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トピックス -企業家倶楽部

2013年09月17日

改革はセゾングループの文化との決別から始まった/良品計画代表取締役会長 松井忠三

企業家倶楽部2013年10月号 トップに聞く


 西友の子会社として設立された良品計画。今や人気ブランド「無印良品」を国内外に展開、成長路線をひた走る。が、ここまでくるには順風満帆ではなかった。2001年大幅赤字に陥った良品計画の改革を主導、V字回復を成し遂げたのが、当時社長に就任した松井忠三氏( 現会長) である。いかにして改革を遂行したのか。そこには社内にはびこる既存文化と決別、マニュアルとなる「ムジグラム」を作成、日々革新し続けてきた歴史がある。今般その集大成として、著書『無印良品は、仕組みが9割』を出版した松井氏に、経営改革成功の極意を伺った。聞き手:企業家ネットワーク社長 徳永卓三




問 今般の著書はどのような意図で書かれたのでしょうか。

松井 世の中のビジネスマンや管理者の多くは、組織や人をどうマネジメントすれば良いか、サラリーマンという組織の壁をどう登っていけば良いのかという課題に直面していると思います。そのニーズに応えたいと。また今は活動の半分を経済同友会等の経済活動に力を入れていますが、最大の課題はどうやって日本の競争力を取り戻すかということです。私は流通業にいますので、流通サービス業で日本をもう一度元気にしたい。企業は世の中の変化、競争相手の変化に対してどう対応すれば良いかの処方箋を求めていますが、簡単には見つかりません。イノベーションが起こらなければ、その答えが出てこない時代に突入しているからです。イノベーションというのは、既存と違うことをやらなければならない。




問 処方箋は具体的にはどのように実行されたのですか。

松井 例えばホワイトカラーの生産性向上を挙げましょう。10年くらい試行錯誤の末、現在どういう方策をとっているかというと、デッドラインを設けています。よく試験前の勉強は普段より生産性が上がりますが、それは時間がないからです。人間はデットラインがあれば生産性が上がります。またよく言われる「ホウ・レン・ソウ」はわが社では重視していません。入社1年目だったらいいでしょうが、まともになってきた人にそんなことをやっていたら、その人の成長が止まってしまいます。そこで我が社では「ホウ・レン・ソウ」の代わりにデッドラインを設けています。デッドラインは見えなければなりませんので、パソコンによる管理システムを導入し、会議が終われば記録を全部入れて、全員が見られるようにしています。つまり衆目監視のもとで、そのデッドラインが実現されているか全員で確認し合うわけです。これによりホワイトカラーの生産性が上がりました。



無印良品のバイブル「ムジグラム」

問 仕組みをつくるということは情報の共有化が大切ということですか。

松井 仕組みの中で1番重要なのは確かに情報の共有化です。これを会社の仕組みとして、どう機能させるかが肝要です。一人ひとりが知識を持って頑張っても、企業としての力にはなりません。我が社のように300人も幹部がおりますと、皆一生懸命頑張って、その頑張りを全て足しても、一人ひとりの方向性がバラバラだと、会社として上手く動いていかないことがあります。300人全員が1つの方向に向かう体制を作り上げて初めて、企業としての大きな力が生まれます。情報の共有化は全員の方向性を統一するために必須です。わが社では「ムジグラム」というマニュアルに集約しています。

問 マニュアルというと堅くて型にはめるみたいなイメージがありますね。

松井 マニュアルというのは仕事の仕方を合理的に見えるようにしたもので、我が社の場合、仕事をする仕組みそのものです。お客様の変化やメーカーさんの意見を聞いて最適化を図ります。社員の創意工夫が積み重なったもので、日々進化しています。それが全部集大成をされたものが「ムジグラム」です。これは1ヶ月に1回の店長会議で、変更点は必ず説明しますし、試験も行います。試験をやるから聞く方も真剣です。社員は「ムジグラム」でしか教育されませんので、レジの開け方から、接客用語、陳列の仕方まで、現在の無印における最先端のやり方を全員が共有しています。

問 その意味ではこの「ムジグラム」は大変な経営のバイブルですね。経営のノウハウを自らの著書でここまで明かして大丈夫なのでしょうか。

松井 明かしたところで真似は出来ないですから。我々も最初は「しまむら」にマニュアルを見せてもらいましたが、それをコピーしても全く役に立たない、稚拙でもいいから自分たちでつくらないと駄目だということに気付きました。増収益を何年も続けている企業や人には必ず何か秘訣があります。経営にはマグレというものはありませんから。その中で取り入れ可能であるものを取り入れていくという手法は大変効率的です。自分たちが抱えている問題を解決している経営者は世の中に沢山います。その解決方法を勉強すれば、大抵は自分たちも同様に解決できます。「ムジグラム」も自分たちのものにしようと実施して何年も経ちます。私の著書を読んでくれた人が、自分たちの経営課題を考えて、救い出してくれると本望です。ヒントはここからとってもらって構いませんが、作るのはその会社の風土にあったものにしないと活きてきません。大変ですが少しずつ経営を進化させていく。5年或いは10年かかるかもしれませんが、それが結果的には企業を成長させていく上で一番の近道なんですね。

問 「ムジグラム」をつくるに当たり「しまむら」をお手本にされたということですが、やはり優れているのですか。

松井 しまむらは藤原秀次郎さんがすごい。藤原さんがいなかったら呉服屋で終わって、上場することもなかったかもしれませんね。藤原さんは大手企業の経験がないですが、自分の頭の中で、しまむらの現状をどうするかをずっと考えながら作ってこられた。販管費も23~ %くらいと非常に低い数字です。あそこは店舗展開のときの地上げを社員が自らやっているんです。従って家賃比率は4~5%と抑えられる。すごい会社だと思います。

問 「ムジグラム」をつくられたきっかけは、2001年8月期に38億の赤字を出したことですか。

松井 結果的に2001年は大きな契機となりましたので、原点はそこにありますが、私は西友の課長時代から意識改革の難しさを実感していました。トップが身体をはって考え抜いてやるしかないと思っていました。2001年の反省を踏まえてガラッと変えてきました。一つの事例に出会うと気付くし、仕組みにしやすいのです。


無印良品のバイブル「ムジグラム」

反対勢力はゆでガエル方式で染めていく

問 今の仕組みをつくっていくうえで、社内の抵抗はありませんでしたか。

松井 わが社は個人個人が経験値でモノを作って、販売していくという文化が根付いている会社でしたから、マニュアル導入にはみんな反対勢力のように思えました。100人の店長がいると2~3人は優秀な人がいます。綺麗な売り場を作って欠品もない。こういう人たちはマニュアル化するより、自分でやった方が上手くできると反対してきます。いわゆる職人芸というやつですが、職人芸では経営が上手くいきません。職人は1つの事をやらせると素晴らしい能力を発揮しますが、どんどん広げて組織としてやっていく能力が低い。

 私はお客様の満足度が8割から9割の売り場を作れば良いと考えています。100%の売り場を全員が作れるわけがありませんから。しかし放っておくと、6割とか7割の売り場しか作れない。9割の売り場を作ろうとするなら、基準をしっかり作った方が良いと思いました。それでもやはり反対者はいます。仕方がないので、反対勢力をマニュアル作りの準備委員にしました。

問 反対勢力を取り込んだということですね。

松井 反対勢力の人たちも準備委員に入ると、仕方なくマニュアルを作り始めてくれました。このように抜擢すると中心になって仕事をし、段々理解者になってくれるんです。次第に上手くまとまっていきました。また私は「ムジグラム」を作ると同時に、会社の風土も変えようと思っていたのです。

問 既存の風土を変えるということは大変なことですね。

松井 わが社では後輩は先輩の背中を見て育っていたので、100人の店長がいると100通りの部下ができていました。こういった風土をマニュアル化によって変えていくには、3年辛抱しようと考えました。3年経つと「ムジグラム」で教育された新入社員や中途社員が店長になってきます。「ムジグラム」以外を知らない人が店長になれば、「ムジグラム」が標準となるのです。僕はこれをゆでガエル方式と呼んでいます。カエルを熱湯にいれると熱さですぐ逃げ出してしまいますが、冷水に入れて少しずつ熱していくと変化に気付かず絶命することから、環境の変化に対応出来ないマイナスの事例に使われます。が、私は会社の風土を変えていく手法としてポジティブに捉えています。社員の皆が3年くらい頑張ってきて、ふと気がついたら、個人の経験主義で動いていた会社から「ムジグラム」という共通のツールを使って運用できる会社に変わっているという感じです。これは強引に新しい方針を押し付けて変えるのとは違います。いつの間にか、無意識の内に会社が変わっていたというのが、会社を変革する上で最も良い方法と思っています。



企業は実行してなんぼ!

問 松井会長は実行力が企業において最も重要であると書いておられます。

松井 企業って実行してなんぼでしょ!実行しなければ何の役にも立たない。実行して結果が出ると企業は変わっていく。どう考えても実行力と言うのが一番のキーワードであると。実行力が伴わないと会社の業績が着地しませんから。特にセゾングループは実行力が弱かったのでそう思うのでしょうね。

問 セゾングループは堤清二さんの文化ですね。

松井 堤さんはものすごいマーケッターだから情報ももっているし、企画書を重視していました。僕が入社した頃は堤さんの文化でしたから、企画書を上手に書ける人が出世街道を上がっていく状況でした。マーケティング会社やコンサルタント会社だったらそれもいいかもしれませんが、普通の事業会社ではダメですよね。泥臭く血にまみれても物事を達成していくくらいの実行力が企業では求められます。

問 セゾングループは何となくマスコミ受けをするというか、非常にかっこいいイメージでした。

松井 西武百貨店は当時就職ランキング4位か5位だったんです。今では考えられませんが。堤さんのところから別れて今業績がいいのは、多分堤さんと反対のことをやっているからでしょうね。当社の常識はセゾンの非常識、セゾンの常識は当社の非常識と、いつも言っています。そうでないとみんなの意識が変わりませんから。ゆえに現在、我が社では提案書はA4紙1枚だけとしています。

問 A4紙たった1枚ですか。

松井 資料を作るのは大変な作業です。会議資料を作るために残業するなどもってのほかです。資料を作ることが仕事だと最初は大半の人が思っていました。それは仕事ではないと理解してもらうのに大変苦労しました。社以来の根付いた文化のせいで、紙を作ってないと仕事をした気にならないようで。これを打破して、実行することに心血を注いでもらうためにA4紙1枚に制限しました。


企業は実行してなんぼ!

改革をやりきる徹底力

問 ヒット商品の作り方、コツみたいなものはありますか。

松井 ヒット商品のコツはありません。売れている商品がヒット商品であるということに尽きます。売り場の在庫管理と自動発注を連動させる仕組みを作りました。そこから売れ筋を調べるわけです。自動発注の仕組みが問題解決しながらレベルアップしていくんです。こういうものは導入初期段階では当然みんな混乱しますから、確固たる意志をもって導入しないと、現場からの不満で諦めてしまうことになりかねません。もし頓挫すれば、途端に発注という業務では同業他社に追い付けなくなります。つまり負け組になるということです。始めたら成果が出るところまでやりきる徹底力が大切です。

問 現在、徹底して行っていることは何かありますか。

松井 挨拶の徹底を行っています。社員がきちんと挨拶できる企業にするためです。今月は月曜日の8時~10時まで私は1階の入り口に立って出社する社員に、おはようございますと挨拶しています。挨拶は大切です。キャノン電子の秩父工場は、朝は役員がずらっと並んで、出社する人に挨拶します。すると日本語が流暢ではない中国人の従業員はそれまで不具合があってもそのまま通してしまっていたのを、挨拶でコミュニケーションをとるようになってから、機械を止めてくれるようになったというのです。そして半年間のPPM事故率がゼロになったといいます。挨拶の本質が伺えますね。わが社も600人の社員全員が出来るようになるまで、しぶとくやります。このくらいの徹底力で行動しないと、社員全体の風土は変わりませんから。

問 良品計画に移られた時、左遷だと思ったと書いてありましたが。

松井 その通りです。私は権威に逆らっていましたので。人事部でも素直に言うことを聞かない社員でしたから。でもモノは考えようで左遷とか厳しい環境を経験した方が、後には必ずプラスになります。どんな企業も本流を歩いて順調にトップになった人はいないと思います。

問 やっぱりいろんな苦労が人を成長させます。転んだり、つまずいたりとかした方が強いですね。

松井 病気したり左遷されたり、そんな経験をすると人間の本質がわかります。左遷で来ると誰も親身になってくれませんからね、初めて人の世の中を経験するわけです。そういう経験をした人としない人では全然違うと思います。

問 左遷されたり、冷遇された経験によってかえって人間味がでてくるということでしょうね。



プロフィール

 松井忠三(まつい・ただみつ)


株式会社良品計画会長。1949年静岡県生まれ。73年東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)入社。92年良品計画へ。総務人事部長、無印良品事業部長を経て、2001年社長に就任。赤字状態の組織を“風土”から改革し、業績のV字回復・右肩上がりの成長に向け尽力。07年には過去最高売上高(当時)となる1620 億円を達成した。08 年より現職に就き、組織の「仕組みづくり」を継続している。



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