トピックス -企業家倶楽部

2013年11月18日

「すぐそばの宇宙」を目指し月面へ/ispace代表取締役CEO 袴田武史

企業家倶楽部2013年12月号 注目企業

月面へ向かう国際レースに挑む

   恵比寿駅から程近いアパートの一室。1歩出れば騒がしく人々が行き交う場所に、いかにもベンチャー企業らしい事務所が置かれている。資料や機材が雑多に置かれ、決して広いとは言えないこの部屋から、今、はるか宇宙を目指しているチームがある。


月面へ向かう国際レースに挑む


   チームの名前はHAKUTO(ハクト)。宇宙開発事業を行うispace(アイスペース)によって運営されている。このハクトが参加するのが、グーグルが企画する「Goog le Lunar XPRIZE」という宇宙開発の国際レース。ロボットを月面に送り込んで500メートル移動し、動画などを地球に送った最初の民間チームに20億円の賞金を出すというものだ。期間は2007年から15年末まで。現在、各国から22チームが参加するそのレースに、唯一日本から参加しているのがハクトである。

   代表の袴田武史を中心に、スタッフは40名ほど。皆、宇宙への夢を抱いて集まったが、10名強のエンジニアはあえて宇宙開発に関わりのない人を選ぶようにしているという。JAXA(宇宙航空研究開発機構)とは直接繋がりのない、機械工学、電子工学、ソフトウェア開発などといった技術者を集めることで、外側からの新たな着想を得て、イノベーションを起こしやすい環境作りを行っている。エンジニア以外のメンバーも、一見宇宙とは関係の無い、メディア、PR会社、コンサルティングなどの仕事をしながら参加している人間がほとんどだ。それぞれが自分の強みを生かし、チーム一丸となって月面を目指す。



民間による宇宙開発の基盤を作る


民間による宇宙開発の基盤を作る


   袴田が始めて宇宙への憧れを抱いたのは、小学校中学年の頃。有名なSF映画スターウォーズをテレビで観たのがきっかけだった。宇宙船が自由に飛び交う様に魅了され、自分もそうした機械を作りたいと思うようになった。大学では航空宇宙工学の道に進んだものの、細かい技術に特化した日本の研究室に不満が募った。「日本の技術は最先端だが、ここでは自分の夢を実現できない」。そう感じた袴田は、宇宙機の設計が出来るアメリカの大学院への進学を決意。英語は決して得意ではなかったが、夢を追いかける上では小さな問題だった。

   進学した大学院で、袴田は運命的な出会いを果たす。当時の宇宙開発賞金レースで優勝したチームのメンバーが講演にやってきたのだ。宇宙開発レースの存在を知った袴田は、民間で宇宙を目指す彼らの取り組みに驚くと同時に強く興味を引かれた。自分の生きているうちに、幼少期に憧れた宇宙船が飛び交う世界を作りたい。しかし、国の宇宙開発だけでは到底間に合わない。民間の宇宙開発こそ自分の夢への道なのではないか。

   当時から宇宙工学は人気のある分野で、研究者や技術者になりたいと考える人は多かったが、自ら人材を募り、資金調達を行うような経営者タイプの人間は少なかった。「それならば自分が、技術者が活躍できる場を作ろう」。アメリカの大学院にまで進み、宇宙工学を学んだ袴田が、一見関係のないコンサルティング会社への入社したのは、他でもない自らの夢に近付くための確かな布石であった。

   そんな折、宇宙開発レースに参加するヨーロッパのチームから袴田に声がかかる。09年のことだ。資金調達の難しさなどを理由にためらっていた10年1月、ヨーロッパのメンバーによるプレゼンが東京で行われた。彼らと朝まで語り明かし、その熱意に共感した袴田は、日本でのチーム立ち上げを決意した。10年9月に法人を立ち上げ、正式に活動を開始すると、イベントやフェイスブックのようなSNSを通して袴田の夢に共感するスタッフたちが集った。それはまさに袴田が描いた、宇宙開発に携わるフィールド作りへの第一歩だった。

   今後の展開として袴田は、今手がけるレースのプロジェクトを、将来的な宇宙開発の発展に結び付けたいと構想している。例えば、現在開発を行っているロボットを中心とした技術を生かし、将来的に人間が宇宙へ移住する際の探査用ロボットとして利用する。「小さなロボットを大量に送り込み、ネットワーク化させて探査能力を上げていきたい」と、袴田は独自の計画を語る。それを中心軸に据えながら、新たな事業の可能性を探っていく。



宇宙船の飛び交う未来へ

   今、宇宙産業には企業家、投資家からの注目が集まっている。かつて金融のビックバンが起こったように、規制緩和を軸にして市場が大きく動こうとしているのだ。宇宙開発をほぼ独占していたアメリカが、予算を火星探査などに当てるため、月を含む地球周辺の開発を民間に開放したのを皮切りに、宇宙事業に参入しようという企業の動きが加速している。今までも宇宙開発を行う会社はあったが、本質的な構造上、それらは国営のプロジェクトの下請けとなり、決められたものを生産するに止まっていた。民間企業自身がロケットを作り、サービスを売る。そこが今までの民間の宇宙開発とは大きく違う所であり、真の宇宙開発だと袴田は語る。

   また、民間事業が参入し、民生品を使った開発が行われることで、オーバースペックだった今までの開発から大幅にコストカットが可能となった。「将来的には100分の1までコストを削減する」と宣言する企業も出現している。低コスト化により、今まで国営の事業では成し得なかった様々な事業が立ち上がりつつある。最近はようやく宇宙旅行にも注目が集まるようになり、そこから派生して宇宙ホテルの構想や、宇宙港の建設が着々と進んでいる。

   現在の宇宙開発事業は、インターネット産業の黎明期に似ている。今は遠い世界の話に聞こえ、具体的な用途が分からない技術も、インフラが整備されれば急速に浸透するはずだ。「そう遠くない未来には、人類が火星に移住することも夢物語ではなくなる」と袴田は熱く語る。宇宙船が飛び交い、宇宙で人々が暮らす未来は、私達が思っているよりずっとすぐそばまで来ているのかもしれない。

【会社概要】
社 名 ● 株式会社ispace
本 社 ● 東京都渋谷区恵比寿1-8-14 大黒ビル420
設 立 ● 2010年9月1日
資本金 ● 1000万円



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