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トピックス -企業家倶楽部

2013年08月15日

初体験を描いた15のこと/日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合 代 表 村口和孝

企業家倶楽部2013年8月号 日の丸キャピタリスト風雲録 vol.33

【日の丸キャピタリスト風雲録】第33回 


【日の丸キャピタリスト風雲録】第33回 


初の記念すべき本出版

 DeNA共同創業者の川田尚吾さん評

「村口和孝さんの本、しみた。非常に読みやすくまとめられているんだけど、深い。とてつもなく深い。さらっとした一言一言はすべて村口さんが見てきた生の人間の生き様が凝縮されたもの。大きく叩けば大きく響く、小さく叩けば小さく響く、西郷隆盛のような作品でした。」(フェイスブックにて)

 新しい本について、こんな風に感想を書いてくれて本当にうれしかった。だが、一般の人がこの本を読み解くには、若干の解説が必要だと思われる。

 2013年5月21日、講談社+α新書から、私の初めての本が出版された。(「私は、こんな人になら、金を出す!」全190P)。一年くらいの準備期間を経て、ようやく出版にこぎつけた。講談社の企画者と、長い調整が必要だった。というのも、膨大な創業支援体験からいろいろ書きたいのに、新書なのでページ数をギリギリ絞らなければならなかったのと、読みやすくするために、さらっとした表現にしなければならなかったからである。難しい説明や、大事だと思ってもともと何度も何度も繰り返した部分は、思い切りカットすることになった。少ないページ数で、高校卒業生にも十分読めるレベルになるよう努力して、相当削り込んだ。

 ただ、たった190ページの新書だが、結構中身は斬新な内容を詰め込んだ。さらっとも読めてしまうが、起業家や創業支援のプロ、ベンチャーキャピタル関係者、政府の官僚が読んでも、ドキッとする最低限の内容を書けたと思っている。事実、本に登場するDeNAのメンバーや、起業を経験した人たち何人か話を聞く機会があったが、起業の現場を体験した人は、皆一様に良い本だと言ってくれた。




誤解されてきたベンチャーキャピタル

 日本のベンチャーキャピタリストとして、前線で実際に体験してみて、書かなければと思う事は、たくさんある。その生態は誤解され、よく知られていないため、専門家の先生ですら間違った理解をしていると思う事が少なくない。なぜそう言い切れるのか?それは、私が1998年に独立して個人で業務執行組合員(NTVP i-1号投資事業有限責任組合)に就任して初めて、日本で個人としてベンチャーキャピタリストとしての活動を始めた当人であるからだ。そして、DeNA、ウォーターダイレクトをはじめとして、それなりに成功もし、失敗もして一通りの経験をした。その体験から書かれた日本で初めてのまとまった本である。

 これまでもベンチャーキャピタルはあっただろうし、経験も積んできただろう、と思う人もいるだろう。そこに落とし穴がある。それまでの日本のベンチャーキャピタルは、私が14年間お世話になったジャフコをはじめとして、多くが金融機関の関係会社のベンチャーファンド運用会社で、驚かれると思うが、日本には正確な意味で「ベンチャーキャピタリスト」という職業がなかったのだ。

日本初キャピタリストの本

 私が伝えたいことは、広範に及ぶ。見えている景色が独立前のサラリーマン時代と全く異なるのである。大げさに言えば、いわば歴史上初めて顕微鏡を見た人、地動説を唱えた人、宇宙から地球を見た人が何を見、何を感じたかといった本である。パラダイムが異なる、という便利な言葉があるが、まさにそれである。それを日本で伝えないといけない、と思って書いた本が今回の本である。

 今回、その様々な多次元な指摘テーマを、190ページの新書サイズに、欲張りに詰め込んだ。でもすべてが関連して、日本の創業ベンチャーがシリコンバレーに負けてきたことの日本側の景色となっていると思う。だからこの本では、実に多次元の話題を議論している。というのも、あれこれシリコンバレーの創業の世界を、部分を断片的にこれぞシリコンバレーの秘密だと解説して、あれだけ「御当地バレー構想」が日本全国鳴り物入りで流行して、日本中にインキュベーションが出来たにもかかわらず、10年経ってなぜまったく世界的ベンチャーを生みだせなかったのか?断片を真似しても、本質を真似したことにはならないという単純な失敗だと思う。例えば首が長いとキリンになるという理解で、ライオンの首だけ長くしても、キリンでないのと似ている。シリコンバレーを見習うなら、すべての要素をそろえる必要がある。

 そこでこんな短い本の中で、様々なことを議論する形の本になったのだが、私をよく知らない人にとっては、正直、統一感がなく、様々なことが述べられているだけではないかと、戸惑う人が多いのではないかと、実は憂慮している。そこで、書きたかったことを、15 にまとめてみた。

描きたかった15のポイント

 1.実際に創業段階から関わった、DeNA、インフォテリア、エイケアシステムズ、ウォーターダイレクトなど、すべて「日本の長期に渡る起業家の現場の創業体験に基づく実話」として書いた。(これまで、日本で複数の創業の現場を、実際にキャピタリストとして資金を提供し、直接創業経営に、5年以上の長期に渡り複数関与した立場から書いた本はなかったと断言できる。)

 2.「ハンズオン型ベンチャーキャピタリストの日本で初めてのベンチャー創業支援の活動実態」を、日本で作業した日本人による長期に渡る複数の活動として、本人が写真を交えて体験的に書いた。(日本では初めての本である)

 3.「DeNA創業期の内部ヒストリーと成功要因」を、直接関与したキャピタリストの立場から分析した。なぜDeNAが世界に挑戦できる規模にまで成長できたのか、を私なりに整理した。(ここまで客観的にDeNAの社史的な事実に即して書いた本は最初だ)

 4.「キャピタリストが成功すると思う、また失敗すると思う、起業家の観察される性質と、その経営」を体験的に描こうとした。(ベンチャー経営が失敗するパターンを、体験を基にしてここまで物語風に俯瞰してまとめた本は最初だ)

 5.「創業ベンチャーと、中小企業の活動が、根本的に異なる」という現実に基づいて書いた。特に中小企業庁やベンチャー学者が、創業ベンチャーと中小企業経営を混同してきたことで、創業ベンチャーの経営が誤解されることとなった。(「無名の起業家による未知の事業に挑戦」として、従来中小企業と混同して記述された視点とは明確に区別して、議論を展開した)

 6.「創業立ち上げは、失敗の乗り越えこそ、成功の重要な過程」である、という現実を指摘し、成功に至る失敗を含むステップを時間的な作業モデルにして解説した。(「失敗は成功の元モデル」として、「ベンチャーは失敗するリスクがあるから危ない」という常にマスコミや教育の現場で間違って指摘されてきた常識を覆した) 

 7.技術系のハイテクベンチャーのみならず、「商品サービスの開発レベルが低くてモノにならない場合、先へ進めないベンチャーの現実が、目の前に壁の様に立ちふさがっている」ことを強調した。(さまざまな経営戦略が強調されるベンチャー経営論の中で、実際には商品サービスがしょぼい事が多いことを、暴露した。)

 8.顧客発見の重要性をDeNAモバゲーの成功に関係して強調し、事業モデルが最適化する前に組織を作っても経費倒れに終わる点を強調した。(「キャズム越え」を解説し、ハイテクベンチャーは営業が弱いという文系の常識を覆し、営業組織を本格的に整備するのに、「マーケティング最適化が終了するタイミングをはかる必要がある」ことを指摘した)

 9.資金の出し手(ベンチャーキャピタル)などへの苦しくて歪んだ起業家による経過説明が、社内のコミュニケーションの矛盾と混乱をもたらし、事業立上げが失敗する以上に、複雑な支援現場の悪循環をもたらすという、あまりによくある現実を書いた。(これだけ事例があるにもかかわらず、分析されてこなかったように思われる。「ベンチャーの失敗が資金供給者たるベンチャーキャピタル側にある危険性」を初めて指摘した)  

 
10.「予算統制は経営でないどころか、しばしば健全経営を歪める」、という見解を指摘した。(上場審査でその精度向上が常識になっている予算統制が、経営そのものではない、どころか悪い事もあることを、初めて指摘した)

 
11.ベンチャー企業が「上場準備で、業務分掌・職務権限を明確にし、官僚化し、生産性が落ちてしまう事実」が観察されること指摘した。(時に上場すると、なぜ会社は大企業病になり、駄目になるか、そのメカニズムを初めて指摘した)

 
12.日本の「取引所の上場政策が間違い(「空白の五年間」)が、創業社会に巨大な悪影響を生み、特にベンチャーキャピタル業界が崩壊した」後に、ようやく2011年改革した歴史的事実を記述した。(ここまで強烈に指摘したのは、本書が初めてである)

 
13.「独立個人ベンチャーキャピタル」の社会的歴史的必要性と構造、そして、日本でも胎動期にあることへの期待を、事務所名を列挙して解説した。(独立個人ベンチャーキャピタルというカテゴリーを、明確に解説した最初の本である)

 
14.「日本の産業政策の中で、長期的に腰の据わった創業政策が、まったく力強さが足りず、駄目だ」という事実と原因を書いた。特に、エンジェル税制や金融商品取引法が、違和感がある事を強調した。(明確に指摘した最初の本である)

 
15.「日本人がいかに創業ベンチャーの活動に向いている国民か」、社会と歴史を振り返り説明を試みた。(日本人がベンチャーに実は向いた国民である、という説はあまり多くないように思われ、ユニークな視点だと思う)

皆で進めよう!

 私は1984年に日本のベンチャーキャピタル会社に就職し、サラリーマン投資を経験した後、1998年に独立し、個人のキャピタリストとして15年間の経験を積んできた。その結果、実際シリコンバレーのケースを持ってこなくても、日本ででも実行できたし、違いがあるわけではないことが、よくわかった。もちろんまだまだ未経験、未整理な体験はあるが、一通り体験してベンチャー立上げの難しさと課題が少しは整理出来た。その課題が地理的な問題(シリコンバレーか日本かという問題)でない事は、本書を読んでいただければ、明らかだろう。

 ベンチャーの立上げの体験と観察が、ここまで来れば、もはや日本だからという理由で、未経験で分からないことはあまりない。あとは、皆が実行するだけである。未知の産業を切り拓く、無名の若者達のこれからの日本での活躍を心から期待したい。

 最後に、ユニークな歴史的な本を自負しているにもかかわらず、本のタイトルが「私は、こんな人になら、金を出す!」という、一般受けしそうなものにしたのは、講談社の営業戦略の素晴らしい成果である。まるで示し合わせたかの様に、南場智子さんの本が出版され、その偶然さには驚かされた。

失敗は成功の元モデル

1 夢をもって事業を開始し、資本を集める

2 新商品を準備する

3 仮説を立てて、商品を市場に投入する

4 試行錯誤の末、失敗する

5 資金の危機を生き残る(デスバレー)

6 事業を再構築し、KPIなどで成長モデルを作る

7 成功し、ミッションを再確認して組織化する

8 上場と事業の再構築


著者略歴

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合 代 表 村口和孝 《むらぐち かずたか》

 1958年徳島生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。84年現ジャフコ入社。98年独立し、日本初の投資事業有限責任組合を設立。07年慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師。社会貢献活動で青少年起業体験プログラムを品川女子学院等で実施。

 投資先にはDeNAの他、ウォーターダイレクト社が3月15日東証マザーズに上場。 



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