MAGAZINE マガジン

【核心インタビュー】

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

編集長がゆく!

小さな進歩を頼りに個として覚醒せよ 後編

小さな進歩を頼りに個として覚醒せよ 後編

(企業家倶楽部2018年1・2月合併号掲載)
(小さな進歩を頼りに個として覚醒せよ 前編)

(聞き手:本誌編集長 徳永健一)

脊髄反射で一歩踏み出す

問 小林会長の軸は何でしょうか。

小林 1に正直であること、2に正直に自分を開示しても恥ずかしくない自分を作ることです。正直な人になるために、思ったことは言葉にするようにしています。

問 そのように思われたきっかけを教えてください。

小林 小学生の頃、父に対して「子どもはどのような性格だと思うか」というアンケートがありました。そこには「正直」と一言書いてあった。この時、私は正直なのだと思いました。今と違い、その頃はいわば「静かな正直」です。

問 小林会長は想いを外に発信している印象が強いですが、自己開示をするようになったのはなぜですか。

小林 母の影響です。母はいわゆる大阪のおばちゃんのような人で、何でも口に出します。母と比べると、自分がカッコ悪く見え、とりあえず母の真似をして口に出してみることにしたのです。

問 今でも将来の理想の姿はありますか。

小林 弊社では全従業員に配布しているレシピという冊子に自分物語を書きます。5年後にどんな自分でありたいかを考えるのです。私は「73歳になっているにもかかわらず、書生のようにまっすぐ正直率直で、無邪気な子供のように笑い怒り悲しむエネルギーとそれを開示する力を持っている」と書きました。

問 小林会長にとっての書生とはどのようなイメージですか。

小林 いつも分からないことをびくびくして怖がりながら、好奇心もある。荒っぽいけど美学を追求しているようなバランスの悪い感じですね。

問 では、今後どんな会社にしたいでしょうか。

小林 レシピには会社物語も書きます。自分物語を持つ人間が集まれば、そこには素敵な会社物語も生まれます。私のレシピには、「書生のように理想を求める若者が物語に入社すると、その若者がプロの根性を備えて創造性・革新性に溢れる人に自然になって、そして面白いことにみんなおしゃべりになる」とあります。

 弊社では毎年、全社員がレシピに書き込みます。言語化することは、頭で思っているだけとは全く異なる。思っていることを言葉にする段階で考えることにも繋がるのです。

問 最後に、これから進むべき道に悩む若者にメッセージをいただければと思います。

小林 不安だと思っているだけで、自分と向き合っていないことはありませんか。向き合うことができれば、言葉に出すか行動に移すはずです。これが意思決定ではないでしょうか。多くの方が、思考と行動を直結する癖がついていません。もし意思決定が出来ないほど煮詰まっているなら、「出来ない」と言うべきです。

 私が小さなことで自己肯定できるようになれたのは、行動し始めたからです。思うだけで行動に移さない人が多く、言葉にさえ出さないことばかり。脊髄反射で行動してしまうくらいでちょうどいいんですよ。

問 新たなことに挑戦するのは勇気が必要です。どうしたら一歩踏み出せますか。

小林 例えば、一度も食べたことがないものを食べたいという人は珍しいですよね。有名な人が勧めているものや非常に高価で特殊なものは例外でも、それ以外は食べたいとなかなか思えない。でも世界に食べている人がいるならば、死ぬことはありません。にもかかわらず、リスクだと思って逃げてしまう。人間はそういうものだと思って進んでいけばいいのではないでしょうか。ただ思う通りにやってみてください。

P R O F I L E

小林佳雄 (こばやし・よしお)

1948年1月生まれ。愛知県出身。慶應義塾大学商学部卒業後、首都圏で洋食・フランス料理店等を展開するコックドール株式会社に入社。2年後、母が経営する株式会社げんじに入社。当時、低迷していた売上げを一気に伸ばし、1980 年、代表取締役社長に就任。1997 年に株式会社げんじを現在の株式会社物語コーポレーションに社名変更。「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」などを全国展開している。第18 回企業家賞受賞。

一覧を見る