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【骨太対談】 竹中平蔵 VS 藤原 洋
日本発の環境エネルギー革命を起こす/慶應義塾大学教授 元参議院議員竹中平蔵 VS インターネット総合研究所 代表取締役所長 藤原 洋
[2009-12-28 01:19:04]
企業家と未来を語る

経済学者で小泉構造改革を支えた竹中平蔵氏と、日本のネット業界を牽引してきたインターネット総合研究所所長の藤原洋氏との対談が実現した。産業革命を起こす科学技術こそが社会発展に繋がる。デジタル情報革命からさらに進化した環境エネルギー革命による新しい未来の姿が見えてきた。企画:徳永健一(本誌副編集長)

次の産業革命は環境エネルギー革命

竹中 科学技術を発掘し、それを実際の利益に結び付けていくプロセスは非常に難しい。しかし藤原さんはまさにそのビジネスモデルを実現しようと挑戦されています。まずは現在の活動や問題意識についてお聞かせ下さい。

藤原 これまでの日本経済は、アメリカやヨーロッパの発明・発見の恩恵を受けて成長してきました。イギリスの産業革命、ドイツでの重化学工業革命、そしてアメリカ発のデジタル情報革命。これらの先進諸国の産業革命に乗ってきた、いわゆる改良技術立国だったのです。日本は実質GDPが1995年から飽和しています。これは日本がオリジナルの発明・発見をしていないからだと思います。

 だから私の問題意識は、日本発の科学技術をビジネスに結び付けていくメカニズムの創設にあります。次の産業革命は環境エネルギー革命だと思っています。そこでナノオプトニクス・エナジーという会社を新たに立ち上げ、現在は環境エネルギーに力を入れています。大学発のオリジナルの技術を社会に提供していきたいのです。産学連携型の企業家でありたいと思っています。

竹中 私が2001年にIT担当大臣を務めていた時から05年の総務大臣の時にかけて、ITの世界は様変わりしました。5年間でここまで激変するのかと思いました。しかしこの間も、日本は新しい技術の変化を十分に消化して、新しい産業、新しいビジネスモデルを生み出してきませんでした。そこが全ての根源だと思います。だからこそ、これからの日本の発展の為には環境エネルギーに注力し、その技術をもっと深めるべきです。地球環境問題は、基本的には「燃やす」ことから起こります。だから燃やさないようにすればいい。その燃やさない分を、ソーラーで代替すればいいのです。

 私はマクロの経済学者なので技術の知識はありませんが、デジタルが様々な革命の鍵になってきたと思います。スマートグリッド(賢い送電網)というのもよく聞かれるようになりましたが、環境エネルギー革命は具体的にどのような形で起こるのでしょう。藤原さんがやっておられる環境エネルギーベンチャーは一体どんなものですか。

藤原 「燃やさない」というのは重要で、地球温暖化の危機を唱えノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア氏は、一刻も早く火力発電所を再生可能エネルギーに100%転換するべきだと言っています。

 そのためにはスマートグリッド、つまりITとエネルギーが融合された仕組みが必要です。今までのエネルギーというのは、電力会社が持っている発電所から一方向に流れていました。再生可能エネルギーに転換されれば、双方向の国民総発電の世界になります。今まで一方向だった電力網が双方向になるのです。その目指すネットワークはITのようなものです。デジタル情報革命と同じようなことがエネルギーの世界で起こらざるをえないと思っております。

 例えば、データセンターに情報を蓄積するITと同様に、企業や家庭の空いている土地や屋根で発電され、送電される太陽光エネルギーも、どこかの蓄電所に貯めておきます。太陽光は昼間しか発電できないため、どの発電所にどれくらい電力が貯まっているのか、リアルタイムに情報交換できるようにすることが必要です。

 ナノオプトニクス・エナジーが行っている事業の中で、直流超伝導送電・蓄電システムの研究開発があります。現在の配電網は交流で電気抵抗があるため、かなりロスが多い。この直流超伝導送電が実現すれば現在の4分の3近くのロスが削減できます。送電距離が300キロを超えると交流送電よりも直流送電のほうが高効率・低コストなのです。また、超伝導送電にするとジュール損失(電気抵抗の物体に電流を流したときに発生する熱による損失)がゼロになるため、大電流での送電が可能になります。地球規模での送電も夢ではなくなります。電気抵抗ゼロの超伝導送電ができれば、電力を磁気エネルギーにして貯蔵する蓄電システムをつくることも可能になります。これは世界で初めての技術で、近々200メートル送電ができるようになります。2000キロくらいになれば、電力の全国縦断が出来るようになります。例えば北海道の余った電力を九州へ売ることも将来可能になります。まさに全国縦断の超伝導バックボーンができるわけです。

竹中 すごいですね。それができるなら国際的にも活用できそうです。その実現のためには何が課題ですか。

藤原 太陽光発電にかかるコストが非常に高い。何らかの法制度改革が必要だと思います。環境エネルギーは政策との連携が非常に大きいのです。また実際にネットワークを持っているのは電力会社ですので電送路の開放が必要ですが、これは通信以上に障壁が高いと思います。


科学技術の種は学術研究にある

竹中 私が政府の中にいた人間としていつも考えるのは、このような仕事は官の仕事なのか民の仕事なのかということです。国がやっていくというのも一つの姿ですが、官はあまり目利きの能力がありません。もちろん民間が行う場合は、研究開発に先行投資が要りますから、何らかの国の支えが必要になります。

藤原 本当の科学技術のシーズは学術研究の中にあります。そのため先進国の科学技術研究は、国が丸抱えより産学連携の方がいいと私は思っています。それが私の仕事なのです。「学」では世界の競争の中でも、世界初を実現できています。太陽電池もリチウムイオン電池も、燃料電池も日本人の発明です。しかし、問題は「産」です。日本の今までの産業は歴史的に見るとキャッチアップ型で、産業革命を担っていなかったため、そのような技術をシステム化するのが下手なのです。自動車のオリジナルはドイツで、量産はフォードでした。日本が発明したのは、バックミラーの折りたたみぐらいです。自動車の基本構造は発明していません。

 しかし、電気自動車は日本の大学でもかなり研究・発明が進んでいます。慶應義塾大学と30社以上の企業から成る研究チームが開発した電気自動車Eliica(エリーカ)は最高時速370kmで、世界最高の加速性能を持つことで一躍注目を浴びました。私も試乗して「これなら世界で勝てる」と思い、エリーカ技術をメーカーに提供するSIM Dive(シムドライブ、清水浩社長)に出資しました。上手く産業化できるように、我々が力を入れていきます。シムドライブには資金だけでなく人間も送り込んで、出来上がったものを量産してビジネスにしようと考えています。ただ自動車会社と同じようなことをするつもりはなくて、新しいオープンアーキテクチャの電気自動車サービス業というものを考えています。

竹中 すごく面白いと思います。知的付加価値を売るということですよね。そのようなビジネスをやっていくうえでどのような人物を求められますか。

藤原 今必要なのは、技術の本質を理解し、事業化するということに興味がある人、才能のある人です。技術の本質というのは、何をインプットして何をアウトプットするか。この技術は何に使えるかなどが分かる人材が求められています。それは別に科学者である必要もないし、技術者である必要も無いのです。

竹中 よく問題点として指摘されるのは、最初の事業立ち上げの資金が集まらないことです。また、経営の基礎の部分ができていなくて潰れてしまうベンチャー企業も多くあります。ビジネスを立ち上げる上で、藤原さんが一番重要な条件として挙げるとすれば、技術の本質がわかる人ということになるでしょうか。

藤原 そうですね。あと立ち上げにかかる資金も大切です。しかし今の日本の金融機関や投資家はほとんど投資しません。黒字になってからでないと出してくれませんからね。

竹中 そのような金融機能が日本社会には根本的に欠けています。

藤原 ベンチャーキャピタルでさえ、「黒字ですか」と聞きますから。

竹中 最初は先行投資と考えられないのでしょうか。日本は事業を立ち上げるのに非常に難しい環境ですね。2011年にアナログ放送が停止され、全国で完全デジタル化を迎えます。日本は他の国に先がけてユニバーサルサービスができる国になるのです。これは新しいライフスタイルの提案です。新しいライフスタイルが提案されるとき、新しいビジネスが立ち上がっていきます。そういう新しいデジタルなライフスタイルの中で、環境エネルギーに興味を持たれたきっかけは何ですか。

藤原 ITが地球環境問題を引き起こしているという事実があります。グーグルのデータセンターは原子力発電所一基ほどのエネルギーを使います。日本のブロードバンドトラフィックも、指数関数的に増えています。高速のコンピューターは非常に高い電力を消費するので、データセンターの負担がどんどん上がります。経産省で計算したところ、2050年に約半分の電力消費はITになるという予測が出ました。クラウドコンピューティングなどのITの流れは発熱源になり、地球環境をさらに悪化させてしまうのです。そのため、私は環境エネルギーに興味を持ちました。

科学技術や研究が国力の源泉

竹中 先程のお話にもありましたが、日本の大学の研究能力の高さは期待していいと思います。しかし、事業仕分けで科学技術予算がどんどん減らされるというのが問題になりました。私が所長を務めるグローバルセキュリティ研究所では、バイオテロの研究も行っています。日本の今のバイオテロの研究資金はアメリカの100分の1以下であったのに、それをさらに半分に減らされてしまったという話を聞きました。

 割り当てられた予算を全て無駄なく使っていたかというとそうではないと思います。ただ、事業仕分けをするには並でない力量と目利きの能力が必要なのです。それは官だけでは補えないでしょう。民主党は無駄を削る目的で事業仕分けをしたというけれども、あれは子ども手当てというより大きな無駄をつくるために、やっているようなものです。小さな無駄を削って、大きな無駄をつくっている。自民党的無駄を削って、民主党的無駄をつくっているのです。本当に今そのような状況下で日本の予算の使い方というのはますます歪んでいます。

藤原 科学技術の研究費は国力の源泉ですから、削るというのはそもそもおかしいです。ただ意味のあることをやっているかというのはまた別の問題で、日本の場合、事業などを評価する仕組みがきちんとできていないのが問題なのです。考え方に思想がないままでは、一律に削れという話にある通り、せっかくの良いものも見境なく削られてしまうでしょう。

経済成長している国から活力を取り込む

竹中 リーマンショック前の数字ですけれども、世界の4.4パーセントの経済成長のうちの半分はBRICsがもたらしています。4.4パーセントのうち、日米欧がもたらしたのはたったの0.9パーセントでした。今はもっと極端になっています。だから日本は中小企業も含めて、成長する活力はどういうところにあるのか、ぜひ新興国とネットワークを構築してどんどん取り込んで欲しいものです。

藤原 やはり経済成長しているところと連携を深めるべきですよね。昔はアメリカだったけれども。

竹中 おっしゃるとおり。日本が世界の活力を取り込み、新しい時代を築いていくべきでしょう。

竹中平蔵(たけなか・へいぞう)1951年和歌山県生まれ。73年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。2006年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。

藤原 洋(ふじわら・ひろし)1954年生まれ。77年、京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒業。日本IBM、日立エンジニアリングを経て85年、アスキー入社。96年、インターネット総合研究所(IRI)を設立、代表取締役所長に就任。99年、東京証券取引所マザーズ市場に上場。2000年、第2回企業家賞を受賞。05年6月に子会社のIRIユビテックを、8月にブロードバンドタワーをヘラクレスに上場させる。07年6月、IRIがオリックスの完全子会社となる株式交換契約を締結。現在、ナノオプトニクス・エナジーの代表取締役も務める。
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