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トピックス -企業家倶楽部

2012年05月27日

エネルギー新時代を拓こう/日本経済新聞社参与 吉村久夫

企業家倶楽部2012年6月号 時評 二十一世紀の生き方 vol.5

■ 二つの重大な警告

人類は火というエネルギーを使うことで歴史を始めた。時を経て電力の時代が訪れた。電力を使って産業が栄えた。生活も電化の時代となった。しかし、良いことは永くは続かない。エネルギーを追い求めた人類に二つの大きな警告が下された。
 一つの警告は、石油を燃やして、これ以上地球を汚すなというものだった。戦後この方、世界の石油消費量は50倍に膨らんだ。石油を中心とする化石燃料の 燃焼によって二酸化炭素、メタンなどによる温室効果ガスが増大し、地球の温暖化が進んだ。環境汚染問題である。ひでり、水害などで食糧生産が減り、動植物 種の絶滅が増える恐れが大きくなった。にもかかわらず、温室効果ガス削減策は進んでいない。
 いま一つの警告は、原発が人類の安全を脅かすというものである。東日本大震災による福島原発の機能不全と放射能の拡散は、世界を脅かし、ドイツ、イタリ アを原発反対国に回すことになった。同時に、原発はクリーンでコストも安いというこれまでの通説に疑問符を突きつけた。  安全の保証が得られない限り、新規の原発の建設は無理となった。2030年に原発で電力の半分を供給しようと考えていた日本政府の方針は、頓挫した。そ れどころか、既存の原発も操業停止に追い込まれた。



■節電という名の発電

そこで政府は当面の策として節電を訴えた。企業も家庭も一斉に動き出した。操業時間の繰り上げ、営業時間の短縮、在宅勤務、自家発電、LEDの導入、エアコンの節約、照明の間引き-など枚挙にいとまない。
  日本は先のオイル・ショック時に、世界の先頭を切って省エネを実現した実績を持つ。今回もありとあらゆる知恵を絞り出して節電を実現することだろう。これ は節電という名の発電である。しかし、過度の節電行為が生産や消費の足を引っ張ってしまう恐れもある。海外に逃避する企業も出てこよう。現にそうした動き がある。
 国内総需要の減退を補うには、節電という発電が一歩進んで新規のビジネスを生むことが望ましい。幸い、すでに節電関係の新しいビジネスが登場している。 扇風機革命などといわれる新しい節電機器の出現や勤務体制の変化に即応した飲食店、学習塾などの登場がそれである。電力使用の効率化を図るスマートメー ター(次世代電力計)も導入されようとしている。
 こうして電力使い放題の生活スタイルが変わっていく。スマート・ライフの登場である。それはスマート・シティといった新しい地域社会の誕生をも促す。法 律やシステムも変わる。日本が世界の先端を行く省エネ社会に生まれ変わるのである。日本は再び世界からその存在を感謝される。その日が来ることを信じた い。



■ 新エネルギー構造

もちろん、節電だけではエネルギー危機は解決できない。望ましいエネルギーの未来構造を設計し、資源、技術の進展に応じて、そのベスト・ミックスをタイミ ングよく追求していかなければならない。そのためには、スマートグリッド(次世代送電網)をはじめ、次世代技術を総動員する必要がある。人知を尽くしてエ ネルギーの新時代を拓くのである。
 これには原発技術も含まれる。原発についてもつとに、危険なウランではなく、トリウムを液体燃料にした小型安全炉を用いる「トリウム溶融塩核エネルギー 協働システム」が提案されている(『「原発」革命』古川和男著、文春新書)。また米国もこれから小型原発の開発を促進しようとしている。フクシマ事故で原 発の技術開発が封印されていいわけではない。これから原発を新増設しようとしている新興国は、原発先進国としての日本の技術に期待している。日本はそれに 応じる責任がある。 



■ 新しい発電の時代へ

原発に依存出来ないとしたら、当面は火力発電に頼らざるを得ない。ただし燃料は原油から天然ガスへ切り替えて行く。幸い天然ガスは資源量豊富だし、二酸化炭素の排出量も比較的低い。それに近年、シェールガスの採掘技術も進歩した。
 もちろん、中長期的には再生可能エネルギーの開発が必要不可欠である。再生可能エネルギーは多種多様だが、主力は太陽光、風力、水力、地熱などの自然エ ネルギーである。だが、残念ながら、初期投資に金がかかるし、発電量も原発ほどの規模にはなりにくい。普及させるには資金、料金などの面で政府の強力な誘 導策が必要だ。
 とはいえ、すでにいろいろと面白い試みが始まっている。長野県飯田市では初期費用をただにする工夫をこらし、太陽光発電を普及させて「太陽エネルギーの町」を売り出している。東日本大震災以来、各地で家庭用の風力発電機や水力発電機が注目されてもいる。
 そうした中で、小川でも使える英国製の小型の水力発電機「アクエア」が人気を呼んでいるという。値段は30万円台。村の水車ではないが、村ごとに発電所 ができるのである。これからの発電は分散型だといわれる。水車の代わりに水力発電所のある村々の光景を思い浮かべると、なんだか心がなごんでくる。  



■普及を急ぐ燃料電池

近年、燃料電池への期待が急速に高まってきた。燃料電池は水素と酸素を化学反応させて作る次世代型の発電システムである。用途は産業用、オフィス用、家庭用と幅広い。自動車、船舶などの駆動源としても大いに期待されている。
 特に注目されるのが電気自動車である。自動車はガソリンを燃料として排気ガスを撒き散らしてきた。新興国での普及もあって、自動車の脱排気ガスはいまや至上命令となっている。そこで世界的に電気自動車の開発競争が熾烈になってきた。
 電気自動車になれば、従来のようなエンジン組み立ての巨大な工場は要らなくなる。つまりは誰でも参入できるようになるのである。自動車産業の姿が一変する。
 燃料電池に代表されるような自家発電の時代が訪れれば、当然、電力会社の在り方も変わらざるをえないだろう。発送電のやり方も変わる。地域の独占体制も崩れる。電線を張り巡らして美観を壊して平気だった時代も終わる。



■本命はやはり太陽熱か

江戸時代は日の出とともに起き、日没とともに寝る、太陽中心の循環型の社会だった。そもそも地球そのものが太陽の恵みの下で動植物を育んできたのである。太陽の寿命は100億年といわれる。いま半分の50億年を過ぎたところらしい。太陽をもっとフル活用しない手はない。
 すでに動きは始まっている。デザーテック財団がサハラ砂漠で大掛かりな太陽熱発電を行い、EU諸国に送電する計画を進めている。2050年にはEUの総 需要の15%を供給するという(『太陽熱エネルギー革命』菊地隆、堀田義治著、日経プレミアムシリーズ)。さらに進んで宇宙太陽光発電所(SPS)の計画 もある。マイクロ波で地球に送電するという宇宙時代を見据えた構想である。米国防省は2050年までに商業化する計画だという(『宇宙太陽光発電所』松本 紘京大総長著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
 これらの国際的プロジェクトによって太陽熱事業が推進され、水や食料の問題も解決されて行けば、それは世界の平和に大きく貢献する。日本の技術力も真価を発揮する大きな機会に恵まれることになる。
<プロフィール> 吉村久夫(よしむら・ひさお)
1935年、佐賀県生まれ。1958年、 早大一文卒、日本経済新聞入社。ニューヨーク特派員、日経ビジネス編集長などを経て1998年、日経BP社社長。現在日本経済新聞社参与。著書に「この目 で見た資本自由化」「進化する日本的経営」「本田宗一郎、井深大に学現場力」「マスコミ生存の条件」など。 


■本命はやはり太陽熱か

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