トピックス -ビッグベンチャー

2014年05月19日

動画配信ビジネスでアジアへ打って出る/ユーストリームアジア代表取締役社長 中川具隆

企業家倶楽部2014年6月号 トップに聞く


 動画配信サービスを手掛けるユーストリーム・アジアは2月28 日、前年に人気だった動画配信者を称えるユーストリーム大賞の授賞式を行った。会場にはネット上の動画で人気を集める配信者が集い、大盛況となった。素人から人気アイドルグループまで幅広く活躍するユーストリームのマーケットに眠る可能性とは何か。同社設立時から携わり、動画配信ビジネスに尽力する中川社長に、今後の展望について聞いた。

 聞き手:企業家ネットワーク社長 徳永卓三

 



配信者への感謝から生まれた大賞

問 ユーストリームを始めた経緯をお聞かせください。

中川 ユーストリーム・アジア設立はソフトバンクの孫正義社長のツイッターでの発言がきっかけなので、当初「どうすんねん!」と戸惑ったことがいい思い出です。現地のシステムを日本版に変えるため、孫さんが「開発どこだ!」と聞き、海外の人間が「ブタペストです!」と答えるや否や、孫さんが私に「中川ブタペスト行けー!」という具合でした。

 ところが、ユーストリームのサイトだけ作ったところで、そこで見られるコンテンツが無ければ意味が無いということに気付いたのです。そこで、海外版ユーストリームを利用していた方10人程度に、ツイッターで番組制作を依頼しました。サイトができる約一週間という直前期にも関わらず、何人もの方に記念番組に近いものを作っていただけました。キャプションが日本語で書いてあるなどの心遣いも感じることができ、「ユーストリーム配信者の方はありがたい」と思いました。

問 その感謝の意味で大賞を催されたのですか。

中川 そうですね。会社が始まって1年目の忘年会の時、社員と私がユーストリームに貢献していただいた方に招待状をお出ししました。その折にユーストリーム配信者同士の交流があるだけではなく、社員もその熱さを感じて仕事の意義を感じる機会になるということで、そうした集まりを続けたいと考えるようになりました。

 その後も社員の中から「忘年会やりましょうよ」という声が上がったので、閉じた形ではなく、貢献した配信者を称えるような大賞にしようと思い立ち、若手社員に丸投げしたところ、昨年の第一回ユーストリーム大賞に繋がりました。

問 この大賞はどのようなものですか。

中川 その1年の内に配信された番組の中で一番人気だったものを選ぶというのがコンセプトです。ユーストリームの特徴であるプラットフォームの平等性を尊重して、大賞の選出方法も純粋にユーザーからの投票で、審査員の票はありません。

問 アイドルグループの「ももいろクローバーZ」が2年連続で1位と人気ですね。我々も「企業家チャンネルアワー」という番組を配信しているのですが、この大賞に参加できますか。

中川 今回の大賞ではフォロワー100人以上というのが条件ですが、それさえクリアすれば誰にでも参加できます。1ヶ月という区切りで、日本国内の登録者数は予備軍まで含めて240万人。配信者数としては日本だと24000人。1回しか配信しないで止められる方もいますし、毎週定期的に放送される方もいます。



震災をきっかけに人気に火がつく

問 ユーストリームはどのような人に利用されていますか。中川 ユーストリームは2010年の立ち上げから今年で4年になります。日本でサービスを開始した当時は個人の方が主なユーザーで、アーティストも事務所に関係なくファンの方と繋がるために利用されていました。

 アメリカでは政治的にも利用されています。オバマ大統領もユーストリームを使って選挙での演説を配信していました。その配信の後、爆発的に利用者が増えました。

 一方で、日本で一番視聴者数が増えたのは東日本大震災の時です。被災地の方はもちろん、帰宅難民の方々もテレビが見られないという状況下で、情報を得る手段が無くなってしまいました。被災地ではそもそも電力が途絶えたためにテレビでの情報も途絶えてしまった。そうしたことをきっかけに、ユーストリームというテレビに依存しないネット配信に注目が集まったのでしょう。

問 緊急時のメディアとして注目されたのですね。

中川 はい。それと同時に、日常においても電波の届かない場所ではテレビから情報を得られないことが指摘されるようになりました。実際に、震災時にユーストリームはテレビの代替手段として、テレビ東京以外の民放各社やラジオ局のサイマル(同時)配信を行いました。そして、それだけ大量の配信を行っても落ちなかったサーバーも評価され、ケータイやスマホで見られると再認識していただける機会にもなったのだと思います。

 加えて、特徴でもある国際性も評価されました。震災時に日本に住んでいる外国人の方向けにNHKの外国語放送をユーストリームでも放送していたので、英語で日本国内の情報を外国人にも伝えることができました。さらに、視聴者の約15%が海外からも見られていたというデータもあります。



マスメディアが伝えない情報に価値を

問 ユーストリームはどのようなメディアなのでしょう。

中川 ユーストリーム自身はメディアというより、あくまでサービスプラットフォームであり、インフラだと思っています。視聴者の方にはその上で自分自身のメディアを持てるという利益があるのです。つまり、震災の時のような場合には公共放送の代替メディアとなりえます。そして、個人の方でも物申したい方がいれば、マスメディアでは言えないようなこともそれと同じ土俵で話せるので、ユーストリームは究極の平等なプラットフォームだと言えます。

問 ユーストリームでは、テレビでは伝えないような報道もされていますね。

中川 震災時にマスメディアでは原力は安全だという報道ばかりなされていましたが、ユーストリームでは原子力の専門家を連れてきて「原子炉は危ない。メルトダウンしているかもしれない」という配信をされている方もいました。ユーストリームでは一つのニュースも多角的に見られるので、市民が情報を正しく知ることができる選択肢の一つとして、市民メディアのような側面も持っていると思います。

 某テレビ局の韓国偏向でデモが発生したときも、民放ではデモの様子が映らない。しかしユーストリームではデモでテレビ局に押しかけている様子も見られました。この公平性も、特徴として明らかになった点だと思います。

 弱みとしてはウクライナでの内戦を生中継していても、ナレーションやキャプションといった編集がなく映像だけなので、インパクトを出し切れていない部分があります。地上波より先に映像を流せる強みはありますが、テレビのようなセンセーショナルな効果を持たせることや、予期しない中継への集客については課題です。


マスメディアが伝えない情報に価値を

コンテンツ投資はゼロ

問 コストは年間どのくらいかかりますか。

中川 通常動画配信のようなことを始めようとすると、当然システムやサーバーにコストがかかります。また、配信するには通信料にあたるネットワークコストも必要です。しかしユーストリームは世界規模のプラットフォームです。システムもネットワークも世界規模で複数業者を競わせて価格を出して頂いているので、国内価格よりも圧倒的に安く済んでいます。動画配信ビジネスは非常にお金がかかるというイメージはあると思いますが、実際は先行投資がさほどかかっていないので、黒字になりやすいですね。

問 コストがかかるのはサーバーだけですか。

中川 ユーストリームの場合は映像配信の場を提供しているだけなので、メディアに必要なコンテンツには一銭も払わずに、様々な方に自由に映像を配信していただけています。ももいろクローバーZは、通常のコンサートだと1時間で1億円稼ぐようなアイドルですが、昨年のユーストリーム大賞の副賞に「ユーストリーム1日乗っ取り券」を差し上げたところ、結成5周年の記念すべき日に24時間の生放送番組を行っていただけました。プロモーションメディアとして行っているので、通常なら24時間の拘束で24億円稼ぐ人たちを無料で起用することができるのです。



企業の新しい広告の場として

問 広告業についてはいかがですか。

中川 ヤフーの宮坂社長が「動画元年」のようなことをおっしゃっています。動画がもっと見られるようになるということではなく、動画広告のマーケットが開けてくるということです。 基本的にはインターネットで無料動画を見る際に、動画横にあるバナーが主な広告です。しかし最近ようやく欧米に追いついてきて、バナーではなくその動画の枠で、番組がはじまる前や終わった後のエンドロールの形で広告を出すことが可能になりました。そうした動画広告ビジネスが今後も成長していきます。

 さらに最近は、動画市場の成長に伴って日本のメジャーな企業が動画を配信することも増えてきました。航空会社、自動車会社、ドコモ、KDDIにも新製品発表会や決算報告会をユーストリームで配信していただいています。

問 企業が動画を配信しているのですか。

中川 そうです。震災以降に増加しました。ユーストリームの広告の特徴は、単に動画にバナー広告を出すだけではなく、認知度や企業ロイヤリティを高めるような動画を製作していただいていると思います。

 パナソニックの充電電池でエボルタというのがあります。充電電池は「店に並んでいたらどれでもいい」と思われがちで、特定の商品が選ばれることはあまりないと思うのですが、パナソニックの動画は非常に注目を集めました。元々テレビでもエボルタ君というロボットを起用してCMを行っていたましたが、ユーストリームでは東海道五十三次を本当に歩かせるという企画を動画配信していただきました。

 CMでその様子を流してもあまり信用されないと思いますが、ユーストリームで生配信することは「嘘じゃない。本当にやっているんだ」という証拠になります。その動画には徐々に声援が増えていって、視聴者の方も乾電池ではなくエボルタ君というロボットに感情移入して、最終的にロイヤルカスタマーになることも多くあったそうです。そのあとも毎年トライアスロン、鉄棒、ドミノ倒し世界一など、様々なことにチャレンジしている様子を配信してくださっています。



新規顧客獲得を狙う

問 前回お話を伺ったときにシンガポール、韓国、台湾にも進出したいとおっしゃっていましたが、そちらはいかがですか。

中川 実はユーストリーム・アジアのテリトリーは広く、オーストラリアからニュージーランド、台湾、フィリピン等も進出しています。特にインドネシアは人口が多く、好調です。広告費についても、テレビとネット動画にそれぞれ予算を割いているような会社もあり、日本よりも高く広告枠を買ってくださることもある程です。さらに、インドネシアはテレビのデジタル化が遅れていますし、インターネットで動画を見た方が綺麗に見えるという追い風もあります。

 今後は地元の企業と色々な形で提携して、成長を続けていきたいと考えています。

問 スマホからの視聴者は増えましたか。

中川 最近はスマホやタブレットも伸びてきて、既に4割以上の方がそうした端末で視聴しています。それに加えて今、大きな流行になるのではないかと期待しているのがゲーム機です。昨年末に全世界でPS4が発売されましたが、その特徴はインターネットに繋げると映像配信マシンになることです。素人の座談会はもちろん、ゲームをプレイしている様子を配信できます。

問 実際にゲームをプレイしている様子が、瞬時に全世界へ向けて流れるということですか。

中川 そうです。さらにそのプレイを解説する声も入りますし、カメラをつけるとそのプレイヤーも撮影できます。

 ライブでのゲーム配信は、ユーストリームでも他の競合サイトでも人気が高い。今までは配信するためにカメラなどの機材が必要でしたが、PS4があればボタンを押せば配信できるので、今後誰もが気軽に配信できるようになります。

 ゲームには物語性があるRPGもありますので、見ている人も一緒に物語の世界に熱中できますし、上手な人のプレイを本人の解説とともに見られるので参考にもなると、今は猛烈な勢いで配信者数も視聴者数も増えています。自宅にいながらにして、ゲームを有料配信して、ゲームをするだけでお小遣い稼ぎできるようになるかもしれません。

問 動画の盛り上がりにゲーム機も参入してきたわけですね。

中川 ユーストリームに配信したものをそのままテレビで見ることができるのも興味深いです。今はまだコンテンツがありませんが、PS4は4Kテレビに対応しているので、一番早くユーストリームのコンテンツを4Kのクオリティで配信できる可能性がある。そうした新たな価値を感じているので、ユーストリームゲームというゲームの映像だけを集めた特設サイトをアジアのマーケット向けに開いています。

 ソニーにとっては、ユーストリームの月800万のユーザーがゲームをプレイするきっかけになり、ユーストリームも面白いコンテンツを公開することができますので、双方向で利益のある方向に結びついています。600万台が販売されれば、それだけのお客さんが増えるということですので、期待しています。



日本発の文化を世界に輸出する

問 中川社長としては日本をどう開拓したいですか。

中川 夢は、今までの海外のものが日本にローカライズされて入ってくるというより、クールジャパンのような、アニメやオタク文化だけではない良質なものを世界に広げていくという流れを作っていきたいです。単にものづくりだけじゃなくて、文化に根差したコンテンツをどう世界に広げていくかということが大切だと思います。

 ニコニコ動画で多く扱われるコスプレやゲームも大事だと思いますが、ユーストリームの場合はそういうものを含めて、日本のさまざまな文化をワールドワイドに展開していきたいと思います。

問 孫社長とはそのことについてお話されましたか。

中川 しました。半分くらいは孫社長の受け売りですね。少し前になりますが、お酒を交えながら「情報交換が紛争をなくして、知り合うということが紛争を無くす一番の近道ではないか」と力説されていました。

 ユーストリームは単なるプラットフォームですが、個人が平等にインターネットの世界で情報発信できる媒体です。伝えたいことがあればケータイ一つで全世界に真実や自分の言いたいことを伝えられる、本当に良いサービスだと思います。

 P r o f i l e

 中川具隆(なかがわ・ともたか)

 1979年成蹊大学工学部卒。同年日本NCRに入社しパソコンの独自企画開発に携わる。1984年にキヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)入社。2000年にソフトバンクBBに入社。ICT商品の仕入れを担当し、マーケティング本部長やグループ会社の役員を歴任。現在はソフトバンクグループで映像コンテンツ事業を展開するTVバンクと、Ustream Asia の社長を兼任。



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