本社が東京で、仙台で地震があれば現地での被害状況を確認できます。今はもっと進化させ、非常時に出勤出来る人を招集する非常呼集サービスを提供しています。またリアルタイム災害情報サービスの一貫として、取引先の情報も提供、災害時にまずはどう手を打てばいいのかという情報サービスも提供しています。お客様の困りごとは皆さんにとって共通事項ですから、解決に役立つサービスを実現していきたいですね。

2020年の東京五輪で恩返しをしたい

問 セコムは昭和39年のオリンピックで発展したと聞いておりますが、2020年の東京オリンピックについての対応策はどう考えておられますか。

伊藤 1964年の東京オリンピックは創業2年目でしたが、代々木の選手村の警備をしました。今は全国で9000社警備会社があり、54万人の警備員がいますが、当時はセコム1社だけでしたから、弊社でお受けして100人くらいで選手村の警備を自転車で実施しました。今度の東京オリンピックは招致委員会で計画しているのは、1万4000人の警備員、それに警察官、ボランティアなどです。サイバーセキュリティも含めて危険度を予測、東京都の警備協会が中心となって、1万4000人動員していくことになっています。前回の東京五輪はセコム発展の礎になるようなイベントだったわけですから、2020年は恩返しの意味も含めて、セキュリティ技術をもっと上げて、ビッグデータ活用も含めて、やれることはしっかりとやっていきたいと考えております。

問 20ヶ国語くらいの安否確認サービスもやると伺いました。

伊藤 安否確認サービスですでに440万人に登録して頂いているベースがありますから、この仕組みを使って、来日外国人が登録をしたら、大使館経由で危険情報と安全情報を配信するサービスを実施しようと。経済産業省も一緒になって仕組みを作っていく。おもてなしというところで、危険情報、安全情報を配信するというインフラを整える、セコムならではのサービスを実現していけたらと思っています。

問 東京電力からデータセンターをお買いになったとか。

伊藤 2012年10月に買収、セコムの分も併せて24万平米のデータセンターを保有しています。日本で最大級の規模になります。大震災があっても大事なのはデータを安全な施設で保管することで、ご利用のお客様の数も増えてきています。ホームセキュリティも新しいタイプのG-カスタムでは、飲んでいる薬の処方箋や通帳を写真にとってセコムのデータセンターでお預かりするなど、さまざまなニーズにお応えできます。データセンターがサービスの中核となっていくと思います。

正しさを追求

問 セコムが大切にしている人物像とは。

伊藤 理念を大事にしていますが、判断尺度は正しさです。セコムにとっての正しさではなくて、社会にとっての正しさ、公正であるかどうかを大切に、正しさを追求していこうと。既成概念を否定、現状を否定してみて、どうあるべきかを考える。これをベースに社員の行動規範を作っています。

問 そうした行動規範はどのように社員に伝えているのですか。

伊藤 集合研修やOJT、昇級試験に出したり、さまざまな場面で伝えています。セコムはお客様からの信頼がすべてですが、鍵を預かることの責任とはどういうことなのか。入社時には真面目、正直であることが大切だと伝えています。くり返しさまざまな機会を通じて徹底しています。

問 社長就任から3カ月経ちましたが今後の抱負をお聞かせ下さい。

伊藤 セコムの強みをさらに強くして、世の中の困りごとの解決策を提示していきたい。インターネットバンキングでは、今年の上半期でも18億円の被害が出ています。これに対して今は有効な手だてがありませんが、セコムでは安全・安心に振り込みできるようにしていこうと。お客様のお困りごとからサービスを創っていく。全体が完成しなくてもまずはスタートをすると。そうすればこれを進化させて、いいサービスに仕上げていけると考えています。


P r o f i l e

伊藤 博(いとう・ひろし)

1952 年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。79年日本警備保障(現セコム)に入り、09年6月から常務。14 年6月に代表取締役社長に就任。

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