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【スタートアップベンチャー】トランスリミット代表取締役社長 高場大樹

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

セコムの強みを強化世の中の困り事を解決したい

セコムの強みを強化世の中の困り事を解決したい

(企業家倶楽部2015年8月号掲載)

(文中敬称略)

1年で1200万ダウンロード突破

 今、スマートフォンゲーム界に新風を巻き起こしている男がいる。トランスリミット社長、高場大樹だ。同社は2014年1月14日に創業。スマホ向けアプリの開発・運営を主軸に事業を展開している。その最大の武器として現在躍進を続けているのが、スマホゲーム「Brain Wars(ブレインウォーズ)」である。

 14年5月にリリースしたこのアプリは、わずか8ヶ月という短期間で全世界1000万ダウンロードという偉業を達成。リリース1周年を迎えた15年5月時点で1200万ダウンロードを超える。東京・渋谷に本拠を置く社員約20名の日本発ベンチャーによる開発ながら、95%が海外ユーザーで占められている点、同業他社とは一線を画す。

「ブレインウォーズ」はパズルや計算問題などを用いた「脳トレ」と呼ばれるジャンルに加え、全世界のユーザーが対戦という形で互いの力を競い合う機能を合わせた「対戦型知的ゲーム」である。その大きな特徴は「知識や言語に依存せず誰もが全てのルールを理解出来る」というコンセプトの元設計されていることが挙げられる。対戦の基本となるパズルや計算は子供でも理解できる簡単な問題が用意され、ユーザーも言語を介さず感情や表情を模したイラストを相手に送信することで意思疎通を行う。

 従来の脳トレは基本的に「脳が衰えている」という問題をユーザーに提示し、課題意識を持たせてプレイさせるのが主流だった。一方「ブレインウォーズ」は脳トレを対戦型にすることにより「相手に勝つ」ということを目標とした新しいスタイルを編み出している。

 ゲームの勝敗は30種類近くあるミニゲームの中から3種類が選ばれ、3ラウンドに分けて行われる対戦で決着をつける。最終的に各ゲームで獲得した点数の累計が高いユーザーが勝利となる流れだ。対戦の結果は記録され、自身の成長を確認できる他、友達・知人間で能力を比べ合い、SNSへの投稿も可能になっている。

 売り上げの7割は広告収入。残りの3割が有料課金による収益だが、課金はあくまでゲームの補助的な役割を果たすに過ぎず、他のスマホゲームのように投じた額によってユーザー間の格差が生まれることはない。相手に勝つために必要なのは自身の「脳」の力ただ一つというわけである。

「脳」は言語の壁を超える

 ブレインウォーズには高場の経験や思想が色濃く反映されている。学生時代、海外が好きだった高場はバックパッカーとして世界を巡っていた。その旅の中で、表情や握手といった非言語的なコミュニケーションが国境を越えて通用することを実感した。大学を卒業し、一流のエンジニアを目指してサイバーエージェントに入社した高場は、携わったプロジェクトの中で、異なる国のユーザー同士が言語ではなくゲーム内のアバターを使い、その身振り手振りで意思疎通を行っている場を目撃した。これが自身の旅行での実体験と結び付き「非言語的要素を多くすることで、世界中の誰もが共通の土台でコミュニケーションできる」と確信するに至った。

「脳はコミュニケーション基盤の土台」と高場は語る。言語や経験、知識は全て「脳」があるから成り立っている。ならば全ての人間が根源的に持つ「思考する能力」に重点を置くことで、誰もが使えるサービスを生み出せると考えたのが「ブレインウォーズ」誕生の原点となった。エンジニアとして5年経験を積んだ高場は、独立してトランスリミットを起業。当初は教育のIT化を目指し事業を展開しようとしていたが、いざ立ち上げようとすると現実は生易しいものではなかった。高度に完成された日本の教育に踏み込むのはハードルが高く、受験が終わる度にその年の顧客を失うため、常に新規開拓が必要となる。

 しかし高場は諦めなかった。教育という主軸は変えず、自分の得意とする領域で戦おうと考えた。コミュニティサービスのノウハウを活かし、ゲームと教育を掛けあわせたサービスの構築を図ったのである。ターゲットとしては、まだ日本のIT企業が挑戦できていない分野を開拓しようと、自分の好きだった海外に目を向けた。全ての経験が身を結んだと言えよう。高場は世界中で使われるような脳トレを目指し、ブレインウォーズの開発に着手した。

 開発開始から1カ月。高場らの完成させたアプリの完成度は、試作版にしてベンチャーキャピタリストに「すぐ投資させてくれ」と言わしめた程であった。そこから更に4ヶ月の試行錯誤期間を経て、ついに「ブレインウォーズ」が誕生した。

自分が楽しいと思えるものを提供

 トランスリミットという社名は、「Trans(変化する)」と「Limit(限界)」から成り立つ。自分達の限界を決めず、変化し続けることでこれを突破するという思いを込めた。

 従業員の9割はエンジニア。ゲームの基本コンセプトは高場自身によるものだが、実装される機能や豊富なミニゲームなどは皆で意見を出し合い、常にブシュアップされている。「自分で触って楽しいと思るかが重要」と高場が説くように、ゲームシステけでなく音楽や操作感も楽しさを構成する大な要素と捉え、常に改善を繰り返しているのだ。

 また、世界で人気のアプリやサービスにアンテナ張り、良い所は参考にし、悪いところは反面教師して情報を蓄積する。世界的なコンテンツを生み出すため必要なことを常日頃から模索し、限界を決めずに成長を目指す姿勢がそこにはある。

目指すはグーグル

 そんなトランスミットが現在目標としているのは、世界的ゲームアプリ企業スーパーセルだ。ソフトバンクが出資したことでも話題となった彼らがリリースするゲーム「クラッシュ・オブ・クラン」は全世界で5億ダウンロードを突破している。北欧の小国フィンランドに本拠を置き、社員は約150人。そしてリリースしているアプリはたった6つしかない。しかし、創業5年にしてその売り上げは2000億円。単純計算すれば社員一人あたりの売り上げが10数億円にも達するのだから驚きだ。

「スーパーセルのような少数精鋭で最大限のパフォーマンスを発揮する企業を目指す」と豪語する高場。しかし、将来的には現在の事業領域にとらわれずに拡大していきたいという野望を秘める。

 スーパーセルの先に高場が見据えるのは、世界的IT企業グーグル。時価総額45兆円、日本のIT企業上位10社が束になっても敵わない巨人に、若き侍が挑む。

【企業概要】

社名● 株式会社トランスリミット

本社● 〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2-8-7 渋谷道玄坂ビル5階

設立● 2014年1月

資本金● 3億1675万円

(2014年10月時点、資本準備金を含む)

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