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トピックス -企業家倶楽部

2013年11月21日

ダイアログを通して次の時代を拓く/ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表 金井真介

企業家倶楽部2013年12月号 スタートアップベンチャー

暗闇をエンターテイメントに

 照度ゼロの世界を体験したことがあるだろうか。いかなる光も無く、決して目が慣れることの無い暗闇。そう聞いただけで不安や恐怖を感じる方もいるだろう。しかし、そうした空間を意図的に作り、エンターテイメントとして活用するプロジェクトがある。

 ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン。1988年にドイツで生まれたダイアログ・イン・ザ・ダークの日本における運営組織として、現代表の金井真介が設立した。暗闇を利用し、一般向けのエンターテイメントや企業向けのビジネスワークショップを展開している。現在までの来場者数はのべ10万人以上。下は小学生から上は80代までが体験し、SNSでも毎日のように話題にされているという。


暗闇をエンターテイメントに


 一般向けのエンターテイメントは約90分。参加者は6~8名で一組となり、暗闇の中に身を投じる。テーマは四季折々だ。正月は書き初め、秋は運動会、他にもガーデニングやクリスマスなどがある。今夏のコンセプトは「東北の夏」。性別も年齢も違う初対面の6人組が、何も見えない中で協力して丸太の橋を渡ったり、ラムネを飲んだりするなど、東北の祭りの世界観を楽しんだ。

 企業向けのビジネスワークショップでも、参加者は8人一組で行動する。3~6チームでの同時体験となり、やはり真っ暗闇の中で、設計図をもとに積み木を組み立てるといった様々な課題に協力して取り組む。社員間の共通認識を強め、信頼関係の向上に役立つ。現在では、トヨタ自動車、東京海上日動など、多くの企業に採用されている。日本各地に暗闇でのワークショップをデリバリーするなど、実績も豊富だ。

 そうは言っても、正直最初は不安だ。何が起こるか分からず、戸惑う参加者も多い。障害物を避けたり、段差を認識したりするために白い杖を渡されるが、これだけでは心もとない。

 そこで助けとなるのが、視覚障害を持つアテンドたちだ。障害者を「助ける」という発想ではなく、「一緒に働く」ことに意義があると、金井は説く。

「私たちは暗闇から出てくるとまた元の目が見える日常に戻りますが、視覚障害者にとっては外も中も関係ありません。彼らは自分たちの目が見えないということを受け入れ、私たちを楽しませてくれる。その姿を見て、多くの人が気付きを得るのです」

 暗闇の中、一人では無力でも、他の仲間と協力し合うことで目的を達成する。会社でプロジェクトなどを進める際にも、同様の状況が多々あることだろう。そうしたビジネスシーンにおけるエッセンスが、ダイアログ・イン・ザ・ダークの数時間に凝縮されている。



本質はダイアログにあり

「人は成長するにつれ、既成概念が構築される。しかし同時に、潜在的にそれを崩したいとも思っている」と金井は言う。 「人がいない、お金が無い、技術が無い」。人は新しいこ とをしようとする際、出来ない理由を探すのが得意だが、「出来る可能性」を追求していくことこそ企業にとっては重要となる。

 ダイアログ・イン・ザ・ダークでも、暗闇に入ると初めは何もできないと感じてしまう。しかし、与えられる課題は案外、協力して知恵を出し合うことで達成可能だ。すなわち、強固な信頼関係で結ばれた組織ほど突破力を備えている。そして、そうした絆を築くときに必要となるのが「ダイアログ(対話)」だ。

「初対面同士が集まり、数時間で戦友のように親しくなる。人は繋がりを求めているのです。私たちはその入り口としてダーク(暗闇)を使っているだけで、本質はダイアログ(対話)の方にあります」

 現在、年間約2万5000人が暗闇を体験しに訪れるが、多くとも一度に6~8人でしか運営できないため、効率は良くない。しかし金井は、「1日100個、丁寧につくる饅頭屋」と例え、「10年後にアンケートを取ったら、95%の方がこの体験を覚えている自信があります」と胸を張る。

 確かにイベントとしては一度に1万人集めて開催した方が効率的で楽だ。しかし人々は、自分が1万分の1ではなく5分の1の人間であることを求めている。まさに現代日本は、経済的合理性ばかりを追い、大量生産・大量消費の物質的な繁栄を求める時代から、心の豊かさに付加価値を見出す時代へ移行していると言えよう。

 



ニーズではなくウォンツを提供

 そもそも金井がダイアログ・イン・ザ・ダークを知ったのは93年。新聞の海外面で紹介されていたことがきっかけだ。興奮冷めやらぬまま新聞社に連絡し、ローマで初めて実際に体験した。部屋に入ると本当に真っ暗で、イタリア語の説明も分からない。一人取り残されかけたところ、視覚障害者のスタッフに助けられた。この体験に感激した金井は、より多くの人々に同じ体験をしてほしいと考え、99年に日本で初めて同イベントを開催した。

 その後も断続的に10年間活動を続けてきたが、縁があって現在の外苑前に暗闇を常設することとなった。ただ、日本ではまだこうしたイベントが産業として認識されていないのも事実。そこで、少しでも幅を広げようと、海外で行なわれていたビジネスワークショップを並行して運営するようになった。

 金井はもともとマーケティング畑の出身だ。人が潜在的に欲しがっている商品やサービスを手掛けるのを仕事としてきた。「人が欲している『ニーズ』を提供するのは簡単だが、やはり人が潜在的に欲しがっている『ウォンツ』を提供するのがマーケッターの醍醐味」と語る金井。そこら中にモノが溢れ、物質的な欲求が満たされる中で、ダイアログが提供しているのは環境変化という「ウォンツ」なのだと言う。「いつもと全く異なる環境下に置かれた際、自分はどう変化するのか。そして、他人との関係性はどう変わるのか。こうした素朴な疑問の中にウォンツが存在する」と金井は分析する。



ダイアログ・ミュージアムを作りたい

 金井が現在日本で運営しているのはダイアログ・イン・ザ・ダークのみだが、ヨーロッパでは無音の世界を体験するダイアログ・イン・サイレンスも企画・運営されている。その中では、音に頼らず手話などで意思疎通する聴覚障害者が引率者となる。

 また、イスラエルではダイアログ・ウィズ・タイムという、世代間のコミュニケーションを繋いでいくプロジェクトが行われている。こちらのスタッフは75歳以上の高齢者たち。

 「日本もこれからますます高齢化社会に向かいますが、お年寄りの膨大な知恵が埋もれてしまうのは惜しい。彼らの経験は必ず若い世代の糧になるはずです。それに、人は何歳になっても、誰かの役に立ちたいという欲求を持っている」

 金井は次の5年で、これら新たなプロジェクトを「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」と共に横展開していきたいと意気込む。

「コミュニケーションをテーマとしたミュージアムはまだ日本にありません。ダーク、サイレンス、タイムが併設されたダイアログ・ミュージアムを作りたいですね」

 百聞は一見にしかずと言う。まずは一度、体験してみてはいかがだろうか。

【プロジェクト概要】


運 営 ● ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン


住 所 ● 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-8-2

        レーサムビルB1F

電 話 ● 03-3479-9683



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