トピックス -企業家倶楽部

2012年05月14日

本業がダメになることの恐ろしさ 多角化路線と海外進出/理研ビタミン名誉会長 永持孝之進

企業家倶楽部2012年6月号 永持孝之進の経営道場 vol.4


創業以来、天然ビタミンAを製造し販売していた理研ビタミンは、合成ビタミンAの登場により本業存続の窮地に立たされた。多くの社員を抱 え転業の道を模索し続け、今も主力商品の粉末スープとモノグリセライドにたどり着く。転業のチャンスとヒントはどこにあったのか。中国はじめアジア欧米に 拠点を持つ理研ビタミン。海外操業のコツとアプリケーションセンターの重要性を語る。

経営者は血の小便に耐えろ

理研ビタミン創業時からの課題は事業の多角化でした。お金のない終戦後、捨てられていた魚のはらわたから肝油をとってアメリカに売っていましたが、 これがいつまでも続くとは思えません。なぜなら、天然ビタミンは合成ビタミンには商品として価格と性能の点で勝てないという事実があったからです。

 日本人にはかつて国民病ともいえる病気、脚気がありました。脚気の原因はビタミンB1の欠乏です。合成ができるまでは米ぬかを原材料にした天然ビタミンB1が使われていましたが、合成ビタミンB1ができた途端、あっという間に駆逐されてしまったのです。

 天然化学の事業は世界でも日本でもほとんど壊滅しています。たえず天然物が合成化学にとってかわられてしまいます。

 ビタミンAは構造式が複雑で簡単に合成ができずにいたのですが、1950年代にビタミンAの合成成功のニュースが入ってきました。あと10年もた てば市場に合成ビタミンAが大量に出回り、間違いなく天然ビタミンAは駆逐されてしまいます。なんとか転業しなければ、会社は倒産し、多くの社員が路頭に 迷ってしまいます。会社に死刑を宣告されたようなものです。残された時間は少ない。

 松下幸之助さんの言葉で「血の小便」というのがありますが、まさしくその通り。一人血を吐く思いで次の手を考えていました。創業当時よりも従業員 は増え、会社が生き残るために経営者は必死です。考えてみると経営者は割の合わない商売。必ず窮する時が経営者にはあります。そんな時、血の小便を出すよ うな努力をして、窮しても通ずることができる人間かどうか。経営者にはその資質が求められます。

 当時、肝油は魚だけでなくクジラの肝臓からもとっていました。でもクジラの肉を食べるのは日本だけ。クジラからは油がたくさん取れるので、油目的で捕鯨をする国は多かったのですが、石油の時代に入り、捕鯨をやめる国が増えました。

 捕鯨を続ける日本は、廃業して売りに出た外国の捕鯨船を購入していました。購入した外国の捕鯨船にはクジラのエキスのタンクがついていたんです。 タンクを取り外すわけにもいかず、クジラの肉エキスは日本ではあまり使い途がない。なんとか肉エキスを商品にできないかと私のところに相談がきました。

 私は理研時代、ペニシリンの研究にも携わりましたから、菌を培養するのに肉エキスを使うことを知っていました。外国ではスープの材料の一つでした。ラーメンスープとしても使えるので、インスタントラーメンの別添スープに使うことを思いついたんです。

 前回もお話ししましたが、インスタントラーメンがまだ子供のおやつの時代で、スープは麺に練りこまれているのが当たり前でした。スープが別添され たインスタントラーメンが発売された頃で、売り上げが大きく伸び、1日30万食生産しました。肉エキス入りのラーメンスープ事業が大きな柱になったので す。

 ビタミン屋はスープ屋へ転業し、会社は窮地を脱することができました。ちょうど時代の波に乗れたのです。 窮地に立った時、経営者の能力の差が歴 然とします。運不運もついてくるので、1+1=2と数字通りにならないこともあります。ですが、不運に見舞われても努力し続ける経営者は運を呼び込むこと ができます。誰も助けてはくれませんから、己の日々の努力だけが頼りなのです。



原材料の近くに工場をつくる

スープで儲けはしましたが、本業がダメになる恐ろしさを身を持って知ったので、出た利益は決して無駄に使えません。利益で分子蒸留機を改良して、これまで日本になかった蒸留技術を高めていきました。これが現在も大きな柱であるモノグリセライドにつながっていきます。

 モノグリセライドという名前をご存じない方も多いでしょう。わかりやすくいうと油の一種で、天然油脂などに含まれています。グリセリンと脂肪酸が ひとつくっついた形になっており、乳化剤など食品添加物として使われています。クロワッサンなど油脂分の多いパンなどに使われていて、時間がたっても固く ならずおいしいパンができます。食品以外にも、プラスチックに使われます。食品などを包むラップはそのままでは静電気を帯びてしまうので、帯電防止剤とし て使われています。電機器具を包むビニールにも、買い物した時にもらうビニール袋にも使われていますので、意外と身近にたくさん使われているものです。

 終わりの見えてきたビタミンA事業の延命策のひとつとして、アメリカの分子蒸留機を買いました。これまで肝油としてまとめて売っていた商品を、油 とビタミンに分離し、それぞれで高値で販売できるようにしました。同業者にはまだ分子蒸留機を持っているところはなく、高値で売れましたので延命効果があ りました。蒸留機をスープ事業の利益で改良し、これを何かに使えないかと模索していました。

 有機化学の中で微量のものを真空蒸留で分離する技術はアメリカの研究所が独占していました。その真空蒸留技術を真似して、日本にない機械、日本に ない商品を理研ビタミンで作り上げたのが1959年のことです。日本にこれまでないものだから、どうせすぐは売れない。せっかく真空蒸留する設備と技術が 理研ビタミンにあるのだから、売れる売れないではなく、新しいものができるなら何年かかってもものにしようと思いました。アメリカでは既に市場が出来上 がっていましたから、いずれ日本にも市場ができると読みました。今、理研ビタミンで海外で工場を持ち生産している事業はこのモノグリセライドの真空蒸留技 術の事業だけです。

 モノグリセライドの原材料は天然油脂です。世界の天然油脂はほぼ二分されていて、大豆もしくはパームヤシ。大豆は半分以上がタンパク質ですが、 パームヤシはほぼ油です。パームヤシを栽培しやすいのはマレーシア。気候が適していて一年中生産できます。原料のあるところへ工場を持っていくのが一番で すから、マレーシアに工場を作りました。

 余談になりますが、1985年に転換社債を発行するにあたり、日本経済新聞の格付機関の調査において「この会社は細い柱ばかりで太い強力な柱がな い会社だ」と決めつけられてしまいました。それで期待できるような格付けは駄目かと思いましたが、もう一つの所見として「5本の柱の中に、他社にまねので きないユニークな柱を2?3本持っている。そこがよい」とのことでBBB(トリプルB)の評価格付けを受けたのでした。一応の多角化が、世間にも認められ たと言える出来事でした。



終身雇用の枠では世界で戦えない

理研ビタミンがなぜ海外に事業展開をしたのかといいますと、今後持続的な発展をするためには、国内の市場依存では限界で、原料調達面も難しくなると いう、あらゆる調査をした結果からの経営判断でした。中国やアメリカ、ドイツにも拠点があり、アプリケーションセンターと呼んでいます。応用実験室のよう なものです。お客様に、あなたの会社の商品にわが社の商品を使うとこんなおいしいものができると、実際にパンやお菓子を作ってみせる施設です。日本ではま だあまり一般的ではありませんが、外国の食品添加物メーカーはこういう施設を持っています。国にあった商品、販売方法を見つけ提案することも海外進出には 大事なことです。

 これまで日本企業は家族的な経営をしてきました。雇用したら定年になるまでやめさせない、終身雇用が当たり前でした。終身雇用でも人件費が安けれ ばいいですが、日本はアメリカにも負けない給料の高さです。終身雇用と高い給与。世界で戦うためには、人件費の安い中国やマレーシアに進出せざるをえませ ん。日本の雇用制度をまったく否定するわけではありません。日本にも素晴らしい人材がたくさんいます。ただ、経営者の立場としては、海外進出しなければ世 界で戦えない事実と、「企業展開の世界化」が国内産業の空洞化にも関連していることから、「勤勉性」という日本人の伝統的徳目が失われていくことを非常に 憂慮しています。

 国内で販売する商品は、国内生産するが、世界向けの製品は国内生産ではコストが高すぎて競争力がないので外国で生産するしかない。アジア各国、あ るいは欧米から需要があるため、適材適地の製品を供給する。従って、我々の事業展開が世界化してくるということになります。当然、為替問題をにらみながら 世界に進出しなければならなくなったというのが実情です。

 海外進出し現地の人を雇用する際、その国にはその国の給与水準があり、日本と同じ給与水準にはできません。経営者としての温かみを残しつつ、コス トは抑えられる国に進出すべきでしょう。海外では終身雇用を考えない方が、企業にとっても労働者にとってもいいように思います。理研ビタミンはマレーシア でも中国でも現地の人を上手に使おうという方針でやってきました。幸いこれまでにトラブルはありません。ヨーロッパやロシアに売るにもいい立地です。

 中国ビジネスは怖いという経営者もいます。アメリカのビジネスは明白でわかりやすいけど、中国では役人の袖の下如何らしいなど、疑心暗鬼になって いる場合があります。でもそれは間違いで、アメリカでも中国でも、ひとつの日本企業の経営者として、きちんとした手続きを取ってきちんとしたつきあいを し、きちんとしたビジネスをすればいいんです。中国は日本を追い抜き、今や経済大国になりましたが、まだまだ上手につきあうべきでしょう。

 理研ビタミンの中国ビジネスは今100億円くらいになります。きちんとしていればいいと言っても、中国は認可・許可の最もややこしい国であること に間違いはありません。次回は中国ビジネスに関してもっと掘り下げてお話しします。中国でビジネスをしている中小企業の方にきっとお役に立つことと思いま す。

 

P r o f i l e

永持孝之進(ながもち・たかのしん)

1919 年1 月9 日生まれ。1936 年三重県立宇治山田商業卒業。1949年8月理研ビタミン油株式会社(現理研ビタミン株式会社)創立、代表取締役常務に就任。1966年8月同社代表取締 役社長。1983年9月同社代表取締役会長に就任。1996年6月名誉会長に就任、現在に至る。日本カットワカメ協会会長、中華人民共和国青島市人民政府 経済顧問。ビジネスのみならず、中華人民共和国大連水産学院名誉教授を務めるなど中国との親交も深い。



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