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トピックス -企業家倶楽部

2013年08月05日

世界は日本文化を必要としている/日本経済新聞社参与 吉村久夫

企業家倶楽部2013年8月号 二十一世紀の日本人 vol.6





日本は文化的に敗れた

 第二次大戦末のポツダム宣言は「軍事的敗北よりも、大きな文化的敗北」を意味したとする意見がある。永野護氏の『敗戦真相記』(バジリコ社)である。永野護氏は渋沢栄一氏の秘書で戦後、運輸大臣を務めた。同書は敗戦の翌月、永野氏が広島で講演した速記録をまとめたものである。




 永野氏はこう述べている。日本は日本精神の近代化に失敗した。これから民主議会政治になろうが、下手をすると自由と無責任を混同するような現象が起こりかねない。日本の将来には希望を持っているが、それには官僚の特権排除と青少年の人格教育が大事である。最終的に全てを決するのは国民の政治常識である。

 それから67年経った今日、永野氏の心配は現実のものとなった。経済的には発展を遂げたが、文化的にはまだ勝利を得ていないからである。議会は権力亡者たちの駆け引きの場となっている。日本の存在感は乏しくなり、国境を巡って四海波高く、孤立化の傾向が強まっている。いま日本は自由と規律、権利と義務のバランスを失っている。残念ながら、日本の文化的敗戦はまだ続いているといわざるをえない。

一億総白痴化

 敗戦後、日本を占領した連合軍のマッカーサー元帥は、日本人の精神年齢を12歳だといった。後には辛辣な評論で知られた大宅壮一氏が、日本は総白痴化していると指摘した。軍事を米国に委ねた日本は経済再建に邁進し、経済大国の地位を勝ち取った。しかし、一億総不動産屋、一億総財テク屋といった現象が生じ、世界から「エコノミック・アニマル」と指弾された。戦前、軍国主義という全体主義に走った日本人は、今度は経済主義という名の全体主義に走った。

 日本人はお祭りが好きである。そして恥じることを嫌う。元来、漁労や農耕は団体作業である。いきおい、隣人と同じ行動を良しとする。村八分は困るのである。戦時中は、なにか違う行動をすると「非国民」と糾弾された。

 日本人は全体主義に走りがちである。山本七平氏が『空気の研究』(文春文庫)で指摘したように、風潮に染まりがちである。為政者にとっては、人心を操作しやすい。しかし、これは日本人の欠点である。結果、永野氏が心配したように、日本人の政治的常識は向上しなかった。

 民主主義の欠点は衆愚政治に陥りがちなことである。日本はその欠点に陥った。政治家は大衆に迎合して予算をばら蒔き、有権者は政府から金を引き出すことに腐心するようになった。財政の赤字が膨らんだ。

独立自尊への道

 国も地域社会も、人々の自立心があってはじめて成立する。働かない者は困る。元気な若者が生活保護をもらって恥と思わないのは困る。もちろん、国も地域社会も雇用機会を増やすように努めなければならない。

 昔から「一人前」という言葉があった。働いて妻子を養って、はじめて一人前の大人として認められたのである。だが、今日はどうだろうか。働いて社会に貢献し、子孫を育成するという意識が希薄になっているようである。

 日本人が独立自尊の気概を持って行動してはじめて、日本という国は成立し、世界からその存在を認められるようになる。では、独立自尊の気概を持つようにするには、どうすればいいだろうか。その答えは、日本という国のかたちと歴史認識にあるように思われる。

 日本は平和国家になった。それは素晴らしいことである。しかし、平和はただではない。自分の国は自分で守るという大原則を忘れてはならない。交戦権を放棄した国は国ではないとする意見もある。永世中立のスイスは国民皆兵である。それでこそ中立が保たれる。

 日本は歴史上初めて敗戦国となった。だが、それは長い歴史から見れば一時的なことである。総繊悔すれば良いというものではない。日本は独自の歴史と文化を持つ。今こそ「温故知新」の知恵を発揮すべきである。自国の歴史に誇りを持てない国民には独立自尊の気概は生まれない。

日本人の長所

 これまで見てきたように、日本文化の特徴は「和」である。核戦争の脅威に脅え、環境悪化に苦しみ、マネーゲームに翻弄されている世界がいま最も求めているものである。

「和」の中身はいろいろだが、大きくいって三つある。まず自然と祖先を敬う、素直で敬虔な心情である。自然と共生し、人と仲良くする。物を大切にする。日本語の「もったいない」がいま世界に広まりつつある。

 次には、日本語と歌心にみられるように、情感豊かで受容力に富んでいることである。外来文化を創造的に導入して、日本独自のものに変えて行く力がある。日本独自の創意工夫、技術力である。それはサービスにも及び、いま世界で日本の「おもてなし」が注目されている。

 三つ目は、武士道の特徴である、名を惜しみ恥を嫌う、道徳的な行動力である。切腹は野蛮な行為と映るだろうが、強烈な責任の取り方ではある。日本は決断は遅いが、行動は速いし、責任を全うする。世界もそう見て期待している。

 日本文化に対する世界の理解は深まっている。アニメ、歌、寿司、温泉。だが、日本人の優しい開かれた心は理解されているだろうか。日本人は偏狭な島国根性を持つと思われていないだろうか。そうした誤解を解くためには、まず日本人が日本は元来、多民族の海洋国家で、その和の文化はこれからの世界に貢献できるものだとの認識を深めなければならないだろう。

尊敬に値する国へ

 2011年3月、東日本大震災が起きた。地震、津波、原発事故、それに政府の不手際。小松左京氏の小説『日本沈没』の現実化かと思われた。幸い、被災地は冷静に復興に取り組んだ。海外から沢山の支援が寄せられた。そうした中、米国人の文学者ドナルド・キーン氏が日本に帰化した。

 日本はまだ見捨てられてはいない。しかし、日本の存在は小さくなって行こうとしている。人口はすでにピークを打った。2050年には生産人口は5000万人を割り、3人に1人が65歳以上の老人になるという予測がある。

 日本が量的な大国を誇る時代は終わった。これからは質的な尊敬される国として生きる時代である。それは世界を動かす発言力を持つ国。高い生活の質を実現する国。文化的に優れたものを持つ国である。そうなれば日本は世界の輝ける存在であり続ける。幸い、優秀な若者が育ってきている。人口だって依然大国に属する。

 日本が尊敬に値する国として存続するには、どうすればいいだろうか。最後に基本的な戦略を列記してみたい。

● 立国の理念の確立。「開知豊国」―知恵を全開して、物心共に真に豊かな国を創る。

● 教育の改革、人材の開発によって、独立自尊の国民と世界に発言するリーダーを育成する。

● ものづくりの伝統を磨き、技術開発に遭進する。ハード、ソフト両面で世界をリードする。

● エネルギー革命と国防体制の整備で、持続的経済成長を確保し、財政金融の節度を守る。

● 和を尊ぶ日本文化の長所を生かして、世界平和と環境改善に貢献する。

 いずれも国家百年の計である。今から大胆に着手すべき基本的施策である。今後世界中に拡散すると思われる日本人も日本企業も、故国が敬愛されてこそ、胸を張って生きて行けるのである。(おわり)

p r o f i l e

吉村久夫(よしむら・ひさお)

1935 年、佐賀県生まれ。1958年、早大一文卒、日本経済新聞社入社。ニューヨーク特派員、日経ビジネス編集長などを経て1998年、日経BP社社長。現在日本経済新聞社参与 。著書に「この目で見た資本自由化」「進化する日本的経営」「本田宗一郎、井深大に学ぶ現場力」「マスコミ生存の条件」など。



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