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トピックス -ビッグベンチャー

2014年06月16日

二本柱で「みんなで幸せになれる会社」を追求/エイチームの強さの秘密

企業家倶楽部2014年6月号 エイチーム特集第2部


名古屋に拠点を構えるITベンチャー、エイチーム。主力事業はスマートフォン向けのゲームだが、二つ目の柱となるライフスタイルサポート事業にも力を注ぐ。2012年4月、東証マザーズに上場を果たすと、同年11月には東証1部へ史上最速で昇格。その後の業績も好調に推移しており、更なる新規事業拡大の機を伺う。急成長の秘訣とは何か。同社の強さの秘密に迫る。 ( 文中敬称略)
 




 2012年11月22日、エイチームは東証1部に上場した。つい半年程前に東証マザーズ上場を果たしたばかりであり、稀に見るスピード市場変更は関係者を驚かせた。

 創業社長の林は9歳で父を亡くし、中学卒業後はアルバイトをして2000万円もの借金を返済。創業後も、信頼していた社員の裏切りや役員の意見不一致による組織崩壊など、幾多の苦難を乗り越えてここまで来た。今、この男の目には何が映っているのだろうか。彼が精魂込めて作り上げてきた最強チーム、その強さの本質を垣間見たい。



世界700万ダウンロード「ダークサマナー」

 2012年2月24日のリリースから1年半にして世界700万ダウンロードを記録したスマートフォン向けソーシャルゲーム「ダークサマナー」。エイチームの代名詞ともなった本ゲームは、北米市場をメインターゲットに据え、全世界で配信することを前提に開発が行われた。「ダークファンタジー」の世界観が特徴的で、多数の著名クリエイターが描くオリジナルのモンスターたちが人気の秘訣だ。

 プレイヤーはモンスターの描かれたカードを収集し、それらを強化したり、進化させたりすることで、用意されたミッションをクリアしていく。もちろん、他のプレイヤーと協力したり、対戦したりすることも可能だ。

 キャラクターの描かれたカードを集めながらストーリーを進めていく形のゲームは、今でこそよく見かけるが、「ダークサマナー」のリリース当時はまだ少なかった。

 この他にも、昨年11月22日時点で累計ダウンロード数が100万件を突破し、現在も月商1億円規模を売り上げるRPG(ロールプレイングゲーム)「レギオンウォー」など、ヒット作品に恵まれている。

 ただ、「ダークサマナー」や「レギオンウォー」のようなファンタスティックな内容を売りとするロールプレイ型のゲームには、どうも馴染めないという方もいるだろう。

 そんな方にオススメなのが、競走馬育成ゲーム「ダービーインパクト」である。今年3月27日時点で累計ダウンロード数は200万件を突破。こちらも月商1億円規模の大型タイトルとなっている。

 プレイヤーは競走馬を育成する牧場のオーナーとなり、戦略的に馬を育てていく。特筆すべきは、そのリアリティ。作中では実際の競馬場が完全再現されており、フル3Dグラフィックスで迫力のレースシーンが展開される。武豊をはじめとする50名以上の著名な騎手に依頼して自ら育てた愛馬に乗ってもらい、「有馬記念」といった有名なレースで、「ディープインパクト」などの名馬と勝負を繰り広げる様子が楽しめる。

 この他、昨年12月13日時点で累計600万ダウンロードを突破した麻雀アプリ「麻雀 雷神-Rising-」や、12年4月にリリースされた女性向けiPhoneゲーム 「コーデ de マイショップ ♪+」など、多種多様なゲーム開発を行うことで、特定の顧客層に偏ることなくコンスタントなヒットを生み出し続けている。



企画・開発・運営を内製化

 このように数々のゲームを継続的に制作し続けられるのも、エイチームが企画から開発、運営まで首尾一貫して自前で行っているためだ。自社でゲームのコンセプトから考え、プログラムを組み、リリース後も日々の分析を欠かさない。

 創業以来、コンテンツの受託開発などで培ってきた同社の技術力は本物だ。06年の時点で、大人数が同時に参加することのできるMMORPG「エターナルゾーン」を、KDDIに携帯電話向けゲームとしてリリース。現在では社員数も500名以上に増え、複数タイトルのスマホアプリを同時並行して開発できる体制が整っている。

 こうした内製化も、社長の林自身がプログラマーとしてゲーム制作を行っていた影響が大きいだろう。林は11歳の時からプログラミングを独学で学び、ゲームを制作していた。自身は「当時作っていたのは簡単なブロック崩しのようなゲーム」と謙遜するが、そうしたゲームを自ら創れる小学生が30年前に多くいたとはとても思えない。

 トップが実務に対して深い造詣を持ち、社業を深く理解していることで、ゲームやサイト制作において投資すべき人と時間の感覚が肌で分かっている。この点も、エイチームの強さとなっていよう。

 数々のヒット作品を自主制作するエイチーム。ただ、必ずしも業界で孤高を保っているわけではない。11年8月にはソーシャルゲーム業界の雄グリーと業務提携し、同年内に協業で制作した「AKB48ステージファイター」をリリースした。

 本ゲームは、人気アイドルグループ「AKB48」のメンバーが描かれたカードを集めながらミッションをクリアしていくもの。9000種類以上もあるカードは現在も増え続けており、ファンにはたまらないタイトルとなっている。

 近年はグリーやディー・エヌ・エーといったソーシャルゲームのプラットフォームを介さず、アプリを開けばすぐにでもゲームを開始できる単独アプリ型のゲームが増えてきていた。

 しかし、プラットフォームを提供している企業にも独自のメリットはある。そのプラットフォーム上でしかプレイできない魅力的なゲームに惹かれたり、アカウント内のみで使用できる共有ポイントを求めたりして、多くの人が集まっているのだ。エイチームもグリーとの業務提携により、そのプラットフォーム上で自社タイトルの効率的な認知度向上が図れるというわけである。

 昨年12月に行ったLINEの親会社NHNエンターテインメントとの提携にも、同様の戦略的要因があるのだろう。同じゲーム事業の中でも、自社開発型とプラットフォーム型を組み合わせることで様々な顧客ニーズに対応し、安定策をとっている。

 ただ、ゲームはヒットしている時期が限られており、一過性のものである可能性も否めない。そのため短期的な収益には向いているが、継続して利益を上げ続けられるかは未知数というのが実情だ。そこでエイチームは、ゲームとは全く異なる事業モデルを生み出し、第二の収益源とすることで、社業の安定を図っている。



半年以内の式場予約に特化


半年以内の式場予約に特化


 エンタメ事業と並ぶ第二の柱としてエイチームの収益を支えるのが、ライフスタイルサポート事業だ。人々の「不安の解消」を掲げ、日常生活に密着した比較・情報サイトを手掛ける。現在は「すぐ婚navi」「引越し侍」「ナビクル」の3サイトが主力となっている。

「すぐ婚navi 」は、6カ月以内に結婚式を挙げたいカップルに焦点を当てた式場情報サイトだ。一般的に、結婚式は準備に1年を要するという固定概念があり、半年以内で日程の空いている式場があっても、予約されないケースが多い。だが、実際の準備期間は4カ月もあれば事足りる。そこで、半年以内の日程でも、格安かつ魅力溢れる情報を提供できれば潜在的な市場を掘り起こせると考えた。

 格安と言ってもホテルの直前割と同じで、式の質が落ちることは無い。700以上の結婚式場の中から探せる他、全国14店舗では直接スタッフから式場やプランの話を聞くこともできる。

 特長は、式場選びの際の不満や不安を式場の担当者に代わって聞き、式場に伝えることが可能な点。式場側はチャペルやバンケットなどのハードの良さを強調するが、式を挙げる顧客の視点は違い、スタッフの接客態度や料理の味などソフト面が重視される。

 特に「すぐ婚navi 」は、6カ月以内に式を挙げるというニッチな市場を相手取るため、「妊娠していて挙式を急ぎたい」といった制約のあるカップルが多い。ただ単に安さを掲げるのではなく、顧客ごとの細かい要望を聞き、式場側とのコミュニケーションまで含めて丁寧な対応を行うことで信頼を得ている。



IT企業でも泥臭く地道に営業活動

 今でこそCM戦略などで認知度も向上してきた「すぐ婚navi」だが、当初は後発組ということもあり、苦戦を余儀なくされた。ブライダル情報業界は大手企業が幅を利かせていて、新規参入は至難であった。現在サイト運営を行っているA・T・brides社長の大崎恵理子が式場へ提案に行っても「また新しいベンチャーが市場を荒らしに来た。話なんて聞いてやるか」と抵抗が強かった。

 本来は、「6カ月以内の挙式」というニッチを狙ったサービスだが、式場側には新たな価格破壊が起こり、利益を圧迫してしまうのではないかという懸念があったのだ。大崎は、入籍した新婚夫婦の4割が式を挙げていないというデータに着目した。理由は、挙式の費用が高い、新婦が妊娠中、仕事が忙しく時間が取れないなど様々だ。

 そこで、「もともと結婚式を挙げるつもりの無かった層」に焦点を当てることで、ブライダル業界全体の発展と顧客のメリットを掲げ、泥臭く何度も式場を訪ねては訴え続けた。式場としては、半年以内の挙式が入っていない日を安く提供することで、もともと売上げが見込めなかった日に収益が生まれる。カップルとしては、割安な値段で質の高い式を挙げられる。さらに業界全体の活性化にも繋がるので、三方よしの魅力的なサービスとして必ず受け入れられるはずだと信念を貫いた。

 泥臭い営業活動を経て現在があるという点においては、「引越し侍」も負けてはいない。同サイトは、引越し時の条件を入力することで複数業者の料金を比較し、一括で見積もりまで依頼することができるサービスである。現在サイトを運営する引越し侍社長の熊澤博之も、サイト立ち上げ初期は苦労を重ねた。

 当時エイチームの認知度はまだ低く、いくら引越し業者に電話をかけてもアポイントが全く取れない。それでも諦めず東京や大阪に乗り込み、カラオケなどからも電話をかけ続けて必死で目標の20社を勝ち取った。今では200社以上の企業が参画している。



顧客のニーズを汲み取り業界全体の利益に貢献

 こうしたエイチームの運営する各サイトは、言わば「B to B to C」のビジネスモデルとなっている。直接的な収益はサイトごとの関係各社からもらう形だが、多くの業者が費用対効果を感じる根拠となっているのは、サイトにユーザーが多く集まっていて、その声を聞くことができるという事実だ。

「すぐ婚navi」も「引越し侍」も、業者には直接言えないようなユーザーからの不満や要望を吸い上げ、データやノウハウを蓄積している。関係企業としては広く顧客のニーズを汲み取ることが可能で、結果として良いサービスを提供できることから、業界全体の利益に繋がるという考え方が受け入れられた。

 従来は、実際にモノ作りを行ったり、サービスを動かしたりしている企業にこそ力があった。もちろん根幹としてそうした産業が重要なことに変わりは無いが、近年の傾向として、顧客の情報を握っている企業が力を付けつつある。

 エイチームのライフスタイルサポート事業も、本質的な利益の源泉は「幅広いユーザーの声が拾えている」という事実に基づくため、サイトを見ている顧客のメリットを最大化するように動き、そうして得た情報を最終的には業界に還元することで、「三方よし」を成り立たせているのだ。



経営資源の分散で収益を安定化

 これまで見てきて分かる通り、エイチームの強さの本質は分散にある。事業全体で見れば、ライフスタイルサポートとエンタメという全く異なる二つの事業を並行して手掛けることで経営の安定化が図られている。前者で経営基盤を確立しつつ、後者で爆発的な成長を狙うというわけだ。

 会社全体で見た場合が強調されがちだが、この方針はそれぞれの事業の内部にもよく表れている。エンタメ事業の中では、自社開発と他社提携に分けることで、特定の収益源に依存しない体質を形成。また自社開発のゲームの中でも、様々なタイトルを制作することにより、幅広いユーザーから支持を得ている。

 ライフスタイルサポート事業に関しても同様だ。常に新たな収益源を探すべく、新規事業開発に力を注いでいる。現在これを任されているのは、「すぐ婚navi 」の生みの親でもある加藤厚史。入社後、1週間に1回の割合で新規事業案を提出し続けたという強者(つわもの)だ。彼が社内で「くすぶっている」人材を発掘してくる。

 新規事業を任せる上で最も重要なのは担当者のやる気だ。「新規事業を担当する自分がカッコいいと思っているような人には任せられません。カッコよくなんか無くていい。汗水垂らして頑張って、それでもなおやり遂げたいという強い思いが大切」と林も語る。やはり、「地道に泥臭く」というわけだ。

 ただ、新しいことへ挑戦するというのは、言うは易く行うは難い。自己否定をして未知なる付加価値を生み出す。経済学者シュンペーターが言うところの「創造的破壊経営」が求められる。まだ見ぬ未来へ投資しなくてはならないことに対する不安から、つい足踏みしたくもなるものだが、林は「ビジネスモデルにも寿命がある。新しいことに挑戦しない方がよっぽど怖い」と断言する。

 もちろんある程度の戦略は練るし、論理的に考えてうまく行くと踏んでから跳ぶが、やはりリリースしてみなければ結果が分からない場合も多い。そんな時、林は「エンタメ事業は白黒がすぐにハッキリするので、ダメなら即時撤退する」と割り切りつつ、「ライフスタイルサポート事業の方はしばらく様子を見る」と大きく構える。「すぐ婚navi 」や「引越し侍」の例もある。地道な営業が花開くまでの期間を勘案して大局的に見ているあたり、林からは経営者として積んできた貫禄が伺える。



分社化で経営者を育成

 ただ、あくまで事業を生み出すのは人間だ。現状に甘んじることなく、「創造的破壊経営」を体現できる人材を輩出し続けることこそ、企業理念でもある「今から100年続く会社」を目指す上でカギを握る。

 いかに当事者意識をもってもらうかを考えた結果、林が行ったのが「分社化」という選択だった。13年にはエイチームからグループ会社としてA・T・brides、引越し侍、エイチームライフスタイルを設立。それぞれ「すぐ婚約navi」、「引越し侍」、「ナビクル」の運営を任せた。それぞれの経営陣は「当事者意識」を超えた「当事者」として事に当たる必要がある。

 だが、それだけではまだ足りない。林は、「採用では能力よりも人柄を見ます」と断言する。採用の過程から、会社としてのベクトルが統一されるよう力を入れているのだ。背景には、社員の裏切りや役員の中での意見対立など、人では苦労した経験がある。

 もちろん、チャレンジングな人材が輩出されるためには、採用だけでは不可能だろう。やはり、社風という環境により感化される部分も大きい。



みんなで幸せになる

 社風形成において特徴的な事例となっているのが、毎週月曜10時半から欠かさず行われる朝礼だ。社員一同、車座になって林の言葉に耳を傾ける。ただ単に理念を語るだけではない。業績の数字なども含め、全社の情報を尽(ことごと)く開示して共有する。その徹底ぶりは、情報漏洩を懸念する市場関係社が不安に思うほど。しかし、そうすることによって社内参加意識と統一感を醸し出している。

 無論、業績が芳しくない時もある。それでも、エンタメ事業部に元気が無い時はライフスタイルサポート事業部の面々が奮起するなど、お互いに助け合う文化が醸成されている。中古車査定サイト「ナビクル」を手掛けるエイチームライフスタイル社長の間瀬文雄も「各事業部の業績が良いと、周りから拍手が起こるんですよ。あくまで、みんな『が』ではなく、みんな『で』幸せになれる会社を目指しています」と語る。

 人の幸せを自分のことのように喜び、危機の折は全力で助け合う。林の後ろ姿を見て育った社員たちは、「みんなで幸せになれる会社」を目指して、今後も躍進を続けていくことだろう。林とエイチームの活躍に、これからも目が離せない。



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