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【北尾吉孝の経営道場3】グローバル戦略は天の時を得て一気呵成に展開する
SBIホールディングス 代表取締役執行役員CEO
[2008-10-03 15:24:00.0]
北尾吉孝の経営道場3 SBIホールディングス 代表取締役執行役員CEO 北尾吉孝 氏YOSHITAKA KITAO グローバル戦略は天の時を得て一気呵成に展開する 経営道場の第1回では、経営者の資質が企業の成長性を決めると述べた。(http://kigyoka.com/kigyoka/public/news/news.jsp?id=879 ) 第2回では、リーダーに必要な心得を身につけるために、中国古典を読み資質を磨かなければならないと説いた。(http://kigyoka.com/kigyoka/public/article/article.jsp?id=2161 ) 第3回となる今回は、事業戦略を立案する上でのポイントについて語る。 事業領域の成長を考える 事業をスタートさせる際には、事業領域を明確に定め、そのマーケットが伸びていくのか、そしてそのマーケットの中でシェアを取っていけるのかを考えなくてはなりません。これは、戦略を立てる上で必須となります。 私の場合は、事業領域をインターネット金融業としました。日本人は、株を持つことが少なく、預貯金が個人資産の約51%程度を占めています。これらの資産が流動化されネットを通じて流通されれば、ネット金融業は必ず伸びていくと思いました。ネットの強みは、圧倒的にコストが安いことであります。なぜなら、人を雇う必要がないため、人件費がかからない。さらにそれゆえに不動産費がかからないからです。 一般的な対面型の証券会社は、高い不動産費をかけ、県庁所在地のような中心地にオフィスを設け、高額の給料を支払って人材を雇い、証券業を進めます。しかし、当社は、人件費・不動産費がかからないことから、手数料を大幅に引き下げることができたのです。ただ、手数料が固定されていた時代には、現在の商売はできませんでした。1996年に故橋本龍太郎内閣が金融システム改革に踏み切り、いわゆる「金融ビックバン構想」を打ち出し、1999年より手数料が完全自由化されたことで、可能になったのです。 天の時を得る グローバル戦略を打ち立てる場合、用意周到に進めながら、タイミングをしっかりと考えなければなりません。つまり、「天の時」を得ることが大切です。 私が、一気呵成にグローバル戦略を推進する契機となったのは、2005年に国際収支統計データを見た時です。それまでの日本は、原材料を輸入し、加工して付加価値を付け、海外に輸出するいわゆる加工貿易を中心とした貿易立国でした。しかし、2005年の日本の国際収支統計データを見ると、貿易収支を所得収支が上回るという結果が初めて出ていました。つまり、海外からの利子・配当所得のほうが大きくなってしまったということです。それは、貿易立国の終焉を意味します。当然、世界の工場としての地位は経済成長が著しい中国等のBRICsに奪われていきます。ですから、私は今すぐに手を打ち、一気呵成に海外展開をしようと思いました。 そこで、2005年5月には、シンガポールの政府系投資会社TEMASEKと共同で「NewHorizonFund」を設立しました。また、アジアを中心とした地域・企業への投資を本格化させるため、2007年2月に海外への投資拠点としてシンガポールにSBIVenCapitalを設立しました。中国においても、清華大学及び北京大学の両グループと共同でファンドを設立しました。 現在、私たちは「日本のSBIから世界のSBIへ」という標語を掲げ、ビジョンのひとつとして、2013年3月期までに営業利益の2分の1を海外で獲得するグローバル企業への転換を目指しています。 ゴールドマン・サックスがまとめた2050年の経済規模(GDP)予測データというものがあります。それによるとGDPの数値は、中国が44・5兆ドルで世界のトップとなっています。アメリカは35・2兆ドル、インドは27・8兆ドル、日本はたった6.7兆ドルと出遅れています。 我々が2005年に海外に出て行かず、日本のマーケットだけでビジネスを展開していたら、現在のSBIはなかったと思います。2005年は、日本の経済の転換点だったと思っています。 経営トップ自ら動く 海外の市場は、ある意味で未知でした。私は、未知のことを始める場合には、自分だけで進めようとするとうまくいくはずがないと思いました。人任せにせず、経営トップである自らが動き、現地の良きパートナーをさまざまな地域で募りました。パートナーを説得するためには、必ず経営トップ自らが動くべきです。 海外展開ではトップを現地の優秀な人材にするべき 一気呵成に海外展開をするためには、現地トップを海外の優秀な人材にするべきです。グローバルな発想かつグローバルに情報を集めて展開させなければなりません。日本人がトップに立ち、海外で事業を進めようとしても、現地での人脈もなく、人材の不足に頭を悩ませることになります。また、風土や文化の違いも問題となります。人種的な偏見を持たず、トップを現地の人材にすることで、人脈が広がり、良い人材を獲得しやすくなります。 私は海外で10年間過ごしましたが、そこでの生活を通して学んだことは、髪の色や肌の色が異なっても、人間性は全く変わらないということです。人間として生まれてきた以上は、喜怒哀楽は一緒です。人間としての根幹が同じだと思うことは、相手の考えを理解しようとすることにつながります。 量質転化の法則 ドイツの哲学者ヘーゲルが説いた量質転化の法則をもとに事業展開をしました。中国の毛沢東も「量の蓄積が質を規定する」と言っていましたが、量というのはとても大切なのです。 私たちは、ネット証券会社のなかで勝ち抜いていくために、収益を犠牲にしてでも、できるだけ手数料を下げ、量を追求する、すなわちお客様の数を増やすことに注力しました。そして、お客様の数が増えたことにより、例えば、お客様の商品ニーズも多様になり、それに応えるように我々も商品を多様化していきました。商品の質も改善し続けたことにより、今度は量の増大にもつながったのです。このような好循環がいろんなところで生み出され、口座数は他社と比べものにならないほどになっております。ヘーゲルの哲学など、事業に関係ないと思われがちですが、実際は非常に重要なのです。 哲学は人間とその社会を対象にしており、人間社会をどのように生き抜いていくのかを考えるために必要な学問なのです。 シナジーの追求 シナジーとは、経営戦略において、事業や経営資源を適切に結合することによって生まれる相乗効果のことです。シナジーを追求することは、事業を進めていく上で大切なキーワードとなります。 私は、ネットの世界にネット証券を作り、そのお客様にネット銀行を紹介していくことができるだろうと推論し、シナジーを追求しました。例えば、ネット証券のSBI証券では、ネット銀行を設立する以前では、お客様からご入金頂いた余裕資金を自動的に野村證券のMRF(証券総合口座専用の投資信託のこと)で運用し、そうした資金を寝かせることなくお客様のために効率的に運用できるようにしていました。しかし、昨年9月にネット銀行をつくって以来、その資金を銀行で運用するようにしたのです。ネット証券会社とネット銀行を作ることで、お客様のお金が相互に自由に移動することが可能になりました。 多彩な構成企業が相互進化し、そのシナジーを発揮する組織的優位性を生み出す仕組みを、私は「企業生態系」と呼んでいます。このようなシステムをつくることが、勝利への道ではないかと思います。ですから私たちは、SBIを創業してまもなくグループ内に40社以上の会社を設立しました。そして非常に短期間でその中から10社の株式上場を果たしたのです。 自問自答 ビジョンを現実のものとするためには、戦略が基本となりますが、戦略とは経営者自身の自問自答の結果生まれてくるものです。戦略に納得がいくかどうか、そしてそれを証明する根拠があるかどうかと自問自答を繰り返すことで、より大きな戦略になります。 全体戦略と部分戦略 全体戦略は、グループ一丸となっての一つの戦略です。自分が拠って立つマーケットがどういう性質かという点をしっかりと認識し、全体戦略を考えなければいけません。そのためにはまず、自分の分野を徹底的に勉強して、色んな知識を吸収するべきです。 私たちの全体戦略の一つは、ベンチャーキャピタル(VC)に力をいれることです。当初、我々のベンチャーキャピタルは、日本のネット産業を作る一助となるため、ネットの会社に投資することを主たる目的として出発しました。ネット産業全体が潤うことによって、私たちの領域も潤うはずだと思ったのです。また、投資した会社から得たノウハウやエクスパティーズ(専門的知識)を、会社を設立したりそれらを育成するために活用してきました。 部分戦略としては、証券業、銀行業とそれぞれの業種の特性を踏まえた上で、どういう戦略を打ち出すべきかを考えるわけです。 全体戦略と部分戦略を考える際に、1つ注意すべきことがあります。事業は、全て同時並行して攻めることです。試しにやってみたことがうまくいかなければ、違うことに挑戦するという姿勢では、会社は潰れます。全て同時並行的にやるべきです。 21世紀の中核的産業の創造 これから起業する方は、日本においての21世紀の中核的産業を創造していただきたいと思います。脱工業化社会に向けた新しい産業を日本で作らなくてはならないと感じるからです。例えば日本は60年代の高度成長期に深刻な公害問題が発生しました。そのため、人一倍の努力をして、世界に先駆けた様々な技術を生みだし、省エネにこだわりました。ですから、その技術の根を生かして世界に貢献するようなものを作りあげていくことが、今後の日本に課された課題だと思います。 SBI大学院大学 2008年4月にSBI大学院大学を開校しました。中国古典を中心とした人間学を柱のひとつとして、日本および世界の経済・社会に活力をもたらす「有為な人材」を育成することを教育の主眼としています。企業家育成はもとより、企業における経営幹部、後継者を目指す人が「何をどのように身につけるべきか」「経営者として、世界に羽ばたく企業を構築するには、どうすればよいか」といった問題について考えを深め、議論していく場を提供していきたいと考えております。 私は、アメリカの資本主義時代はひとつの節目を向かえ、アジア圏がもう一度花咲く時代がくると思います。かつて、文明が中国黄河やインドのインダス河流域にできたような時代と同じく、アジアが世界の中心になるでしょう。その時の人間としての考え方や道徳の基本は、中国古典の人間学になると思います。 P r o f i l e 北尾吉孝 (きたお・よしたか) 1951年兵庫県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村証券入社。78年英国ケンブリッジ大学経済学部卒。87年第二事業法人部次長。91年野村企業情報取締役(兼務)。92年野村証券事業法人三部長。95年ソフトバンク入社、常務取締役管理本部長に就任。99年ソフトバンク・ファイナンス社長。現在、SBIホールディングス代表取締役執行役員CEO。SBIホールディングスは、子会社にベンチャーキャピタルのS BIインベストメント、オンライン証券のSBI証券などを展開する総合金融グループとして躍進を続ける。
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