トピックス -ビッグベンチャー

2014年04月17日

不治の病に効く新薬を開発/ペプチドリーム社長 窪田規一

企業家倶楽部2014年4月号 新興市場の星たち


2013年6月11日に創業7年で東証マザーズに株式上場を果たしたバイオベンチャーのペプチドリーム。上場初日には初値が付かないほどの人気で取引を終え、2日目に公募価格2500円に対し、3.2倍の7900円の値が付いた。時価総額も最大2000億円となり今後の動向が注目を集めている。(敬称略)




 アルツハイマー病やエイズ、ガンといったこれまで有効な治療薬がないとされてきた、「不治の病」を治す新薬が近い将来、誕生するかもしれない。そんな壮大な可能性を秘めているバイオベンチャーがある。東京都目黒区、東京大学駒場リサーチキャンパス内に本社を置く、ペプチドリームだ。同社は、東大の知財を使った大学発ベンチャーであり、大学と同じ施設内にオフィスがあるのも納得がいく。

 「今までになかった新薬を創り、社会に貢献したい」と社長の窪田規一は夢を語る。ペプチドリームは社名にもある通り、特殊ペプチドを活用し、国内外の大手製薬メーカー9社と共同開発のアライアンスを組み、26本の新薬開発プロジェクトを遂行中だ。2006年7月に会社を設立し、創業から7年目の2013年6月11日に東証マザーズへ株式上場を果たした。2013年6月期の売上高は6億7800万円、経常利益は1億7400万円。2014年6月期の売上高は13億8500万円、経常利益7億1400万円を見込んでいる。



近未来の医薬品開発

 特殊ペプチドとは何ぞやという疑問に答える前に医薬品の歴史を簡単におさらいしよう。

 医薬品は大きく分けて、「低分子医薬」と「抗体医薬」の2つがある。低分子医薬は、1899年から薬として開発されてきた。我々が普段医師に処方され、薬局で受け取る薬のほとんどはこの低分子医薬である。110年以上の長い歴史があり、様々な疾患に対して開発が進められた結果、現在では資源が枯渇してしまい、新しい薬は生まれなくなってきている。

 そして、2000年ごろから抗体医薬が盛んになってきた。こちらは、体内に異物が入ると人間が持っている免疫機能で作られる抗体を使って治療するものだ。主にガンの治療薬として開発されているが、幅広い疾患に効果がある低分子医薬に対して、ターゲットが狭いとされる。ガンをはじめ40の疾患に対して有効とされるが、あと10年程で枯渇するのではと言われている。

 そこで次世代の医薬品として注目されているのが、特殊ペプチド医薬である。抗体が持つ免疫機能が人間の身体の中で重要な働きをする物質であるのと同様にペプチドも体内で様々な情報を伝達し、働きかける機能を持つ。我々の身体はタンパク質で出来ており、タンパクは20種類のL型アミノ酸で構成される。このアミノ酸が2つ以上結合したものがペプチドだ。アミノ酸には天然に存在するもの以外にも化学的に合成された非天然のアミノ酸も存在し、この特殊アミノ酸を加えることで特殊ペプチドが作られる。

 「これまでの常識では不可能とされてきた特殊ペプチドを工業的に安価で大量に作り出すことで、新薬開発が可能になった」と窪田は同社の強さについて語る。ペプチドリームはこの業界を牽引するフロントランナーなのだ。



特殊ペプチドに注目


 通常のペプチドは体内で役目を終えると数十秒から数分で分解されてしまう。非常に壊れやすく、不安定な性質を持つため薬に向かないとされてきた。これに比べ特殊ペプチドは数千倍安定性があるなどの利点を持っている。これまでも特殊ペプチドの持つ効果については研究されており、一部は製品となって発売されているものもある。しかし、それは例えばアマゾンの奥地で発見された植物などに含まれていたり、実験中に誤って生まれた偶然の産物であったり、絶対数が少ないという欠点があった。新薬開発のためには、特殊ペプチドを簡単に作れ、多くの組み合わせを試すために安価で大量に用意しなければならないという課題があった。

 もっと自由に多種多様な特殊ペプチドを合成することが可能になれば、特定の疾患に対し有効な医薬品候補となる物質を開発することが可能になる。この夢のような話を実現可能にしたのが、東京大学大学院理学系研究科教授の菅裕明が研究している「人工リボザイム(通称フレキシザイム)」である。このフレキシザイムを活用することにより、今までペプチドを合成する時の材料として組み込むことが困難であった「特殊アミノ酸」をペプチド合成に組み込むことが可能になった。

 ここまでなら科学誌の一面を飾る程度だが、ペプチドリームでは、さらに人工的に試験管の中に数千億から数兆の特殊ペプチドのライブラリーを作り、高速でスクリーニングを行い、医薬品候補となる物質を探すことが出来るシステムを作り上げた。これら体系化された技術を特許取得し、知財戦略を作り上げ、ビジネスが成立するように仕上げた。これが強みとなり、同社は創業7年と歴史の浅いバイオベンチャーにも関わらず、海外大手製薬メーカーと新薬の共同開発のアライアンスを組むまでに成長した。



新しい薬を作ろう

 「初めて菅教授の話を聞いたときは、何馬鹿なことを言ってるのだろうか」と思ったと窪田は話す。窪田は前職で遺伝子関連の仕事をしており、ある程度の知識があったため、常識を超えた菅の話をにわかには信じられなかったのである。

 2004年に国立大学の独立行政法人化が進められ、大学の研究者の研究成果を特許化し、企業へ技術移転するTLOの機運が盛んな頃に窪田は菅と会った。東大教授らしからぬヒゲを蓄え、レゲエミュージシャンといった風貌に一瞬身構えたが、菅のフランクな性格のおかげですぐに打ち解けた。

 「じっくり話を聞くとその内容は非常に科学的な上、とてもクリアで分かりやすく、論理的だった。初めは信じられなかったが、これが本当なら凄いことになると思った」と窪田は当時を振り返る。

 特殊ペプチドを作ることが可能になれば、今まで薬で治らなかった疾患を持つ患者のために新しい薬を開発することが出来る。

 「薬を作りましょう!」、二人の想いは一致した。菅の研究成果であるフレキシザイムを活用し、さらに創薬開発プラットフォーム技術を知財化、大手製薬メーカーと共同開発研究することで契約一時金、研究開発支援金、目標達成報奨金、売上げロイヤリティーといった段階的に収益を上げるビジネスモデルを構築した。

 今後は、自社独自の新薬開発も視野に入れている。未だ有効な治療法がない疾患は多く残っている。 「たった一人の人でもいい。病気で苦しんでいる方に『ありがとう』と言ってもらえる仕事がしたい。そのために挑戦し続けます」と窪田は語る。今後も日本発のバイオベンチャーから目が離せない。



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窪田規一(くぼた・きいち)

1953年 東京都生まれ。大学卒業後、日産自動車入社。スペシアルレファレンスラボラトリー(現 エスアールエル)、ジェー・ジー・エス社長を経て、2006年7月にペプチドリームを設立、社長に就任。座右の銘は「Our Dreams can come true!」。



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