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2012年10月27日

【竹中平蔵の骨太対談】vol.29 天は自ら助くる者を助く 自助・自立の勧め/vs リンクアンドモチベーション社長 小笹芳央

企業家倶楽部2012年12月号 骨太対談





竹中 ケネディー、コロンブス、竜馬などユニークなネーミングですが、業務内容によって部屋のコンセプトを変えているのですね。素敵なオフィスですが、銀座にオフィスを構えてどのくらいになりますか。
 

小笹 創業の翌年からなので2001年からになります。
 

竹中 そうすると、ちょうど小泉内閣が始まったときですね。
 

小笹 竹中さんがタクトを振っていた頃は勢いがありました。自民党総裁に安倍晋三さんが決まりましたが、日本の経済はどうなりますか。
 

竹中 安倍さんの考え方は基本的に改革路線です。経済面で言えば、良いと思います。ただし、安倍さんは非常に幅広い人に支持されています。幅広い支 持があるというのは、強みでもあり、弱みでもあります。全員の顔を立てようとすると改革など出来ません。つまり思い切った決断が出来ない懸念があります。 政治的には強みですが、政策的には弱みとなります。それをどう克服できるかが課題でしょう。前回は「お友達内閣」で失敗したので今度は慎重に運転しようと するとかえっていけません。「もっとお友達内閣」でやるくらいでないといけません。思い切った決断が必要です。



■厳しい事を言えるのが  真のリーダー

小笹 私は今、マスコミも含めて社会は大衆迎合しすぎた、衆愚社会になっていると感じています。非常に危機感を感じています。私たち企業でも国家でも、「One for all、All for one(一人は皆のために、皆は一人のために)」という考え方ができていないのではないでしょうか。どうも今の世の中はFor One(一人のために)で、個人で完結している気がしています。「子ども手当てあげますよ」「あなたの個性を活かしていきましょう」ばかりで、Forallに対する貢献、自己犠牲などが欠けています。そういう意味では私たちのメッセージは「個人は自立し、一人ひとりが自分株式会社ですよ」「企業は多様性を束ねていきましょう」、これを民間の立場から発信し続けることが使命です。同じ問題意識を持っている方は多いと思うので、色々な提言の機会が欲しいですね。
 

竹中 結局はポピュリズムですよね。道を率いるべき人が「何か困ったことがあったら助けてあげるよ」というのは本当のリーダーではありません。「こうしなきゃいけない。みんながんばれ。私たちはこういう方向を目指そう!」と、一人ひとりを喚起すべきなのです。ギリシャや日本から分かるように、私たちは社会不安とポピュリズムとの悪循環の中にどっぷりはまっています。経済が悪化しているから社会不安が出る。格差が生まれると「可哀想だから助けてあげよう」というポピュリズムの考えが政策にある。そんなことをしても財政赤字が膨らむ一方です。この悪循環が世界中で起きているのが現状です。これを断ち切るためには、厳しいことも言えるリーダーが出てくることが一つの条件でしょう。大阪市長で日本維新の会代表の橋下さんに期待が集まっているのも理解できます。もう一つは企業家が成功事例を作ることだと思います。ですから小笹さんも今後どんどん成功事例を作って「みんな俺みたいになってみろ」と言ってくれると心強いですね。



■民間に自由にやらせること

小笹 企業も個人もリスクを取らず萎縮しています。日本を活性化するにはどんな取り組みが必要でしょうか。
 

竹中 経済の発展の原則は当たり前のことをやることです。それは、できるだけ民間に自由にやらせることと、できるだけ民間の負担を減らすことです。その後者が減税です。たとえば景気対策をするときに、5兆円を使うとします。すると政府が5兆円をやりくりして使うのがいいのか、税金を払っている人に5兆円戻してあげるのがいいのかと考えると、明らかに後者の方がいい。しかしリーマンショック後、日本も10数兆円の公共事業をしました。そのとき日本の予算の99%は霞ヶ関が使いましたが、アメリカでは50%は減税でした。この違いです。減税すれば役人の影響力は行使できませんから、役人は自分でお金を使い、裁量権を発揮してはじめて影響が出てきます。やみくもな減税はもちろんできませんが、経済政策をするのなら減税した方がいいと思います。しかし、減税をしたら必ず批判が出てきます。儲かっている会社には利益があるけれども、儲からない会社には利益は出ない。その通りで、むしろそれでいいのです。儲かっている会社は経営資源をうまく使っている会社ですから、そこにお金を戻して事業活動してもらうのが景気回復にはもっとも効果的です。しかし日本の風土から見ると儲けている会社に減税なんてする必要はない、といったような本末転倒な議論になってしまいます。



■生きる力を学ぶ

竹中 小笹さんはモチベーションに特化したコンサルティング会社を経営されていますが、最近では学習塾の事業にも進出しましたね。
 

小笹 弊社では中高生を対象とした学習塾を去年からスタートしました。今さらなぜ成熟している学習塾業界なんだと多くの方から言われましたが、私た ちには明快なメッセージがあります。学歴、志望校への合格はもちろん大事です。大事だけれども、ほんとうの意味で重要なのはそのあと社会に出てから生きて いく力です。具体的に言うと人とコミュニケーションをとって信頼を育んでいく力。自分のモチベーションをコントロールする力。主体的に物事に向き合う力で す。この塾では、もちろん勉強も教えますが、プラスアルファ必須授業として「生きる力」を学ぶ授業を提供します。
 

 また、毎月一回モチベーションゼミといって、生徒さんには本物のお医者さんや官僚、弁護士、ベンチャー企業家に本格的に講演してもらって「本物」 と触れ合う機会を作っています。渋谷でまず一教室スタートしました厳民生が、駅面広告で渋谷駅をジャックしたり新聞広告を打ったりチラシを撒いたりして1 億6000万円ほど投入し、最初集まった生徒が8人です。130坪の教室に最初はたったの8人でした。今は122人に増えました。新しいことを始めるとき はそういうものだと思います。大義があって始めましたので、粘り強く続けます。



■利害を超えた信頼関係

竹中 世界的にみて日本の小学生のクオリティは大変高いそうです。ところが中学高校と進学し、大学生になるともう目も当てられなくなるという。どうも細かく見ていくとその分かれ目は小学校4年、つまり「お受験」なのだそうです。お受験が原因で、創造性が失われていく。それともう一つ、日本のビジネスでは、パナソニック、ソニー、ホンダに共通しているものがあります。それは経営のパートナーです。ホンダでは本田宗一郎氏に藤沢氏、ソニーは井深氏と盛田氏、パナソニックは松下幸之助氏には井植氏がいる。このパートナー経営はシリコンバレーでは多くありますが、最近の日本のベンチャーではとても少ないのです。
 

「理屈の上では合わないけれどもお前がそこまで言うんだったらやるよ」、という利害を超えた本当のパートナーです。日本は受験戦争の中でそういったパートナーを形成することができなくなってしまった。みんな友達だけどライバルなのです。そうなってしまった今、人材育成は日本のこれからの最大の成長産業のひとつだと思います。それは別の言い方をするとグローバル人材にもなるのですが、このグローバル人材の育成において日本は圧倒的に後れを取っている。今、日本が求めているのはまさにここで、恐らくグローバル人材育成に今後相当な投資をせざるを得なくなるでしょう。
 

小笹 私は日本の国民にもっと主体的、自立的であってもらいたい。やはり今までどちらかというと国や行政にもたれかかってきました。それはある意味では良さでもあったかもしれませんが、もっと一人ひとりが自立していって欲しいし、若いときから自己責任、自己選択をできるようになって欲しい。この意識が希薄すぎるなと思います。そこの重要性を伝えていきたいですね。
 

竹中 今のお話に尽きると思います。サミュエル・スマイルズの『自助論』という本が、明治時代によく読まれたそうです。小泉さんが一番好きな本のひとつがこの『自助論』で、私もゼミの学生には最初にこの自助論を経済学よりも前に読んでもらっています。
 

「天は自ら助くる者を助く」。自助・自立が出来る者が多ければ多いほど、本当の意味で助けを必要としている人を助けることが出来る。今、船に乗っているとして、その船が沈んだら、自分で泳げる人は泳がないといけない。そうすることによって初めて救命ボートにお年寄りや子供を乗せられる。みんなが全員救命ボートに乗ろうとしたら全員死んでしまう。厳しいけれどもこれが社会の現実です。これはやはり自助なのです。モチベーションの最終点はこの自助、自立ではないでしょうか。



■ 誰かがリスクを負わなければいけない

竹中 今までもコンサルティング会社はありましたが、キーコンセプトに「モチベーション」を掲げたということが小笹さんのイノベーションですね。このように、イノベーションには絶対に非連続な何かが必要だと思います。ある経済学者の言葉で、「馬車を何十台繋いでも蒸気機関車にはならない」というのがあります。どこかで非連続なジャンプが必要で、しかもそれは失敗の中から生まれることがある。だから景気回復でいえば、規制緩和が必要です。何が出てくるかわからない。様々な人がこれまでに無いものを作り出すのがイノベーションですから、様々な人にチャンスがある状況を作っておくことが重要でしょう。
 

 イノベーションを起こすときには資金が重要、というのがシュンペーターの理論のひとつです。つまりアイデアがあってもそれを具体的にするにはお金がいる。お金の出し手が最後のリスクの担い手になる。たとえばコロンブスがインドを探しに出かける際、イタリア人のコロンブスにお金の工面をしたのはスペインのイザベラ女王でした。だからイザベラ女王は世界で最初のベンチャーキャピタルだとも言われます。業種によってはファイナンスというのは大変重要になってくるわけです。
 

小笹 結果的にどこかがリスクを担うというこの機能が、現在の日本ではどこも担っていない気がします。政治も経済も誰かが責任を負わないといけないのでしょう。中国でいえば、良いか悪いかは別としてやはり共産党が非常に強烈な権力を持って責任を担っている。だから、目を見張る経済成長を成し遂げることができたのでしょう。
 

竹中 リスクマネジメントの話題が多く語られますが、リスクをいかに回避するかという点に議論が集中しがちです。リスク回避とは、どこかでリスクを取らないと経済発展ができないから、余分なリスクを減らしましょうというのが本来の意味です。しかし、どこかでリスクを取るという点が抜け落ちてしまっています。リスクは避ける以前に、取らなくてはいけないのです。正しい意味を履き違えて議論されていますね。
 

小笹 その通りですね。企業家も個人もリスクを取らなくてはいけないのだと思います。



■本業と通じて貢献せよ

小笹 私は、現代の若い人たちは社会に出てから、いろんな面で弱いというか、現実の厳しさに対し免疫がないから潰れていってしまうケースが多いように感じています。
 

竹中 おっしゃる通りです。現代の若者たちは、世の中の厳しさを知らないまま大人になってしまう。そして社会に出て実際の世間の汚さに圧倒されて、潰れてしまうことが多いですね。
 

小笹 今の世の中は、お金や人間の死といった、汚いものを全部隠していますよね。現実に触れる機会がなくなっているのでしょう。
 

竹中 原子力も同じだと思いますね。結局、目の前の小さな安心を守るために、その背後にある大きな安全を無視してしまった。その背後にあるのは政府と国民の間にある不信感、信頼関係の欠如です。政府は「国民に言っても分からないだろう」という国民に対する不信感があり、国民は「政府が何をしているのか分からない」という不信感があるわけです。これからの若者に対しては、ちゃんと厳しさも伝えるべきです。社会や人生はそんなに簡単じゃない、Life isnot easy ということをちゃんと教えるべきだと思います。
 

小笹 そうですね。人生は簡単じゃない、もがき苦しみながら成長するというプロセス自体が人生だと思います。関連して、最近は「私は社会貢献したい」という学生が多いですが、私は社会貢献というのは本業を通じてやるものだと言いたい。まずは本業で稼ぎ、しっかり納税すること。本当の意味での社会貢献はこれに尽きます。だから学生たちには「あなたが言う社会貢献とは何ですか」と問いたいです。社会貢献とは何か、というその本質をちゃんと教えないといけません。
 

竹中 私もそう思います。みんなきれいごとになってしまっている。私の周りにも起業したい、社会貢献したいという学生がいます。そこで、世界最大の社会貢献した事業家は誰かと問い掛けます。それは、ビル・ゲイツだと私は答えます。ビル・ゲイツはビジネスで成功し、しっかり納税して、経済を循環させました。だからまずは大儲けしろと学生たちには挑戦的に言っています 。(笑)それから社会貢献だと。
 

小笹 その通りだと思います。まず本業の仕事で稼いで、そして税金を払いなさいと言いたいですね。

竹中 有意義な時間をありがとうございます。「モチベーション」をキーワードに新しい産業を創って行ってください。期待しています。


小笹芳央(おざさ・よしひさ)
 

1961年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。2000年、リンクアンドモチベーションを設立、同社代表取締役社長に就任。気鋭の企業変革コンサルタントとして注目を集め、「モチベーションエンジニアリング」という同社の基幹技術を確立させ、幅広い業界からその実効性が支持されている。創業から8年で同社を東証一部に上場を果たし、講演会やテレビ・ラジオ出演も多数。
 

竹中平蔵(たけなか・へいぞう)
 

1951年和歌山県生まれ。73年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。06年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。




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