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トピックス -企業家倶楽部

2013年09月24日

小型人工衛星が宇宙産業の未来を担う/東京大学航空宇宙工学専攻教授 中須賀真一

企業家倶楽部2013年10月号 先端人


 人工衛星というと、国家的プロジェクトの下に巨額の予算を費やして作られ、大々的に打ち上げられて新聞の一面を飾る--そんなイメージを抱く人は多いのではないだろうか。

そうした固定観念を取り払い、安価で小さな人工衛星の研究を行っているのが、東京大学大学院・工学系研究科教授の中須賀真一である。「小型人工衛星こそ、宇宙産業のカギとなる」と自信をもって語る中須賀に、日本の航空宇宙産業の未来を紐解いてもらった。(文中敬称略)



手のひらサイズの人工衛星

 宇宙産業。「果てしない未知の領域を開拓する産業」と言うとロマンに溢れているが、いまいちピンと来ないのもまた事実だ。

 宇宙空間を漂う人工衛星は通常、重さが1~4トン。製作費も1基500~1000億円かかるというから、歴とした重厚長大型の産業のように思える。しかし、2003年に中須賀が製作した人工衛星は、重さが約1キロ。片手で持てる程の小ささだ。部品は全て東京・秋葉原で購入し、経費を300万円に抑えた。カメラも搭載し、精度良好。10年を経た今でも立派に動いている。

 中須賀は少年時代、アポロ11号の月面着陸に衝撃を受け、宇宙に興味を持った。大学では学生に宇宙工学を伝授すべく実験を重ねていたが、99年から小型の人工衛星を製作する実践的な教育を始めた。その後、話を聞きつけて来た人々に、教育のみならず実用的な分野に進出してはどうかと提言され、よりビジネスライクな方面にも視野を広げることとなった。

 
 09年には地球観測用衛星「プリズム」を打ち上げ、最近では国立天文台と共同で「ナノジャスミン」という人工衛星を開発した。こちらは重量35キロ、製作費約1億円だが、89年にヨーロッパで打ち上げられた重量1.2トン、製作費約300億円の人工衛星「ヒッパルカス」と同等の性能を誇る。

 ナノジャスミンはブラジルから打ち上げを待つ身だ。日本では1~2年に1回しかロケットの打ち上げを行わない上、中須賀らの思い描く軌道に乗せるためには4年に1度の機会に懸けなければならないこともしばしば。今はウクライナやロシア、インドのロケット会社と協力し、打ち上げを行っている。

 
 「自分たちのロケットが欲しいですね」

 
 そう語る中須賀の思いは切実だ。



衛星を様々な用途に応用

 そもそも、人工衛星にはどのような用途があるのだろうか。「民間企業からは、広告に使いたいという要望が多い」と中須賀は語る。宇宙から撮った画像を自社のホームページに使ったり、自社製品が宇宙でも動くことを宣伝したり、ニーズは少なくない。

 そうした要望に応えるために中須賀が考案したのが、衛星の一部スペースをレンタルするという方法だ。衛星を丸ごと買う予算が無くとも、スペースだけ購入して企業の好きなものを入れてもらい、宣伝、観測、実験などを自由にできるようにする算段だ。

 国家のニーズとなると、人工衛星にできることは格段に増える。

 まずは地球の写真撮影。2万5000分の1までならば正確な地図を作製することが可能なので、日本に止まらず、これから国を整備していく地域に売り込める。現在、精度の高い地図となると1平方キロメートルあたり1枚約5万円という高値だ。そこを安価に抑えることでビジネスが生まれる。

 同じ箇所を毎日のように観測することで成り立つビジネスもある。例えば、農作物の変化を見続けたり、森林の管理をしたりするのに、衛星は適している。

 ただし、打ち上げた衛星が1基だけでは、同じ場所に戻ってくるのに30~40日かかる。衛星を20 機くらい打ち上げることで、1~2日に1回くらい見ることが可能となるのだ。東日本大震災の折、日本の衛星で最も早く現場の写真が撮れたのは3日後だった。速報性が重要となる災害時、写真撮影に何日もかかるようでは意味が無い。

 「出来る限り多くの衛星を打ち上げておくことが肝要ですが、1基300億円もする従来型の人工衛星では豊富に飛ばすことは事実上不可能です。そこで登場するのが私たちの小型人工衛星。仮に単体で3億円ならば、従来の1基分の予算で100基もの衛星を打ち上げられます」

 中須賀は国家の宇宙開発戦略に小型人工衛星を加えることにより、新たな社会インフラの構築を目指している。

 また、海外で宇宙産業に注力している国はまだ少ない。しかし、多くの国は自前で人工衛星を作りたいと考えている。その際も、いきなり300億円の衛星を売り込むのは得策では無い。資金的にも手の届きやすい小型衛星から技術を提供していく方が現実的だ。そうして様々な国が宇宙産業に進出し、それぞれが共同で地球観測をする衛星を打ち上げていけば、お互いにメリットを享受できる。さらに、技術を日本から伝授されたということになれば、将来的に日本と良好な関係を結んで宇宙開発で連携ができる可能性も高い。宇宙開発にも、こうした中長期的な戦略性が求められるのだ。



「ほどよし」プロジェクト

 中須賀の打ち上げ実績は国からも認められ、10年より「ほどよし」プロジェクトという企画が立ちあがった。「ほどよし」の名には、従来よりも圧倒的安価で、ほどほどに良い性能を持った衛星を開発していこうとする意図が含まれている。

 これまで国の宇宙開発は超高信頼度にして超高性能を狙ってきた。しかし、もちろんそれだけ値段は高くつく。通常1本1000円ほどの蛍光灯が宇宙開発用となっただけで1本1000万円にまで跳ね上がるのは顕著な例だ。

 宇宙でしか使えないような高価な部品を使い、山のようにヒト、モノ、カネを費やして行う宇宙開発のままでは、人工衛星1基あたり300~500億円という高コスト体質は変わらない。

 
 「狙いは従来の100分の1のコスト。だいたい3億円くらいまでです。打ち上げ費用を含めても5~6億円に収まるようにしたい。そうすれば、国や大企業以外でも顧客になり得ます」

 確かに、5~6億円という価格設定は、広告費で衛星が作れることを意味している。多くの企業が乗り出してくることは間違いないだろう。それ以外にも、これから宇宙産業に力を入れようという新興国、日本の都道府県、大学の研究機関など、宇宙に興味を持つ全てのコミュニティがより簡単に衛星を手に入れられるようになる。

「国にしか出来なかった宇宙開発の敷居を下げるのも、小型衛星の役割です」

 今、中須賀たちが連携しているのは全部で35カ国。まだほとんどが低レベルの連携だ。しかし、面白い試みも進んでいる。空き缶を土台とし、学生たちによって作られた人工衛星「カンサット」もその一つだ。アメリカで打ち上げ、上空4キロから放り出してもらう。パラシュートを利用し、約15分かけてゆっくりと地上まで落ちてくるので、その時間を使って様々な実験を行うことができる。一度打ち上げると手を触れられない通常の人工衛星同様、遠隔的に操作せねばならないので、いい実践訓練となる。未来の航空宇宙産業を担う日本の学生たちがここで腕を磨く。


「ほどよし」プロジェクト

得意分野への選択と集中が肝要

 日本の打上げロケットは精度が高まり、成功確率も100%に近づいてきたが、価格が高いのが難点だ。世界標準で70億円あれば打ち上げまで行える人工衛星に100億円以上を費やしている。

 日本の宇宙開発においては、信頼度を維持しつつ安価に製作などを行うというインセンティブが働いてこなかった。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が企業の言い値で買ってきたため、メーカーとしては値段を釣り上げた方が得になる構造ができ上がってしまったのだ。その代償として、日本の国際競争力が失われることとなった。こうした企業体質を打破し、効率的に安価な開発を行えるように努力を重ねなければ、日本の宇宙産業に未来は無い。

 もう一つ、国際競争力を付けていく上で重要なのは「選択と集中」だと、中須賀は説く。JAXAは小規模版NASAだと言われるように、日本はアメリカが行っている宇宙開発を全て請け負おうと試みている。しかし、宇宙産業に投じられる日本の予算はアメリカの30分の1に過ぎない。全般にわたってアメリカと同様の開発を行おうとしても、勝負は見えている。だからこそ、日本は戦略的に得意分野に投資を集中すべきだというのである。

 「小型衛星では十分に勝てる」と中須賀。日本は他の産業を含めても小型化を得意としてきた。前述のカンサットでも、日本とアメリカの学生の作品を比べると、日本の方が何割か増しに多機能となっている場合が多いという。

 その他、小惑星探査機「はやぶさ」にも搭載された、微力な電気で長時間の飛行を可能とする電気推進は日本が誇る技術である。また、太陽電池パネルやリチウムイオン電池に関しても、日本が占めるシェアの非常に高い部品素材となっている。

 日本にも、部品単位では高品質で低価格なものを作る能力が備わっているのだが、航空宇宙産業で大切なのは包括的なシステムだ。人工衛星やロケット全体を構築するとなると、信頼度を維持したまま安価で提供するという条件で海外勢に劣ってしまう。自動車や家電産業で発揮されたビジネスマインドが、残念ながら航空宇宙産業には入ってこなかった。

 品質は素晴らしいが、高価格なため世界で売れない。世界で売れないと、量産することが出来ないので技術力が伸び悩み、信頼度も上がらない。日本の宇宙産業は、負のサイクルに陥っているとも言える。

 「まずは何とか、人工衛星を安くして世界で多く売れる状況を作らなくてはいけない」

 許容範囲内の信頼性を誇り、かつ圧倒的に安価な小型人工衛星が日本の宇宙産業を背負って立つ日は近い。(相澤英祐)



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