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編集長インタビュー

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

編集長がゆく!

視座を高め経営に邁進する/ユーグレナ社長 出雲 充 

「世界から貧困をなくしたい」と高い志を持ち事業に邁進するユーグレナ出雲充社長。物腰も柔らかく誠実さが前面に出ており企業家というよりは「書生」のような清々しい雰囲気が漂う。しかし、一旦「ミドリムシ」のことを話し始めると熱い想いが溢れ出て止まらなくなる。その情熱が様々な逆境を乗り越える原動力となっている。周りにいる人を惹きつける稀有なアントレプレナーの世界観に迫る。           
(聞き手は本誌編集長 徳永健一)

新概念「グリーンリカバリー」

問 2020年はオリンピックイヤーでした。本来ならば海外からのインバウンド観光客も大勢来日すると予想されていました。出雲社長もユーグレナでバイオジェット燃料を開発し、飛行機を飛ばしたいと目標を語っていましたね。

出雲 オリンピックの開会式が7月23日の予定でしたので、私たちもそこに照準を合わせて準備を進めていました。アメリカの認証団体で3回の厳しい試験に受からないとなりません。バイオジェット燃料の認可を取るのは大変厳しいのですが、それも今年の1月末に最終審査を通りました。

 アメリカで認可が取れましたので、それから1週間後に日本の国土交通省にも頑張って頂き合格の通達を頂きました。「日本にもこんなに素晴らしいバイオジェット燃料があるのだぞ」と世界に発信できるチャンスでしたので、オリンピックが延期になってしまったのは少し残念な気がしています。

 しかし、だからと言って気を落としていても仕方ありません。次の機会に向けて準備をしています。

問 昨年末より世界中で新型コロナウイルスの感染が広がっています。経済活動も制約を受け大打撃を受けています。アフターコロナの時代はどうなっていくとお考えですか。

出雲 日本は比較的感染拡大を抑え込めている方だと思いますが、ヨーロッパやアメリカは感染拡大が収まらず大変な惨事になっています。ここから世界は復活しなければならないのですが、今、ヨーロッパで言われているのはコロナではありません。

 政治家や民間の経済人、大学の教授も皆が口を揃えて「グリーンリカバリー(緑の復興)」について議論しています。コロナで経済が落ち込んでしまった訳ですが、コロナ前の元に戻すのではなく、むしろこの機会をきっかけにエコな社会に生まれ変わろうと、EUが決めたのです。

 実際に世界中で渡航制限がありますから航空会社は経営の危機に陥っています。各国の政府が融資を決めたり経営支援に乗り出していますが、その資金は「グリーンリカバリー」に使ってくださいという条件が付いています。経済が復活した際には、バイオジェット燃料を使って二酸化炭素を減らす、新しい航空会社に生まれ変わりなさいという約束になっています。これは何も航空会社だけの話ではなく、持続可能な新しい社会モデルへと移行していく「グリーンリカバリー」の考え方が広まっています。

大企業とのアライアンス

問 これまで日本を代表するような大手企業との事業提携をまとめ、事業を拡大してきましたね。まだ資本力も実績もない中でアライアンスを実現できた理由はどこにあるのでしょうか。

出雲 理由は2つしかないと思っています。1つは私たちの提案がエビデンスベースであること。話している内容が夢やロマンではなく、科学的に正しいかどうかが重要です。大企業の厳しい検証に耐え抜けなければなりませんからね。まず、科学的に正しいかどうかは確認してもらえる訳です。

 2つ目は「情」だと思います。かといって大企業では、夢やロマンだけで面白いからアライアンスを組みましょうとはなりません。必ず先に来るのはエビデンス、つまり「理」に適っているかどうかですが、理屈だけではユーグレナ(和名は「ミドリムシ」)の事業を一緒にしようとはなりません。

「情」と「理」の両方が必要だと思いますが、この順番を間違えてはいけません。交渉中は99%「理」の話をしています。「ユーグレナ(ミドリムシ)には59種類の栄養素があり、人の健康に役立ちます」と製薬会社と打ち合わせをしてきました。最終的に理屈の面では審査を合格しても、ビジネスとして成功するかどうか、リスクがないわけではありませんので、断られることもあります。

問 ユーグレナの可能性について確かな証拠や裏付けが、まず何よりも大切なのですね。新しいモノには皆、懐疑的ですし、素直な反応でしょう。それではエビデンスについてはしっかり証明した後はどうするのですか。

出雲 以前、不思議な体験でしたが、厳しい審査の後、こんなことがありました。

「武田というのは『正直』を大切にしている会社です」と歴史について話をしてくれました。なんでも江戸時代は薬がなく、漢方は金と同じくらい貴重なもので、天秤で重さを量り、本当に金と等価で売っていました。湿っていると重くなりますが、乾かして商売するのが武田なのです。武田薬品が最も大切にしている理念が「正直」で、この理念が共有できないと一緒に事業は出来ないという話でした。

「ユーグレナは科学的に正しくて、培養方法や施設について色々質問したが、正直に回答してくれた」と担当者から言っていただけました。石垣島の工場についても厳しい指摘を何度も頂いたのですが、資金が足りないところはこのように工夫して対応しているなど、すべて正直に受け答えをしてことを評価して頂き、「タケダのユーグレナ 緑の習慣」という商品名で健康補助食品ができました。

 武田薬品は「正直」であることを続けてきた企業なのでお客様に信頼されているのだと思います。その大切な価値観を共有できるかどうかをパートナー選びの際に条件にしています。決断するときの最後は義理人情というか、情けや夢とロマンがポイントになります。この「理」と「情」がピタッと合う会社はそんなに多くはありません。

視座を高め経営に邁進する/ユーグレナ社長 出雲 充 後編

profile 出雲 充(いずも・みつる) 駒場東邦中・高等学校、東京大学農学部卒業後、2002年東京三菱銀行入行。05年ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の食用屋外大量培養に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leaders 、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。日本経済団体連合会審議員会副議長。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)がある。

(企業家倶楽部2020年10月号掲載)

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