トピックス -企業家倶楽部

2013年07月16日

組織は不安定のほうが前に進む/アイスタイル代表取締役社長 吉松徹郎

企業家倶楽部2013年8月号 アイスタイル特集第3部 編集長インタビュー





日本のインターネットベンチャー黎明期に起業したアイスタイルの吉松徹郎社長は、「インターネットの衝撃を想像すると、ベンチャーに飛び込まない理由が見つからなかった」と創業当時の想いを語る。資金繰りに苦労する日々も、「お金がないことは事業を止める理由にならない。収益化を模索することそれ自体が楽しかった」と笑顔で語る。「組織の頭である経営者は不安定でいる方が組織は前に進む」というユニークな経営観に迫る。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)




インターネットで行ける!

問 アイスタイル創業のきっかけは何だったのですか。

吉松 私が起業した99年頃というのは、今ほどベンチャーが当たり前ではありませんでした。しかし、コンサルティング業界の同期や知人がインターネットでビジネスを始めていました。その人たちと身近に接することが出来たのはラッキーでした。インターネットビジネスに関心のあるちょうどその頃、化粧品メーカーに勤めていた山田メユミが流行り始めていたメールマガジンを出すという話を聞き、化粧品業界についてリサーチを始めました。よく覚えていますが、当時は、インターネットの利用率はまだ1.2パーセントしかありませんでした。大企業はネットに投資すべきか検討中でまだ明確な答えを持っていない、そんな時代背景でした。調べてみると「週刊ファッション通信」というメルマガがファッション系では一番人気で、購読者は2700人ほどでした。そこで山田が「週刊コスメ通信」を登録するとあっという間に500人以上が集まりました。

 「なんだ、この数字はすごい!」と興奮したのを覚えています。 同じ頃、ディーエヌエー創業者の南場智子さんと川田尚吾さんがまだマッキンゼー時代に「ネットで儲けろ」(原題は「ネット・ゲイン」)というおそらく日本で最初のインターネットの翻訳本を出しました。コンサル同期が関った初のネット本でした。

 同じくコンサル同期であるVOYAGE GROUPの宇佐見進典社長も会社を辞め、ネットベンチャーに参画していました。彼のオフィスに遊びに行き、試しに「Yoshimatsu.com」などドメインが登録されているか試していました。すると「cosme.net」はまだ誰にも登録されていませんでした。こんなビッグワードが空いているなんて、驚きました。その場でcosme.netのドメインを取得しました。

 5月のゴールデンウィーク休暇前に、知り合いから「インターネットを利用して無料で番組が見られるウェブTVを始めるので、何か良いコンテンツはないか」という話を聞きました。そこで、休暇中に事業計画書を書き上げ、「これで行ける!」と思いました。休み明けに会社に辞表を出し、6月には会社を設立していました。そんなスピード感でした。

問 なぜ、「これで行ける!」と思ったのですか。その根拠は何でしたか。

吉松 当時はまだ、「ネットビジネスとは何だ?」と言われており、皆、Eコマースしか見えていませんでした。その中でアメリカから書籍販売のアマゾンドットコムが出てきて、大手メディアも「本当に黒字になるのか、いつになったら赤字は終わるのか」といった議論が幾度となくされていました。しかし、私たちは価格が落ちない商品とはなんだろうか、それは再販制度がある書籍と化粧品であり、可能性があるのではと考えました。価格が維持されているからこそ、広告宣伝費も3000億円の市場があり、将来この内の10パーセントがインターネットに置き換わらない訳がないと確信を持っていました。それは当時26、27歳の私たちだから感じられたことかもしれませんね。

起業は自然なことだった

問 ベンチャーを立ち上げる時には、背中を押してくれる勢いや若さが必要ですね。吉松社長は起業する際にはどんなことを考えていましたか。

吉松 当時、私は26歳でしたが、自分が30歳になった時に何が出来るか考えました。経験値として3年間のコンサルタント、プラス3年で6年間のコンサルタントとしてのキャリアが良いのか、3年間のコンサルタント、そしてベンチャーでの3年間の経験と比べたらどちらが自分にとって良い経験が出来るのかを考えたら、迷わずベンチャーを選択しました。周りからは「リスクを取ったね」と心配されましたが、自分ではそんな意識はありませんでした。逆にベンチャーに飛び込まない理由が見つかりませんでした。今でも交友のある経営者たちにも、20代の頃に出会っています。ネットベンチャーの企業家たちが自然と集まっていて、漫画家を輩出したトキワ荘のような感じでした。だから、私たちにとって、起業はごく自然なことでした。

問 事業は順調に立ち上がりましたか。

吉松 苦労したのは、私たちが化粧品のクチコミサイトを作ると言っても、まだ、レビューサイトが存在しなかったので、誰もイメージ出来なかったことです。メーカーの人にビジネスモデルを説明しても、瞬間的に「それって、悪口を書かれるのでは?」「クチコミは誰が書くの?」と消極的な意見が多く、最初に飛び越えなければならないハードルでした。

 私自身は「サイトの使い勝手がいい」というユーザーの声もあり、順調だったと思っていますが、他に比較するベンチャーがなく、良いも悪いも分からないというのが実情でした。初年度は売上が90万円で4000万円の赤字でした。ネットバブルが弾け、資金が続かなくなり倒産していくベンチャーも多くありました。

 しかし、自分たちが作ったビジネスモデルは間違っていないという自信があり、ただお金がないというのは、事業を止める理由になりませんでした。どう収益化するのか、模索が続きましたが、それすら楽しかったです。化粧品のクチコミサイトというとアットコスメしかありませんので、ユーザー数は右肩上がりで伸びていき、3年目で100万人を超えました。早くサービスを始めたので先行者メリットを享受出来たのだと思います。

問 ベンチャーは「ヒト・モノ・カネ」、すべて足りないところからのスタートですよね。苦労したことは何でしたか。

吉松 自分たちはデータベースの重要性に気がついていました。Web2.0やCGM(Consumer Generated Mediaの略「消費者生成メディア」などと訳される)という便利な言葉がなかった時代ですが、ネットの本質はそこにあるということを分かっていました。当時は周りの人に理解してもらえず、苦労しました。それは、SNSのミクシィーやグリーも同じことで、最初は理解されなかったのではないでしょうか。以前は同じことを説明するのにも、2倍も3倍も労力が必要でした。




社員100名の壁

問 お金の苦労はありましたか。

吉松 資金繰りでも苦労しました。何故かというとデータベースが重くなるビジネスモデルなので、アクセスが増えるとサーバーと回線の増強が必要になります。データベースとのセットなので、どこかにホスティング(データセンターに保有するサーバーを借りて運用する形態)することが出来ませんでした。サイトが人気になればなるほど、資金が必要になるのですが、まだマネタイズ(収益化)する術を持っていませんでした。他にも人気のあるサイトがありましたが、収益化する前に事業が続かなくなってしまう企業が多くありました。毎年、増資をしてなんとか生き延びました。

問 デスバレー(死の谷)を生き残るためにどんな対策をしましたか。

吉松 ビジネスモデルを作るのが重要だと言っていても、しっかり売上げを立て、キャッシュが回らなければ、手のひらを返すように人は離れていってしまいます。2年目の終わりから3年目にかけて、何としても黒字化するんだと集中しました。ひたすらメーカーの人に営業しました。ウェブを使ったマーケティング企画を提案し、コンサルティングをするモデルを売り込みに行きました。

問 メーカー担当者の反応はどうでしたか。

吉松 企画書にはプロジェクトマネジメントは私で他に何人か入るので、3カ月で数百万ですといったざっくりとした見積書を付けて提案します。私はコンサル出身で、前職ではコンサル1人が1ヶ月で200万円の計算でしたので、半分の100万円でいいですと説明していましたが、なかなか企画は通りませんでした。しかし、現場の担当者はインターネットでのプロモーションに関心を持ち始めると新しい企画を進めたくなってきます。すると、上司に判断を仰ぐようになります。中にはコンサル出身の方もいて、「この企画でいいのではないか」と許可が降り、企画が通り始めました。不思議なもので1社企画が通ると、2つ、3つと仕事が取れるようになりました。企業との付き合い方が分かってくるのですね。

 1社当たりの売上げが3000万円を超えてくる頃になると、商習慣上代理店が間に入ってくるようになりました。そこで営業のやり方も変えて行きました。サイバーエージェントから出資してもらうタイミングで営業部隊を別会社化しました。大きな経営判断をするフェーズに入って行きました。

問 事業が大きくなるに連れて、社員も増えてきたのではないですか。創業当時の少人数の頃と雰囲気は変わりましたか。

吉松 3人からスタートして、2年目に10人、3年目には20人に社員が増えました。ここまでは赤字でしたので、全員必死でした。仕事が終わったら飲みに行ったりして、これがベンチャーだという雰囲気を楽しんでいました。その後も40人、80人、100人と増えると僅か2、3年で75パーセントの社員が創業の苦労を知らない人たちになり、混乱が始まりました。ベンチャーにとって社員100人はひとつの壁ですね。

 中途で転職してきたメンバーの一部からは、「前職ではあったものがない」、「なぜ、そんなに働くの?」といった不満の声があがりました。それを解消しようと合宿の回数が増えるなど、よくあるベンチャーの風景が見られました。

 「文化が大事だ」というようになったら、危険なサインですね(笑)それがなくても回っているときが社内はいい状態ですね。

対立軸のある会社

問 吉松社長から見て、アイスタイルはどんな会社ですか。

吉松 主力事業であるアットコスメは、多くのユーザーとクチコミが掲載されているのでB2Cモデルに見えますが、一方で化粧品メーカーから広告費を得るB2Bの部分も大きいわけです。営業サイドからはよく、「クライアントありきなのではないですか」と責められました。私は常に社内で対立軸のある会社でよいと言っています。一つの会社の中でユーザーサイドとクライアントサイドがせめぎあい、バランスを取っています。例えば、山田はユーザー側に立ち、私がクライアント側に立ち議論をすることもしばしばありました。以前に、いつものように議論していたら間にいた社員が「すみません。取り敢えず、私が両方やるのでやめて下さい」と泣かれてしまったことがありました。それほど真剣に意見をぶつけ合っていました。

問 ネットビジネスの現状をどのように見ていますか。

吉松 2013年は後から振り返ってみるとエポックメイキングな年になると思います。1993年にインターネットが商業化されてちょうど20年です。多くの人がネットベンチャーを立ち上げたように、この20年はインターネットが無い時代のものをインターネット化することがビジネスモデルでした。そして、全てのデバイス(端末)がネットに繋がりました。しかし、これからはインターネットによって生まれた情報を使ったビジネスに変化してきます。また、ワクワクする時代が始まっていますね。

問 経営をする上での心構えは何ですか。

吉松 逆説的ではありますが、個人的には「不安定であること」が大事だと考えています。不安定だから前に進んで行こうとします。私は理系なので、ホンダの二足歩行ロボット「アシモ」の話が好きでよくするのですが、アシモはバランスをとって歩かせようとプログラムを作っている限りはいつまでたっても歩かなかった。ところが、頭を前に出して不安定な状況にして、それを安定化するというアプローチにした途端に膨大に書かれていたプログラムがシンプルになり、歩き始めたそうです。

 私は組織も同じだと思います。社長が一人で頑張っても、組織は自浄作用で倒れないというパワーが働きます。さらに社長がバランスを取りに行くと瞬間的には幸せな会社になるかもしれませんが、前に進まなくなるのではないでしょうか。社員を信じて、頭である社長は常に前のめり気味の方が会社は前に進むと考えています。

問 そのイメージを社員と共有するのは難しくありませんか。

吉松 私も多分それは無理だろうと思います。「自分と同じような考え方を持ってほしい」とか「理解してほしい」というのは社長のエゴだと感じるようになりました。社長の行動は他の人に見えていないインプットがあるからです。たとえ同じインプットをしても、同じ判断になるとは限りません。私のイメージを共有することが正しいとは限らないのです。そこで、社長の考えは分からないところもあるが、社員がしていることが間違った方向に行き始めたときは社長が修正すればよい。そんな不安定さがあってよいと思います。それをアメーバ経営と呼ぶところもあるでしょう。

 対立軸のある会社と表現しましたが、違う価値観がある者が握る(合意する)ことが出来るヒダヒダを持ち合わせているのがアイスタイルの良さだと思います。

業界を変える流れを作りたい

問 今後の課題は何でしょうか。

吉松 今はまだ明確な競合はいませんが、今後は明らかに出てくるでしょう。アイスタイルも過渡期にあります。すぐにでもアットコスメやコスメコム、アットコスメストアなどの競合は多く出てくることが考えられます。それらに対する脅威は感じています。また、アイスタイル自体が昔からの流れがかえって重しになる位の規模になってきたことに危機感を持っています。

 そして、自分たちの一世代若い人たちも出て来ました。昔、私がアイスタイルのビジネスモデルを説明しても理解できない年上の方がいました。もしかしたら今、自分がその人たちと同じ立場になっているのではという不安がよぎります。だからという訳ではありませんが、若い世代の人たちと話すことが好きです。

問 最後に夢はなんですか。

吉松 最近、凄いと思うのはブックオフ創業者の坂本孝さんです。書籍と外食という業界を変える流れを2回も作り出しました。私も目に見えて変わったという何かを作りたいと思います。



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