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トピックス -企業家倶楽部

2014年01月14日

軸がブレない温厚篤実なトップ/松井忠三の人的ネットワーク

企業家倶楽部2014年1/2月号 良品計画特集第5部


良品計画の大路を築いた松井の素顔は温厚篤実。会長として社の先陣を切りトップ外交を行う松井だが、プライベートでは美食家として名高く、至高の料理で友人たちと親交を深める。謙虚にして誠実。付き合いのある人々は松井の人柄を信頼し、その向こうに揺るぎない信念を見る。(文中敬称略)



仕事と遊びを両立した人生豊かな経営者

しまむら相談役 藤原秀次郎  Hidejiro Fujiwara


仕事と遊びを両立した人生豊かな経営者


 自社独自の徹底した在庫管理システムと商品で衣料品業界を牽引、ムジグラムのお手本にもなったファッションセンターしまむら。その仕組みを一から作り上げたのが、現在は相談役ととして重責を担う藤原秀次郎である。

 松井との出会いは、15年ほど前。良品計画の次期社長として、当時社長の木内政雄から引き合わされたのが始まりだ。その後、自社の指揮を取る傍ら、良品計画の社外取締役として10年間の任期を全うする。社外の人間ながら経営に携わるという難しい立ち位置においても、自身の経営感覚をもとに役員会の場では的確に問題点を指摘。一方、事業の根幹部分に関しては松井の顔を立てるため一対一で向き合い、良品計画のV字回復の指南役として大役を果たした。事業の方針面からも、社内の仕組みづくりからも、良品計画を成長へ導いた影の立役者なのだ。社外取締役を退いた今でも両社には交流があり、互いに学び合う。

 その見事な経営手腕から「小売の神様」と尊敬を集める藤原。日本の名立たる企業が企画しては撤退したノーブランド戦略で成長し続ける無印良品の強みを冷静に分析する。

「無印良品はコンセプトがしっかりしていて、シンプルビューティーという一本の筋がある。安心して買える信頼感に多くのファンが付いたのです。ムジグラムという基準をしっかりと根付かせ、チェーン展開を進め、商品も自社で作ったからこそ、海外でも支持を得ているのでしょう」

 海外展開の早かった良品計画。藤原は絶えない苦労話の聞き役にもなっていたという。相談される内容をも自らの糧とし、常に謙虚な姿勢を崩さない。そんな藤原にだからこそ、松井も本音を打ち明けやすかったのだろう。

 松井について、「素直で物事に率直。嫌味もなく、いい男です」と藤原は語る。共通の趣味である美食巡りを通じ、プライベートでも親交が深い。

 中でも自称美食家の集まりである「8人の会」では、3ヶ月に一度、松井に藤原、元トリンプ社長の吉越、ワールド社長の寺井を加えた4人が、自身の妻を連れ立って食事に出かけている。「セッティングは持ち回りなのですが、皆舌が肥えているのでいつも困っているんですよ。私の順番のときはどうしようかってね」。そう苦笑しつつも、次に集う場所を思案する藤原は楽しげだ。お代は毎回割り勘、次回の日程はスケジュールを持ち寄ってその場で決めるのが長続きの秘訣。奢る奢られるの関係より気が楽で、かれこれ10年近く続いているという。呼ばれればフランスでも飛んで行くというから、その盛り上がりは想像に難くない。

 藤原の人生を豊かにするための心構えは、仕事以外にも遊びを持つことである。「世界では、会社に人生を捧げるような生き方は通用しない」と痛烈に切り捨てる。仕事一辺倒の社長となってしまっては、そこで働く社員もつまらなくなるというのが彼の持論だ。松井に対しても、「経営者として成功したんだから、早く辞めて次は大好きな食関係の事業でも起こしなさい」とアドバイスする。

 経営者である以前に、一人の人間として充実した生き方を求める藤原。松井へ贈るメッセージにも、その思いがつまっている。

「気力体力のあるうちに、自分が人生の中でやり遂げたい想いを推し進めて、是非実現して下さい」

 松井の今後を見守る人生の先輩の表情は穏やかだ。



軸がぶれない信用できる男

アダストリアホールディングス代表取締役会長 

福田三千男 Michio Fukuda


軸がぶれない信用できる男


 松井と福田が出会ったのは15年ほど前、両社の店舗が入る商業施設での交流会だった。現在、松井はアダストリアホールディングスの社外取締役を務めており、公私ともに長い付き合いだ。出会った当時の松井の印象を福田はこう語る。

「3歳年下の彼を見て、正直年上だと思いました。当時の良品計画の業績があまり良くなかったことも影響していたのかもしれませんね。最近は業績のV字回復に伴って顔も若返ってきました(笑)」

 共に業績の良くない状況から社を立て直したという境遇からか、福田は松井に親近感を抱いているという。手法は違えど、似た状況を乗り越えてきた福田は、良品計画の改革をこう分析した。

「影響が最も大きかったのは、無駄な在庫を捨てたこと。一時的には赤字になってでも在庫を廃棄する手法は、私には出来ない。一貫した考えを持つ松井さんならではの判断です。拡大主義では業績は変わらないという考えが彼にはあったのでしょう」

 海外における無印良品の評価は高い。他国のクリエイターたちに「ぜひ、MUJIと関わりたい」と言わしめるほどだ。同じく世界を舞台に戦う福田は、良品計画の海外進出成功のポイントを「地域に根ざした戦略」だという。

 これをよく表している逸話がある。良品計画がアメリカと中国に進出した際、身体の大きいアメリカでは大きな商品が、反対に中国では小さな商品が売れると踏んでいた。しかし、結果は正反対。アメリカでは小さい商品が、中国では大きい商品がよく売れたのだ。そこで方針を変更し、結果どちらでも成功を収めた。

 実際に現地に行き、地域の特異性を感じ取れたために戦略を立て直せたのだ。徹底した現地調査と使用者目線こそが成功の最大の要因だと福田は分析するまた、黒字が見込める場所でしか出店しない徹底した仕組みや、現地でどの企業と手を組むかという人的要素も勝因の一つだ。

「海外展開において良品計画はとても参考になります。出店場所がよく調査されているので、できれば無印良品の隣にうちの店も出したいですね」と福田は笑う。

 店舗が隣同士では競合になると思われがちだが、ターゲットが違うため差別化を図ることができ、集客効果もあるという。

 良品計画とアダストリアは、物流を中心に情報交換してきた。良品計画が自社で物流システムを開発した際、福田は驚きを隠せなかった。

「松井さん自身が長年積み上げてきた実績と経験によって出来上がった土壌があるからこそ、自社開発が可能だったのでしょう」

 福田はそんな松井を「軸のぶれない男」だと評する。

「考えの根本に軸があり、行動に一貫性がある。だから10年以上も安心して付き合うことが出来ます。また、異業種交流会を開催するなど面倒見もいいですね。お酒に酔っていても周りへの気遣いも欠かしません」

 世間で大きな変化があると、福田は松井に時流について相談する。東日本大震災が発生した際も、現地の店舗への対応や支援方法などの助言を仰いだ。それほどまでに信用されているのも松井の人柄なのだろう。

「今後より様々な国に展開すると、その国の文化やルールにぶつかると思いますが、どう乗り越えていくか楽しみです。これまでの経験や考えを発信し、次世代のリーダーを育ててください」と松井の今後に期待を寄せる。



並み外れた実行力に脱帽

吉越事務所 吉越浩一郎  Koichiro Yoshikoshi
並み外れた実行力に脱帽


 まさに取材中、吉越事務所代表でトリンプの社長も務めた吉越浩一郎のもとに松井からメールが届いた。定期的に行われている食事会の連絡だ。日頃から連絡をとりあう2人は、共通の友人であるしまむら相談役の藤原秀次郎の紹介で知り合った。そこにワールド社長の寺井秀藏とそれぞれの夫人を加えた8人での食事会が恒例となっており、10年以上続いている。

「私がトリンプの社長を退任してからも、松井さんとは家族ぐるみの付き合いをさせていただいています。今では共に旅行をするほどの仲です」

 吉越がトリンプで社長を務めていたころ、松井は物流システムやコンピュータ部門、早朝会議など参考になると思ったものはすかさず見学しに来ていたという。他社であっても良い部分は学び、自社にも導入する松井の姿勢を吉越はこう語る。

「世の中にはもはや新しいアイデアがほとんどないと言っても過言ではありません。しかし、松井さんは良いものを的確に見つけ出し、自社に導入してしまう。彼の実行力には脱帽です。一部上場企業の代表を務めていながら、自らの趣味が派生して始めたレストラン『ラッセ』でミシュランの星を獲得するほどの人ですからね」

 他社の優れた部分を学び、作り上げた良品計画の物流システムは、今では外部から参考にされるまでに成長した。「TTP(徹底的にパクる)という言葉を私達はよく使いますが、松井さんの目指す徹底的とは『アイデアをしっかり自社に根付かせる』ということ。新たな仕組みを取り入れるのはそう簡単に出来るものじゃない」と吉越は松井の求めてきたレベルの高さに感心する。

 そんな松井率いる良品計画は海外進出を成功させ、一大ブランドとして世界に浸透させてきた。吉越がフランスの知人に「MUJIの会長とは食事をする仲だ」と伝えると、皆に驚かれるほど海外における評価は高い。日本のみならず、欧米やアジアでも受け入れられる要因を吉越はこう分析する。

「シンプルでおしゃれ、そして買ったことを後悔させない品質が何よりも魅力です。私自身、無印良品を長年愛用しています。そんな品質の良い商品と店内空間の作り出す世界観が海外でも通用しているのでしょう」

 長年、親しくしてきた松井の魅力は「物腰の柔らかさ」にある。「彼はとても明るく、経営者にありがちな威圧的な雰囲気がありません。それでも怒るときは厳しい。いつもは温厚ですが、締めるべきところはしっかり締めることができる理想のリーダーです」

 海外に200店舗以上も出店するほどに会社が成長してもなお、謙虚な姿勢を崩さない松井。「彼は軸をぶらさずに会社の成長を追求し続けてきた。ここまで成長してもなお、尊大にならないのは奥さんのおかげでしょうね」と吉越は笑う。松井夫人は西友の取締役を務めていた。家庭内によき理解者であり、よきアドバイザーがいることが松井の精神的な支えとなり、良品計画の成長に繋がったのだと吉越は語る。

 最後に、気の置けない仲である松井へ笑顔でこうメッセージを送った。

「若い経営者たちとできるだけ多くの接点を持ち、経営術やリーダーシップを次世代に伝授してあげてください。お互い健康に気を付けて、これからも長く遊びましょう」



何事も深層まで突き詰める研究者

ワールド 代表取締役社長 寺井秀藏  Hidezo Terai


何事も深層まで突き詰める研究者


 寺井と松井との出会いは、松井の社長就任前に遡る。しまむらの元社長藤原秀次郎からの紹介がきっかけだ。寺井、松井、藤原の3人にトリンプの元社長吉越浩一郎を加えてできた4人の会も、今では妻を同伴するようになり、8人の会となっている。

「真面目な堅い方というのが第一印象です。今でも根本は変わっておらず、非常に信頼のおける方ですね」

 4人は皆仕事を超えた仲であり、直接的なビジネス上の取引はない。8人の会における話題は、食事、旅行、家庭、時事など多岐に渡る。

 ある日寺井のもとに、「今日から私はビール党を止めてワイン党に変わります」という手紙と共に赤白2本のワインが送られてきた。これがワイン通への道に松井が足を踏み入れた第一歩であった。寺井は突然のことで驚いたのを今でも鮮明に覚えている。

「それから猛烈に勉強したようで、ワインを飲むだけではなく、ぶどう畑にも行く熱の入れようでした。味に関してはもちろんのこと、畑の地形も語れるほどに研究していました」

 趣味を楽しむということだけでは終われない。一般的に、たとえ趣味でも突き詰め過ぎるとかえって苦痛になりそうなものだが、松井は違う。そこからさらに楽しむのである。

 そんな松井の率いる良品計画の最大の魅力は仕組みだと寺井は語る。社員・アルバイト用の業務マニュアル「ムジグラム」は全13冊、約2000ページに上る。最初はしまむらのマニュアルを参考にしたが、結局は自分で作り上げた。理詰めで、分かるまで研究し、探索する松井の性格と一致しているという。

 無印良品というブランドの既成されたコンセプトを生かしつつ、より「売れる」商品製作をした。その結果、悪化していた業績は見事にV字回復を果たした。

 最近では、コンビニで無印良品を扱うコーナーが見られる。また、海外でも「MUJI」として展開。寺井はロンドンの店舗を訪れた際の感想をこう語る。

「現地になじんでいました。無印良品はヨーロッパの文化に受け入れられやすいと思います。美しさを突き詰めるとシンプルになっていく。無駄なものを削ぎ落とした日本の禅の文化は、とても分かりやすいのです」

 寺井が経営するワールドは、消費者に合わせた様々なコンセプトで36ブランドを展開している。各ブランドをまとめ、それぞれに投資をしていくベンチャーキャピタルのような役割を担っているという。これに対して、無印良品は単一ブランドを追求しており、新陳代謝によってどう鮮度管理をしていくかという宿命を負っている。

 また、松井に代わって良品計画の次世代を担う人物を育てる必要があると寺井。

「企業が抱える一番の課題は永続性です。時は常に進んでいるので、人とチームの世代交代が鍵となります。次々とバトンリレーをしていかなければなりません」

 年を取らないのではと思ってしまうほどに若さ溢れる松井。まるで永遠の青春を求めているかのようだと寺井は言う。趣味に熱中し、深層を突き詰めるところなど、物事に対する純粋な姿勢は時折子供のようである。寺井は、「これからもその青春を大切にしてください」と松井にメッセージを送った。



フランクな人生の先生

カインズ代表取締役社長 土屋裕雅 Hiromasa Tsuchiya
フランクな人生の先生


「松井さんは、常に他社から学ぼうという姿勢をもった人」

 カインズの社長である土屋裕雅はそう語る。松井との出会いは2008年に遡る。カインズの属するベイシアグループが雑誌に特集され、そのローコスト経営に興味を持った松井から指南の依頼を受けたのがきっかけだ。1対1で軽い話をするのだろうと気楽に待っていた土屋のもとに、松井は部下を何人も引き連れやってきた。流通や建築の技術に関して誰よりも真剣に聞く松井の姿に、土屋は驚かされた。

 土屋は学生時代から無印良品のファンだ。いらないものを削ぎ落したようなデザインは何を買ってもセンスが良く、あとから商品を買い足しても自然に馴染むので、つい足を運んで商品を手にとってしまう。その卓越したブランド力は、今や海外でも受け入れられている。日本を代表する企業である良品計画トップの松井が、わざわざ自ら赴いて細かいオペレーションに耳を傾ける必要があるとは到底思えなかった。

 しかし話すうち、それこそが松井の魅力なのだと土屋は気が付いた。社員に全てを任せ、上がってくる情報にしか触れないのではなく、トップ自らが学び、下を巻き込む姿勢。松井はまさにトップ外交を行っているのである。

 無印良品の強みはそのブランド力にあると土屋は語る。良品計画の商品を身に付けることがある種のステータスとして確立した現在、衣食住全ての分野で無印良品を利用する「無印人種」とも言うべき人々の存在が発展を支えている。

「これほどコンセプトを重視する企業のトップならば、自分を前面に押し出し、率先して商品開発に取り組むものだと思っていました。しかし松井さんはむしろ、ブランドの裏のシステムにこそ力を注いでいます」

 確立されたコンセプトと松井のシステムが合わさることで、無印良品は急速な発展を遂げたのだと土屋は分析する。

「常に学ぼうという姿勢を持ち続ける松井さんからは、私も勉強させられます。私にとって松井さんは、フランクな先生です」

 
20歳ほど年の離れた松井を、土屋はそう形容する。グルメに詳しい松井は最初の訪問後も土屋を食事に誘い、自分の仲間と引きあわせた。松井は良品計画の主催で異業種交流会を行うこともあるほど、業界を問わず顔が広い。ところが食事会の場面になると、主催者である松井は存在感を消すのだという。

「松井さんは自分が主催した会であっても、周りのみんなを主役にしようとするんです。強い思いが先立ち、自己主張の強い経営者が多い小売業で、彼のような人間は珍しい」

 小売業界では商品や店舗が目立つことが多い。しかし、物流からこの業界に入った土屋は、人事畑を経てきた松井と、裏方から小売業を支えてきた点で気が合ったのではないかと考えている。

 松井に教えられたのは、仕事のことに限らない。2013年夏、家族でフランスに行くことになった土屋がおすすめの場所を聞いたところ、松井はフランスのフレンチレストランで活躍している日本人シェフに連絡し、さらには偶然フランスに滞在していた元トリンプ社長吉越浩一郎に案内まで頼んでくれた。グルメな松井は、仕事一辺倒だけではない人生の楽しみ方を土屋に見せてくれる。

 そんな松井に、土屋はこうメッセージを送る。

「これからも人生のためになることをたくさん教えて下さい」



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