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トピックス -企業家倶楽部

2013年10月03日

SF映画のような読書体験もすぐそこに/イーブックイニシアティブジャパン 代表取締役社長 小出斉

企業家倶楽部2013年10月号 注目企業




理想の書庫

 自分専用の書庫に憧れる人は多いだろう。従来書庫などは贅沢であったが、書籍を置くスペースは不要、経年劣化もなく、書庫を持ち歩ける--それを実現したのが電子書籍である。イーブックイニシアティブジャパン(イーブック)は書籍を電子化し、販売を行っている。取扱い作品数は12万3000冊、その内、マンガが7万1000冊(2013年5月現在)を占める。特筆すべきはマンガの取扱い数で、業界2位に3万冊の差をつけ、圧倒的日本一である。登録会員数は79万人を数え、1人当たりの月間購入金額は約5000円、9割はマンガの売上げである。

 2009年にはイーブック台湾と提携、11年10月マザーズに上場、13年1 月期の売上高は30億4400万円、経常利益4億4500万円と順調に業績を伸ばしている。

 イーブックの電子書籍は同社の販売サイト「eBook Japan」で無料の会員登録後、購入する。購入した書籍はウエブ上の自分専用本棚「トランクルーム」に格納され、読みたい時にスマートフォンやタブレットなどの電子端末にダウンロードした上、オフライン(インターネットに非接続)で読む。閲覧期限は無く、端末の紛失や買い換え時も問題ない。また書籍を取り込み済みの端末を忘れても、自分のアカウントにアクセスし、手持ちの他の端末に再ダウンロード出来るので、本を自宅に忘れるということがない。続きが読みたくなったら、その場で購入することも可能、まさに理想の書庫である。



電子書籍の実証実験を経て起業

 イーブックの創業は、日本の電子書籍のあゆみと深く関っている。90年半ば、イーブック創業者の鈴木雄介(現会長)は小学館で百科事典の電子版製作に携わり、電子書籍の将来性に目覚めたのだ。早速、思い描いた電子書籍リーダーの木製模型を手作りし、それを手に未来予想を語り始めた。

 それに大きな関心を示したのが、当時の通商産業省(通産省)メディアコンテンツ課の課長代理、後に村上ファンド代表となる村上世彰である。補正予算が編成され、出版社、端末メーカー、キャリアなど150社ほどで「電子書籍コンソーシアム」を結成した。当初150億円ともいわれた予算は最終的に8億円となるが、電子書籍の実証実験が98年にスタートする。

 個別の送信は不可能だったので書店などのメディアスタンドへ送信、そこから人々が専用端末に繋いで受け取るビジネスモデルを構想し、当時としては高速で大容量の衛星通信で実験は行われた。様々な本を取り扱ったが、モニターに抜群の評価を受けたのはマンガであった。しかし、参加企業各社とも事業化には至らず、実験は2年で終了することとなる。

 そこで慌てたのが通産省である。「雇用創出支援」として予算を捻出したため、名目を失ってしまう。結局、鈴木は小学館を辞職、端末製作担当者の高嶋 晃(現常務)がシャープを辞職し、5人の仲間でイーブックを立ち上げた。



2つの契機

 実験の結果を受けマンガを主軸とし、普及していたパソコン用電子書籍の取扱いを開始した。通信速度が遅く1冊取り込むのに6時間要するため、CD-ROM等で販売していた折、1つ目の契機が訪れる。01年にヤフーがADSLのモデムを無料配布、またたく間に日本中に高速通信が普及し、大きな追い風が吹き始めたのである。同年手塚プロダクションと契約、熱心なファンの多い手塚作品などを数多く確保することが出来た。

 
 04年日本メーカーの電子書籍端末が発売されたが普及せず、携帯電話でマンガを読むことが若者に流行し、急速に600億円の市場へと成長していった。ところが、携帯電話の小さな画面で1コマずつマンガを読むことは鈴木の信念が許さなかった。活況の業界を尻目に、イーブックは携帯向けのコンテンツはほとんど取り扱わない。だがその姿勢に大御所の漫画家らが共感し、海賊版防止、作品ブランド保持、高画質などに対応した質の高いパソコン用コンテンツを彼らと共に数多く作り出していった。

 熱心な読者のいるマンガの安定した利益に支えられ、じわじわと成長を続けていた09年、現社長の小出斉がイーブックに副社長として入社する。10年タブレット端末のアイパッドが発売され、これが第2の契機となった。スティーブジョブズのプレゼン中継を見た小出は「世の中を変える」と思ったという。早速、経営資源を集中し、アイパッド用の販売サイトやアプリを提供した。参入する企業が急増したが、時間をかけて質の高いコンテンツを揃えて来たイーブックにかなうはずがない。イーブックは売上げが急上昇し、翌11年にはマザーズ上場を果たすのである。

 「電子書籍に特化した事業及び体制を構築したことが同社の大きな強み」と小出は語る。創業時からマンガに力を入れたことも大きい。システムや作品データ製作、著作権交渉に人手が必要な先行投資型の事業ながら、マンガの安定収入で機が熟すまでじっくりと事業を育てることが出来た。

 電子書籍の市場は700億円強、600億円弱をマンガが売り上げる。同社もマンガの売上げが9割以上で購買層は主に30代後半だ。なぜマンガがそんなに強いのか。依然として総合図書(文字の本)に比べて格下の意識があり、大人が読むのは恥ずかしいと感じたり、家族の理解が得られず愛蔵書を捨てられてしまうこともあるという。また、巻数が長い作品が多く保管するのにスペースが必要だが、電子書籍なら全てクリアできる。



電子書籍のこれから

 小出は「日本の文化であり、大きな可能性のあるマンガという手法自体を世界に広げて行きたい」と語る。12年からJALの座席液晶モニターでマンガを読むサービスを開始、海外で人気の作品は英語版も揃えている。

 現在、書籍市場1兆7000億円で電子書籍の割合はほんの4%しかない。電子化される作品が少ない上、電子化されても多くの場合、紙の書籍発売後1ヶ月以上遅れて発売される。さらに、デジタルデータのない03年以前刊行の総合図書の電子化には非常にコストがかかり、書店と同じ品揃えまでには遠く及ばないのが実情だ。

 極めて大きな伸びシロがある市場であり、総合図書も含めた品揃えを充実させ、さらに電子書籍ならではの付加価値のあるコンテンツが生み出されていけば、現在の書籍市場以上に広がっていくに違いない。バッテリーも要らず、折り曲げ可能な紙の長所を凌駕するSF映画のような端末が発売されれば、第3の契機となるだろう。児童書や参考書などビジネスチャンスは無限大だ。これからの電子書籍市場に期待したい。(庄司裕見子)

【会社概要】

社名:株式会社イーブックイニシアティブジャパン
本社:東京都千代田区神田駿河台2-9 KDX御茶ノ水ビル7F
設立:2000年5月17日
資本金:223,233千円



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