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テイクアンドギヴ・ニーズ会長 野尻佳孝氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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「ブティックホテルで日本のホテル業界にイノベーションを」

5月中旬、集まった記者団を前に「ブティックホテルで日本のホテル業界を革新する」と高らかに宣言したテイクアンドギヴ・ニーズ(以下T&G)会長の野尻佳孝氏。会場は自らが興したブティックホテルである「TRUNK(HOTEL)以下トランクホテル」のバンケットルームである。野尻氏といえば、日本にハウスウェディングという新しいウェディングスタイルを創造、ウェディング業界に革新を起こした革命児として名高い。その野尻氏が今度はホテルで業界に激震を興そうというのだ。

熱く想いを語る野尻佳孝会長

2015年、絶好調のT&Gを今の岩瀬賢治社長に任せ、表舞台から姿を消したかのように思われた野尻氏。自らはT&Gの会長として次の戦略商品である理想のホテル探求に没頭、ホテル業界参入の機会を狙っていた。
そして誕生したのが2017年、渋谷駅から少し離れた隠れ家のようなブティックホテル「トランクホテル」である。 次世代のホテルとして、野尻氏の想いが結集したトランクホテルは、海外で高く評価され、宿泊客のほとんどは欧米を中心とした外国人という。勿論ここはウェディングも大人気で、「今を生きる自分たちらしい結婚式を挙げたい」と望む個性派カップルで予約が.埋まっている。

トランクホテル神宮前 (2017年、ブティックホテル第一号店として東京都渋谷区神宮前にオープン)


日本に「ブティックホテル」を
「ブティックホテルで日本のホテル業界に新市場を創造したい」と息巻く野尻会長だが、ブティックホテルとはどんなものなのか。
「ブティックホテルとは、ユニークなコンセプトや独自のデザイン、高いクリエイティビティをセールスポイントに持つ、高価格帯のホテルです。一貫したコンセプトを持ち、徹底したクリエイティブのこだわりがあり、マニュアル型のサービススタイルは持っていない」と野尻会長。
 そしてさらに説明を加えた。
消費の多様化とともに旅や宿泊スタイルが多様化、世界のホテル市場は変化している。従来は高価格なホテルがラグジュアリーとされていたが、現在は価格帯ではなく、顧客のライフスタイルや価値観を軸に、広く多様化が進んでいる。
図1のようにラグジュアリー領域は「トラディショナル」「ノーム」「エッジー」「ディスラプティブ」という大きく4つのカテゴリーに定義できる。トレンドの先端にいる、振り切った刺激や体験を追い求める顧客層に向けて、海外で増加しているのがブティックホテルである。

【図1(拡大)

ライフスタイルの多様化に伴い、従来型のマニュアルで縛られたホテルを退屈で窮屈と感じる層が増加。「自分のスタイルやこだわり」に応えてくれるクリエイティビティの高い、唯一無二のホテルが求められている。
「シリコンバレーの新富裕層たちはカンファランス等で集まることが多いが、彼らはTシャツにパンツというラフなスタイル。いわゆるラグジュアリーホテルでは居心地が悪い。そこで生み出されたのがブティックホテルです」とわかりやすい事例を挙げた。
しかし日本のホテル市場は世界のトレンドと大きく乖離し、多様化が進んでいない。付加価値づくりが苦手で、ADR(平均客室単価)が低く、労働環境も良くないなどさまざまな課題を抱えていると分析する野尻。 
「だからこそ我々が日本にブティックホテル市場を創造、ホテル業界にイノベーションを起こす」と声高く宣言した。

トランクホテルのコンセプトは「ソーシャライジング」
トランクホテルは、「環境」「ローカル優先主義」「多様性」「健康」「文化」という5つのカテゴリーに注力。「一人ひとり日々のライフスタイルの中で、自分らしく、無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活すること」という「ソーシャライジング」をコンセプトに掲げている。
ホテルの内装やデザイン・インテリア、アメニティやミニバー。ストアで購入できる商品に至るまで、ソーシャライジングを体感できる様々な仕掛けを用意している。
「“誰かのために” “何かのために”なりたい」、という想いを持つ、今を生きる人々のためのホテルであり、新しい社会貢献スタイル「ソーシャライジング」の発信拠点となっている。そしてここから“ソーシャライジング”のムーブメントが広がり、今や「地域を巻き込むホテル創り」を実現、新しい付加価値を創出している。

「ソーシャライジング」をコンセプトに掲げるトランクホテル1階のBAR

富ヶ谷、道玄坂と神戸にブティックホテルを新規オープン
トランクホテルは海外のアワードを数多く受賞するなど高く評価されている。この成功を踏まえ、野尻は本格的に日本にブティックホテル市場を創る作戦に入った。すでに3軒が決定している。
2023年に渋谷・富ヶ谷に「TRUNK(HOTEL)YOYOGI PARK」をオープン予定だ。
2027年には渋谷・道玄坂に、神戸三宮にEVOL HOTEL KOBEを出店する計画だ。今後は現在展開しているTRUNK(HOTELに「EVOL HOTEL(仮称)」を加え、2ブランドで展開予定という。


2023年渋谷・富ヶ谷に開業予定の「TRUNK(HOTEL)YOYOGI PARK
ホテルの最上階の部屋やプールからは「代々木公園」を一望できる


2027年頃開業予定の TRUNK(HOTEL)DOGENZAKA
澁谷道玄坂で“上質な渋谷のカオス”を堪能できる

2027年頃神戸三宮駅前に開業予定のEVOL HOTEL KOBE
駅直結の複合施設内の神戸初ラグジュアリーブティックホテル

大手ファンドとパートナーシップ方式で
今決まっている3つのホテルだけでなく、今後全国展開する予定だが、ファンドとパートナーシップを結び、土地建物を含む資産の取得、施設のM&Aなどはファンドが担い、施設の企画運営をT&Gが受託するというスキームで展開する考えだ。日本では星野リゾートが同様の方式でホテルを展開している。
「今後は宿泊機能付きレジャー施設の運営など、広く展開していく。今はファンド名を公表することができないが、誰もが知る大手ファンド」と含みを持たせた野尻。そこには並々ならぬ決意が見て取れた。
多くの雇用を生み出す観光産業の復活こそがアフターコロナの経済復活を左右すると言っても過言ではない。特に日本では今後のインバウンド需要が期待される。
 野尻会長が考えるブティックホテルが日本にどう浸透するのか。日本のホテル業界をどう革新しリーディングカンパニーになるのか。久しぶりに表舞台に登場、熱く語る野尻会長のチャレンジ魂と辣腕に期待したい。(三浦)

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