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トピックス -企業家倶楽部

2012年05月28日

スタートトゥデイの21世紀戦略/アパレルのネット販売で世界中をカッコよくする

企業家倶楽部2009年1・2月号特集第1部


インターネット業界にまた一つ新星が現れた。ZOZORESORT(ゾゾリゾート)で人気急上昇のアパレル電子商取引(EC)企業のスタートトゥデイ。会社設立10年で100億円企業に成長、ファッション商品はネットで売れないという常識を覆した。社長の前澤友作は「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」を企業理念に掲げ、やわらかく、しなやかにZOZOファンを増やし続けている。若者にライフスタイルを問う新星はニューヒーローの誕生を予感させる。 (文中敬称略)



■バンド活動で若者の圧倒的支持

ライトがまぶしい。エレキギターの音が耳をつんざく。ドラムの爆発音が肺腑をえぐる。ロックバンドの演奏が始まった途端に聴衆は待ちかねたように踊り狂う。
 
 08年12月初旬、東京・渋谷のコンサートホール。約1000名の若者が詰めかけた。10年振りに実現した前澤たちのバンド「SWITCH STYLE」(スイッチスタイル)の演奏を聞くためだ。若者たちは10年間のたまりにたまったエネルギーを一気に爆発させた。
 

「みんな遠慮なくステージに上がって来てくれ。そこから観客先に飛び込んでもいい。その代わりみんな支え合ってくれ。いいね、支え合うんだよ!」。バンドボーカルが演奏の合い間に聴衆に語り掛ける。その声に促されて、ステージ上の若者たちは次から次に聴衆の中にダイビングする。まるで稚魚の群れが海中を泳ぎ回るように踊り狂う。
 

 約40分間の熱狂。その間、前澤はステージ中央でドラムを叩き続けた。演奏が終わった。熱狂の余韻が漂う中で、ボーカルが前澤に何か挨拶をと促した。前澤は照れくさそうに笑いながら聴衆に向かってダイビング、みんなに支えられて再びステージに戻った。前澤とスタートトゥデイはこうした若者の圧倒的な支持を受けて急成長してきた。1998年5月に有限会社スタート・トゥデイを設立(2000年に株式会社スタートトゥデイへ変更)、本格的に企業活動を始め、7年後の2005年3月期には売上高18億円、07年12月、マザーズ市場に株式上場、鮮烈なデビューをはたした。09年3月期には売上高104億円(前期比21・1%増)、経常利益20億8000万円(同20・6%増)を達成する見通しで、ヤフー、楽天に続くオンラインショッピングの新星としてにわかに注目され始めている。
 

 なぜ、スタートトゥデイは若者の支持を得たのか。同社の目指すものは何か。それを知るには、前澤の生い立ちからひも解くのが早道だろう。1975年11月22日、千葉県鎌ヶ谷市に生まれた。小学校の時は跳び箱が得意な腕白少年。中学校はロックなど音楽に没頭する悪ガキ。高校は進学校の早稲田実業に進んだ。


■バンド活動で若者の圧倒的支持

■ミュージシャンと企業家の二束のわらじ

そのまま順調に行けば、早稲田大学に進学し、前途洋々の将来が待っていた。ところが、高校2年の時、登校拒否になる。理由は「通学途中に出会うサラ リーマンの表情を見て、人生に疑問を持った」。大学進学をやめ、ミュージシャンを目指し、高校卒業と同時に渡米し、メジャーデビューを探った。
 

  そこで、日本では売っていないCDを発見、CDの輸入販売を始める。企業家前澤友作の誕生である。20歳の時である。CDは飛ぶように売れた。前 澤の自宅は倉庫兼事務所となり、CDの山がうず高く積まれた。そのうちアパレルも売るようになった。3年後の98年にはカタログ販売高は年間8000万円 に達した。98年5月には好きな米国のバンド、ゴリラ・ビスケッツの曲「スタートトゥデイ」を社名にそのまま拝借し、会社組織に衣替えした。
 

  しかし、2万部のカタログ製作には、時間とコストがかかる。そこで2000年にはネット通販に切り替えた。そのころ、BMGから念願のメジャーデ ビューを果たした。ミュージシャンと企業家の二束のわらじである。レコーディングに1カ月、CDを発売して全国にコンサートに出かけると1カ月。1年のう ち3-4カ月をバンド活動に費やすことになる。前澤にとってはビジネスもバンド活動も面白かった。夢中になって二つの夢を追いかけた。



■企業家専念の決断

ところが、01年3月ごろ、“大事件“が起きた。スタートトゥデイのスタッフ14人のうち10人が次々に辞めて行った。「社長と専務がバンド活動にかまけていて、俺たちは仕事に追われている」と不満が爆発したのだ。企業存続の危機である。前澤は音楽をるか、ビジネスを取るかの決断を迫られた。  前澤の決断は早かった。会社経営に専念することにした。「どちらが楽しいかと考たら、会社経営の方が楽しいと思った。会社には無限の可能性があるのに対し、音楽には先が見えていた」と判断したのである。
 

 振り返ってみると、前澤は小さい頃から何か仕組みを作ったり、仕掛けを作るのが好きだった。パチンコ台を作り、上から玉を落とすと、どんな風に玉が落ちて行くかを飽きずに眺めていた。そんな少年時代を思い出して、ウェブサイトの制作にも独学で取り組んだ。ZOZOTOWN(ゾゾタウン)も前澤が発案した。ちなみにZOZOというのは想像(SOZO)と創造(SOZO)を組み合わせたネーミングである。親しみやすく、ワクワク感のある、新しいオンラインショッピングサイトが完成した。04年のことである。




■ユナイテッドアローズとの出会い

しかし、面白いサイト、ワクワクするサイトなら、ほかに幾つもある。そこで天は前澤にある人物との出会いを用意していた。ユナイテッドアローズ会長の重松理(おさむ)である。ユナイテッドアローズはセレクトショップを代表する企業だ。その重松が社員たちと食事をする機会があった。その中にスタートトゥデイの社員の妻がいて、スタートトゥデイが話題になった。ネット販売に関心を持ち始めていた重松はスタートトゥデイのサイトのURLを教えてもらい、その夜サイトを見て、驚いた。使いやすく、ファッション性に富み、自分が求めていたアパレル販売のサイトがそこにあったからだ。
 

 さっそく、重松はスタートトゥデイを訪問した。本社の佇まい、社員の接客態度、いす机などの調度品、さらには前澤の笑顔。そのすべてが重松の感性にマッチした。「この会社ならわが社のブランドを守って、商品を売ってくれそうだ」と重松は直感した。訪問の数日後、前澤がユナイテッドアローズとの提携プランを持って現われた。重松はZOZOTOWNに自社製品を展示することを承諾した。
 

 ユナイテッドアローズのサイト出店の影響は絶大だった。ビームス、シップスなど他の有名ブランドが次々に参加した。今では680ブランドを集めたファッション中心の街を形成している。有名ブランドが入居したことで、売り上げは急拡大、05年3月期約18億円、06年3月期約34億円、07年3月期約60億円、08年3月期約86億円と毎年倍々ゲームの勢いで伸びている。
 

 中高年の読者のためにZOZORESORTをご案内しよう。ZOZORESORTは上図のように買う、集まる、聞くなどをテーマにしたサイト群から成っており、中核サイトがZOZOTOWN。トップページの上部に町並みがあり、人が歩いている。その一人をクリックすると、その人の情報発進サイトに入る。ZOZOPEOPLE(ゾゾピープル)という情報発信サービスだ。そこにはアパレル業界の著名人やファッションに興味のある若者がブログを書いたりコメントを投稿している。
 

 アパレルがウェブサイトで売れるか、という素朴な疑問があるが、最近の若者は自分のサイズ、ブランドを熟知しており、サイトで商品、サイズ、価格を見ただけで購入する。地方の人も東京の有名ブランド商品をその場で購入できるので便利だ。リアルの店に行って、品切れで買えないということもない。
 

 工夫も凝らしている。ZOZOTOWNには「先行予約会」というページがあり、買い求めたい商品を予約することが出来る。これによって、スタートトゥデイは売れ残りを防ぐことが可能。また「昨日の売り上げランキング」というコーナーもあり、昨日最も売れたアパレルベスト5が挙げられており、買い物の楽しさを演出している。こうした工夫が人気を呼び、ユーザー数は08年秋に100万人を突破した。



■企業理念は世界中をカッコよく世界中に笑顔を

スタートトゥデイの企業理念は「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」である。社員のベクトルを合わせるために、企業理念が必要になり、前澤が会 社経営の意味を問い直した結果、現在の内容に行きついた。服を通じて人 がコミュニケーションし、カッコよくなり、笑顔になってほしいとの願いが込められ ている。
 
 高校に通学していた時、満員電車の中でサラリーマンはしかめ面をしていた。通勤電車の中は最高の社交場のはず。それがみんな 黙り込んで、苦しそうに通勤している。「何かが違うぞ」と前澤は思い、大学進学への道を疑った。「通勤電車の中で、みんなが思い思いの服を着て、自慢し合 えば、笑顔になる」と前澤は提案する。そのためには東京一極集中を解消しなければならない。前澤が千葉県幕張に執着する理由はそこにある。「幕張は、道は 広いし、人ごみがない。空気もきれいで、東京にも30分で行く」と礼賛する。
 
 ややメルヘンチックな企業理念を掲げる前澤はこれまでの IT企業家とは少し異なる。たとえば、ソフトバンク社長の孫正義デジタル情報革命の旗印の元、壮大なビジョンを掲げて、グローバル企業への道を真っしぐら に進んでいる。これに対し、前澤はグローバル化そのものに懐疑的だ。グローバル経済は格差を拡大する、という。「金融資本主義は本来ないものを無理に創り 出し、取り合う。そしてグローバル化がそれを加速する」と非難する。グーグル、ヤフー、楽天などの先発企業が世界に勢力を拡大、量の経営を追求するのに対 し、スタートトゥデイは自然体で量より質の経営を目指している。
 
 ZOZORESORTのサイトはどこかのんびりしており、手づくり感がある。人々の息づかいが感じられる。前澤はZOZORESORTを通じて、人々のライフスタイル、価値観を変え、人々に人間の幸福とは何かを問うているような気がする。



■企業家賞での型破りの挨拶

そう感じさせるのは、08年7月11日に開かれた第10回企業家賞授賞式での前澤の受賞の挨拶であった。型通りな受賞の礼を述べたあと、突然、秋葉原事件について語り始めた。前澤は事件のあった6月8日午後1時半ごろ偶然、東京・秋葉原を訪れた。秋葉原は騒然としていた。現場には、血生臭い凄惨な事件の雰囲気が漂い、前澤に襲いかかってきた。犠牲者への哀悼の念を抱くと同時に、凶行に走った犯人の孤独を思った。
 
「6月に起きた秋葉原無差別殺傷事件の日、僕は事件の1時間ほどあとに秋葉原にいました。その時の光景は今思い出しても涙が出そうです。またピースサインをしながら事件現場を撮影し、写メールを送っている若者の姿も悲しく、複雑でした。あの事件の容疑者は25歳。うちの社員の平均年齢と同じです。不謹慎かもしれませんが、もしあの容疑者がうちのスタッフだったら事件は起こさなかったかもしれない。会社は社会そのものです。だから僕はきちんと真正面から向き合って会社をやっていきたい。うわずみで利益のみ抽出するのではなく、不器用にゆっくり仕事をする人とも向き合い、そういう人達が活躍できる会社にしていきたい」
 
 最初、おどけた挨拶をして、会場を笑わせた前澤が一転、シリアスな話題に転じ、忙しい日々の中で忘れがちな事柄を聴衆の前に提示した。しかし、その語りは率直で、会場の共感を呼んだ。半ズボン姿のカジュアルな服装で受賞した若者がただ者でない片鱗を垣間見せたのである。
 
 ミスターチルドレンの桜井和寿の歌をこよなく愛す前澤はミュージシャンと企業家の二つの側面を持った新しい型のベンチャー企業家と言える。従って、壮大な事業計画は作らない。人生に対する自分のメッセージを積み上げるタイプである。
 
 当面、高感度ファッションのポータル(玄関)サイトの構築を目指す。すでにショッピングモールのZOZOTOWNを中核に、全国のファッション店約3800店を紹介するZOZONAVI(ゾゾナビ)、質問回答掲示板サービスのZOZOQ&A、ファッション業界の著名人のブログサイトのZOZOWALKER(ゾゾウォーカー)、メッセージ配信型寄付サイトのZOZOARIGATO(ゾゾアリガト)、人気ブランドのPC壁紙を提供するZOZOGALLERY(ゾゾギャラリー)などのサイトを運営している。
 
 多角化にも乗り出した。08年5月からアパレルメーカーの電子商取引支援事業を始めた。ECサイトの制作、物流、取引先開拓、業務管理などを手助けする。このため5月21日にスタートトゥデイコンサルティングを設立した。ネット通販は毎年二ケタ成長を遂げており、EC支援事業は成長分野とみたのだ。
 
 高感度ファッション人間はアパレルだけでなく、生活用品全般にもファッション性を求める。そこで、家具、インテリア、時計、家電製品などの取り扱いも将来、視野に入ってこよう。
 
 さらに、近い将来、リアルな店舗運営にも乗り出す計画だ。すでに化粧品情報サイトのアイスタイル(東京)は東京・新宿と上野に店舗を開設、サイトで人気の高い化粧品の販売をはじめ、業績を上げている。「スタートトゥデイもリアルの店舗運営に乗り出すだろう。その時は販売員を派遣してお手伝いする」とユナイテッドアローズの重松はいう。
 
 10年後の企業規模を前澤に聞いてみた。「ファッション性の高いアパレル全体の市場規模は大体5兆円ほどといわれている。われわれはその10%に関与したい」と抱負を語る。これを売り上げに換算すると、かなりの大風呂敷となる。慎重なようで大胆だ。企業規模が大きくなれば、企業理念も浸透しやすくなると考えているのだ。



■新業態にも挑む

取材中に面白いニュースをつかんだ。前澤が現在の事業とは全く違う新業態を考えているというのである。先日、幹部を集めた会議でその計画の一端を前澤が明らかにして、幹部たちを驚かせたという。新業態はまだ、ヴェールに包まれているが、どうやら貨幣を使わない自己循環型の経済圏をネット上に創ろうというものらしい。「金利が悪の根源」とみる前澤は貨幣の流通しない仮想世界を創ろうとしているのだ。
 
 前澤は常々、社員に対し「飛躍するためには捨てる発想が大切だ」と言ってきた。高校2年で大学進学を捨て、25歳でミュージシャンの道を捨てた男である。ZOZORESORTを捨てて、もっと大がかりな仕掛けをつくるかもしれない。
 
 今のところ、スタートトゥデイには死角がない。成長力はあるし、財務的にも健全だ。しかし、ベンチャー業界
には、昔からリスキーグロース(危険な成長)という言葉がある。
 
 ベンチャー企業が年商100億円ぐらいに成長した段階で、大手企業が参入して来たり、突然、ライバルが出現して危機に見舞われるというのである。過去に幾つも有望ベンチャーがこのリスキーグロースの罠にはまり、消えて行った。
 
 理由は経営者の油断、社員の慢心、技術の変化、経済変動などさまざま。企業家は360度、目配りしなければならない。幸い前澤は大胆に見えて慎重なところを持っている。簡単にはリスキーグロースの罠には落ちないだろう。ただ、いつかは大きな壁にぶつかる。そのとき、どう立ち向かうか。企業家、前澤の真価が問われるのはこれからである。



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