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トピックス -企業家倶楽部

2014年01月21日

ロボットスーツで未来を開拓していく/サイバーダインCEO 山海嘉之

企業家倶楽部2013年1/2月号 フォーカスチャレンジングカンパニー


茨城県つくば市に開発拠点を構えるサイバーダイン。筑波大学発ベンチャーとして、世界初のロボットスーツHALを開発、新たな学術領域「サイバニクス」を 提唱している。「科学技術は人の役に立ってこそ価値がある」という信念を抱く山海嘉之CEOは、日本の未来を開拓するために、高齢化対策と新産業創出の同 時解決へ挑戦する。 ( 文中敬称略)



■人間の脳で動く世界初のサイボーグ型ロボット

サイバーダインが開発したロボットスーツ「HAL」は、体に装着することによって、身体機能を補助・増幅・拡張することができる。人が動こうとする時、脳から筋肉へ神経信号が伝わるが、その際に微弱な生体電位信号が皮膚表面に漏れ出る。HALは装着者の皮膚表面に貼り付けられたセンサで信号を読み取り、その信号を基にパワーユニットを制御、装着者の筋肉の動きと一体的に関節を動かす。体が麻痺状態でも信号が皮膚表面に出ていれば、脚の動作を補助することができる。ロボットスーツの重みは体にのしかからず、装着者はHALの動作支援で立ち上がり、歩くことが可能だ。
 
 このように人間の脳からの生体電位信号で動かすHALは、既存のロボットの仕組みとは異なる。応用分野は幅広く、福祉分野における自立動作支援をはじめ、工場での重作業支援、災害現場でのレスキュー活動支援、エンタテイメントなどでの活躍が期待されている。東日本大震災後には、放射線環境下で原発事故の修復にあたる作業員の放射線被曝量を大幅に低減するために、それまでに培ってきた技術を災害対策モデルへ転用して提供した。放射線の遮断率の高い特製ジャケットは60Kgと非常に重く、熱もこもってしまう。作業員が着用した場合、安全性は高まるが、長時間の作業が困難となる。そこで原発作業用HALでは、放射線の低減を図ると同時に、クーリングシステムを用いて熱中症や脱水症状を防ぎ、装着者の生理状態も管理することが狙いだ。




また、HALの技術を応用することで、義足や義手としての活躍も期待できる。試験段階ではあるが、両足が義足でも自分の意思で曲げ伸ばしをしたり、一人で歩いたり、階段を昇ったりすることも可能となるだろう。このように、コアとなる高性能技術が福祉用HALで実現出来ているため、それを水平・垂直展開していけるのがHALの特長だ。サイバーダインCEOの山海嘉之は、自身の思いについてこう語る。
「今を広げていくビジネスもあれば、未来を開拓していくビジネスもあります。私たちの組織は、未来開拓型の組織です。とにかく一点集中。テクノロジーと人との関係において、未来開拓へ注力していきます」



■小学3年生の時に科学者を志す

サイバーダインが筑波大学発ベンチャーとして設立されたのは2004年。2006年から社員の採用や資金調達を進め、2010年春に福祉用HALのレンタルを開始した。山海がロボットを作る科学者への道を決めたのは1968年、小学校3年生の時だ。アイザック・アシモフの短編集「IRobot」という一冊の本に出会い、人や社会のために役立つロボットやテクノロジーを研究開発する科学者を志した。その小説のなかで、人類史上希有な発展をとげたロボット企業のCEOであり、女性研究者の主人公は、2008年に博士号を取得し、当時、ロボット研究開発を行うベンチャー企業に入社した。少年時代の山海にとって2008年は40年も先の、想像もできない未来だった。数年前、その2008年に立っている自分自身がいた。山海はSFの映画や小説が幼少期に与える影響についてこう語る。
「欧米のSFのロボットが、人間を追い込んでいくものが多かったのに対して、日本の場合は友達や仲間という意識が強い。子供向けには『良いものは良い、悪いものは悪い』という、わかりやすい価値観でSFが製作されていた時代があり、人間観を育む上で良い影響を与えていると思います」
 
 学生時代は自分の部屋や実験室を問わず、様々な研究を続けた。1987年に筑波大学大学院工学研究科の博士課程を修了後、1991年に山海はiBF(インタラクティブ・バイオ・フィードバック)仮説を立て、これを実証する為に研究を重ねていく。iBF仮説とは、動作意識を反映した生体電位信号によって補助を行うロボットスーツを用いると、HALの介在によって、HALと人の中枢系と末梢系の間でインタラクティブなバイオフィードバックが促され、脳・神経・筋肉の疾患患者の中枢系と末梢系の機能改善が促されるという仮説である。例えば、脳卒中の手術をして麻痺が残っていても、微弱な信号が検知できれば、HALの装着者は翌日から訓練を始めることで機能改善が期待できる。

その後、山海は米ベイラー医科大学客員教授を経て、筑波大学大学院システム情報工学研究科教授となる。その頃には、子供の時に夢みたロボットスーツが現実味を帯びてくるが、工学の知識だけでは不十分だと痛感した。行動科学や脳神経科学、生理学、心理学など、多岐にわたる分野の知識を得る必要があった。また、実際に出来上がったロボットスーツを世の中で役立たせるためには、法整備や安全性も重要となる。
 
 既存マーケットに対して展開する場合とは違い、革新技術が生まれ社会実装されていくには、様々な課題を解決していく必要がある。例えばHALが医療機器として使われるためには、新医療機器として承認されなければならない。仮に血圧計を作るとすれば、血圧計は既に社会にあるので、後発医療機器として申請書類を準備すれば問題ない。しかし、新医療機器をゼロから作る段階では、多くの試験フェーズを通過しなければならない。



■血栓の問題解決をする医療機器へ

HALで用いられている技術には様々な広がりと可能性がある。例えば、微弱な電位信号を扱う技術を追求し続けると、ワイシャツの上から心電図を計測できたり、帽子の上から脳波を計れたり、指先から脱水症状を調べられる技術となる。血栓形成の最大のリスク要因である、脱水に伴う血液濃度の変化を調べることで、血栓予防にもつながる技術として、そして脳の活動状態を捉える技術として展開される。
 
 では、山海はなぜ血栓に着目したのか。それは、人間の血管や血液という循環系が人間の生死を大きく左右しているからだ。血栓が脳に形成されたら、脳卒中や心筋梗塞となり、身体に麻痺が残る。「何とかして血栓形成を予防できないか」と考え、山海は日々研究に取り組んでいる。
 
 サイバーダインは現在、医療分野最高の仮説証明「治験」の段階にあり、これを通過すれば、最終的な「医療機器」としての承認段階へと入る。「これから世界初の医療ロボットの国際臨床試験(治験)が始まります。この研究開発が諸外国を牽引していることも偉業ですが、一番重要なのはその根幹をなしているものです。わたしたちはすでに、サイバーダイン社で行っていることを人の未来社会を支えるソーシャルビジネスと位置付け、様々な分野が融合した包括的な学術体系を『サイバニクス』と命名し、世界へ発信しているのです」
 
 新たな学術分野を創る上では、革新的技術が日本から生まれるだけではなく、技術の社会実装までの育成プロセスを日本に創ることも必要だ。そこで、革新技術と人材を同時に育成できる場として、サイバニクス研究センターを筑波大学内に創設した。さらに、革新技術を社会実装できる世界拠点として「サイバニクス国際先進医療開発センター」を創設し、社会が直面する課題解決と新産業創出の推進を構想している。
「自動車産業や電気産業のような人支援産業を新たにつくりたい。これまでの日本では、例えば自動車であれば、諸外国の自動車の製造技術、道路交通法、保険制度を輸入してきました。つまり、日本は本当の意味で、ゼロから立ち上げることをほとんどしていません。しかし、これからの日本は未来開拓に挑戦する国であってほしいものです。治療方法や運用技術の国際標準化を進めて、最終的には教科書にして、国内外の授業の中に組み込んでいく。学術体系、そしてそこから生まれた革新技術を社会実装していきながら、世界へ発信していくことが必要なのです」
 
 HALは、高齢化対策と新産業創出の同時解決を担う可能性を持つ。日本がこれから直面する様々な課題に対して、山海は力の全てを注ぎ込む考えだ。
「他の生き物と違って、人間はテクノロジーを手に入れました。環境を変えることで危機を乗り越え、自分たちが生物として進化する道を捨てたのです。この意味は大きい。私たちの未来はテクノロジーとともにあるのです。つまり、どのようなテクノロジーを創り出すかによって未来社会が変わってくるのです。だからこそ、若者には適切な未来の開拓者になってほしい」



■生きる覚悟はあるか

山海は「科学技術は人の役に立ってこそ価値がある」という信条を胸に抱く。科学者の立場でいつも「人や社会に対して何が還元できるだろうか。人や社会が喜んでくれることを、与えられた人生で全うしていきたい。自分ができることをやり抜こう」と強く意識していたという。
「研究者にとって、『夢や情熱』って非常に大事だと思いますが、それ以上に大切なのは『人を思いやる心』です。それがなければ、『何を成すべきか』ということが発想しにくい。また、研究者の多くは研究がある程度まとまると論文作成のため、次の研究テーマに移ることが多い。しかし、せっかく生み出した研究テーマなら、それを責任持って大切に育て、社会実装できるまでやり抜く意志が重要だと思います」
 
 世界各地を奔走する山海は、毎晩倒れ込むようにして寝てしまうという。しかし、就寝する前に必ず、感動する映画や音楽に接している。日常的に、知性の部分を活発化しているため、感性の部分を刺激させたくなると話す。
 

 最後に、山海はある手紙の話をした。2009年、当時15歳の山海の娘が通う学校で、「親が語る我が子へのメッセージ」が課題となったという。最近、娘に「もう一度読みたいから頂戴」と言われ、手渡した際に自分でも改めて読み直した。その手紙には、こう記されている。
「どのように生きてもかまわないが、『生きる覚悟』を持って生きてほしい。生きるとは、素晴らしく活力に満ちた奇跡の体験だ」
 
そこには、若者への愛情に溢れたメッセージが寄せられていた。山海の挑戦は、より良い未来を開拓していくに違いない。(土橋克寿)
 
会社概要
 
会社名:CYBERDYNE株式会社
所在地:茨城県つくば市学園南D25街区1
設 立:2004年6月24日
資本金等:66億3400万円
事業内容:医療福祉機器および医療福祉システムの研究開発など
社員数:約70名



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